StudyHackerこどもまなび☆ラボがお届けする新着記事一覧 (6/27)
いま、コーディネーショントレーニングが注目されています。トレーニングというと、筋トレのような筋肉を鍛えるトレーニングを想像しがちです。しかし、コーディネーショントレーニングは違います。神経に刺激を与えるトレーニングなのです。「子どもの運動神経をよくしたい!」と考える親御さまは少なくないはず。ぜひ、コーディネーショントレーニングをとり入れてみてください。今回は、「コーディネーション能力をアップさせる方法」をたくさんご紹介します。コーディネーションとはコーディネーションとは、1970年代に旧東ドイツで生まれた、アスリートの運動能力向上のための理論です。コーディネーション(coordination)は、日本語にすると「調整」「一致」といった意味になります。ですから、コーディネーション能力とは、状況に合わせて「体の動き」や「力の加減」を調整する能力と言えるでしょう。私たちの体がスムーズに動くのは、脳と神経が連係しているからです。脳は目や耳から入った情報をすばやく処理して、全身に張り巡らされた神経系(神経回路)に電気信号を送ります。つまり、脳は「どう動くのか」を筋肉に伝えているのです。東京学芸大学教育学部准教授である高橋宏文先生は、著書『子どもの身体能力が育つ魔法のレッスン帖』のなかで、脳が発信する電気信号について以下のように話しています。脳と体、あるいは体の部位と部位の「神経回路」がしっかり連係しているほど、電気信号は速く、正しく伝わります。これによって体がスムーズに、そして自分の思い通りに動かせるようになるのです。(引用元:高橋宏文(2018),『子どもの身体能力が育つ魔法のレッスン帖』, メディア・パル. )「運動神経がいい」とか「運動センスがある」なんて言うことがありますよね?自分の体を自由自在に動かせる「運動センス」の正体は、コーディネーションだったのです。コーディネーション能力がぐんぐん伸びる年齢高橋先生は、「コーディネーション能力は幼児期・児童期に伸ばすべき」と話しています。なぜならば、神経系は子ども時代に急激に成長し、5歳くらいで成人の80%、12歳にはほぼ100%まで発達してしまうから。ということは、私たち大人のコーディネーション能力は12歳あたりからほとんど変化していないのですね……。(画像引用元:国立スポーツ科学センター|女性アスリート指導者のためのハンドブック「発育・発達について」)この神経系が発達を続けている幼児期・児童期に、さまざまな動きを経験すればするほど、神経系は刺激され、運動神経がよくなると言われています。山梨大学教育学部長で身体教育学が専門の中村和彦教授も、著書『運動神経がよくなる「からだ遊び」―小学校入学までに差がつく!』のなかで、「日本のトップアスリートたちの約6割は、幼少期に毎日2時間以上遊んでいた」と話しています。現在のトップアスリートたちは、子どもの頃のさまざまな遊びを通して、自身の神経系を刺激していたのです。12歳くらいまでのあいだにさまざまな動きを経験することが、コーディネーション能力向上のポイントなのですね。コーディネーションの「7つの能力」コーディネーション能力は、「定位能力」「反応能力」「連結能力」「識別(分化)能力」「リズム化能力」「バランス能力」「変換能力」という7つの能力に分けられます。この7つの能力は、それぞれが個別なものではありません。何かの動作や運動をするときは、7つのうちのいくつかの力がお互いに連動して、体を自分の思ったとおりに動かしているのです。それぞれの能力をひとつずつ確認していきましょう。◆定位能力相手や味方、ボールなどと自分の位置関係や距離を感じる力、把握する能力ボール投げであれば、相手が1メートル先にいるのと、5メートル先にいるのとでは、必要な力が変わってきますよね。その判断をする力が定位能力です。(例)縄跳びで回る縄を跳び越す、人とぶつからずに走る◆反応能力合図にすばやく、正確に対応する能力音や人の動きなどの情報をすばやく察知して、正しくスピーディーに動き出す力です。(例)短距離走で合図と同時にスタートがきれる、速いボールに対して体が動く◆連結能力関節や筋肉の動きをつなげ、スムーズに動かす能力いくつかの異なる動作をスムーズにつなげて、流れるような一連の動きにする力でもあります。(例)移動して、ボールを取り、そして投げるまでの動作がスムーズにできる◆識別(分化)能力手や足、用具を意のままに操作する能力力を入れる、すっと力を抜く、徐々に力を入れるなど、必要なときに必要なだけの力を出力する “器用さ” のことです。(例)バットやラケットをコントロールする、ボールを速く投げたりゆっくり投げたりする◆リズム化能力タイミングを計ったり、動きをまねしたり、イメージを表現する能力目で見た動きを、自分の体でできる力です。この能力がないと動きがぎこちなくなってしまいます。(例)パスがタイミングよくできる、縄跳びで一定のリズムで跳べる◆バランス能力必要な体勢を保つ能力体勢が崩れたときに、立て直すことができる力であり、不安定な物の上や空中で体勢を保ち、動ける力です。(例)スノーボードに乗る、空中でボールをキャッチして乱れずに着地する◆変換能力状況に合わせてすばやく動作を切り替える能力急な変化に対して、適切な動きをとれる力です。状況判断、身体操作、定位能力、反応能力などが複合的に関わっています。(例)並走している相手がダッシュをしたら自分も速度を上げられる、バウンドが変わったボールを捕球する次項では、7つの能力すべてをアップさせるコーディネーショントレーニングを紹介します。コーディネーション能力をアップさせる遊びコーディネーション能力は、遊びのなかで伸ばすことができます。高橋先生は、7つのコーディネーション能力すべてをアップさせる遊びとして、「キャッチボール」を挙げています。たとえば、相手やボールとの距離感を測るのですから「定位」が含まれますし、タイミングよくボールを離さなければなりませんから「リズム化」も含まれます。安定したフォームで投げるには「バランス」が必要ですし、ボールやグラブといった用具を使うには「識別」の力も必要。ほかにも「反応」や「連結」の力も鍛えられますし、相手が投げたボールがそれるようなことがあれば、「変換」の力も必要でしょう。(引用元:STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|自らの体を自在に動かす“7つの能力”と「運動センス」を高める意外な方法※太字による強調は編集部が施した)野球ボールだけでなく、ドッジボールやビニールボールなど、いろいろな大きさのボールを使うと効果がアップするそうです。「えー!ただのキャッチボール!?」なんて言わずに、お子さまと一緒にコーディネーショントレーニングをしてみてくださいね。効果抜群!コーディネーショントレーニングメニュー次に、それぞれの力を向上させるコーディネーショントレーニングをご紹介します。以下の注意点に気をつけながら、コーディネーショントレーニングを実践してみてくださいね。親が最初にやってみせるなどして、子どもが動きを正確にイメージできるようにする。同じ動きが続くとマンネリ化するので、「より正確に」「より速く」「より大きく動く」など、常に新しい刺激を脳に与え続ける。メニューをどんどん変える。1回のトレーニング時間は30~40分。1週間に数回で十分。心身がフレッシュなときに行なう。■物や人との位置関係を把握するトレーニング【定位能力】<ボールを見よう>大人が転がしたボールをジャンプして飛び越えるすぐにボールを取って大人に投げ返すもとの場所に戻って仰向けに寝る大人が投げたボールを上半身を起こしてキャッチ※5回ほど繰り返す■合図にすばやく正確に対応するトレーニング【反応能力】<鏡になろう>大人と同じ動きをすばやく正確にまねをする20~30秒間続ける※大人はわかりやすい大きな動きをする■身体をスムーズに動かすトレーニング【連結能力】<ボール運び>仰向けに寝た状態で両手を伸ばしてボールを持つ両手両足を上げて、手のボールを足で挟む両手両足を上げて、足のボールを手で挟む※1~3を3回ほど繰り返す■手足や用具を操作するトレーニング【識別(分化)能力】<紙コップでキャッチ>小さなボールを上に投げる紙コップでボールをキャッチする※紙コップを下にスッと下げてボールの勢いを殺すと◎■動きをまねる、タイミングを計るトレーニング【リズム化能力】<お手玉>左右の手に1つずつお手玉を持つ右手でお手玉を上に投げる左手のお手玉を右手に移し、左手でお手玉をキャッチする■体勢を保つトレーニング【バランス能力】<バランスがとれるかな>両腕を横にまっすぐ伸ばした状態で、片足で立つそのまま目を閉じて30秒バランスをとり続ける■状況に応じて動作を切り替えるトレーニング【変換能力】<ハンドテニス>ふたりで向かい合うなるべくワンバウンドで、手でボールを打ち合うコーディネーショントレーニングは、子どもが「楽しい!」と思うことが一番大切です。うまくできない子どもを見ていると、つい「どうしてできないの」「そうじゃないでしょう」などと言ってしまいがちですが、否定の言葉では子どもの能力は引き出せません。また、子どもの年齢や体力、現在のコーディネーション能力によって、コーディネーショントレーニングは変わります。無理に難しいコーディネーショントレーニングに挑戦させるよりも、いまのお子さまが楽しめるメニューを提案してあげてください。コーディネーショントレーニングにおすすめの本コーディネーショントレーニングの本はたくさんありますが、そのなかでも特におすすめの本を3冊ご紹介します。ぜひ親子一緒にとり組んでみてくださいね。小学校入学前のお子さまにぴったりな本小さなお子さまでも、楽しみながら「バランス」「リズム」「反応」「操作」「認知能力」をアップさせることができます。簡単にできる運動150例、年齢別プログラム30例を紹介。 運動が苦手なお子さまも楽しくトレーニングできる本「子どもたちの運動神経はもっと伸ばすことができる!」と著者の高橋宏文先生は言います。運動センスを磨くためのコーディネーショントレーニングがステップごとに紹介されているので、運動が大好きな子も苦手な子も楽しくトレーニングできるはず。 目で見てわかる!動きが理解しやすい本遊び感覚でできる運動や、ボールを使った運動など、子どもを飽きさせないトレーニングばかりが収録されています。DVDつきなので、コーディネーショントレーニングの動きがしっかりイメージできるでしょう。 特定のスポーツの「コーディネーショントレーニング」また、コーディネーショントレーニングは、バスケットボール、サッカー、テニス、バレーボールなど、どんなスポーツにおいても有効なのだそう。もしお子さまが、何かスポーツを頑張っているのであれば、専門性の高いコーディネーショントレーニングをとり入れてみてもいいかもしれません。■バスケットボールのコーディネーショントレーニングユニークな練習方法がたくさん収録されています。遊び感覚でトレーニングをしているだけで、知らないあいだにグンとバスケット技術がアップするそうですよ! ■サッカーのコーディネーショントレーニングコーディネーショントレーニングを積極的にとり入れることによって、パスやドリブル、ボールコントロールなどの基礎技術が短期間で習得できるようになりますよ。 ■テニスのコーディネーショントレーニング運動神経を高めて脳を活性化させる、新しいテニスのトレーニング本です。ボレー、グランドストローク、レシーブ、サーブ、スマッシュを強くする方法がたくさん詰まっています。 ■バレーボールのコーディネーショントレーニングバレーボールに必要な機能を高めるコーディネーショントレーニングメニューだけでなく、レシーブ、トス、スパイクの基本から、ポジション別、戦術の発展練習まで、“勝つチーム” を目指す練習メニューが満載です。 コーディネーショントレーニングにおすすめのグッズコーディネーショントレーニングが楽しくなるグッズもありますよ。お子さまが喜んでトレーニングしてくれそうなグッズを選んでみてくださいね。■クレージーボールどこにバウンドするのかわからないクレイジーボール。「識別(文化)能力」や「反応能力」が驚くほどアップします。 ■バランス810歳前のお子さまにおすすめの8の字型平均台です。大人も遊べるので、親子で競争してみてはいかがでしょう。 ■バランスストーン「バランス能力」はもちろんのこと、「リズム化能力」アップに効きますよ。室内・屋外どちらでも使用可です。 楽しく遊びながら、コーディネーショントレーニングができるなんてうれしいかぎりですね。コーディネーショントレーニングが体験できる運動教室子ども向けのコーディネーショントレーニングは「キッズコーディネーショントレーニング」と呼ばれることが多いようです。キッズコーディネーショントレーニングをとり入れた運動教室をご紹介します。■キッズスクール「運動塾」コナミスポーツクラブのキッズ向け体操スクールです。なんと4ヶ月のお子さまからレッスンに参加することが可能。お子さまの発育発達に合わせたレッスンメニューに沿ってレッスンが進むので、楽しく運動能力を伸ばすことができそうです。■biima sports3歳〜10歳までの、まだ専門的にスポーツを始める前のお子さまを対象としたスポーツ教室。早稲田大学教授陣と共同開発した“最新のスポーツ科学”に基づいたレッスンで「基礎運動能力」を高めることができます。■リアルフィジカル運動教室プロの「キッズコーディネーショントレーナー」が指導してくれる、ワンランク上の運動教室。コーディネーショントレーニングをとり入れた独自のカリキュラムは、運動が苦手なお子さまだけでなく、運動好きなお子さまの能力をも伸ばします。キッズコーディネーションの資格「もっとキッズコーディネーショントレーニングについて知りたい」という方は、「キッズコーディネーショントレーナー」の資格を取得してみてはいかがでしょう。子どもの発育発達や心理、トレーニング方法についての正しい知識を習得できますよ。<プログラム内容>第1章Coordination Training基礎理論第2章スポーツ医学第3章エクササイズの実践第4章Lessonの進め方第5章Lesson Plan第6章コーチング第7章発達心理学第8章KIDSビジネス第9章日本の教育の現状第10章エクササイズ集詳しくはこちら↓■キッズコーディネーショントレーナー資格(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会)***運動センスの正体である、コーディネーション能力。できれば12歳までに磨いてあげたいものですね。子どもの運動神経は、トレーニングをすればするほど、ぐんぐん伸びていきます。「親子で楽しくコーディネーショントレーニング」を今日から始めてみませんか?(参考)STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|「運動センス」の正体とは?コーディネーション・トレーニングが磨く“内観力”高橋宏文(2018),『子どもの身体能力が育つ魔法のレッスン帖』, メディア・パル.中村和彦(2013),『運動神経がよくなる「からだ遊び」―小学校入学までに差がつく!』, PHP研究所.STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|自らの体を自在に動かす“7つの能力”と「運動センス」を高める意外な方法J-STAGE|コーディネーション運動が幼児の運動能力に与える 効果―投球・捕球能力の量的変化と質的変化―国立スポーツ科学センター|女性アスリート指導者のためのハンドブック「発育・発達について」
2020年07月03日子どもたちが求められる能力のひとつに「思考力」があります。思考力とは考える力のこと。いま、小学校から高校までの学校教育と、大学入試が大きく変わってきています。そう、教育改革です。これからは、学習したことをしっかり理解するだけでなく、理解した内容を駆使して自分で考え、表現し、判断できるかどうかが求められるようになります。言い換えれば、「思考力」の高さが子どもたちの将来を決める時代がやってきているのです。社会に出てからもずっと必要になる「思考力」を子どもたちに身につけさせるには、学校教育だけでなく家庭教育が必須になってきます。今回は、「思考力」とはどのような能力のことか。そして、子どもの思考力を育むために、親が身につけるべき習慣を3つ紹介します。「思考力」は、学校と家庭との連携で育む先ほど、教育改革の影響で、子どもたちは考える力をより求められ、思考力の高さで将来が決まると書きました。じつは、教育改革の移行期間として、平成30年度から新しい学習指導要領に沿って授業が進んでいます(プログラミング体験など一部を除く)。いま、子どもたちは「思考力」を問われる教育の真っただ中にいるのです。学校での教育内容について、最も重要な基準となる学習指導要領の第1章総則には、「第1 小学校教育の基本と教育課程の役割」として以下のことが書かれています。基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させ,これらを活用して課題を解決するために必要な思考力,判断力,表現力等を育むとともに,主体的に学習に取り組む態度を養い,個性を生かし多様な人々との協働を促す教育の充実に努めること。その際,児童の発達の段階を考慮して,児童の言語活動など,学習の基盤をつくる活動を充実するとともに,家庭との連携を図りながら,児童の学習習慣が確立するよう配慮すること。(引用元:文部科学省|学習指導要領 第1章総則「第1 小学校教育の基本と教育課程の役割」2(1))いままでと同じように、知識や技能はきちんと身につけたうえで、思考力、判断力、表現力を育んで問題を解決することを求められているのです。そして、学習の習慣づけは家庭と連携を図るようにとはっきり記されています。子どもたちは学校で、クラスメートと課題を見つけ、仮説を立て、資料を調べ、時にはインタビューをし、それをまとめて発表するといった、いわゆるアクティブラーニングを行なって思考力を鍛えています。では、家庭ではどうでしょう。子どもが家に帰った途端、「あれをしなさい」「それはだめ」「こうするのよ」「いつまで〇〇しているの」「あなたは△△の道へ進むべき」など、子どもに考えさせる時間を与えず、口や手を出していませんか?もし、「子どもの考える時間を奪ってしまっているのかも」と感じるのであれば、次に紹介する3つの習慣を上手に取り入れてみませんか?思考力を鍛える習慣1:たくさんおしゃべりをさせるお笑いコンビ「パックンマックン」として活躍しながら、相模女子大学と東京工業大学で教鞭をとるパトリック・ハーランさんの専門は「コミュニケーションと国際関係」。パトリックさんは、ご自身のお子さんふたりが通う日本の小学校の授業参観で、お友だちどうしでのおしゃべりが禁止されていることに驚いたのだそう。しゃべる場面が少ないから、しゃべる技術が身につかない。議論が生まれない。討論ができない。問題提起ができない。指摘されても反論ができない。(引用元:朝日新聞DIGITAL|子どもの「思考力」を伸ばすために、親ができること~パトリック・ハーランさん)「しゃべる場面が少ないために、必要なスキルが身につかない」。パトリックさんは、そう指摘します。おしゃべりでの基礎トレーニングがあってこそ、議論や討論といった応用スキルを身につけられるのです。学校でおしゃべりができないなら、家庭でたくさんおしゃべりをさせましょう。パトリックさんは、「大人が当たり前に思っていること」について、子どもに質問することをすすめています。「交番はどうしてあると思う?」など、大人にとっての常識を質問すると、子どもからは予想の斜め上をいく答えが返ってくるのだそう。思考力を鍛えるためには、普段の会話から子どもに考えさせる機会をつくることが大切です。思考力を鍛える習慣2:親は子に “具体的に” 問いかける私たち大人は子どもに対して、すぐに「考えたらわかるでしょう?」「なんでもすぐ聞かずに考えなさい」と言うことがよくありませんか?しかし、この「考える」という言葉がどういうことを意味しているのか、大人もよく理解していないのではないでしょうか。言っている本人が明確にわかっていない言葉を子どもが受け取ったところで、理解できるはずがありません。長年、学習塾を経営して都留文科大学特任教授を務める石田勝紀さんは、「考える」の定義として以下を挙げています。【「考える」とは】「自分の言葉で語れること(What)」「疑問に思うこと(Why)」「手段や方法を思いつくこと(How)」のいずれかのことをしているときに、「考えている」という状態になると考えます。(引用元:東洋経済オンライン|「考える力がない子」を変える3つの問いかけ)そして、この考え方を教えないかぎり、子どもは考えられないし、応用力を身につけることもできないと指摘します。つまり、「考えなさい」と言いたくなったとき、一度、私たちは子どもに対してどのような考え方をしてほしいのか咀嚼し、「これってどういう意味なんだろうね(What)」「なんでそう思ったの?(Why)」「じゃあ、どうすればいいかな(How)」と具体的に問いかけるべきなのです。思考力のトレーニングには、具体的な問いかけが必要になりますよ。思考力を鍛える習慣3:「なぜ・どうして」を考えさせる具体的に問いかけても、子どもからは「わからない」と返ってくることもあるでしょう。それを「なんでわからないの」と責めるのはNG。子どもの「自分はできる」という自己肯定感を低くしてしまいます。大手進学塾で数学の指導経験がある教育クリエーターの秋田洋和さんは、子どもに倫理的思考力を身につけさせるために、「答えをあえて見せ、正解までの途中経過を考えさせる」ことがあるのだそう。よくありがちな「結果だけを見て叱る」ことを100回繰り返すよりも、「なぜ・どうして? を自力で考える習慣づくり」を仕掛けたほうが、子どもは算数・数学好きになるし、急激に成長していく。(引用元:プレジデントオンライン|中国の「子どもの論理的思考力」が高い理由は?)親がやりがちな「結果だけを見て叱る」よりも、「なぜ・どうして」を考えさせるほうが、子どもは成長するのです。たしかに、親に「どうしてわからないの」と叱られたところで、「わからないんだから、その理由なんてもっとわからないよ!」となりますよね。子どもが「どうしてもわからない」と言うときは、答えや親の考えを先に伝えて、どうしたらそこへたどり着くのか考えるように促すとよさそうです。子どもの思考力を高め、「わかった」という経験を積ませることが自信につながり、自己肯定感も高めることにもつながるでしょう。***思考力がついてくると、自分で考えて判断することができて、「自分はこう思う」「自分ならできる」「自分は任されている」と自信がついてきます。この自信は「自己肯定感」につながり、意欲的に学ぶ土台を形成するという相乗効果を生み出してくれますよ。(参考)文部科学省|学習指導要領 第1章総則「第1 小学校教育の基本と教育課程の役割」2(1)ベネッセ 教育情報サイト|子どもの「考える力」と「自己肯定感」を育む[やる気を引き出すコーチング]朝日新聞DIGITAL|子どもの「思考力」を伸ばすために、親ができること~パトリック・ハーランさん東洋経済オンライン|「考える力がない子」を変える3つの問いかけプレジデントオンライン|中国の「子どもの論理的思考力」が高い理由は?
