笑いながら息を呑む『物理学者たち』開幕、草刈民代ら緻密な役づくり光る
ト書きに「背中の曲がった老嬢」とあることから、草刈はバレエダンサーとして培った姿勢のよさを封じ、背中を丸め杖をつき特徴的なしわがれ声を出すなど、ひと筋縄でいかない人物像をステージ上に立ち上げる。
患者である“物理学者たち”の狂人ぶりは三者三様だ。自称ニュートン役の温水洋一は、ウェーブがかったカツラをかぶって登場。異様に口数が多く殺人現場でも旺盛な食欲を見せ、出オチに負けない存在感を発揮する。自称アインシュタイン役の中山祐一朗は、殺人を犯してもひたすら眠りこけ、好きでもないバイオリン演奏に執心する様子を独特の“間”で表した。
「ソロモン王が見える」と言って施設に15年も入院しているメービウス役には、入江雅人。8月末にリモート見学した稽古より幼児性が増しており、彼の世話係である看護婦(瀬戸さおり)とのマウント合戦はより異彩を放つシーンに仕上がっていた。突然放り込まれる博多弁(福岡県は入江と瀬戸の出身地)やオーバーな英語に笑って油断しているうち、1幕ラストでメービウスが見せる激情に息を呑むだろう。
公演は9月26日(日)まで、東京・本多劇場にて。チケット販売中。
取材・文:岡山朋代