街の権力者(金子由之)が登場してからが恐ろしい。蔑みの対象である黒人青年と、由緒ある家系の白人男性の「どちらを救うか選べ」と迫る。リズィーの意思、混乱、迷い、信念……その揺れ動きにハラハラし、胸が締め付けられる。タイトルの恭しき(原文:respectueuses)は「敬意を表する」などの意味だ。いったい誰が、彼女に敬意を表していたのか。
舞台美術のいびつな壁の角度と、登場人物の内面を浮き彫りにするような照明が、あらがえない大きな存在を感じさせる。黒人差別が、差別とさえ思われていない時代と地域のこと。黒人青年役の野坂弘の、不安げなたたずまいから目を背けたくても逸らせない。
『恭しき娼婦』が発表された1946年は第二次世界大戦が終結した直後で、人間の尊厳と、権利と、自由が問われていただろう時だ。黒人や娼婦という虐げられる人たちの姿からは、著者・サルトルの強い怒りを感じる。奈緒らによって生き生きと演じられることで、現代でもそこかしこに存在するたくさんの虐げられる瞬間がよぎるだろう。上演は19日(日)まで。その後25・26日に兵庫、30日に愛知公演あり。
文・取材:河野桃子
エイミー・ワインハウスの光と影を描く『Back to Black エイミーのすべて』オリジナル予告編