2020年06月30日人が生きていくなかで、すべてのことは「感じる心」から始まると言えるでしょう。「好きだから夢中になる」「不思議だから調べる」「お友だちと一緒に遊ぶのが楽しい」「仲よくしたいから相手を思いやる」など――。そして成長するにつれて、それらの思いが、勉学や仕事、生き方につながっていき、その人の人生を彩っていきます。だからこそ、子どもの頃に「感じる心」をしっかり育むことはとても大事なのです。忙しい日常のなかでも、子どもたちの「心」をやわらかく丁寧にすくい取ってあげるために親ができることを考えてみましょう。「感じる心」は学びにつながっている武蔵野大学、創価大学で教授を務め、現在は上級教育カウンセラーとして活躍する角田冨美子氏によると、「幼児期は出会ったものすべてに心を動かされる時期」なのだそう。そして、感じる心や感じる力は「感性」であるとしています。一般に幼児期は,日々の生活の中で,直接的・具体的な体験を通して豊かな心情・意欲・態度を培い,成長・発達を促していく。その際,幼児は,新しいこと,珍しいこと,楽しいことなど,様々な場面で「もの」や「こと」に感じて心が動き,表現する。この「感じる力」(感性)は,自然・もの・人とのかかわりの中で培われ,人間の情緒・情操を養い,豊かな人生を築くための大きな力となる。(引用元:CiNii|幼児期の感性を育てる(1)幼児期の感動体験と教師の役割)では、そもそも「感じる心」や「感性」とは何を意味しているのでしょうか。広辞苑による「感性」の定義は次のとおりです。外界の刺激に応じて感覚・知覚を生ずる感覚器官の感受性。感覚によって呼び起こされ、それに支配される体験内容。従って、感覚に伴う感情や衝動・欲望も含む。理性・意志によって制御されるべき感覚的欲求。思惟(悟性的認識)の素材となる感覚的認識。 少し難しい言葉が並んでいますが、つまりは思考力や知識、行動の源となる欲求を生むための力、「生きる力」と言えるでしょう。また、未就学児は「考える」よりも「感じる」ことに長けているのだそうです(右脳優位)。しかし、小学校に入学して知識を得るにつれ、考えること優先(左脳優位)に変化していきます。成長にともなう変化はもちろん必要で、とても重要ですが、左脳優位になる前に、いかに子どもたちの「感じる心」を育んであげられるかということも大切なのです。角田氏は、「子どもが深く感じ、心を動かされるような経験が、好奇心や探究心となり、それがやがて思考力を育み、知識や技能獲得への意欲になる」と話しています。幼児期に「感じる心」を育てることが、その後の「学び」につながっていくのですね。「感じる心」が育っている子どもの特徴は?学びにつながるのであればなおのこと、「子どもには感性豊かな人に育ってほしい」――親であればそう願う人は少なくないはず。では、「感性豊かな人」とは、どんな人のことでしょうか。子どもは、急に突拍子もない行動をしたり、常識外れの発言をしたり、大人からみたらハラハラすることも多いですよね。でも、これこそまさに自由な感性の現れです。この感情表現は「感じる心」の素直な発信で、自分らしさ、個性に直結しています。「感じる心」をまっすぐに育み、豊かな人生を歩んでいるすばらしい方がいます。さかなクンです。幼少期のエピソードをご紹介しましょう。きっと参考になるはずです。エピソード1:1ヶ月間、毎食タコ!小学生のさかなクンは、タコに夢中になり、毎週日曜は水族館で1日中タコ鑑賞。それでも、お母さまは嫌がらずにとことん息子に付き合い、言った言葉が「お母さんもタコがどんどん好きになってきたよ」。さかなクンはそれがとても嬉しかったことを、いまでも覚えているそうです。また、息子が毎食タコをねだると、お母さまは1ヶ月間毎日調理法を変えて、タコを食卓に並べてくれたのですって。 エピソード2:みんな一緒じゃなくてもいいんです魚一筋で学校の勉強はあまりしなかったというさかなクン。家庭訪問で先生から注意を受けて、お母さまが返した言葉がすばらしいです。「あの子は魚が好きで、絵を描くことが大好きなんです。だからそれでいいんです」「成績が優秀な子がいればそうでない子もいて、だからいいんじゃないですか。みんながみんな一緒だったら先生、ロボットになっちゃいますよ」そうですよね、みんな違って当たり前。 エピソード3:自分の好きなように描けばいい絵の才能を伸ばすために専門の先生の指導を提案されると、「そうすると、絵の先生とおなじ絵になってしまいますでしょ。あの子には自分の好きなように描いてもらいたいんです。いまだって、誰にも習わずに自分であれだけのものを描いています。それでいいんです」。こんなふうに母親に信じてもらえるさかなクンは幸せですね! 幼少期からとにかく好きなことに邁進するさかなクンの日々を支え、見守り、応援し続けたお母さま。ポイントは「子どもの意思や行動を肯定する声かけ」と「子どもが好きなことに熱中するためのサポート」だそうです。なんと、食材の魚は、さかなクンが観察しやすいように丸ごと一匹購入していたのだとか。子どもの強くまっすぐな欲求をいっさい妨げないのは、とても勇気がいることだったでしょう。親が子を信じる力はすばらしいですね。いまは好きなことで成功をつかみ、メディアで活躍中のさかなクン。魚関連だけでなく、楽器演奏や料理など “好きなこと” にどんどん挑戦し、「好きを深める力」を発揮して、豊かな人生を送っています。さかなクンのお母さまのように、「好きなことをまっすぐ伸ばしてあげたい」と思っても、徹底するのはなかなか難しいものです。もしお母さまが、「もっと勉強しなさい!」「毎日タコなんて無理に決まっているでしょう」なんて言っていたとしたら……さかなクンの人生は違うものになっていたのではないでしょうか。「感じる心」を育てるために親ができること朝日新聞DIGITAL「花まる先生公開授業」に取り上げられたことのある、作文倶楽部トトロ講師・岩崎美紀先生は、子どもたちの創造性について、「ひとりひとりの創造性を育てる土壌ができているアメリカ」に対し、「日本ではゴツゴツした創造性を早くから丸く収めようとするために、その芽をつんでしまう傾向がある」と話しています。たしかに日本では、人と違うことをするよりも、まわりの人と足並みをそろえたほうがいいと考える人のほうが多いかもしれません。しかし、それでは子どもの可能性を狭めてしまいます。そこで、子どもの「感じる心」を育むマインドフルネスをご紹介しましょう。マインドフルネスとは、“いま” の自分の心をあるがままに受け入れること。ストレスフルな現代では子どもにもマインドフルネスが必要だと言われています。イエナプランで注目される教育先進国オランダでも、最近は学校や子育てに取り入れらているそう。また、グーグルやインテルなど一流企業も、創造力や柔軟性などの能力を向上させるトレーニングとしてマインドフルネスを取り入れていますよ。心を整えることで、感性が磨かれるのです。親子で簡単にできるマインドフルネス、ぜひやってみてください。【親子でマインドフルネス:私の心の天気】子どもに目を閉じたまま座ってもらいます。「いまの〇〇ちゃんの心のお天気は?」と子どもに尋ねてください。「晴れ!」だけでなく「雨……」という日もあるでしょう。これは、自分の “いま” の心に素直に向き合うトレーニングになります。“いま” に向き合うと、自分を客観的に見つめることができ、雑念が取り払われるため、感性が研ぎ澄まされるのです。【親子でマインドフルネス:悩み事の小さな箱】まず、悩み事の箱をつくります。絵を描いたり、好きな色紙を貼ったり、箱づくりをまず楽しんで。就寝前に、「今日嫌なことあった?」「心配なことはない?」など、子どもに聞いてみましょう。「この箱に入れちゃおう!」と、嫌なことや心配事を箱に入れるふりをしてください。嫌なことや心配事が入った箱を部屋のすみに置いて、遠くから眺めてもらいます。これで、“悩み事は心の外に出た” というイメージになり、すっきりと明日を迎えられます。マイナス要素を箱に閉じ込めることで心がリセットされ、また新しい何かを感じることができるでしょう。子どもの心がざわざわしていそうなとき、このふたつのマインドフルネスはとても効果的です。自分の心に向き合えるようになることで、「感じる心」を素直に受け入れらるようになり、やりたいことにまっすぐ向かえる力が育まれます。家で親子一緒に遊び感覚で楽しめるのもいいですね。***「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではないと固く信じています。子どもたちがであう事実のひとつひとつが、やがて知識や知恵を生み出す種子だとしたら、さまざまな情緒やゆたかな感受性は、この種子をはぐくむ肥沃な土壌です。幼い子ども時代は、この土壌をたがやすときです。(引用元:レイチェル・カーソン 著, 上遠恵子 訳(1996),『センス・オブ・ワンダー』, 新潮社.)アメリカの生物学者レイチェル・カーソンさんの言葉が心に響きます。彼女は子どもが生まれつきもつ新鮮な感性のことを「センス・オブ・ワンダー」と呼び、その感じる心を保ち続けるためには、「一緒に感動を分かち合う大人が少なくともひとりはそばにいる必要がある」と言っています。親が子どものためにできることは、「そばにいて感動を分かち合ってあげること」なのですね。(参考)CiNii|幼児期の感性を育てる(1)幼児期の感動体験と教師の役割伸芽’s クラブ|子どもの知的好奇心を育みたい!子どもを伸ばすためにできること伸芽’s クラブ|完成を磨くことで得られる豊かな人生|子どものために親ができる教育を考える朝日新聞DIGITAL|山梨・作文倶楽部トトロ・岩崎美紀さん全身を目や耳にして山梨版 習いたい.ネット|コラム「岩崎美紀先生の作文教室」|第1回「感じる心(感性)」七田式藤井寺教室|【考える心と感じる心】その2レイチェル・カーソン 著, 上遠恵子 訳(1996),『センス・オブ・ワンダー』, 新潮社.さかなクン(2016),『さかなクンの一魚一会〜まいにち夢中な人生!〜』, 講談社.エリーン・スネル(2015),『親と子どものためのマインドフルネス』, サンガ.
2020年06月26日聞き分けがなく、気に入らないことがあるとすぐに泣きわめく、暴れる、親が怒れば怒るほど手がつけられなくなり、もうどうしたらいいかわからないーー。どんなに愛情をもって育てていても、子どもがかんしゃくを起こすと、かわいいと思えなくなることもあります。しかし子どもは、親を困らせるためにかんしゃくを起こしているわけではないのです。今回は、子どもがかんしゃくを起こす原因とその対処法について、くわしく説明していきます。子どものかんしゃくは大事な成長過程のひとつ子どものかんしゃくといっても、その状態は子どもによってさまざまです。一般的には2~4歳頃、イヤイヤ期と前後するくらいの年齢において、「泣きわめく」「叫ぶ」「手当たり次第に物を投げる」「手足をバタバタさせて暴れる」などの様子が見られます。とはいえ、かんしゃくを起こしやすい気質をもっている子もいれば、普段は穏やかなのにある一定期間だけ激しくかんしゃくを起こす子もいます。保育士として15年以上にわたり保育業務に携わっている市川由美子先生は、「子どものかんしゃくは、大事な成長過程のひとつ」とし、「ほとんどのお子さんが5歳頃には落ち着いてくるので、親はあまり深く思い悩まずに、対応を工夫しながら見守ることが大事」と述べています。いま現在お子さまのかんしゃくにお悩みの方や、イヤイヤ期が終わってホッとしているのに、これからもっとひどい時期が訪れるのかと不安を感じている方もいるかもしれません。でも安心してください。子どもがかんしゃくを起こす時期を親子で一緒に工夫しながら乗り越えた先には、大きく飛躍したお子さんの姿が見られるはずです。子どものかんしゃくを恐れたり、対処法がわからずにイライラして落ち込んでしまったりするのは、かんしゃくについての知識が足りないからとも言えるでしょう。かんしゃくが起こる原因、かんしゃくを起こす子どもの気持ち、そしていくつかの対処法を知れば、必要以上に恐れずにすみます。子どもが床に寝転がって大泣きする原因子どもをスーパーに連れていったところ、「お菓子を買って」とせがまれ、「昨日買ったでしょ。今日はダメだよ」と言ったら、火がついたように泣き出し、床に寝転がってバタバタ暴れるーー。公園に遊びに行き、「もう帰るよ」と声をかけたところ、「いやだ!まだ遊ぶ!」と言ってきかない。困り果てて無理やり連れて帰ろうとすると、大声で泣き出して力いっぱい叩いてくるーー。小さい子どもがいる親御さんのほとんどは、このような経験をしたことがあるはず。しかし、一度や二度ならまだしも、頻繁にこのような状況になってしまうと、心身ともに疲弊してしまいますよね。白梅学園大学で非常勤講師を務める発達心理学が専門の塚崎京子先生は、「怒りっぽい子は感受性が強く、敏感に反応するタイプであることが多い」と述べています。つまり、ほかの子にとっては取るに足らないことでも、感受性の強い子にとっては強い刺激となり、怒りやイライラにつながってしまうというのです。また、自信のなさや不安の強さから、自分の思い通りにならないとカッとなって感情をコントロールできなくなるケースもあるそう。「かんしゃくを起こしやすい子」と言っても、そうなってしまう原因は単純なものではないようです。かんしゃくを起こすのは「親にかまってほしい」から!?子どもがかんしゃくを起こす原因として第一に考えられるのは、幼さゆえに言語能力が未発達なため、自分の気持ちをうまく伝えられずに泣いたり暴れたりしてしまうということ。前出の市川先生は、それに加えて「身体機能も十分に発達しておらず、やりたいことが思うようにうまくできずにイライラしていること」も原因のひとつになっていると言います。つまり、かんしゃくを起こす根本の原因は「自分の思い通りにいかないことに対しての怒りやイライラ」があるのです。また、子育て心理学を活用した育児支援を行なう公認心理師の佐藤めぐみさんは、「4歳を過ぎると大脳の発達が進み、脳や心の認知機能が大きく伸び、より複雑な思考ができるようになる」と述べています。それゆえに、子ども自身が急激に変化する自分の内面についていけず、気持ちのコントロールができなくなって、泣きわめいたり暴れたりしてしまうそう。ほかに考えられるのは、“親子のコミュニケーション手段” としてかんしゃくを用いているケースです。小児科医の伊藤明子先生は、「親にかまってほしい」「親の注意を引きたい」という気持ちが、かんしゃくとして表れることもあると言います。たとえば、仕事が忙しいお父さんや、妹(弟)にかかりっきりになっているお母さんなどに対して、自分に注意を向けさせるためにかんしゃくを起こしていることも。「一般的なイヤイヤ期を過ぎてもかんしゃくを起こすようだと、アタッチメント(=親子の絆)の形成が不十分であることのほか、子どもが日常的にストレスを感じていることを疑ってもいいかもしれない」と説くのは、発達心理学を専門とする京都大学大学院准教授の森口佑介先生です。森口先生によると、突然かんしゃくを起こすなど感情をコントロールできなくなる子どもは、ストレスに弱いという特徴が見られるそう。また、日常的にストレスを受け続けた子どもは、ストレスに対して耐性ができるどころか、逆にストレスに対して敏感になります。すると、ちょっとした嫌な出来事に対しても激しいストレスを感じてしまい、結果的にかんしゃくというかたちで表面化してしまうのです。このように、かんしゃくは本人の気質によるものや、発達段階における成長の証、親子間のコミュニケーションの問題など、要因となるものは千差万別であるといえるでしょう。子どものかんしゃくへの対処法大勢が見ている場所で子どもがかんしゃくを起こすと、いたたまれない気持ちになり「なんとかして静かにさせなければ」「早くこの場から立ち去りたい」と焦ってしまいますよね。しかし、親が焦れば焦るほど、子どもはますますヒートアップして手がつけられなくなってしまうことも……。子どもがかんしゃくを起こしたときの対処法は、ひとつではありません。お子さんの様子や成長の過程を見ながら、その状況に適した対処法を見つけ出しましょう。いくつか実践例をご紹介するので、ぜひ参考にしてみてくださいね。■「イライラしたときはどうする?」と事前に聞いておくいざかんしゃくが起こってしまうと、収めるのは大変です。ですから、まずは事前の対策をしっかりと練って、かんしゃくを起こさせないように先回りして対処しましょう。おすすめは、子どもの状態が比較的落ちついているとき、親子で「かんしゃくが起こったときにどうするか」を決めておくこと。前出の伊藤明子先生によると、「イライラしたり、怒ったりしたときはどうする?」と聞き、子ども自身にどうしたらいいのかを決めさせるといいそうです。お気に入りのぬいぐるみやタオルに触る、空を見上げて深呼吸するなど、本人が考えた対処法であれば、スムーズに気持ちが切り替わってクールダウンできるでしょう。■時間や回数など、具体的な数字を伝える親の声かけひとつで、子どもはかんしゃくを起こさず、落ち着いてその場を切り抜けられます。たとえば公園で、「まだ遊びたい」と駄々をこね始めたとき、「急いでいるからダメ!」「早く帰るよ!」と頭ごなしに言いつけるのはもちろんNGです。また、「じゃあ、ちょっとだけね」と、一見理解を示したような声かけもよくありません。子どもには、「ちょっと」や「少し」といった曖昧な感覚が伝わらないので、「5時になったから急いで帰らないとね。じゃあ、あと3回滑り台滑って帰ろうか」と、時間や回数など具体的な数字を出して伝えましょう。■気分転換をはかって気をそらす!東京家政大学子ども学部教授の岩立京子先生は、子どものかんしゃくには「気をそらす」というテクニックが有効だと述べています。具体的には、次のような方法が効果的だそう。スーパーでお菓子を買ってほしいと子どもがかんしゃくを起こす↓泣いている子どもをひょいと抱き上げ、駐車場の車に連れて行くなど場所を移動してから、「あれが欲しかったんだよね」と子どもの気持ちに共感してあげる↓少し時間が経ち、子どもが疲れて落ちつくタイミングがやってきたら、ジュースをあげるなど気分転換をはかって気をそらす 「親に怒りなどの感情を受け止めてもらい、調整してもらってきた子どもは、自己の情動を調整できる傾向が強い」と岩立先生。こういったプロセスを繰り返すことで、子どもは自分の情動をコントロールする術を身につけられるようになるそうです。■「大声で叱る」「ご褒美で釣る」のは絶対にNG激しくかんしゃくを起こす子どもに、ついイライラしてしまうのは当然です。しかし、ここで「もう知らないからね!」と無視をしたり、「いい加減にして!」と大声で叱ったりするのは、結果としてさらに親御さんとお子さんを苦しめることにつながります。子どものかんしゃくを無視するということは、子どもの本当の気持ちに向き合っていないのと同じです。市川先生は、「わかってほしいのにわかってくれない」「聞いてほしいのに聞いてくれない」という挫折感が子どもの心に広がると、次第に自分の気持ちを人に伝えることを諦めるようになると警鐘を鳴らしています。また、いくら暴れて騒がしくしていたとしても、ご褒美で釣るようなこともおすすめできません。伊藤先生によると、「○○をあげるからいい子にして」とその場を収めることを繰り返していると、子どもは「かんしゃくを起こしたらご褒美がもらえる」と勘違いしてしまうそう。子どものかんしゃくには、毅然とした態度で向き合うことを心がけましょう。***子どものかんしゃくに悩んでいる保護者の方は、「今すぐにでもこの問題を解決したい」と願っているはずです。しかし、「こういう時期なんだ」「いまは身体と心が急激に成長しているんだ」と理解することで、気持ちに少し余裕が生まれるのではないでしょうか。(参考)ベネッセ 教育情報サイト|切実!子どもの癇癪(かんしゃく)にはどう対応するといいの?さぽナビ|<子どものココロジー>すぐに怒る子All About|「4歳児は天使」の誤解?! 反抗期や癇癪の心理と対策ウーマンエキサイト|【医師監修】子どもが癇癪(かんしゃく)を起こすのは育て方のせい?STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|困難に立ち向かえる自信のある子の育て方。何より大切なのは親子間の「アタッチメント」STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|イヤイヤ期には“気そらし方略”がうまくいく。3歳の子育てを楽にする、2歳までの「しつけ」のコツ
