くらし情報『長塚圭史新芸術監督が挑む、『近松心中物語』開幕』

2021年9月7日 17:40

長塚圭史新芸術監督が挑む、『近松心中物語』開幕

梅川役には、数多くのミュージカル作品でヒロインを演じてきた笹本玲奈。忠兵衛への熱い恋心が遊女らしい色気の中に滲み、俳優として新たな一面を垣間見せている。

忠兵衛と梅川が王道の悲恋の物語だとするならば、与兵衛とお亀は少し様相が異なる。ふたりはすでに夫婦であり、そこに障壁はないように思えるからだ。またどこか頼りない与兵衛と、与兵衛ひとすじの箱入り娘・お亀のやり取りは、傍から見ればとてもかわいらしい。特に遊女との仲を疑い、その想いを真っすぐ与兵衛にぶつけるお亀の嫉妬ぶりは、つい笑ってしまうほど。演じる松田龍平、石橋静河もそれぞれハマり役だ。しかし身分違いの恋、という点では忠兵衛、梅川と変わらず、ふたりも心中の道を歩んでしまうことになる。


演出の長塚は、「死は生を鮮やかに照らします」と語る。ふた組の死を取り巻く、日常を生きる市井の人々の生があってこその、『近松心中物語』なのだろう。ここで起こった事件は悲劇ではあるが、観劇後の胸に残るのは、希望という名の灯だ。人間という生き物はどうしようもないほど情けなく、そしてたくましい。ラスト、劇場に鳴るスチャダラパーのラップは、迷える人々への応援歌のようにも響いた。

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