親殺しをテーマとした演劇制作の末に希望の光が差し込む
うつむいていたときはどこか陰を持つマルティンだったのに、顔を上げると瞬時に、自信あふれるフェデリコになっている。演じ分けという言葉が当てはまらないほどの自然な変貌ぶり。当然ながら、その違いによってSの甲本の反応も変わってくる。マルティンには壊れないようにそっと触れ、フェデリコとはある種同志のような関係が育まれていく。それぞれとのやりとりに思わず笑ってしまう瞬間もあった。甲本のリアクションのセンスが光る。
やがて、交流が深まるにつれ、マルティンも事件のことを話すようになる。Sは考える。
オイディプスが父と知らず父を殺し、母と知らず母を妻にしたのと同様に、マルティンにも父親殺しを避けがたいものがあったのではないか。フェデリコのマルティンへの理解も進んでいく。稽古をしている姿はフェデリコなのかマルティンなのか。また、目の前に立っている檻は、マルティンがいる刑務所のものなのか、Sが創る舞台のセットなのか。境目があやふやになってくる。その混乱が心地良く、いつしか、自分ではない誰かと出会い、知っていくことによって、やさしい世界が生まれるのではないかと思い至る。作者はウルグアイ出身のセルヒオ・ブランコ。