2020年06月24日コロナウィルス感染拡大防止のための休校措置にともない、お子さまの学習習慣をあらためて見直したご家庭も多いのではないでしょうか。学習面でのさまざまな問題点が浮き彫りになったり、生活習慣ががらりと変わったことで子どもの学習への意欲が低下したりと、これまで気づかなかったことに気づかされるきっかけにもなったはず。今回は、「勉強しない子」が「勉強する子」に変わる家庭での仕組みづくりについてご紹介します。長い?短い?小学生の勉強時間そもそも、一般的に子どもたちはどれくらい勉強しているものなのでしょうか。何を基準にして、わが子のベストな勉強時間の長さを決めればいいのでしょうか。小学生の家庭学習の目安として、よく耳にするのが「学年×10分」ですね。2年生なら「20分」、4年生なら「40分」。しかしこれでは、宿題をするだけで終わってしまいそうです。ベネッセ教育総合研究所が調査した「小学生の勉強時間」の平均は次のとおり。1年生56分2年生56分3年生66分4年生71分5年生76分6年生76分全学年としての平均は、宿題に費やす時間(30~40分程度)を含めて67分という結果に。ただし、習い事の有無など各家庭の事情にも大きく左右されるため、一概に「○年生なら○分勉強するべき」とは言いきれません。しかしながら、学年が上がれば上がるほど、勉強を習慣づけさせるのは困難になっていきます。そうであるならば、できるだけ早い時期から家庭学習を習慣づけさせる必要があるでしょう。勉強する子と勉強しない子、その差はどこから?これまでに多くの親子と関わってきた松尾英明先生(千葉大学教育学部附属小学校)は、「親はひとことも『勉強しなさい』なんて言っていないのに、きちんと勉強する子どもは一定数いる」と断言します。ここでは、「いくら言っても勉強しない子」と「何も言わなくても勉強する子」の違いについて考えていきましょう。■子ども自身が勉強の必要性を感じているか?「なんのために勉強するのか」を理解せずに、ただ「先生やお母さんに怒られるから」と、しぶしぶ机に向かっている子は意外とたくさんいます。ベネッセ教育総合研究所が2014年に実施した「小・中学生の学びに関する実態調査」では、小学生の10.1%が「なんのために勉強しているのかわからない」と答えたそう。みなさんも、「これって意味あるのかな?」「なんでこんなことやらないといけないの?」と思っていることを実行するのは、かなりの苦痛をともなうはずです。それは子どもだって同じ。一方で、「自分から勉強する子」は、勉強する意味を明確に理解しているケースが多いといいます。ベネッセによる2011年の調査の結果、「親と将来や進路について話をする」と答えた子どもは、比較的勉強時間が長いという傾向が見られたそうです。特に小学4年生以降になるとその差は歴然で、「親と将来や進路の話をすることがない」子に比べると、20分~30分もの差が生まれています。■子どもに「勉強しなさい!」と言っている?子どもが親に「勉強しなさい!」と言われるとつい反発したくなるのは、ある心理的な要因が考えられます。社会心理学を専門とする深田博己教授によると、「個人が特定の自由を侵害されたときに喚起される、自由回復を志向した動機的状態」、いわゆる「心理的リアクタンス」が機能しているとのこと。人は、「〇〇しろ」「××するな」と言われると、「自由を侵害された」「行動を制限された」という気持ちになるため、つい反対の行動をとりたくなるのだそう。パートナーから「早く△△しておいて!」などと言われて、「いま△△しようと思っていたのに急にやりたくなくなった」という経験はありませんか?同じように、「勉強しなさい!」という親の声かけは、逆に子どもから勉強への意欲を奪ってしまうのです。また、ベネッセの調査では、「勉強しなさい」と声かけをしてもしなくても、実際の勉強時間の長さはほとんど変わらないという結果が出ています。さらに驚くべきことに、中学3年生にもなると、「勉強しなさい」と声かけされない子のほうが、約25分も長く勉強していることがわかっているのです。いますぐ実践!勉強しない子が変わる仕組みづくり最後に、お子さんが「勉強する子」へと変わるために親がサポートできることをいくつかご紹介します。■机に向かっていればOKとする○机に向かっていれば勉強していなくてもOK小学校教諭、塾講師として長年教育現場に携わってきた須貝誠先生は、たった30分の家庭学習でさえ継続できない場合、「勉強でなくても、一定時間机で好きなことをさせておけばいい」と述べています。これで「机に向かう習慣」が身につくそうです。○わが子のペースで少しずつ時間を伸ばす机に向かうことに慣れ、しだいに数分からでも勉強するようになれば、今日は10分、明日は15分……と少しずつ時間を伸ばしていくといいでしょう。同様に、今日は1ページ、明日は2ページ、とページ数などで区切ってみるのもいいですね。○時間にはこだわらないその際に大事なのは、親は子どもの様子をよく見て、臨機応変に対応すること。「3年生だから30分は勉強しなきゃ」「同じ学年の子は30分以上勉強してるんだから」などと、数字にばかりとらわれていると、わが子に適した学習時間を見極められなくなります。取り組んでいるドリルが難しくて手が止まっているようなら、少し簡単なものに変える、量を減らす、基本問題だけをやらせて応用問題は後回しにさせる、などうまく調整してあげることで、勉強に対するモチベーションを保つことができるでしょう。■子どもが集中できる環境を用意する○机に向かったときに目に入るものをチェック集中力がなく、すぐに気が散ってしまう場合は、机まわりの環境を見直しましょう。収納カウンセラーの飯田久恵先生によると、「子どもは気が散りやすく、目に入ったものに気をとられると、なかなかひとつのことに集中できない」とのこと。子どもが目の前の勉強だけに集中できる環境を用意してあげる必要があるのです。○「好きなもの」をあえて視界に入れないゲームや漫画などは目に入る場所に置かない、デスクマットに勉強とは関係ないものを挟まない、などを意識するのはもちろん、勉強に必要なものがすぐに取り出せるように整理整頓を心がけましょう。片づけができていないと、物を探す時間の無駄が生まれて、勉強への集中力が途切れる原因にも。机まわりの環境を整えることは、勉強の習慣化につながります。■子どもの「学び」を後押しする○幼少期の熱中体験を大切に親との関わり方も子どもの学習意欲に大きな影響を及ぼします。東北大学加齢医学研究所の瀧靖之教授いわく、東大生の多くは、子ども時代に「何かに熱中する体験」をしているそう。しかし、子どもが何かに熱中しているそばで親がテレビやスマートフォンを眺めていては、せっかくの熱中体験が活かされません。○バーチャルとリアルをつなぐ大切なのは、子どもが興味をもったことを親も一緒に楽しんだり、もっと興味を追求できるように環境を整えてあげたりすること。実際に電車を見に行く、サッカーの試合を観戦する、博物館や科学館に連れていくなど、「バーチャルとリアルをつなぐ作業を一生懸命やった家庭の子は、ぐんぐん伸びていきます」と瀧教授も述べています。「勉強しなさい!」といくら言っても効果がないと諦めてしまった保護者の方もいるかもしれません。しかし、本来子どもは好奇心が旺盛なものです。わが子の興味の対象はなんなのか、それを見つけてうまく引き出し、学習意欲を刺激してあげることで、その他の勉強へのモチベーションにもつながっていくでしょう。***本文で述べたように、将来のイメージを具体的に思い描ける子ほど、自発的に勉強する傾向がみられることがわかっています。ぜひお子さんの将来や進路について、親子で話してみませんか?夢や目標があれば、勉強への意欲がぐんと上がっていくはずです。(参考)ベネッセ 教育情報サイト|小学生みんなの勉強時間はどのくらい?STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|子供が勉強しないときの対策。イライラはNG、親子で勉強計画を立てよう!ベネッセ教育総合研究所|小・中学生の学びに関する実態調査報告書[2014]STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|「勉強しなさい」といい続けたら将来どうなる!?子どもの才能を摘まないためにーーベネッセ 教育情報サイト|「勉強しなさい」よりも効果的!?な、子どもの学習意欲を高める関わり方広島大学 学術情報リポジトリ|心理的リアクタンス理論(1)STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|「勉強しろ」は逆効果!統計でわかった、親が本当にやるべき3つのことSTUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|「コツコツ勉強」「諦めずに練習」が苦手な子どもを生まれ変わらせる“4つのアプローチ”STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|勉強への集中力、学びへの興味を引き出す「片付けテク」を、収納カウンセラーが伝授!東洋経済オンライン|頭のいい子に共通する小学校時代の過ごし方
2020年06月22日我が子に立派な人間になってほしい――。そう願うのなら、子どもが好ましくない行動をとったときにはある程度叱ることも必要だと考えるのは当然のことかもしれません。ところが、「基本的に、子どもは叱らなくても大丈夫」と言うのは、株式会社子育て支援代表取締役の熊野英一さん。その真意はどんなものなのでしょうか。日本アドラー心理学会/日本個人心理学会の正会員でもある熊野さんが、アドラー心理学の観点から教えてくれました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人ほめるも叱るも、子どもを「操作」しようとしているだけ「ほめて育てる」子育てが注目されている昨今ですが、アドラー心理学に基づく子育てでは、基本的に子どもをほめません。それなら、子どもを叱り飛ばしてばかりいるのかというとそうではなく、アドラー心理学では子どもを「叱らない」ことも大切にしています。子どもをほめないのは、「子どもを自分の思い通りにしよう」という「操作」の下心によって親子の信頼関係が壊れてしまわないようにするため。または、ほめすぎることで子どもの人格形成に悪影響を与えないようにするためです(インタビュー第3回参照)。では、「叱る」という行為はどうかというと、これもまた「操作」なのです。親が怒りやイライラなどの感情を子どもに対してぶちまけて叱ることには、「怖い顔をして大きい声を出せば、この子は言うことを聞くだろう」といった、操作の下心があります。その点で、叱ることもほめることと同様に、親子の信頼関係を壊してしまう危険性をはらんでいるのです。ほめるのも叱るのも、親が子どもを思い通りに操作するための作戦の違いに過ぎません。子どもに早く起きてほしいとき、多くの親は、「いい子だから、早く起きようね」と、まずほめる作戦から始めます。そして、どんどん時間が過ぎていくと、「なにやってるの!早く起きなさい!」と今度は叱る作戦を使うという具合です。もちろん、ほめることも叱ることも、たいていは子どものためを思っての親の行動です。「我が子にきちんとした人間に育ってほしい」と思って、ほめてみたり叱ってみたりと、親は一生懸命なのです。でも、結果はというと……親子の信頼関係を壊してしまったり、子どもの人格形成に悪影響を与えてしまったりと、あまり好ましくない方向に向かいます。つまり、その作戦自体が間違っていると考えるべきです。怒りではなく、「一次感情」を落ち着いて伝えるでは、どうすればいいのでしょう?その答えは、子どもの言動に対する怒りやイライラの感情の前にある、「落胆」「心配」「不安」「寂しい」「悲しい」といった一次感情に着目することです。怒りをそのまま子どもにぶつけるのではなく、怒りに達するほど「あなたを心配しているんだよ」だとか「嘘をつかれると悲しいんだよ」といった一次感情を子どもに伝えてください(インタビュー第1回参照)。すると、子どもの心に響く度合いがまったく違ってきます。「なんで嘘つくの!」と叱り飛ばされるのではなく、「お母さん、嘘をつかれると悲しいな……」と言われたなら?子どもは子どもなりに、「本当に悪いことをしたんだな」と感じて反省してくれるはずです。一方、ただ大声で子どもを叱るようなやり方では、「なにか大声で怒鳴っているな」という事実はわかっても、ではどうしてほしいのかということも、親の素直な一次感情も、子どもには伝わりません。だから子どもは同じ過ちを繰り返し、そのたびにまた親が叱るという悪循環に陥ってしまいます。怒りに飲み込まれないようにして、自分の素直な一次感情を落ち着いて伝えるのです。そうすれば、幼い子どもにもその気持ちは必ずきちんと伝わります。「インタビュアー」になれば、親のやるべきことが見えるそのように、子どもを叱りたくなるときにも落ち着いて子どもと接するために、子どもに対しては「インタビュアー」になることを意識してみてください。子どもが約束を破ったとか嘘をついた、暴力をふるったというような、子どもを叱りたくなる場面では、親はつい裁判官のような「評価者」になりがちです。そうして、「あなたは駄目だ!」と評価を下すことが自分の仕事だと思ってしまうのです。でも、子ども自身からすれば、ただどうしていいかわからなくて、親が叱りたくなるような言動をしてしまっただけということもよくあるケース。友だちにおもちゃを取られて、「返して」という言葉が出てこなくてつい手が出てしまった……。そんなときに、「子どもが暴力をふるった」という事実だけに目を向けて叱るのではなく、インタビュアーになって「なぜ手を出したのか」ということを聞き出してほしいのです。子どもの言動にはその子なりの理由が必ずあります。しっかりと子どもに向き合って話を聞いて、子どもなりの理由を聞き出すことができたら、頭ごなしに叱るのではなく、「そういうときは『返して』って言えばいいんだよ」というふうにアドバイスするなど、親としてやれることがはっきりと見えてくるのではないでしょうか。『アドラー式働き方改革 仕事も家庭も充実させたいパパのための本』熊野英一 著/小学館(2018)■ 株式会社子育て支援代表取締役・熊野英一さん インタビュー記事一覧第1回:「○○ファースト」がポイント!アドラー心理学で親子間のコミュニケーションがうまくいく第2回:大事なのは我が子を無条件で信じる「信頼」。「信用」しかできないのはとても危険第3回:子育てでは“ほめないこと”が大切なわけ。アドラー流・子どもを「ほめずに勇気づける」方法第4回:つい叱りたくなるときでも、親は「インタビュアー」になれば落ち着いて我が子に向き合える【プロフィール】熊野英一(くまの・えいいち)1972年1月22日生まれ、フランス・パリ出身。株式会社子育て支援代表取締役。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。メルセデス・ベンツ日本人事部門に勤務後、米国Indiana University Kelley School of Businessに留学(MBA/経営学修士)。製薬企業イーライ・リリー米国本社及び日本法人を経て、保育サービスの株式会社コティに統括部長として入社。約60の保育施設の立ち上げ・運営、ベビーシッター事業に従事。2007年、株式会社子育て支援を設立し、代表取締役に就任。日本アドラー心理学会/日本個人心理学会正会員。主な著書に『アドラー式子育て 家族を笑顔にしたいパパのための本』(小学館)、『アドラー子育て・親育て 家族の教科書 子どもの人格は、家族がつくる』(アルテ)、『アドラー子育て・親育て 育児の教科書 父母が学べば、子どもは伸びる』(アルテ)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年06月18日子育てにおけるキーワードとして頻繁に見聞きする「ほめて伸ばす」という言葉。ただ、株式会社子育て支援代表取締役であり日本アドラー心理学会/日本個人心理学会正会員でもある熊野英一さんは、「ほめて伸ばす」子育てに潜む危険性を指摘します。アドラー心理学に基づく子育てでは、ほめるのではなく、「勇気づける」ことが大切だとされているのだそう。その理由とはどんなものでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカット)親子の信頼関係を壊す、子どもを操作しようとする「下心」アドラー心理学に基づく子育てでは、「ほめない」ことを大切にしています。その代わりに、子どもを「勇気づける」のです。こう言うと、「ほめることで子どもは伸びるのではないか」と思う人も多いでしょう。「ほめ言葉」が駄目だという意味ではありません。大切なのは、親の声かけのなかに「下心」をもたないこと。子どもをほめるときには、どこかで「子どもを自分の思い通りにしよう」という「操作」の下心が入りやすくなるものです。「いい子だから早く寝ようね」「こんなに勉強ができてすごいね!」と言って子どもをその気にさせようとする。そういった操作の下心があると、子どもとの信頼関係をきちんと築けなくなります。なぜなら、親の下心を子どもは敏感に察知するからです。最初は、子どももよろこぶでしょう。お父さんやお母さんから「いい子だね」と言われて嬉しくない子どもはいません。でも、親の下心は、表情やしぐさなどどこかににじみ出るものですから、そのうち必ず子どもにバレます。自分に置き換えて考えてみてください。仕事相手でもプライベートの知り合いでも、妙にお世辞を言うなどしてあなたのことをうまく転がそうとしてくるような人間と、いい関係を築けると思うでしょうか?そんなことはないはずです。ほめすぎることが子どもの人格形成に与える悪影響また、下心をもっているかどうかは別として、子どもをほめすぎることは、子どもの人格形成に悪影響を与えることもあります。ひとつは、「ほめられないとなにもしない子どもになる」ということ。ほめられることが当たり前になるために、ほめてくれないのなら勉強もしない、部屋の片づけもしない、といったことになります。また、「指示待ち人間になる」というのも、ほめすぎることが子どもに与える悪影響です。なぜなら、ほめるという行為の前提は、上下関係があるということだからです。子どもをほめすぎることは、「親は上に立って命令し、結果を評価する人であり、子どもは言うことを聞いたり親に依存したりして、その評価に左右される人」という関係をつくってしまう。その関係のなかで、子どもは指示待ち人間になっていきます。そして、最終的には子どもが「勇気を失ってしまう」ことにもなる。子どもを大げさにほめすぎるような親は、反面、子どもがちょっとしたミスをしたようなときには必要以上に叱りがちです。そういう親は、子どもが勉強の基本問題で正解できたようなときにも「わあ、すごい!」なんて大げさにほめ、「あなたは頭がいいから、応用問題もやってみようか」とけしかけます。でも、子どもは「基本問題だけでいい」とチャレンジから逃げてしまう。なぜなら、難しい応用問題でもいい結果を出せなければ、叱られることを知っているからです。ほめられないとなにもしない、自分で考えて行動できない、チャレンジする勇気がない――そんな子どもが、将来、自立した人生を歩んでいけるでしょうか?答えは考えるまでもなく「NO」ですよね。子どもを認めることが、子どもに「勇気」を与える大切なのは、ただ子どもをほめることなどではなく、子どもをひとりの人間として信頼してリスペクトすることにあります。もちろん、親と子、大人と子どもという立場の上下は存在する。でも、親子でコミュニケーションをするときには、縦ではなく横の関係であるべきです。それは、子どもを「認める」、子どもに「共感する」ことであり、そして子どもを「勇気づける」ことにつながります。テストで100点とったかそうではないのか、スポーツでいいプレーをできたかそうではないのか――そういった子どもがやったことの結果ではなく、子どもの気持ちに関心を寄せるのです。仮に結果がよくなかったとしたら、悔しさや恥ずかしさなど、子どもはさまざまな気持ちを抱いています。その気持ちに共感して寄り添うのです。そして、「じゃ、今度はどうしようか?」「なにか手伝えることはある?」と親が伴走してくれたなら、子どもにとってこれほど頼もしいことはない。きっと子どもは「よし、もう一回やってみよう!」という勇気を手にすることができるはずです。このように、子どもがなにかに失敗した場面でなら、「認める」「共感する」「勇気づける」ための親の振る舞いはイメージしやすいものでしょう。でも、逆に子どもがなにかに成功した場面ならどうでしょうか?それこそ、手放しでほめたくなるものですよね。下心のないほめであればいいですが、やはりほめることに重点は置かないようにしましょう。ほめてあげるよりも、もっと子どもを勇気づけるのは、「自分の気持ち」、そして「感謝」を伝えることです。子どもが打ち込んでいるなにかでしっかり結果を出した。そのとき、お父さんとお母さんから、「すごく嬉しいよ、ありがとう!」と言われた――。それこそが、子どもにとって最高の勇気づけです。『アドラー式働き方改革 仕事も家庭も充実させたいパパのための本』熊野英一 著/小学館(2018)■ 株式会社子育て支援代表取締役・熊野英一さん インタビュー記事一覧第1回:「○○ファースト」がポイント!アドラー心理学で親子間のコミュニケーションがうまくいく第2回:大事なのは我が子を無条件で信じる「信頼」。「信用」しかできないのはとても危険第3回:子育てでは“ほめないこと”が大切なわけ。アドラー流・子どもを「ほめずに勇気づける」方法第4回:つい叱りたくなるときでも、親は「インタビュアー」になれば落ち着いて我が子に向き合える(※近日公開)【プロフィール】熊野英一(くまの・えいいち)1972年1月22日生まれ、フランス・パリ出身。株式会社子育て支援代表取締役。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。