驚きの詰まった観劇体験。『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』で観たことのない佐々木蔵之介を観よ!
家族や長年ともに過ごしてきた使用人たちを、信用することができない。その悲しみが、彼自身の演技はもちろん、作品後半の荒涼とした舞台からも伝わってくる。
そこへ、思いがけないできごとが訪れる。終盤の物語の急展開ぶりには、歌舞伎の匂いも感じた(余談になるが、プルカレーテは鶴屋南北の歌舞伎作品『桜姫東文章』を全く違うアプローチで舞台作品にもしている。先月上演されたこちらも素晴らしかった! 桜姫がミニセグウェイで登場するのだ)。喜劇でありながら、アルパゴンの疑り深さゆえにどこか常に重苦しさをまとっていた空気が一転、カーニバルが繰り広げられる。この時間は観客へのご褒美のようだ。
そこでただ一人喧騒に加わることなく、自分の唯一信じる金を抱きかかえている主人公……。
そうそう、リチャード三世のとき、傍若無人な振る舞いでやっと手に入れた玉座を愛撫する佐々木蔵之介は狂気に満ちていた。今回も、金の入った小箱をひしと抱きかかえる彼の表情をぜひ観てほしい。
もしも戯曲が古典であることや、プルカレーテを説明するときにつく「ルーマニア演劇界の巨匠」という形容詞に「難しそう」「観るのがしんどそう」と思っている人がいたら、本当にもったいない。