息子への愛、国家への忠誠…「My Boy Jack」が描く家族
知性と威厳にあふれる一家の長を眞島が力強く演じる。早い段階からドイツの侵攻を予知する慧眼と共に、家族への愛や優しさも持ち合わせているが、その高い知性が第一に向けられるのはあくまで“国家”。現代に生きる我々は、その後の歴史や彼の息子の運命を知っているがゆえに、ラドヤードの勇ましい言葉に愚かさや虚しさを覚えるが、一方でこうした歴史の教訓を社会全体で共有する100年後の世界に生きながら、いまなお戦争を止める術を持たない我々に、彼の振る舞いを嗤い、責める資格などあるのか。
前田は、国家への忠誠や奉仕などではなく、ただ権威主義的な父親の束縛から逃れるために入隊を志願する10代の若者の苦悩や恐怖を繊細に演じており「家じゅうを探しても、気持ちよく座れるイスが1個もないんだ」「僕はただ、本当の自分になりたいだけ」という言葉が胸に迫るが、彼の不幸は“自分探し”のための父からの逃避先が、最前線の塹壕という地獄だったこと。
倉科、夏子の言葉や佇まいからは、ジョンが「国家のため」という大義の下、戦地に送られることへの不安や怒り、そして無力感がひしひしと伝わってくる。戦争という過酷な現実、暴力を前にした一家はどのように変容していくのか――。