メルセデス・ベンツ日本人事部門に勤務後、米国Indiana University Kelley School of Businessに留学(MBA/経営学修士)。製薬企業イーライ・リリー米国本社及び日本法人を経て、保育サービスの株式会社コティに統括部長として入社。約60の保育施設の立ち上げ・運営、ベビーシッター事業に従事。2007年、株式会社子育て支援を設立し、代表取締役に就任。日本アドラー心理学会/日本個人心理学会正会員。主な著書に『アドラー式子育て 家族を笑顔にしたいパパのための本』(小学館)、『アドラー子育て・親育て 家族の教科書 子どもの人格は、家族がつくる』(アルテ)、『アドラー子育て・親育て 育児の教科書 父母が学べば、子どもは伸びる』(アルテ)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年06月16日子育てに関する考え方は家庭それぞれです。「子育てに欠かせないものはなに?」と問われたら、みなさんならどう答えるでしょうか。この問いに、株式会社子育て支援代表取締役の熊野英一さんは「信頼」だと答えます。日本アドラー心理学会/日本個人心理学会正会員でもある熊野さんが、アドラー心理学の観点から、子育てにおける「信頼」の重要性、その築き方を教えてくれました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカット)子どもは、生まれた瞬間から親の「信頼」を確認するみなさんは、自分の子どもを「信頼」していますか?「もちろん!」と思った人もいるかもしれませんが、じつはなかなか難しいことでもあります。でも、子どもを「信用」している人は多いはず。どういうことかと言うと、「信用」と「信頼」はまったく別の意味を持つ言葉なのです。簡単に言えば、「信用」は「条件つきで信じる」こと。対して、「信頼」は「無条件で信じる」ことです。「テストで100点とれたからいい子だね」「早く起きてくれたからいい子だね」――。これらの言葉には条件がありますから、「信用」になります。子どもを信用することも子どもを信じることには変わりありませんが、これらの言葉は、「あなたがいい子であるためには、なんらかの条件をクリアしないとだめだよ」と伝えていることになります。これは、子どもにとってはよくないこと。そうやって条件をつきつけられ続けた子どもは、「もし条件をクリアできなかったら、いい子じゃなくなっちゃう……」と怖がり、さまざまなチャレンジを回避するような生き方しかできなくなってしまうでしょう。子育てにおいては、子どもを無条件で信じる「信頼」こそが大切です。これは、「愛」と言い換えてもいいでしょう。子どもに対する信頼が大切になるのは、子どもが生まれたその瞬間からです。生まれたばかりの子どもは、2歳くらいまでのあいだに親からの「信頼」を確認していきます。一番近くにいる親――たいていは母親の振る舞いから、「この世界は、そして自分は、生きるに値するのか」と確認するのです。赤ん坊は、自分ではなにもできない存在です。それでも、そんな自分に対して母親はあらゆる世話をしてくれる。そのなかで、「ありのままの自分が受け入れられている」「なにも価値を生み出さなくとも、ありのままの自分がすでに価値を持っているんだ」と確認します。それが、その後の人生をしっかり歩んでいくうえで欠かせない重要なステップなのです。親の過剰な期待によって、「信頼」が減り「信用」が増えるもちろん、ほとんどすべての親が、子どもが生まれた瞬間には「この世に生まれてきてくれただけで嬉しい!」と感動し、ありのままの子どもを受け入れ信頼します。ところが、時間が経つにつれて、ほかの子どもや自分の理想の子ども像と現実の我が子を比べ始めてしまう。そうして、「こんなふうに育ってほしい」という思いから子どもに条件を突きつけ、徐々に信頼の割合が減って信用の割合が増えることになるのです。このことは、先にもお伝えしたように、子どもがチャレンジを回避するような生き方しかできなくなるといったデメリットを生みます。さらに、ほかのデメリットとして、親子関係を悪化させることも挙げられます。親は「こんなふうに育ってほしい」と子どもに対して過剰な期待をしてしまいますから、そのあとには必ず「落胆」がある。落胆は、コミュニケーションの大きな障害となる「イライラ」や「怒り」を生む一次感情です。そうして必要以上にイライラや怒りの感情を抱えてしまうことになり、親子関係は悪化してしまうでしょう。そう考えると、子どもをしっかり信頼するための方法のひとつが、前回の記事でお伝えした、まず子どもの気持ちに共感する「共感ファースト」ということになります(インタビュー第1回参照)。子どもの言動にたとえ同意できなくとも、まずは共感する。そうすることが、よりよい親子関係、親子間のコミュニケーション、信頼の構築につながるはずです。子どもに対する強い信頼をつくる「課題の分離」子どもを信頼するためのもうひとつの方法として、アドラー心理学でいう「課題の分離」というものも紹介しておきましょう。「勉強をしない」「きょうだいげんかをする」といった子どもの言動に「イライラする」とき、その主述関係を整理して、課題を親子それぞれにきちんと分けるのです。このケースなら、「イライラする」のは「親」です。つまりこれは「親の課題」となる。一方、「勉強をしない」「きょうだいげんかをする」のは「子ども」ですから、これらは子どもの課題。そのように切り分けて、子どもの課題に親が手出し口出ししないようにするのです。これは、日本を含むアジア圏でとても有効な方法です。小さい子どももひとりの人間として扱う個人主義が強い欧米に比べ、アジアでは「子どもは親が助けてあげなければならない存在」と考えがちです。そのため、子どもの課題も親の課題であるかのように考えて介入したくなってしまう。そうして、必要以上にイライラしていく構造だというわけです。でも、親子それぞれの課題を明確にすれば、そういったことは激減するでしょう。もちろん、子どもが本当に困ってしまって助けを求めてきたなら、助けてあげる必要はあります。でも、そうなるまでは信頼して子どもを見守るべきです。その姿勢が、子どもに対する強い信頼をつくっていきます。『アドラー式働き方改革 仕事も家庭も充実させたいパパのための本』熊野英一 著/小学館(2018)■ 株式会社子育て支援代表取締役・熊野英一さん インタビュー記事一覧第1回:「○○ファースト」がポイント!アドラー心理学で親子間のコミュニケーションがうまくいく第2回:大事なのは我が子を無条件で信じる「信頼」。「信用」しかできないのはとても危険第3回:子育てでは“ほめないこと”が大切なわけ。アドラー流・子どもを「ほめずに勇気づける」方法(※近日公開)第4回:つい叱りたくなるときでも、親は「インタビュアー」になれば落ち着いて我が子に向き合える(※近日公開)【プロフィール】熊野英一(くまの・えいいち)1972年1月22日生まれ、フランス・パリ出身。株式会社子育て支援代表取締役。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。メルセデス・ベンツ日本人事部門に勤務後、米国Indiana University Kelley School of Businessに留学(MBA/経営学修士)。製薬企業イーライ・リリー米国本社及び日本法人を経て、保育サービスの株式会社コティに統括部長として入社。約60の保育施設の立ち上げ・運営、ベビーシッター事業に従事。2007年、株式会社子育て支援を設立し、代表取締役に就任。日本アドラー心理学会/日本個人心理学会正会員。主な著書に『アドラー式子育て 家族を笑顔にしたいパパのための本』(小学館)、『アドラー子育て・親育て 家族の教科書 子どもの人格は、家族がつくる』(アルテ)、『アドラー子育て・親育て 育児の教科書 父母が学べば、子どもは伸びる』(アルテ)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年06月14日家庭教育の話題としても耳にすることが増えている「アドラー心理学」。そもそも、アドラー心理学とはどんなもので、子育ての場面ではどのように生かせるのでしょうか。そのポイントを、株式会社子育て支援代表取締役であり、日本アドラー心理学会/日本個人心理学会の正会員でもある熊野英一さんが教えてくれました。熊野さんは、アドラー心理学の考え方を生かすことにより、親子間のコミュニケーションが格段にスムーズになると言います。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人一般人でも実践的に使えるアドラー心理学アドラー心理学は、心理学の一分野です。その創始者であるオーストリアの心理学者、アルフレッド・アドラーは、フロイト、ユングと並ぶ心理学の3大巨頭ですが、日本ではほかのふたりと比べて少しマイナーな存在でした。それが大きく変わったのが、2013年。アドラーの教えを伝える書籍『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社/岸見一郎・古賀史健 著)が大ヒットしたことで、日本にもアドラーの名が知れわたったのです。もちろん、アドラー心理学が注目を集めるようになった要因は、書籍のヒットだけではありません。なにより、その使い勝手の良さが大きかったと思います。アドラー心理学は、非常にシンプルでわかりやすい理論のため、子育てのほか、夫婦関係や職場での人間関係など、さまざまな対人関係に適用しやすいのです。では、アドラー心理学とは具体的にどういうものなのでしょうか。アドラーは、簡単に言うと、「どうすれば人は仲良くできるのか」ということを追求した人です。アドラー以前の心理学は、基本的に、心の問題を抱えている人を精神分析したりトラウマなど心の闇をまさぐったりして、「問題の原因を解明していく」というスタンスでした。でも、それでは即座に問題を解決することは難しい。いままさにけんかしている目の前の人とどうすれば仲直りできるのか、これから仲良くできるのか――。アドラーはそこにフォーカスしました。だからこそ、心理学について特別に学んでいない人たちであっても実践的に使える心理学として、アドラー心理学の注目度がどんどん増しているのだと思います。「子育ての最終目標」とは「子どもを自立させる」ことそのアドラー心理学の観点から、「子育ての最終目標」とは「子どもを自立させる」ことだと私は考えています。普通に考えると、親は子どもより長く生きることができません。そうであるなら、子どもが親から離れて自活し、自らの幸せをつかめるような人間に育てること、すなわち自立させることが親の役割だと言えます。また、自立に加えて、もうひとつの大事なキーワードが、アドラー心理学の専門用語で「共同体感覚」と呼ぶものです。わかりやすく言うと、「公共心」とか「思いやり」になるでしょうか。どんな人間にとっても自分は大事ですから、必要以上に自分を犠牲にする必要はありません。その一方で、社会生活を営む人間としては、「自分さえよければいい」という考え方はNGでしょう。自分を大事にして自らの幸せを追求しながらも、困っている他者に対して手を差し伸べることができる感覚――。共同体感覚を誰もがもっていたとしたら、その社会はきっとハッピーであるはずです。そういう点では、自分も他者も大事にできる共同体感覚をもっている人間が、自立している人間だと定義できるかもしれません。もちろん、アドラー心理学を学んだ経験がない人でも、親であれば誰もが「子どもに自立してほしい」「自分も他人も思いやれる人になってほしい」と願うものでしょう。ところが、実際の子育てとなると、さまざまな問題に直面します。その筆頭が、子どもに対する「イライラ」や「怒り」の感情ではないでしょうか。親は子どもを愛しているからこそ、イライラしてしまうでは、イライラや怒りとはなにか?それらは、心理学的には「二次感情」と呼ばれるものです。でも、二次感情以前に別の感情である「一次感情」があります。それらが増大して沸点に達した結果、イライラや怒りになるのです。代表的な一次感情は、「落胆」「心配」「不安」「寂しい」「悲しい」の5つ。「いい子に育ってほしい」と期待しているから落胆がある。「健康でいてほしい」と願うから心配するし不安にもなる。子どもと離れると寂しいし、子どもと愛し合えなくなったら悲しい。どれも親が子どもに対してもちやすい感情ですよね。つまり、これらの感情は親としての子どもへの愛情とセットのものです。親はみんな子どもを愛しています。だからこそ、一次感情が膨らんでイライラや怒りを抱えてしまうのです。つまり、親が子どもに対してイライラや怒りを覚えるのは当然のこと。問題は、親の気持ちの伝え方にあるのです。二次感情のイライラや怒りをそのままぶつけるから、親子関係がうまくいかなくなる。そうではなく、冷静に一次感情を伝えることを考えましょう。親子間に欠かせない「共感」は、「同意」とはまったくの別物そして、それ以前に子どもの話をきちんと聞くことを心がけてください。その際のキーワードとなるのが、「共感ファースト」。まずは子どもの話を聞いて、その思いに共感することが重要なポイントです。ただ、注意してほしいのは、「共感」と「同意」はまったく別物だということ。「共感=同意」だと考えると、すべて子どもの言いなりになるしかありません。それではやはり、親としては納得できない。「同意できないから、私は共感もしない」と考えてしまい、きちんと子どもの話を聞いてあげられなくなり、親子間の衝突が起きるのです。同意しなくてもいいのです。でも、まずは共感してみましょう。たとえば子どもが友だちに暴力をふるったとします。その行為自体はいいものではありませんから、絶対に同意はできないでしょう。でも、その行為の裏には、暴力をふるってでも守りたかった自分の正義があったのかもしれない。その本心をきちんと聞いて共感してあげないことには、子どもはいつまでたっても「どうしてわかってくれないんだ!」と親に対して不信感を募らせるだけです。でも、親がしっかり子どもの話を聞いて共感してくれたら、「お父さん、お母さんは、自分のことを本当にわかろうとしてくれているんだ」と子どもは思いますよね。そうすれば、そのあとのコミュニケーションもスムーズになる。「あなたの気持ちはよくわかった、でもやっぱり暴力はよくないと思う」と同意できないことを伝えても、自分に共感してくれた親の言葉になら、子どもは素直に耳を傾けてくれるはずです。『アドラー式働き方改革 仕事も家庭も充実させたいパパのための本』熊野英一 著/小学館(2018)■ 株式会社子育て支援代表取締役・熊野英一さん インタビュー記事一覧第1回:「○○ファースト」がポイント!アドラー心理学で親子間のコミュニケーションがうまくいく第2回:大事なのは我が子を無条件で信じる「信頼」。「信用」しかできないのはとても危険(※近日公開)第3回:子育てでは“ほめないこと”が大切なわけ。アドラー流・子どもを「ほめずに勇気づける」方法(※近日公開)第4回:つい叱りたくなるときでも、親は「インタビュアー」になれば落ち着いて我が子に向き合える(※近日公開)【プロフィール】熊野英一(くまの・えいいち)1972年1月22日生まれ、フランス・パリ出身。株式会社子育て支援代表取締役。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。メルセデス・ベンツ日本人事部門に勤務後、米国Indiana University Kelley School of Businessに留学(MBA/経営学修士)。製薬企業イーライ・リリー米国本社及び日本法人を経て、保育サービスの株式会社コティに統括部長として入社。約60の保育施設の立ち上げ・運営、ベビーシッター事業に従事。2007年、株式会社子育て支援を設立し、代表取締役に就任。日本アドラー心理学会/日本個人心理学会正会員。主な著書に『アドラー式子育て 家族を笑顔にしたいパパのための本』(小学館)、『アドラー子育て・親育て 家族の教科書 子どもの人格は、家族がつくる』(アルテ)、『アドラー子育て・親育て 育児の教科書 父母が学べば、子どもは伸びる』(アルテ)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年06月12日子どもに対して、「勝手に育ってくれ」なんて思っている親はまずいません。親それぞれに理想の子育てがあるからです。そのため、自分の理想から外れるようなことを子どもがすると、どうしても親子でぶつかりがち。アメリカの臨床心理学者であるトマス・ゴードン博士が、心理学、教育学、発達心理学をベースに開発したコミュニケーション訓練プログラム「親業」のインストラクターである親業訓練協会の瀬川文子さんは、親子間の問題を解決するには「勝負なし法」がベストだと言います。しかも、この方法には子どもの創造性を伸ばすというメリットもあるのだそう。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人親子間における問題の解決法は3種類「親業」においては、親子間における問題を解決するには3つの方法があると考えています。よく使われるのが、親の意見や考えを無理やり子どもに押しつけて従わせる方法です。これをわたしたちは、「第1法」と呼んでいます。一方で、スーパーで子どもに「お菓子が欲しい」と駄々をこねられ仕方なく親が従うということもある。これは、子どもが自分の考えを押し通したケースで、「第2法」と呼ぶものです。これら第1法と第2法には、勝ち負けが存在します。第1法なら親が勝ちで子どもが負け、第2法なら子どもが勝ちで親が負け。これら勝ち負けがある「勝負あり法」は、力技です。力を使われて負けたほうは、勝ったほうに対してもどうしても不満を持ってしまう。そのため、いい関係を築きにくくなります。でも、3つ目の問題解決の方法である「第3法」と呼ぶものは、勝ち負けがない「勝負なし法」です。この方法では、本来、子どもより力を持っている親は、その力を使わずに子どもとの話し合いのテーブルにつきます。いわば、横並びで対等になるわけです。そして、子どもと同じ目線に立ち、互いが納得できる解決策を話し合いながら探していくのです。もちろん、子どもの側も子どもなりに考えて解決策を出します。そのため、互いに不満が残らないのです。「勝負あり法」が子どもの育ちに与える悪影響もちろん、「勝負なし法」で親子間の問題を解決することが信頼関係を強めます。第1法、第2法では、親子のどちらかに不満が残ること以外にも、大きなデメリットがあります。それは、子どもの育ちに悪影響を与えるということ。第1法では、指示命令によって親の言いなりに子どもを育てることになります。そのため、子どもは、「言われたことはやるけど、言われなければやらない」という、いわゆる「指示待ち人間」になってしまうでしょう。これからの時代に大切だとされる、自立心や主体性がまったく育たないということになりかねません。また、第2法の場合には、子どもは常に自分の要求が通るために、すごくわがままで傍若無人に育ってしまう可能性を秘めています。もちろん、その要求を親だけに向けるのではなく、友だちなどまわりの人にもそうするでしょう。それでも、未就学児の頃までならなんとか社会生活ができるかもしれません。でも、小学校に入学したらそうはいかない。先生からは叱られ、友だちには嫌われる……。そうして、不登校になるといったことだって否定できません。さらに、第2法を使い続けると、年齢に応じて要求が大きくなることも問題です。スーパーでお菓子をねだるくらいならまだかわいいものですが、10代も後半となったら、バイクや自動車をねだるといったふうに要求はエスカレートするでしょう。そのときになって「これじゃ駄目だ」と慌てて第1法に変えようものなら、それこそ親子間のバトルが勃発してしまいます。子どもが一生懸命に考えることで、創造性が伸びる一方、「勝負なし法」である第3法の場合には、親子双方に不満が残らないことのほかにもメリットがあります。それは、子どもの創造性が伸びるということ。なぜなら、子どもが自分で「どうしたらこの問題を解決できるんだろう?」と一生懸命に考えるからです。いろいろな経験があるために「こういうケースはこうするべきだろう」と考えがちな親よりも、むしろ子どものほうがよほどおもしろくて自由な解決策を提案するということも珍しくありません。これは親子が衝突したケースではありませんが、かわいらしくて楽しいエピソードをひとつ紹介しましょう。わたしたちが行なっている親業訓練講座(インタビュー第1回参照)を受講したお母さんから聞いたお話です。そのお母さんには3人の子どもがいます。そして、問題となっていたのが、「寝るときにお母さんの隣を3人の子どもが取り合う」ということでした(笑)。子どもは3人なのに、お母さんの隣はふたつしかありませんからね。どうすればいいかと話し合ってみると、子どもたちは、じつにおもしろくて自由な解決策をどんどん提案しました。たとえば、「ひとりはお母さんの上で寝る」とか。それから、「みんなで寝られる大きい布団を買う」という意見も。その子の視点からは、同じ布団に入っていたら隣で寝ているという感覚なんですね。そんな発想は大人にはありません。このケースのように、なにか問題が生じたとしても「勝負なし法」によって子どもの発想を面おもしろがるような姿勢が、親子間の問題解決には大切なのかもしれません。子どものおもしろい発想に親が笑ってしまったら、それこそ衝突どころではありませんからね。『あっ、こう言えばいいのか! ゴードン博士の親になるための16の方法 家族をつなぐコミュニケーション』瀬川文子 著/合同出版(2013)■ 親業訓練協会インストラクター・瀬川文子さん インタビュー記事一覧第1回:子どもが反発ばかり……親子関係の問題を劇的に改善する「双方向」のコミュニケーションとは第2回:繰り返す、言い換える、気持ちを汲む。親の「能動的な聞き方」が、子どもを問題解決に向かわせる第3回:「私メッセージ」の叱り方で子どもが変わる! 親は怒りではなく“第一次感情”に注目して第4回:親子の衝突を解決するには「勝負なし法」がベスト。勝敗を決めるのは、子どもの育ちに悪影響【プロフィール】瀬川文子(せがわ・ふみこ)1954年8月28日生まれ、東京都出身。親業訓練協会シニアインストラクター。1973年、日本航空に客室乗務員172期生として入社。14年間の国際線勤務の後、結婚のために退社。1998年、コミュニケーション訓練のプログラム「親業」の指導員資格を取得。2002年、CAP(子どもへの暴力防止プログラム)スペシャリストの資格を取得。2003年、親業シニアインストラクターの資格を取得。2006年、『ママがおこるとかなしいの』(金の星社)で絵本作家としてデビュー。同年、親業訓練協会インストラクター養成担当となる。2015年、日本アンガーマネジメント協会ファシリテーターの資格を取得。現在は、親業訓練協会の運営に関わりながら、医療、介護、教育の各機関、企業、家庭を対象に、「想いが伝わるコミュニケーション」を軸とした講演会等を全国各地で行うなど活躍の場を広げている。主な著書に、『聞く、話す あなたの心、わたしの気もち いじめない、いじめられない子どものためのコミュニケーション』(元就出版社)、『ほのぼの母業のびのび父業 ゴードン博士に学ぶ 21世紀の家庭へ わかりあえるコミュニケーション訓練』(元就出版社)、『職場に活かすベストコミュニケーション ゴードンメソッドが職場を変える』(日本規格協会)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年06月10日「何度言っても子どもが言うことを聞かない」「いつも同じことで叱っている気がする」――。これはもう、親にとっての「あるある」でしょう。そういうことが起こる原因はどこにあるのでしょうか。アメリカの臨床心理学者であるトマス・ゴードン博士が、心理学、教育学、発達心理学をベースに開発したコミュニケーション訓練プログラム「親業」のインストラクターである親業訓練協会の瀬川文子さんに、対処法と併せて教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカット)「あなた」を主語にした叱り方が子どもの反発を招くNGな叱り方をひとことで言うと、「『あなた』を主語にした叱り方」です。子どもを叱るのは、たいてい子どもの行動に対して親が気に入らないとき。すると、「どうしてそんなことするの!」というふうな表現になります。主語を省略することが多いのが日本語の特徴であるためにわかりづらいかもしれませんが、これは、「(あなたは)どうしてそんなことするの!」と、「あなた」を主語にした叱り方です。「(あなたは)なにやってるの!」「(あなたは)またそんなことして……」も同様。そして、これら「あなた」を主語にした叱り方には、相手を責めるニュアンスが強く含まれます。そのため、責められたほうは言い訳をしたり反発したりしたくなるのです。親からしたら気に入らない行動も、子どもからすれば「親に迷惑をかけてやろう」なんて思ってやっているわけではありません。汚れた靴下を脱ぎっぱなしにしたのもただ忘れてしまっただけとか、おもちゃを片づけないのも夢中になって遊んでいるうちに結果的に散らかってしまっただけということがほとんどでしょう。そこで、「まったくこの子は!」というふうに子どもを責めるのはお門違いです。叱るときは、怒りではなく「第一次感情」に注目そうではなくて、親は「(私が)困っているんだ」ということを丁寧に子どもに伝えていかなければなりません。「私」を主語にした「私メッセージ」で子どもに感情を伝えることが大切なのです。そうすれば、子どもは親の感情をきちんと受け取って、行動を変える可能性が高くなります。でも、親も自分の感情にはなかなか気づけないものです。私たちが行なっている親業訓練講座(インタビュー第1回参照)の受講者のみなさんに、「私メッセージ」をつくる練習のために、親子にありがちなシチュエーションのなかでの自分の感情を挙げてもらうと、「嫌だ」「困る」「イライラする」くらいなもの。普段からそこに注目していないために、自分の感情が見えなくなっているわけです。でも、感情がそんなに単純なものだけであるはずはないですよね?そこで、自分の感情に注目するトレーニングをしましょう。注目してほしいのは、いわゆる「第一次感情」です。子どもを叱るとき、多くの親は先に挙げた3つの感情などを含む「怒り」を感じています。でも、怒りというものは、たいてい別の感情の次に湧いてくるもの。その怒りより先に湧いてくる感情こそが第一次感情です。子どもが遊園地で迷子になったとします。親が最初に感じる感情はなにかといったら、当然「心配」や「不安」でしょう。「どこに行っちゃったんだろう……」と親なら誰もが我が子を心配して不安になる。でも、子どもが無事に見つかったら、最初にどんな言葉をかけるかというと……「(あなたは)なにやってんの!」です。これでは、心配されていたことがわからないまま、怒られたという事実だけが子どもの印象に残ってしまう。つまり、親子間のコミュニケーションにとって好ましくない誤解を生むことになるのです(インタビュー第1回参照)。親の「私メッセージ」が、子どもの「思いやり」も育むもちろん、場合によっては叱らなければならないこともあるでしょう。でも、その前にまずは親の心配や不安といった第一次感情を「私メッセージ」で伝えるほうが効果的です。そうすれば、叱られた子どもに親の気持ちがしっかり伝わり、子どもの反省の度合もまったく違ってきます。それこそ迷子になった子どもが見つかったときであれば、親に「よかった、すごく心配して不安だったのよ」と言われたなら、子どもも「こんなに心配させてしまうんだったら、今度から気をつけよう」と思うでしょう。そのあとのお説教も素直に聞いてくれるはずです。最後に、子どもの行動や言葉が嫌だなと思ったときの、「私メッセージ」の伝え方のコツを紹介しておきます。以下の「3部構成」にすることが効果的です。【「私メッセージ」のコツ】子どもの行動:非難がましくなく、目に見える、耳に聞こえる事実を伝える行動から受ける自分への影響:できるだけ具体的に伝える私の感情:正直に素直に伝えるこの「3部構成」で「私メッセージ」を伝えることにより、子どもは自分の行動が親を困らせたり悲しませたりすることを理解できるようになる。ひいては、他人に対する「思いやり」を育むことにもつながります。そのためにも、「こうしてちょうだいね」という言葉をつけ加えて「4部構成」にしないことです。それでは結局、指示命令になってしまい、子どもの思いやりが自発的に生まれることを阻害することになりますから注意してください。『あっ、こう言えばいいのか! ゴードン博士の親になるための16の方法 家族をつなぐコミュニケーション』瀬川文子 著/合同出版(2013)■ 親業訓練協会インストラクター・瀬川文子さん インタビュー記事一覧第1回:子どもが反発ばかり……親子関係の問題を劇的に改善する「双方向」のコミュニケーションとは第2回:繰り返す、言い換える、気持ちを汲む。親の「能動的な聞き方」が、子どもを問題解決に向かわせる第3回:「私メッセージ」の叱り方で子どもが変わる! 親は怒りではなく“第一次感情”に注目して第4回:親子の衝突を解決するには「勝負なし法」がベスト。勝敗を決めるのは、子どもの育ちに悪影響(※近日公開)【プロフィール】瀬川文子(せがわ・ふみこ)1954年8月28日生まれ、東京都出身。親業訓練協会シニアインストラクター。1973年、日本航空に客室乗務員172期生として入社。14年間の国際線勤務の後、結婚のために退社。1998年、コミュニケーション訓練のプログラム「親業」の指導員資格を取得。2002年、CAP(子どもへの暴力防止プログラム)スペシャリストの資格を取得。2003年、親業シニアインストラクターの資格を取得。2006年、『ママがおこるとかなしいの』(金の星社)で絵本作家としてデビュー。同年、親業訓練協会インストラクター養成担当となる。2015年、日本アンガーマネジメント協会ファシリテーターの資格を取得。現在は、親業訓練協会の運営に関わりながら、医療、介護、教育の各機関、企業、家庭を対象に、「想いが伝わるコミュニケーション」を軸とした講演会等を全国各地で行うなど活躍の場を広げている。主な著書に、『聞く、話す あなたの心、わたしの気もち いじめない、いじめられない子どものためのコミュニケーション』(元就出版社)、『ほのぼの母業のびのび父業 ゴードン博士に学ぶ 21世紀の家庭へ わかりあえるコミュニケーション訓練』(元就出版社)、『職場に活かすベストコミュニケーション ゴードンメソッドが職場を変える』(日本規格協会)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年06月08日アメリカの臨床心理学者であるトマス・ゴードン博士が、心理学、教育学、発達心理学をベースに開発したコミュニケーション訓練のプログラム「親業」。そのインストラクターである親業訓練協会の瀬川文子さんに、具体的なメソッドを教えていただきます。今回、取り上げるポイントは、「聞き方」です。瀬川さんは、「子どもが育っていく過程において、親による話の聞き方は非常に重要」だと言います。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカット)聞き方には「受動的な聞き方」と「能動的な聞き方」がある「親業」においては、聞き方には「受動的な聞き方」と「能動的な聞き方」の2種類があるとしています。受動的な聞き方とは、子どもがなにかを話しているときに「相づちを打つ」「黙って聞く」「話が止まったら促す」といったことを指します。これも、親子間のコミュニケーションにおいては大切なことです。でも、受動的な聞き方が適さないケースもあります。子どもが深刻な悩みを打ち明けているのに、親が「へえ」「ふうん」とただ相づちを打っているだけだとしたらどうでしょうか?子どもは、自分の言っていることがきちんと親に伝わっているのか、親が自分を受け入れてくれているのかがわからず、不安に陥ります。そのような不安を招かないために効果的なのが、「能動的な聞き方」です。能動的な聞き方とは、「あなたの話を私はこう理解したけれど、それで正しい?」というふうに、相手に確認する聞き方のこと。具体的には、「相手の言葉を繰り返す」「言い換える」「相手の気持ちを汲む」です。子どもに問題や悩みを客観視させる「能動的な聞き方」じつは、この聞き方は、カウンセラーがよく使うものです。カウンセラーは、基本的に依頼者の話を聞くだけで、解決策を与えることはしません。与えなくとも、この能動的な聞き方によって依頼者自身が解決策を見いだすことができるからです。友だちと喧嘩したことを悩んでいる子どもが、どうしたらいいかと親に相談していたとします。そこで、「いまのあなたの話って、こういうことだよね?」と親から確認されると、子どもは自分の悩みや問題、喧嘩の経緯を鏡で見ているような状態になる。そのために、「僕の言葉にも悪いところがあったかも……」といったふうに客観視ができ、「じゃ、どうしたらいいんだろう」と子どもが自分で考えて解決策を導き出すことができるのです。もちろん、ただ能動的な聞き方をすればいいわけではありません。子どもが悩みを打ち明けているようなケースなら、それこそ子どもの気持ちに共感してあげる必要がある。それなのに、親業をちょっと学んだ人のなかには、表面的なテクニックに走る人も見受けられます。能動的な聞き方の具体的な方法は、「相手の言葉を繰り返す」「言い換える」「相手の気持ちを汲む」ことだとお伝えしました。このなかで一番簡単なものが「繰り返す」ですよね。そのため、「なんでもかんでも子どもの言葉を繰り返せばいい」と考える人もいるのです。でも、子どもが困っているケースにもいろいろなものがあります。これは少し極端な例えですが、先の予定がわからなくて困っている子どもから、「お母さん、来週の予定ってどうなってたっけ?」と聞かれたのに、それを繰り返したところでなんの解決にもならないですよね。あるいは、子ども自身が親の考えを見抜くということもあります。ただ表面的にテクニックを使って「とにかく繰り返せばいいや」と思っていたら、そのいい加減な気持ちは表情や声のトーンなどどこかに出てくるものです。子どもは敏感ですから、そういうサインを見逃しません。そのため、むしろ親子の信頼関係を壊してしまうことにもなりかねないのです。気持ちを3つに整理して、親がやるべきことを知るそんな悲劇を招かないためにも、「気持ちを整理する」ことを意識しましょう。親業においては、気持ちを大きく3つに分けて考えます。その分類基準は、「自分(親)が受け入れられるか受け入れられないか」ということ。子どもが汚れた靴下を脱ぎっぱなしにしていることを「嫌だなあ」と思ったら、それは親としては受け入れられない――「非受容」の行動として整理します。非受容の行動については、「嫌だなあ」と思っているのは親ですから、親自身がきちんと表現しない限り子どもには伝わりません。だから、「靴下を脱いだままにされると困るんだよね」というふうに表現する必要がある。非受容の行動についてはきちんと表現しなければならないのだと自動的に判断できます。一方、受け入れられる――「受容」に整理したもののなかにも、親は嫌ではなくても子どもが嫌だと思っていたり困ったりしている行動もあります。これが2つめの分類です。たとえば、子どもが「お母さん、抱っこして」と言ってきたとします。「嫌だなあ」と思う親はほとんどいませんよね?でも、子どもの様子をよく見ると、なんだかいつもと違って元気がない。「なにか嫌なことがあったのかも」「困っていることがあるのかな」というふうなサインをキャッチできたら、今度は逆に子どもの話を聞くことで問題の解決を図れます。要は、誰が困っているのかを親自身の感じ方で整理し、対応を決めるのです。もちろん、親子ともに困っていない行動もあります。これが3つめの分類です。この行動に関しては、親子ともに落ち着いている状態ですから、特にやるべきことはありません。自由になんでもできる状態といっていいでしょう。このように、「親は子どもの行動に困っている(非受容)」「子どもが困っている(受容)」「親も子も困っていない(受容)」の3つに気持ちを整理することで、親が話すのか、子どもに話を聞くのか、特になにも気にしなくてもいいのか、やるべきことが明白になるのです。『あっ、こう言えばいいのか! ゴードン博士の親になるための16の方法 家族をつなぐコミュニケーション』瀬川文子 著/合同出版(2013)■ 親業訓練協会インストラクター・瀬川文子さん インタビュー記事一覧第1回:子どもが反発ばかり……親子関係の問題を劇的に改善する「双方向」のコミュニケーションとは第2回:繰り返す、言い換える、気持ちを汲む。親の「能動的な聞き方」が、子どもを問題解決に向かわせる第3回:「私メッセージ」の叱り方で子どもが変わる! 親は怒りではなく“第一次感情”に注目して(※近日公開)第4回:親子の衝突を解決するには「勝負なし法」がベスト。勝敗を決めるのは、子どもの育ちに悪影響(※近日公開)【プロフィール】瀬川文子(せがわ・ふみこ)1954年8月28日生まれ、東京都出身。親業訓練協会シニアインストラクター。1973年、日本航空に客室乗務員172期生として入社。14年間の国際線勤務の後、結婚のために退社。1998年、コミュニケーション訓練のプログラム「親業」の指導員資格を取得。2002年、CAP(子どもへの暴力防止プログラム)スペシャリストの資格を取得。2003年、親業シニアインストラクターの資格を取得。2006年、『ママがおこるとかなしいの』(金の星社)で絵本作家としてデビュー。同年、親業訓練協会インストラクター養成担当となる。2015年、日本アンガーマネジメント協会ファシリテーターの資格を取得。現在は、親業訓練協会の運営に関わりながら、医療、介護、教育の各機関、企業、家庭を対象に、「想いが伝わるコミュニケーション」を軸とした講演会等を全国各地で行うなど活躍の場を広げている。主な著書に、『聞く、話す あなたの心、わたしの気もち いじめない、いじめられない子どものためのコミュニケーション』(元就出版社)、『ほのぼの母業のびのび父業 ゴードン博士に学ぶ 21世紀の家庭へ わかりあえるコミュニケーション訓練』(元就出版社)、『職場に活かすベストコミュニケーション ゴードンメソッドが職場を変える』(日本規格協会)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年06月06日どんな親も、我が子との関係をよりよいものにしたいと思っているもの。ですが、子育てをするなかでは、「子どもを思っての言葉なのに、反発ばかりされる……」という経験をして、「子どもへの愛情が伝わっていないのではないか?」と感じることもあるはずです。その問題解決の鍵を握るのは「双方向」のコミュニケーションだと語るのが、「親業」というコミュニケーション訓練プログラムのインストラクターである瀬川文子さんです。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人「子どもがどう育つか」ではなく、「親がどう育つか」「親業」とは、アメリカの臨床心理学者であるトマス・ゴードン博士が、心理学、教育学、発達心理学をベースに開発したコミュニケーション訓練のプログラムです。この親業には、ほかのプログラムにはない大きな特徴があります。子育てに役立つとされるほかのプログラムの場合、そのほとんどが「子どもをどう育てるか」という視点でつくられているものです。一方の親業は、「親がどう育つか」という視点でつくられています。親自身が学んで成長することで、子どもとの接し方や関係を改善できるというわけです。このプログラムを開発した当時、ゴードン博士はカウンセラーとして活躍していました。そのため、いわゆる非行少年と呼ばれる子どもたちに接する機会が多くあったそうです。ところが、家や学校では問題児扱いされてカウンセリングを受けさせられることになった子どもたちに会ってみると、子ども自身にはまったくおかしなところがないと感じることが多かったといいます。そして、むしろ親や教師の対応の仕方に問題があるために子どもが反発しているのではないかと考え、親向けのコミュニケーション訓練プログラムを開発するに至ったのです。この親業訓練講座(Parent Effectiveness Training)は、1962年にアメリカのカリフォルニアで開催されたのをきっかけにして全米に広がり、現在では世界50カ国に広まっています。日本では、ゴードン博士の著書『親業 子どもの考える力をのばす親子関係のつくり方』(大和書房)を翻訳された近藤千恵氏が設立し、私も運営に関わっている親業訓練協会が、1980年から講座を提供しています。コミュニケーションの仕方次第では、愛情は伝わらない親子間のコミュニケーションにおける問題には、じつにさまざまなものがありますが、親業の視点から見て大きな問題のひとつだと感じるのが、「子どもが問題に直面したときに、親が性急に解決策だけを与えようとする」ことです。子どもが悩んだり困ったりしていれば、子を愛している親なら助けたくなって当然です。すると、子どもよりはるかに多くの経験をしている親には、「こういうときはこうすればいい」というふうに解決策が見えます。そして、親が考える解決策や意見を子どもに押しつけ、なるべく早く子どもの問題を解決させてあげようとしてしまうのです。もちろん、その言動は子どもへの愛情からくるものです。でも、子どもからすれば、自分が悩んだり困ったりしている気持ちをまったく受け取ってもらえないまま、「こうしなさい」とただ解決策だけが押しつけられたに過ぎません。そのため、どうしても反発や抵抗をしたくなるのです。大人だって同じではないですか?悩んだり困ったりしているときは、悩みを解決したいという気持ちはもちろんですが、なによりまず「誰かに話を聞いてもらいたい」と思うものでしょう。親は、子どもにとってのその「誰か」になってあげなければなりません。「一方向」のコミュニケーションが誤解を生じさせるでは、親業のトレーニングを積んだあとには、子どもとどんな関係を築いていけるのでしょう。大きなメリットとして、「誤解が減る」ことが挙げられるでしょうか。親業訓練講座では、実際の生活のなかで使えるように、さまざまなシチュエーションを想定し、参加者が親役になったり子ども役になったりしながらロールプレイのトレーニングを数多く行ないます。そのトレーニングにより、親子間で「双方向」のコミュニケーションができるようになります。すると、たとえば先に挙げた子どもが悩んだり困ったりしているケースなら、「子どもを愛しているから、早く問題を解決してあげたい」という親の気持ちと、「話を聞いてほしいだけなのに、意見を押しつけられた」という子どもの気持ちのすれちがい――すなわち誤解を減らしていけるのです。逆に、コミュニケーションが「一方向」の場合には、親子間に誤解が生じます。たとえば、子どもに対する「早く起きなさい」「歯を磨きなさい」「宿題をしなさい」という指示命令の言葉がそれにあたります。これらももちろん、子どもを思っての言葉ですが、完全に一方向のものですよね?そのため、子どもには「なぜそうするべきなのか」という理由や、親が子どもを思う愛情は伝わりません。そうした誤解だらけのコミュニケーションを続けていると、子どもが思春期になった頃には、親がなにを言っても「うるさいないあ」としか反応しないようなことになってしまうでしょう。でも、双方向のコミュニケーションにより親子間に強い信頼関係ができていれば、子どもも不要な反発や反抗はしません。このことは、私自身が実感しています。息子が中学生くらいのとき、普段の口調は少し生意気になっても、本当に困ったときは私に相談をしてくれました。普段からの双方向のコミュニケーションの積み重ねにより、息子は「僕が悩んだり困ったりしたときには、お母さんはちゃんと向き合って話を聞いてくれる、僕の気持ちを理解しようと努力してくれる人なんだ」と思ってくれていたはずです。そんな関係性を築き、子どもが親を頼ってくれることは、間違いなく親としての大きな喜びとなるでしょう。『あっ、こう言えばいいのか! ゴードン博士の親になるための16の方法 家族をつなぐコミュニケーション』瀬川文子 著/合同出版(2013)■ 親業訓練協会インストラクター・瀬川文子さん インタビュー記事一覧第1回:子どもが反発ばかり……親子関係の問題を劇的に改善する「双方向」のコミュニケーションとは第2回:繰り返す、言い換える、気持ちを汲む。親の「能動的な聞き方」が、子どもを問題解決に向かわせる(※近日公開)第3回:「私メッセージ」の叱り方で子どもが変わる! 親は怒りではなく“第一次感情”に注目して(※近日公開)第4回:親子の衝突を解決するには「勝負なし法」がベスト。勝敗を決めるのは、子どもの育ちに悪影響(※近日公開)【プロフィール】瀬川文子(せがわ・ふみこ)1954年8月28日生まれ、東京都出身。親業訓練協会シニアインストラクター。1973年、日本航空に客室乗務員172期生として入社。14年間の国際線勤務の後、結婚のために退社。1998年、コミュニケーション訓練のプログラム「親業」の指導員資格を取得。2002年、CAP(子どもへの暴力防止プログラム)スペシャリストの資格を取得。2003年、親業シニアインストラクターの資格を取得。2006年、『ママがおこるとかなしいの』(金の星社)で絵本作家としてデビュー。同年、親業訓練協会インストラクター養成担当となる。2015年、日本アンガーマネジメント協会ファシリテーターの資格を取得。現在は、親業訓練協会の運営に関わりながら、医療、介護、教育の各機関、企業、家庭を対象に、「想いが伝わるコミュニケーション」を軸とした講演会等を全国各地で行うなど活躍の場を広げている。主な著書に、『聞く、話す あなたの心、わたしの気もち いじめない、いじめられない子どものためのコミュニケーション』(元就出版社)、『ほのぼの母業のびのび父業 ゴードン博士に学ぶ 21世紀の家庭へ わかりあえるコミュニケーション訓練』(元就出版社)、『職場に活かすベストコミュニケーション ゴードンメソッドが職場を変える』(日本規格協会)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年06月04日みなさんは「しつけ」をどのようにとらえているでしょうか。その言葉の響きから、「子どもを押さえつけるもの」といったイメージを持っている人もいるかもしれません。そうであるなら、子どもが自ら考えて行動する「自主性」とは対極にあるものとも言えます。ところが、幼稚園の園長を務めた経験もある東京家政大学子ども学部教授の岩立京子先生は、「しつけこそが、子どもの自主性を育てる」と語ります。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/山本未紗子「しつけ」と子どもの「自主性」は対極にあるものではない子育て中の親御さんから耳にする言葉に、「しつけもしっかりしたいけど、子どもの自主性も育てたい」というものがあります。この言葉には、大きな間違いがあります。「しつけとは親が子どもを押さえつけるもので、それによって子どもの自主性が育たないのではないか」という大いなる勘違いをしているようです。この、「しつけによって自主性が育たなくなる」というのは完全に間違いです。なぜなら、しつけというのは、最終的には子どもが自分自身でこの世の中を生きていける力、つまり、自主性を育てるためにあるものだから。しつけと子どもの自主性は、対極にあるものではないのです。しつけによって社会のルールや価値をきちんと知ることができた子どもは、それに基づいて自信を持って自分を出していけます。また、なかには居心地の悪い社会のルール、変えていかなければならない社会のルールもあるでしょう。そこで、その悪いルールを変えていこうと自ら動き始めることもできる。それもまた自主性が育っているからこそできることです。まずはしつけによって社会のルールを知ることが大切です。でも、そのなかに留まっている必要はありません。社会のルールを知り、それを行動基準としながらも、なおかつそれを、自主性を持って乗り越えていく。そういうことが、人間らしく生きていくにはとても重要なのではないでしょうか。自主性が育つベースにある自己肯定感と自己信頼ただ、大切となるのは、しつけによって社会のルールや価値を子どもに教えることだけではありません。なぜなら、子どもの自主性が育つには、そのベースとして子どもの自己肯定感や自己信頼が必要だからです。ですから、子どもがなにかを自分からすすんでやってくれたようなときには、そのことを認めてしっかりほめてあげることが大切になります。いま、「ほめる子育て」に対しては研究者によってさまざまな意見がありますが、わたし自身は、叱り続けるような子育てよりは、ほめる子育てのほうが絶対に子どもは伸びるというふうに考えています。これはもう、基本原理と言っていいでしょう。臨床心理学でも教育学でも、さまざまな研究が「ほめる子育てがいい」ということを示しています。ですから、まずは子どもをほめることを考えるべきです。もちろん、子どもがやることのなかには好ましくないこともあるでしょう。誰もが認める社会の基本的なルールから逸脱してしまうようなことです。そんなときには、きちんと叱ってあげることが大切。怒鳴りつけるように叱るのではなく、その都度、「こういうことはやらないほうがいいよ」「お母さんはこうしてほしくないな」といったようにマイルドにメッセージを伝えてあげるのです。そういう子育てをすれば、子どもは悪く育ちようがないと思うのです。自己肯定感と自己信頼が低い子どもは問題行動を起こす逆に言えば、自己肯定感や自己信頼が非常に低い子どもは、いろいろな問題行動を起こしてしまう傾向にあります。「自分なんてどうでもいいや……」と投げやりになっていて、「自分はできるんだ!」と思えない。だからさまざまな問題行動を起こすし、自主的になにかにチャレンジすることもできません。すると、問題行動を起こしてまた厳しく叱られ、さらに自己肯定感や自己信頼が下がってしまうという悪循環に陥ることにもなりかねないのです。この自己肯定感や自己信頼が大切だということは、大人であるみなさん自身に置き換えても想像しやすいものであるはずです。一生懸命に仕事や家事、子育てを頑張っているのに、パートナーから「あなたは全部だめ」「いいところはなにもない」なんて言われたとしたらどうですか?せっかく頑張っていた仕事や家事、子育ても投げ出したくなりますよね。それこそ、まだ自分自身でできることが大人に比べて少ない子どもに対しては、しっかりとほめてあげて、「自分はお父さんとお母さんに大事にされている!」「自分はいまの自分であっていいんだ!」「僕には自分でできることがある!」と思わせてあげることがなにより大切なのです。『遊びの中で試行錯誤する子どもと保育者 子どもの「考える力」を育む保育実践』岩立京子 監修/明石書店(2019)■ 東京家政大学子ども学部教授・岩立京子先生 インタビュー記事一覧第1回:イヤイヤ期には“気そらし方略”がうまくいく。3歳の子育てを楽にする、2歳までの「しつけ」のコツ第2回:もう「早く!」なんて言わなくていい。“ニンジン作戦”で子どもを楽しい世界にいざなってあげて第3回:子どもの失敗の機会を奪う「悪い先回り」を今すぐやめて、「いい先回り」をするための工夫とは?第4回:「しつけもしっかりしたいけど、自主性も育てたい」親のこの考えが“完全に間違っている”理由【プロフィール】岩立京子(いわたて・きょうこ)1954年生まれ、東京都出身。東京家政大学子ども学部教授。東京学芸大学名誉教授。東京学芸大学教育学部卒業後、同大学大学院教育学研究科修士課程を経て、筑波大学大学院心理学研究科博士課程単位取得退学。筑波大学心理学系技官を経て、1986に東京学芸大学講師となり、1991年に筑波大学で博士(心理学)を取得。その後、東京学芸大学で34年間にわたり保育・幼児教育の専門家養成に関わった後、現職に就く。2014年から2017年まで、東京学芸大学附属幼稚園長を兼任。主な著書に『幼児理解の理論と方法』(光生館)、『保育内容 人間関係』(光生館)、『たのしく学べる乳幼児の心理』(福村出版)、『乳幼児心理学』(北大路書房)、『新幼稚園教育要領の展開』(明治図書出版)、『子どものしつけがわかる本 がまんできる子、やる気のある子を育てる!』(主婦の友社)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年06月02日「先回り」をする親が増えている――子育てや家庭教育関連のメディアで頻繁に目にする内容です。それらのメディアは、「先回りはよくないもの」として扱っていることが多いよう。ただ、「先回りにも『いい先回り』と『悪い先回り』がある」と言うのは、幼稚園の園長を務めた経験もある、東京家政大学子ども学部教授の岩立京子先生。その真意を教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/山本未紗子(インタビューカット)社会の情報化と少子化が招いた、先回りする親の増加いま、「先回り」をする親、「手出し口出し」をする親が増えていると言われています。このことには、社会の情報化が進んだことが大きく影響しているのでしょう。以前と比べれば、インターネットなどを介して子育てに関する情報に触れる機会が増えましたよね。それらのたくさんの情報に基づいて、「最高の子育てをしたい!」と考える親が多いのです。また、少子化もそういった親が増えていることの一因でしょう。むかしのように4人も5人も子どもがいれば、子どもひとりひとりの子育てに十分に手をかけられません。でも、いまは子どもがひとりかふたりですから、「絶対に子育てを成功させなければならない」といった意識が強く働き、「こうあるべき」「こうしなければならない」というふうに考え、先回りや手出し口出しをしまうのです。でも、子どもは親の思うとおりに育ってくれません。子育てというのは、子ども自身の発達がまずベースにあります。それに対して親がどのような働きかけをするかで、子どもがどんなふうに成長していくかが決まるのです。いくら親が「バイオリニストにしたい」「学者にしたい」と思ったところで、そうなる可能性は高くはありません。ですから、親にとって重要となるのは、子どもをしっかりと見て、子どもが持つ可能性を最大限に伸ばす働きかけをすること。そのことを第一に理解してほしいと思います。子どもから学びのチャンスを奪う「悪い先回り」さて、親の先回りについてですが、子育て関係の記事では「先回りはよくない」というふうに語られることが多いようですね。ただ、わたし自身は、先回りにも「いい先回り」と「悪い先回り」があると見ています。「悪い先回り」とは、それこそ子育て関係の記事でNG行為として語られるような、子どもの力を奪ってしまう先回りのこと。なぜ子どもの力が奪われるかというと、「失敗」の経験を積めないからです。人間という生き物は、失敗から多くのことを学びます。でも、なんでもかんでも親が先回りをしてしまうと、子どもは失敗することなく育つことになる。親の先回りが、学びのチャンスを子どもから奪ってしまうのです。ただ、子どもに失敗をさせることが重要だと言っても、そのバランスは大切。たとえば、10回挑戦して9回失敗するようなことになれば、子どもはチャレンジする勇気ややる気を失ってしまうでしょう。そこで、もう少し成功率を上げられるようなお膳立てを、親であるみなさんに考えてほしいのです。もちろん、あからさまに手出し口出しをすることはよくありません。なぜなら、子どもには子どもなりのプライドがあるからです。そのプライドによって、親の手出し口出しに反発して、やろうとしていたことを結局投げ出してしまうことにもなりかねません。ですから、こっそりとお膳立てをしましょう。それこそが「いい先回り」です。たとえば、料理をお皿に盛りつけるお手伝いをするような場合なら、長い菜箸だとうまく使えないということもあるでしょう。ならば、子どもでも扱いやすいトングを用意するといった具合です。それでうまくできたなら、しっかりとほめてあげる。そのことが、子どもの自己肯定感や、自分に対する信頼を高めてくれます。「いい先回り」とは、親としてしておくべき「予測」「いい先回り」とは、親としてしておくべき「予測」と言い換えてもいいかもしれません。たとえば、子どもと電車に乗って出かけるとします。すると、移動中の車内でぐずってしまうようなことが予測できます。それなのに、親がそのことを予測せず、なんの準備もしていなかったら、いざ子どもがぐずってから場当たり的に対処することになります。でも、しっかり予測ができていたら、お出かけグッズを入れるバッグのなかに、子どもの機嫌がよくなるようなものを忍ばせておくこともできるでしょう。また、子どもは親のやることをやりたがるものですが、まだ成長段階の途中にある子どもには親と同じようにはできないことや、危険が伴うようなこともたくさんあります。親が食器を洗っていたら、子どももやりたがるというのもよくあることですよね。そのとき、子どもが皿を落としたとしても割れる心配がないプラスチック製の食器を用意しておくとか、あるいは床が濡れてもいいようにビニールシートを敷いておくのです。もちろん、子どもは親と同じようにはやれませんから、時間もかかります。親には根気も必要だと認識したうえで、「いい先回り」ができるように工夫してください。『遊びの中で試行錯誤する子どもと保育者 子どもの「考える力」を育む保育実践』岩立京子 監修/明石書店(2019)■ 東京家政大学子ども学部教授・岩立京子先生 インタビュー記事一覧第1回:イヤイヤ期には“気そらし方略”がうまくいく。3歳の子育てを楽にする、2歳までの「しつけ」のコツ第2回:もう「早く!」なんて言わなくていい。“ニンジン作戦”で子どもを楽しい世界にいざなってあげて第3回:子どもの失敗の機会を奪う「悪い先回り」を今すぐやめて、「いい先回り」をするための工夫とは?第4回:「しつけもしっかりしたいけど、自主性も育てたい」親のこの考えが“完全に間違っている”理由(※近日公開)【プロフィール】岩立京子(いわたて・きょうこ)1954年生まれ、東京都出身。東京家政大学子ども学部教授。東京学芸大学名誉教授。東京学芸大学教育学部卒業後、同大学大学院教育学研究科修士課程を経て、筑波大学大学院心理学研究科博士課程単位取得退学。筑波大学心理学系技官を経て、1986に東京学芸大学講師となり、1991年に筑波大学で博士(心理学)を取得。その後、東京学芸大学で34年間にわたり保育・幼児教育の専門家養成に関わった後、現職に就く。2014年から2017年まで、東京学芸大学附属幼稚園長を兼任。主な著書に『幼児理解の理論と方法』(光生館)、『保育内容 人間関係』(光生館)、『たのしく学べる乳幼児の心理』(福村出版)、『乳幼児心理学』(北大路書房)、『新幼稚園教育要領の展開』(明治図書出版)、『子どものしつけがわかる本 がまんできる子、やる気のある子を育てる!』(主婦の友社)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年05月31日「早く!」「だめ!」――親が子どもについ言ってしまう言葉です。でも、いくらそう声をかけても、子どもは親の思い通りに早く行動してくれませんし、だめなことだと理解してくれたのかもわかりません。いったい、どうすれば子どもに「早く!」「だめ!」と言わずにすむのでしょうか。幼稚園の園長を務めた経験もある、東京家政大学子ども学部教授の岩立京子先生にアドバイスをもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/山本未紗子(インタビューカット)大人と子どもはそれぞれ違う世界に住んでいる「早く!」「だめ!」という言葉を一度も言わないまま子育てをすることは不可能でしょう。なぜなら、大人には大人のリズムがあり、子どもには子どものリズムがあるからです。大人は、社会を中心にして生きていて、子どもは自分の好きなことを中心に生きています。そもそも住んでいる世界が違うために、どうしても両者のリズムがずれてくる。そうして、子どものリズムが自分に合わないと感じると、親はつい「早く!」「だめ!」と言ってしまうのです。もちろん、イライラして子どもをたたくなんてことはご法度です。かつては、そういう子育てがすすめられていたときもありました。子どもがなにかしてはいけないことをした場合、0歳台の子どもなら足の裏を、1歳台の子どもならお尻をぽんとたたくという教育メソッドが存在したのです。でも、たとえ0歳台の子どもでも、親の表情などから言わんとしていることが理解できることがわかってきたため、いまはきちんとコミュニケーションを取ることが重要だと考えられています。そのコミュニケーションとは、ただ「早く!」「だめ!」と言うだけのことではありません。大切なのは、なぜ早くしてほしいのか、なぜだめなのか、その理由を必ず伝えること。なぜなら、子ども自身が納得して「じゃあ、そうしよう」と思えなければ、しつけは成功しないからです(インタビュー第1回参照)。「ニンジン作戦」で子どもを楽しい方向にいざなうしかし、子どもに早くしてほしい理由をどんなにきちんと伝えたところで、時間感覚や価値観が違う世界に住んでいる子どもは、なかなかそうできません。子どもの住む世界は大人とは違うということをしっかり認識したうえで、子どもが早くできるような、だめなことをだめだと理解できるような工夫やお膳立てを、親の側がする必要があります。そのコツは、早くしてほしい理由やだめな理由を子どもに伝える際に、「楽しい方向」に導いてあげるということ。「誰かに怒られるよ」といった内容ではなく、たとえば幼稚園に遅れそうになっている場合なら、「幼稚園に早く行けたらお友だちとたくさん遊べるよ」というふうに、子どもが「じゃあ、早くしよう」と思えるような声かけをするのです。基本的に、ただ「早く!」「だめ!」と言ってもコントロールしにくいのが子どもなのです。でも、「早くしたら楽しいことがある」とか「これをやめたら次にいいことがある」などと思えたら、子どもはきちんと気持ちを切り替えることができます。これは、いわゆるニンジン作戦です。心理学における「強化」の理論をベースに、「子どもに対してニンジンを使うと、その後はずっとニンジンを増やし続けていかなければならない」という考え方も前にはありましたが、いまはそうは考えられていませんし、わたし自身もうまくニンジンを使うことには賛成です。その理由は、子どもの世界を広げるきっかけになるからです。ニンジンをうまく使って子どもを楽しい世界にいざなってあげる。そうすることが、結果的に子どもにとってはプラスに働くはずです。わかりやすいニンジンの例として、甘いジュースやお菓子があります。それらを完全に禁止している家庭もあるでしょう。でも、お菓子を食べたい子どもと食べさせたくない親のあいだでバトルが繰り広げられたら、それこそ親子関係自体が悪くなってしまう。そう考えると、適度にニンジンを使うことはなにも悪いことではないと思うのです。お膳立てで、子どもに「早くしよう!」と思わせる忙しい朝に早く子どもに起きてほしいのなら、朝食だって立派なニンジンになりますよ。ただ「早く起きて!」という言葉をいくらかけても、子どもは大人とは違う世界に住んでいますから、なかなか起きてくれない。そんなことに悩んでいる人も多いでしょう。でも、まだ寝ていたい子どもに対して、「早く!」と言うばかりか、まして「まったくもう!」なんて怒ったところで、子どもが素直に起きてくれるでしょうか?人間には、心理学における反発理論という行動原理が働きます。怒られると、ますます反発しようとするのです。大人だって同じですよね?自分に対して攻撃的な人に対しては反発したくなるでしょう。そこで、子どもの好物をニンジンに使ってみましょう。トーストのにおいを漂わせたり、「今日はあなたが大好きな卵焼きだよ」「焼きたてを食べたほうがおいしいよ」と言ったりして、子どもが「早く起きよう!」と思えるような方向にいざなってあげるのです。そのようにお膳立てをして、「早く!」「だめ!」と言わないですむように考えてみてください。『遊びの中で試行錯誤する子どもと保育者 子どもの「考える力」を育む保育実践』岩立京子 監修/明石書店(2019)■ 東京家政大学子ども学部教授・岩立京子先生 インタビュー記事一覧第1回:イヤイヤ期には“気そらし方略”がうまくいく。3歳の子育てを楽にする、2歳までの「しつけ」のコツ第2回:もう「早く!」なんて言わなくていい。“ニンジン作戦”で子どもを楽しい世界にいざなってあげて第3回:子どもの失敗の機会を奪う「悪い先回り」を今すぐやめて、「いい先回り」をするための工夫とは?(※近日公開)第4回:「しつけもしっかりしたいけど、自主性も育てたい」親のこの考えが“完全に間違っている”理由(※近日公開)【プロフィール】岩立京子(いわたて・きょうこ)1954年生まれ、東京都出身。東京家政大学子ども学部教授。東京学芸大学名誉教授。東京学芸大学教育学部卒業後、同大学大学院教育学研究科修士課程を経て、筑波大学大学院心理学研究科博士課程単位取得退学。筑波大学心理学系技官を経て、1986に東京学芸大学講師となり、1991年に筑波大学で博士(心理学)を取得。その後、東京学芸大学で34年間にわたり保育・幼児教育の専門家養成に関わった後、現職に就く。2014年から2017年まで、東京学芸大学附属幼稚園長を兼任。主な著書に『幼児理解の理論と方法』(光生館)、『保育内容 人間関係』(光生館)、『たのしく学べる乳幼児の心理』(福村出版)、『乳幼児心理学』(北大路書房)、『新幼稚園教育要領の展開』(明治図書出版)、『子どものしつけがわかる本 がまんできる子、やる気のある子を育てる!』(主婦の友社)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年05月29日人それぞれにとらえ方が違う「しつけ」。そもそもしつけとはどんなもので、また、いつ頃から始めるべきなのでしょうか。幼稚園の園長を務めた経験もある、東京家政大学子ども学部教授の岩立京子先生は、「しつけとは社会のルールや価値を子どもに伝えていく、親のやるべき最も中核的な営み」だと言います。そして考え方にもよりますが、しつけは子どもがはいはいを始める0歳台後半くらいから、始まっているのだそう。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/山本未紗子しつけとは、社会のルールや価値を子どもに伝える営み「子育て」と「しつけ」は似ているようで異なる意味を持つ言葉です。子育てとは、食事や排泄など、子どもに対するさまざまな「お世話」やその他の関わり全般を指すもの。一方のしつけとは、子育てのなかでも、なにが大切でなにがそうではないのかといった社会のルールや価値を子どもに伝えていく営みです。この営みは、言うまでもなくとても重要なものです。なぜなら、人間は社会のなかで生きていく生き物だから。社会のルールや価値がわかっていないまま育った子どもは、社会のなかでうまく生きていくことができません。つまり、しつけこそ親のやるべき最も中核的で重要な営みなのです。そのしつけのなかの具体的な行為は、大きくふたつに分類されます。そのふたつとは、「ほめる」と「叱る」です。親からほめられれば「これはいいこと」というメッセージを受け取り、逆に叱られれば「これはやってはいけないこと」というメッセージを受け取って、子どもは社会のルールや価値を徐々に学びます。ただ、研究者のなかにも、「子どもは愛情深く育てるべきだから、叱ってはならない」と考える人もいる。でも、叱るという行為は、怒鳴りつけるようなことを指すのではありません。社会に生きていくうえでなにをしてはいけないのか、どう振る舞うべきなのかといった不可欠で重要なことを、メッセージとして子どもに対して冷静に伝えていく――それが、叱るということなのです。ただ、叱ることも大切だとはいえ、親がルールを押しつけるようなやり方ではしつけは成功しません。子どもが「ああ、そうなんだ」と納得して、「じゃあ、そうしよう」と自ら思えなければならないからです。これは心理学では「内化」と呼ばれるプロセスで、子ども自身が社会のルールや価値を取り込んでいくという営み。その内化ができるように「導いていく」という発想を、親であるみなさんには持っておいてほしいですね。子どもがはいはいを始めたらしつけもスタートでは、しつけはいつから始めればいいのでしょうか?このことについては研究者によって考え方が大きく違ってくるのですが、私は0歳台の後半からしつけが始まると考えます。子どもは0歳台後半になると、はいはいをするようになります。すると、親の思惑を超えて子どもが動き回った場合には、子どもに危険が及ぶこともありますし、親からすれば大事なものを壊されるといった可能性も出てくるでしょう。ですから、子どもがはいはいを始めた頃からしつけが始まるというわけです。しつけでは、そうした子どもに危険が及ぶようなこと、してはいけないことに対して、「これはだめよ」「危ないからね」というふうに伝えます。とはいっても、やはり0歳台の子どもの場合は言語的理解が未熟ですので、表情や抱きとめるといったかたちでマイルドに伝えていくことが大切。たとえば、子どもがなにか熱いものに手を伸ばそうとしたら、「だめ!」と強く叱るのではなく、優しく抱きとめて「アチチだよ」という具合に、やわらかいメッセージで伝えましょう。いま、「言語的理解が未熟」だとお伝えしたことで、「0歳台でしつけを始めても意味がないのでは?」と思った人もいるかもしれません。でも、子どもは生まれて8カ月頃から、たいていの場合は愛着関係にある親を対象に「社会的参照」というものを始めます。社会的参照とは、子どもが未知のものに出合ったときに、それがよいものか悪いものか、危険かそうでないかのような判断を、愛着関係にある人の表情などを伺ってすることです。先の例のように、子どもが熱いものに手を伸ばそうとしたとき、親が「危ないよ」「アチチだよ」と言うと、子どもは親の顔を見ます。そして、その真剣な表情、禁止の表情を読み取って手を引っ込める。あるいは、親が「大丈夫よ」と言いながらほほ笑んでいれば安心して手を伸ばすのです。もちろん、そうしながらなにをしたらだめなのかといったことを子どもはしっかり学んでいきます。イヤイヤ期の子どもに有効な「気をそらす」方略そのように0歳からきちんとしつけをしていても大変になるのが、子どもが2歳になった頃。いわゆるイヤイヤ期です。自我が芽生え始め、ほとんどの子どものしつけが難しくなります。でも、イヤイヤ期は子どもの発達のひとつのプロセスですから、「あ、自分を出し始めたな」というふうにライトに考えてあまり深刻にとらえないようにしましょう。しつけが難しい時期ではありますが、いいことはしっかりほめて、子どもがだめなことをしようとしたときにはマイルドに叱るという基本は変わりません。ただ、この時期の子どもに有効な「気をそらす」というテクニックは知っておいて損はないでしょう。イヤイヤ期の子どもは、たとえばスーパーでお菓子を買ってほしいとかんしゃくを起こすようなことがありますよね。もちろん、言いなりになる必要はありません。子どもの泣くという行為には、非常に激しくてスパンが短いという特徴があります。ですから、泣いている子どもをひょいと抱き上げて駐車場の車にでも乗せて、「あれ欲しかったんだもんね」と共感してあげて、少し時間が経てば、子どもが疲れて少し落ち着くタイミングがやってくる。そのときに、ジュースをあげるなどして気分転換させてあげるのです。そういった気をそらす方略が有効です。そして、このプロセスのなかで、子どもは親の力を借りながら自分の情動をコントロールする術を身につけていきます。これがとても重要なこと。私は幼稚園の園長を4年間務めましたが、3歳になったときの、子どもそれぞれの自己コントロール力の大きな違いに驚かされました。同じ3歳でも、親に怒りなどの感情を受け止めてもらい、調整してもらってきた子どもは、保育者のなだめや「気そらし方略」によって自己の情動を調整できる傾向が強いと感じました。言ってみれば、0歳でのしつけが1歳の子育てを、1歳でのしつけが2歳の子育てを、2歳でのしつけが3歳の子育てを楽にしてくれるということ。子どもは0歳台から優れた学習能力を持っています。0歳台から、豊かなコミュニケーションのなかで、価値やルールの伝達=しつけをしていってほしいと思います。『遊びの中で試行錯誤する子どもと保育者 子どもの「考える力」を育む保育実践』岩立京子 監修/明石書店(2019)■ 東京家政大学子ども学部教授・岩立京子先生 インタビュー記事一覧第1回:イヤイヤ期には“気そらし方略”がうまくいく。3歳の子育てを楽にする、2歳までの「しつけ」のコツ第2回:もう「早く!」なんて言わなくていい。“ニンジン作戦”で子どもを楽しい世界にいざなってあげて(※近日公開)第3回:子どもの失敗の機会を奪う「悪い先回り」を今すぐやめて、「いい先回り」をするための工夫とは?(※近日公開)第4回:「しつけもしっかりしたいけど、自主性も育てたい」親のこの考えが“完全に間違っている”理由(※近日公開)【プロフィール】岩立京子(いわたて・きょうこ)1954年生まれ、東京都出身。東京家政大学子ども学部教授。東京学芸大学名誉教授。東京学芸大学教育学部卒業後、同大学大学院教育学研究科修士課程を経て、筑波大学大学院心理学研究科博士課程単位取得退学。筑波大学心理学系技官を経て、1986に東京学芸大学講師となり、1991年に筑波大学で博士(心理学)を取得。その後、東京学芸大学で34年間にわたり保育・幼児教育の専門家養成に関わった後、現職に就く。2014年から2017年まで、東京学芸大学附属幼稚園長を兼任。主な著書に『幼児理解の理論と方法』(光生館)、『保育内容 人間関係』(光生館)、『たのしく学べる乳幼児の心理』(福村出版)、『乳幼児心理学』(北大路書房)、『新幼稚園教育要領の展開』(明治図書出版)、『子どものしつけがわかる本 がまんできる子、やる気のある子を育てる!』(主婦の友社)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年05月27日近年の教育界における重要なキーワードとして「自己肯定感」があります。その解釈や評価は人によってさまざまですが、教育ジャーナリストの中曽根陽子さんは、「自己肯定感は、人間が生きていく力の根幹」だといいます。それだけ重要なものだとすれば、親としては子どもの自己肯定感をしっかりと伸ばしてあげたいものですよね。そのために必要なのは、「親自身が幸せになること」なのだそう。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカット)ありのままの自分を認められる自己肯定感は、生きる力の根幹「自己肯定感」とは、自分のいいところも悪いところも含めて、「自分はありのままでいいんだ!」と認められる感情のことです。一方、その逆はなにかというと、自分の存在を認められない「自己否定」です。この自己否定の感覚が強くなると、最悪の場合は自ら死を選ぶということにもなりかねません。それだけ自己肯定感は重要な力であり、いわば生きる力の根幹です。そう思えば、親であれば我が子の自己肯定感をしっかりと高めてあげたいもの。では、自己肯定感が高い子どもの親にはどんな共通点があるのでしょうか?いま、わたしは、自分のやりたいことをしっかり持っている、自己肯定感の高い子どもの親たちへの取材を続けています。その取材を通じて見えてきたことのひとつとして、自己肯定感の高い子どもの親たちには、子どもに干渉しすぎず、それこそ「子どものありのままを受け止めている」という共通点があることが挙げられます。子どもがやりたいことがなんであれ、まずは認めてあげて、うまくいかないときには、どうすれば実現できるかと一緒に考え、子どもを支援するかたちでの対応をしているのです。一方、自己肯定感の低い子どもの親に見られる共通点が、「子どもをできない存在としてとらえている」ということでした。そういう親は「子どもは、あらゆることを親が教えてあげなければならない存在」だと思っています。そのため、よかれと思って、自分が正しいと思っていることを押しつけて、子どものやりたいことを否定してしまう。あるいは、他人と比較してダメ出しをしたり、親の望む子ども像を押しつけたりしがちです。それでは、子どもの自己肯定感が育まれるはずもありません。しっかりと子どもを観察し、できるだけ子どものいい面やできた部分を見て励ましてあげてください。自己肯定感が高い子どもの親も自己肯定感が高いまた、自己肯定感の高い子どもの親に見られるもうひとつの共通点として、「親自身の自己肯定感が高い」ということも挙げられます。じつは、自己肯定には2種類あります。ひとつが「条件付きの自己肯定感」、もうひとつが「条件のない自己肯定感」です。条件付きの自己肯定感とは、「誰かと比較して優れている」とか「評価されている」というように、人との比較でもたらされる自己肯定感です。この自己肯定感は、自分より優れている人が現れたり失敗して評価が下がったりすると、途端に自信がなくなって低下してしまうものです。反対に、条件なしの自己肯定感は、いいところもダメなところもある自分を受け入れられる自己肯定感。「自分はこのままでいい!」「自分は大丈夫!」と感じられれば、たとえうまくいかないことが起こっても、自己肯定感は揺るがず安定しています。そして、自己肯定感が高い親は、自分の心のコップを、ありのままの自分を受け入れられる自己肯定感という水で満たしているからこそ、子どもの心のコップにも水を注ぐことができるわけです。自分のコップが水で満たされていないのに、子どものコップに水を注ぐことはできませんよね。そうであるならば、親自身が楽しく幸せな人生を歩むことが大切。しかし、残念ながら、ありのままの自分を肯定できないということはあると思います。それでも、もし自分が真剣にそれを望めば、人は必ず変わることができます。そのためには、「ポジティブ心理学」というものを学んでみるのもいいかもしれませんね。じつは、ポジティブ心理学については、わたしもいままさに勉強中です。いま、ポジティブ心理学の分野では、それこそ人が幸せになるための方法の研究がどんどん進んでいます。そういった、自分が幸せになる方法を学んで実践するわけです。ファーストステップとしておすすめするのが、その日にあったよかったことを3つ書き出してみて、なぜそれが起きたのかを考えるということです。これは、マイナスではなくプラスのことに目を向けるレッスンであり、続けていくと幸福度が上がるといわれています。日常のなかの小さな幸せに気づくことができるようになると、自分の心のコップが満たされていくのを感じられるようになります。ぜひやってみてください。日本人は、どうしてもまわりの目を意識しすぎているように感じます。周囲に気を使うばかりに自分の幸せを感じられなくなっている人も多いのではないでしょうか?子どもの自己肯定感を高めてあげるためにも、親であるみなさんはもう少し自分の幸せを追求してみてはどうでしょうか。子育ては「未来をつくる人材の育成プロジェクト」また、いまの親御さんたちを見ていて強く感じるのは、真面目すぎる面があるということ。先行きが不透明な時代ですから、子どもの将来を思って子育てに力を入れるという感情はもちろん理解できます。でも、不安な気持ちからは、いい結果は得られません。「子どもはきっと大丈夫! なんとかなるさ」と、もう少し気楽に考えていいとも思うのです。わたしは、子育てとは「未来をつくる人材の育成プロジェクト」なのだと考えています。我が子だから「きちんと育てないといけない」と力が入るわけです。ならば、とらえ方を少し変えてみましょう。「子どもは神様から一時的に預かったたまもので、独り立ちできるように育てて社会に還す」という感覚で子育てをするのです。「自分のもとにたまたまやってきた子どもは、はたしてどういう人間なのかな?」と考えて、まずは観察してみる。そうして、「こういう性格なのかな」「得意分野はこういうところかな」というふうに見立てをして、その子の強みが生かせるように励ましながら、子どもが自分で決めていけるように支援してほしいのです。子どもは最終的に親離れしなければなりませんし、親もまた子離れしなければなりません。そのためにも、子どもに自分の人生のすべてを注ぐようなことは避けたほうが賢明です。親であると同時にひとりの人間であるみなさんの人生には、さまざまな出来事があります。子育てという人材育成プロジェクトに携わることは、そのひとつに過ぎません。そういうふうに少し俯瞰して考えることが、子育てに入れ込みすぎることなく、子どもをひとりの人間として認められ、自己肯定感を高めることにもつながるはずです。新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界は大きく揺れ動き変化しています。そんな時代に遭遇した子どもたちには、これまで以上に、自分で考え、道を切り開いていく力が必要になってくると思います。ぜひ、失敗を恐れずに挑戦できる力を育んでください。『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』中曽根陽子 著/晶文社(2016)■ 教育ジャーナリスト・中曽根陽子さん インタビュー記事一覧第1回:親の役目は我が子の「自己探究の力」を育むこと。“理想の子ども像”を押し付けてない?第2回:学歴の価値はどう変わる? 「偏差値の高い大学に行く」ことにしがみつく必要は、もうない第3回:任せて、失敗させて、考えさせる。「困難を乗り越える力」を伸ばすには、放っておくのが◎第4回:自己肯定感が「高い子の親」と「低い子の親」。驚くほど全く違う、それぞれの特徴とは【プロフィール】中曽根陽子(なかそね・ようこ)1958年生まれ、東京都出身。教育ジャーナリスト。マザークエスト代表。慶応義塾大学大学院システムデザインマネジメント科ヒューマンラボ研究員。出産のために小学館を退職後、1994年、子育て中の母親たちが子どもと一緒にあそび場をチェックし紹介する『子どもとでかける大阪あそび場ガイド』(メイツ出版)を制作。取材から執筆、イラストまですべてを母親たちの手によって作成した同書は、いまなお改定版を重ねるロングセラーとなり、シリーズ累計50万部超。2004年、女性のネットワークを生かした編集・取材活動を行う情報発信ネットワーク「ワイワイネット」を発足。「お母さんと子どもたちの笑顔のために」をコンセプトに、数多くの書籍をプロデュース。2013年、「親を人材育成のプロに」というコンセプトのもと、母親自身が新しい時代をデザインする「マザークエスト」を立ち上げ、アクティブラーニング型のセミナーの開催を中心に活動している。現在は、教育ジャーナリストとして紙媒体からウェブ媒体まで幅広く執筆する傍ら、海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエイティブな力を育てる探求型の学びへのシフトを提唱する。主な著書に『はじめての海外旅行 安心おでかけガイド』(メイツ出版)、『マンガ版 子どもが伸びる! コーチングブック』(合同出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年05月25日少子化が進んだいま、限られた数の子どもに愛情をたっぷり注ぐ親が増えていることで、新たな問題が生じています。それは、「子どもが失敗をしないようにする親」の増加です。失敗をしないことは悪いことではないようにも思えますが、いったいなにが問題なのでしょうか。教育ジャーナリストとして活躍する、中曽根陽子さんに教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカット)子どもに失敗させまいとするのは、親が「安心したい」だけ子どもが失敗することがわかっていて、みすみすその道を進ませるのは忍びない――。子どもに失敗させたくないというのは、我が子を思う親として当然の感情であり、親が持つ本能ともいえます。ただ、その感情の裏にあるのはなにかというと、多くは親自身が「安心したい」という気持ちのように思うのです。いまは世の中の先行きが不透明な時代です。だからこそ、自分が受けてきた教育や体験をそのまま子どもに与えるだけでは通用しないということも親は薄々感じています。すると、「学歴をつけておけばいい」というふうに、「これをやらせておけばいい」といった策が見つからないということになる。その不安を解消して自分が安心したいがために、「せめて子どもがなるべく失敗しないですむようにしたい」という発想に至るのだと思います。「わたしの子どもは失敗しないから、子育てや家庭教育がうまくいっている」と感じたいわけです。そう考えると、子どもに失敗させまいとして取っている言動も含め、自分の言動の裏にある親自身の気持ちをときどき振り返ることが大切になってきます。「いまの言葉かけや行動は、本当に子どものためのものなのか?」「そもそも自分が安心したいだけではないのか?」というふうに疑問視するのです。子育てに追われる忙しい生活のなかでは、どうしても目先のことばかりに目が向きがちですが、自分自身を俯瞰することはとても大切です。困難に立ち向かう力は、失敗からしか学べないでも、なぜ親が安心したいがために、子どもに失敗させまいとすることがよくないのでしょうか?親が安心することがよくないわけではありません。子どもに失敗させまいとすることがよくないのです。なぜなら、失敗の経験から子どもは多くのことを学び、たくましさを身につけていくからです。新型コロナウイルス感染の拡大という事態で、世の中は一気に変化を余儀なくされています。変化が加速していく時代のなかを子どもたちはサバイバルしていかなければなりません。思いもかけない事態に直面したときにはなおさら、自分で判断し行動する主体性が必要です。それなのに、まったく失敗を経験しないまま大人になってしまうと、ちょっとした困難にぶつかっただけでも挫折してしまうということになるでしょう。困難にぶつかって一度はしょげてしまっても、そこから学び、再びその困難に立ち向かうようなたくましさは、失敗を乗り越える経験からしか学ぶことができません。そして、その学ぶ場は学校などではなく、多くは家庭生活のなかにあります。だからこそ、親の対応が大切になるのです。考えてもみてください。親元にいるときの子どもの失敗なんて、大人から見れば大したものではないはずです。仮に失敗したとしても、人生が終わるといったことはありません。ですから、どんどん失敗をさせてあげましょう。そのなかで、子どもは失敗を乗り越える成功体験を積むことができる。その体験が、のちに生きる知恵として力を発揮するようになるのです。子ども自身に任せ、子ども自身に解決させる子どもに失敗をさせることが大事だというと、「子どもにどうやって失敗させたらいいでしょうか?」なんて疑問を持った人もいるかもしれません。でも、「失敗をさせる」のではなく、「失敗をさせないようにしない」ことが大切です。言い換えると、いい意味で放っておくのです。たとえば、「子どもが忘れ物をしないか心配だから」と考えて、子どもが小学校に持っていく持ち物をすべて用意しているような人はいませんか?もちろん、子どもが小さいときにはトレーニングとして一緒に持ち物の準備をすることも必要でしょう。でも、いつまでたっても親がすべて用意していると、仮に忘れ物があったときには、子どもは「お母さんがちゃんと用意してくれなかったからだ!」と親のせいにします。そうではなくて、子どもに任せればいい。それで忘れ物をしたとしても、強く叱ってはいけません。なぜなら、叱るだけでは子どもの行動変容につながらないからです。親がやるべきことは、子どもに任せて、失敗したとなったら今後の行動変容を促すこと。「次からどうすればいいかな?」と聞いてみましょう。忘れ物をして恥ずかしい思いをした子どもなら、「忘れ物をしないためにはどうしたらいいか」と自分で必死に考えるはずです。持ち物の用意に限らず、さまざまなことを子どもに任せること。そしてなにか問題が発生したとしても、親はサポートに徹して子ども自身に解決させることを強く意識してほしいと思います。『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』中曽根陽子 著/晶文社(2016)■ 教育ジャーナリスト・中曽根陽子さん インタビュー記事一覧第1回:親の役目は我が子の「自己探究の力」を育むこと。“理想の子ども像”を押し付けてない?第2回:学歴の価値はどう変わる? 「偏差値の高い大学に行く」ことにしがみつく必要は、もうない第3回:任せて、失敗させて、考えさせる。「困難を乗り越える力」を伸ばすには、放っておくのが◎第4回:自己肯定感が「高い子の親」と「低い子の親」。驚くほど全く違う、それぞれの特徴とは(※近日公開)【プロフィール】中曽根陽子(なかそね・ようこ)1958年生まれ、東京都出身。教育ジャーナリスト。マザークエスト代表。慶応義塾大学大学院システムデザインマネジメント科ヒューマンラボ研究員。出産のために小学館を退職後、1994年、子育て中の母親たちが子どもと一緒にあそび場をチェックし紹介する『子どもとでかける大阪あそび場ガイド』(メイツ出版)を制作。取材から執筆、イラストまですべてを母親たちの手によって作成した同書は、いまなお改定版を重ねるロングセラーとなり、シリーズ累計50万部超。2004年、女性のネットワークを生かした編集・取材活動を行う情報発信ネットワーク「ワイワイネット」を発足。「お母さんと子どもたちの笑顔のために」をコンセプトに、数多くの書籍をプロデュース。2013年、「親を人材育成のプロに」というコンセプトのもと、母親自身が新しい時代をデザインする「マザークエスト」を立ち上げ、アクティブラーニング型のセミナーの開催を中心に活動している。現在は、教育ジャーナリストとして紙媒体からウェブ媒体まで幅広く執筆する傍ら、海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエイティブな力を育てる探求型の学びへのシフトを提唱する。主な著書に『はじめての海外旅行 安心おでかけガイド』(メイツ出版)、『マンガ版 子どもが伸びる! コーチングブック』(合同出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年05月21日「これからの時代、学歴は武器にならない」ともいわれます。その一方で、中学受験をはじめとした受験熱、教育熱は高まるばかり。日本において、学歴が持つ価値や意味はどんなものになっていくのでしょうか。教育ジャーナリストの中曽根陽子さんは、「大学に行くことを目的とするのではなく、もっと大きな人生の目的に向かうルートに大学があるなら、行けばいいだけのこと」と語ります。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカット)日本とまったく異なる欧米の入試システム世代人口が減った現在、日本は「大学全入時代」といわれます。大学のレベルを問わなければ、いまの子どもたちは全員が大学に入学できるというわけです。そうはいっても、やはりレベルの高い大学への入学はいまも変わらず簡単ではありません。とくにそういった難関大学は、入学者数を減らして一定のレベルを保とうとしているからです。では、その「レベル」とはなにか?それは、いまも変わらず、基本的には「偏差値」です。世代人口が多い団塊ジュニア世代が受験生だった時代のような「偏差値至上主義」とまではいかなくても、日本においては偏差値が重視される傾向にあることはたしかです。一方、日本や韓国などで行われるような、アジア型といわれる入試とまったく異なる入試システムをとっているのが、欧米です。欧米の入試では、日本の入試のように受験生が一斉に同じテストを受けるということはありません。一定の学力を測るスコアは必要ですが、その結果はあくまでも合否を判断する資料のひとつにすぎません。その一方で、たとえば志望理由やポートフォリオ、エッセイなどの書類をたくさん提出する必要があります。あるいは、何人かの推薦者がいないといけないということも。要は、入学を志望する人物が、いままでにどういうことをしてきて、どういう人たちとかかわってきて、入学したらなにをしたいのかといったことまで含め、トータルの人物像が欧米では問われるわけです。日本における自分の偏差値で表せるようないわゆる学力と呼ばれるものは、あくまでひとつの指標でしかありません。大学入試改革が失敗すれば日本の未来はない!?ただ、日本でも大学入試改革が進行中です。そもそも、なぜ大学入試改革をする必要があったか?それは、いまという時代が大きく変化しているからです。時代が変われば、それに伴って必要とされる人材も変わってくる。ところが、経済界からは「欲しい人材が育っていない」という声が以前から相次いでいました。そこで、大学入試を変えれば、その前にある高校、中学校、小学校の教育も必然的に変わっていく。そうして、実社会で求められる人材を育てようというロジックで大学入試改革が進められることになったのです。でも、当初予定されていた英語民間試験や記述式問題の導入が延期となるなど、現在は大学入試改革がトーンダウンしているのが実情です。しかし、仮にこのまま大学入試改革が頓挫して、結局かつての入試と同じようなシステムに戻ってしまったら、「日本の未来はない!」というくらいにわたしは考えています。先にお伝えしたように、大学入試改革に先んじて2020年から、高校、中学校、小学校の教育も変わっていきます(インタビュー第1回参照)。そのベースとなるのが、新たな学習指導要領。それは、これまでの教育とは異なる「生きる力」を伸ばすことを目指したものです。さらに、現在のコロナ危機で学校が休校に追い込まれ、オンライン化が加速しているなかで、学校教育の意味が問い直されています。もし、学校関係者が、単にコロナ禍の前に戻すことだけを目指すなら、日本は世界の潮流からも完全に遅れを取ることになるでしょう。さて、文科省によれば、生きる力とは具体的に「学びに向かう力、人間性」「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力」とされています。明らかに、これまで重視されてきたような知識をたくわえる力とは異なるものであり、どれもとても重要な力ですよね。その教育が本当にしっかりと定着するのか。そして、その教育で子どもたちが身につけた力を大学がきちんと評価できるのか。そこに大学入試改革が実を結ぶかどうかの鍵があるように思います。今後は学歴が持つ価値が変わっていく大学入試改革にはじまる日本の教育全体の改革が進めば、「これからの社会で求められる人材」が育つことになるでしょう。ただ、わたし自身は、これからは学歴は万能ではなくなると思っています。もちろん、これからも学歴はある程度の武器にはなるでしょう。でも、「あの大学を出るくらいのポテンシャルを持っている人なんですね」という程度の評価基準になるのではないでしょうか。それよりも問われるようになるのは、先の欧米の大学入試ではないですが、その人自身がなにをしてきたか、なにができるのか、なにをしたいのかといったトータルの人物像でしょう。そう考えると、今後は、自分自身の人生の「目的」をしっかり考えることがより大切になります。たとえば、なんの目的も持たないままに東大に行ったところで、東大で過ごす時間はただの無駄でしかありません。それよりも、自分の人生の目的をしっかり見据え、その目的のために必要な大学に行くこと。必要なければ大学には行かずに目的に向かって最短距離で進んでいく。あるいは、必要になったときに行く。そういった柔軟な考え方を持つことが大切です。大学は単なる通過点にすぎません。その先を見据えて自分の生き方を考えることを、ぜひお子さんに伝えてほしいと思います。『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』中曽根陽子 著/晶文社(2016)■ 教育ジャーナリスト・中曽根陽子さん インタビュー記事一覧第1回:親の役目は我が子の「自己探究の力」を育むこと。“理想の子ども像”を押し付けてない?第2回:学歴の価値はどう変わる? 「偏差値の高い大学に行く」ことにしがみつく必要は、もうない第3回:任せて、失敗させて、考えさせる。「困難を乗り越える力」を伸ばすには、放っておくのが◎(※近日公開)第4回:自己肯定感が「高い子の親」と「低い子の親」。驚くほど全く違う、それぞれの特徴とは(※近日公開)【プロフィール】中曽根陽子(なかそね・ようこ)1958年生まれ、東京都出身。教育ジャーナリスト。マザークエスト代表。慶応義塾大学大学院システムデザインマネジメント科ヒューマンラボ研究員。出産のために小学館を退職後、1994年、子育て中の母親たちが子どもと一緒にあそび場をチェックし紹介する『子どもとでかける大阪あそび場ガイド』(メイツ出版)を制作。取材から執筆、イラストまですべてを母親たちの手によって作成した同書は、いまなお改定版を重ねるロングセラーとなり、シリーズ累計50万部超。2004年、女性のネットワークを生かした編集・取材活動を行う情報発信ネットワーク「ワイワイネット」を発足。「お母さんと子どもたちの笑顔のために」をコンセプトに、数多くの書籍をプロデュース。2013年、「親を人材育成のプロに」というコンセプトのもと、母親自身が新しい時代をデザインする「マザークエスト」を立ち上げ、アクティブラーニング型のセミナーの開催を中心に活動している。現在は、教育ジャーナリストとして紙媒体からウェブ媒体まで幅広く執筆する傍ら、海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエイティブな力を育てる探求型の学びへのシフトを提唱する。主な著書に『はじめての海外旅行 安心おでかけガイド』(メイツ出版)、『マンガ版 子どもが伸びる! コーチングブック』(合同出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年05月19日「時代の変化が激しい」「先行きは誰にも見えない」――。いまという時代を指してよく形容される言葉です。では、いまから30年後の2050年はどんな時代になっているのでしょうか?少々無茶なお願いと知りながら、教育ジャーナリストの中曽根陽子さんに予測してもらいました。そして、そんな時代に必要な力とはどんな力なのでしょう。併せて中曽根さんに答えてもらいます。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人子どもたちの65%は、いまは存在しない職業に就くみなさんは、1990年に、その30年後であるいまの社会を想像できたでしょうか?時代の流れが加速度的に速くなっていることを思えば、いまから30年後の2050年の社会となると、それこそ誰にも予測できないはずです。それどころか、新型コロナウイルスの影響で、数カ月先の見通しを立てることさえ難しい事態に陥っています。ただ、このことで、人は国境を越えてつながっているということをなおさら実感するようになっています。もしかしたら、30年後には、宇宙空間までも含めて、遠く離れた場所にいる人やものがつながっていくという世界になっているのかもしれません。そして、社会の変化に伴って変わるのが仕事です。1990年に、30年後にはユーチューバーという仕事があるなんて誰にもわからなかったはずです。よくいわれる話ですが、AIの進化によって、いまの子どもたちが大人になったとき、その65%はいまはない職業に就く可能性が高いという研究もあるほどです。しかし、予測よりもっと早く、「アフターコロナ」には社会は一変するかもしれません。実際、外出が禁止されたことで、リモートワークが予測より早く広まり、働き方も大きく変わっていきそうです。学校教育もオンライン教育が普及するでしょう。私たちはいま、歴史的な大きな転換期に遭遇していて、社会はもちろん、働き方、そして生き方も含めて、もっと多様な時代になっていくのではないかと感じています。これまでの教育で培われる力だけでは、今後は生きていけないでは、そんな時代を生きていくいまの子どもたちには、どんな力が必要とされるのでしょうか?それは、「21世紀型能力」と呼ばれる力です。2020年から施行された新しい学習指導要領では「生きる力」と表現されています。それについて、わたしなりの解釈をお伝えします。これまでの教育では、いかに知識をたくわえるか、そしてその知識を決まった手順に沿ってアウトプットできるかという能力が重視されてきました。でも、その決まった力だけでは、どんどん変化していくこれからの時代を生きていけそうにありませんよね。そんな時代に必要なのは、知識をただたくわえるだけではなく場面に応じて自分なりに活用し、自ら考えて課題を発見し、その課題を解決していく能力です。コロナ危機のいま、まさにその能力が求められています。また、これからは国境を越えて人がつながっていく事象がさらに進んでいくと先に述べましたが、そういう意味で大切になるのが多様性の理解と協働力。外国人と一緒に仕事をしているという人はどんどん増えていますが、今後はさらにその傾向が強まるでしょう。そんななかで大きな仕事をしようと思えば、さまざまなパーソナリティーを持つ人たちと一緒に協働できる力が大切になるはずです。これら、新たな学習指導要領に盛り込まれた「生きる力」が大切だということについては、わたしも基本的には賛同しています。ただ、わたしはもう少し別の視点での能力も大切になるのではないかと感じています。その能力とは、「自分らしく自分の強みを生かしながら幸せに生きていく力」です。ただ生きていても意味はありません。この世に生まれてきた以上、やはり幸せな人生を歩みたいものです。そして、幸せとは、やはり誰かに決められたレールのうえを歩くのではなく、自分の強みを生かして自分らしく生きていくことでしょう。しかも、その生き方が社会や周囲の人たちに貢献できるようなことになれば、幸福度はさらに上がるのではないでしょうか。親の役目は子どもの「自分らしさ」を伸ばすサポートそう考えると、ちょっと欲張りかもしれませんが、未来を生きる子どもたちにはもうひとつ別の能力も身につけてほしい。それは、「自己探究の力」です。「自分らしく自分の強みを生かしながら幸せに生きていくのがいい」とどんなに思っていても、その「自分らしさ」や「自分の強み」をわかっていなければ、そうすることはできないからです。そして、親であるみなさんにも、この「自己探究の力」の重要性を知ってほしいですね。親であれば誰もが我が子には期待します。「こんな人間に育ってほしい」だとか、「子どものときに自分が苦手だったことを得意になってほしい」というふうに考えてしまいますよね?親ならあたりまえのことです。でも、親としての究極の願いは「子どもに幸せになってほしい」ということであるはずです。そこで、ちょっと立ち止まって考えてほしいのです。はたして、親であるみなさんが考える「理想の子ども」は、目の前の我が子とはまったく別の人間になっていないでしょうか。自分が思う理想の子ども像に我が子をあてはめようとして、子どもが「自分らしく自分の強みを生かす」ことを邪魔していないでしょうか。親の役目は、我が子の「自分らしさ」や「自分の強み」を見極め、それらを伸ばしていく手助けをしてあげることなのだと思います。『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』中曽根陽子 著/晶文社(2016)■ 教育ジャーナリスト・中曽根陽子さん インタビュー記事一覧第1回:親の役目は我が子の「自己探究の力」を育むこと。“理想の子ども像”を押し付けてない?第2回:学歴の価値はどう変わる? 「偏差値の高い大学に行く」ことにしがみつく必要は、もうない(※近日公開)第3回:任せて、失敗させて、考えさせる。「困難を乗り越える力」を伸ばすには、放っておくのが◎(※近日公開)第4回:自己肯定感が「高い子の親」と「低い子の親」。驚くほど全く違う、それぞれの特徴とは(※近日公開)【プロフィール】中曽根陽子(なかそね・ようこ)1958年生まれ、東京都出身。教育ジャーナリスト。マザークエスト代表。慶応義塾大学大学院システムデザインマネジメント科ヒューマンラボ研究員。出産のために小学館を退職後、1994年、子育て中の母親たちが子どもと一緒にあそび場をチェックし紹介する『子どもとでかける大阪あそび場ガイド』(メイツ出版)を制作。取材から執筆、イラストまですべてを母親たちの手によって作成した同書は、いまなお改定版を重ねるロングセラーとなり、シリーズ累計50万部超。2004年、女性のネットワークを生かした編集・取材活動を行う情報発信ネットワーク「ワイワイネット」を発足。「お母さんと子どもたちの笑顔のために」をコンセプトに、数多くの書籍をプロデュース。2013年、「親を人材育成のプロに」というコンセプトのもと、母親自身が新しい時代をデザインする「マザークエスト」を立ち上げ、アクティブラーニング型のセミナーの開催を中心に活動している。現在は、教育ジャーナリストとして紙媒体からウェブ媒体まで幅広く執筆する傍ら、海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエイティブな力を育てる探求型の学びへのシフトを提唱する。主な著書に『はじめての海外旅行 安心おでかけガイド』(メイツ出版)、『マンガ版 子どもが伸びる! コーチングブック』(合同出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年05月17日「子育ての最終目標」というと、みなさんはどんなものだと考えているでしょうか。人それぞれだとは思いますが、自身も子育ての真っ最中である、京都大学大学院准教授の森口佑介先生は、「子どもの自主性を伸ばすことが子育ての最終目標」だといいます。では、子どもの自主性を伸ばすために親ができることとはなんでしょうか?森口先生がアドバイスしてくれました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカット)受け身ではない「真の我慢」が自主性を伸ばす「我慢」という言葉を聞いたとき、みなさんはどんなイメージを持ちますか?子どもの頃、親や学校の先生に「我慢しなさい」といわれたことは誰もがあるでしょう。一般的に、我慢とは周囲の誰かに強いられるものというイメージが強いはず。このケースなら、子ども自身は我慢しようと思っているわけではなく、親や先生が我慢させたいだけ。これは、いわば「受け身の我慢」です。ただ、子ども自身がそうしたいと思ってする我慢もあります。たとえば、大好きなスポーツをうまくなりたいからと、肉体的にはきつくても一生懸命に練習やトレーニングに取り組むような我慢がそれにあたります。これは、子どもが自らすすんでやる「真の我慢」といえます。では、どちらの我慢が大事かというと、もちろん「真の我慢」です。というのも、自らすすんで行う「真の我慢」には、いわゆる非認知能力の発達に欠かせない「自主性を伸ばす」ということが伴うからです(インタビュー第1回参照)。また、非認知能力を伸ばすという目的以外にも、子どもの自主性を伸ばすことはとても大切だとわたしは考えています。意見はそれぞれでしょうけれど、子どもの自主性を伸ばすことこそが、子育ての最終目標なのではないでしょうか。通常、親は子どもより長く生きることはできません。子どもに「親から離れたあとも、自分で生きていける力」を身につけさせるには、自主性を育てることが大事。これこそが、親の役割であるはずです。成長する子どもをよく見て、子どもの自主性に「任せる」さて、子ども自らそうしたいと思ってやる「真の我慢」が大切であることはたしかですが、そうはいっても、幼い子どもにはなかなかできることではありません。「真の我慢」ができるようになるのは、だいたい4〜6歳頃からです。ですから、3歳くらいまでの子どもには、必要に応じて親がある程度コントロールして我慢させることも必要でしょう。でも、いつまでもそういう我慢をさせていては、子どもは「受け身の我慢」を続けさせられるだけですから、「真の我慢」によって自主性を伸ばすことができません。その一方で、親が子どもの自主的な行動を容認することで、子どもに「真の我慢」が身につくということもあります。だからこそ、親が子どもにかかわるバランスが大切。日々成長していく子どもの行動をしっかりと見て、親がかかわる度合を少しずつ減らしていくのです。そうして、これまでは子どもが自分でできなかったことが、子どもひとりでできそうに思えたなら任せてあげる。子どもの「自分でやりたい!」という気持ちを尊重し、徐々に子どもの自主性に任せる割合を増やしていくことがなにより大切です。「褒める」より「認める」子育てを!また、子どもの自主性を伸ばすことを考えるなら、近年流行している「褒めて伸ばす」子育てをするにも注意が必要です。なぜなら、褒めることが子どもの自主性によくない影響を与えることが研究によってわかっているからです。これは、専門用語で「アンダーマイニング効果」と呼ばれるもの。どういうものかというと、子どもが自主的にやっていることに対して褒めたりご褒美をあげたりすると、その行為を子どもがしなくなるというものです。たとえば、子どもがお友だちに対してなにか親切なことをしたとします。親であれば褒めたくなりますよね?でも、子どもというのはそもそも親切にすること自体が好きなのです。ですから、ただ自分がそうしたくて自主的にお友だちに対して親切にしただけにすぎないということもよくあります。それなのに、「すごいね!」なんて大げさに褒められたり、あるいはご褒美をもらったりすると、ただそうしたくてやっていたことの目的が、「褒められたい」「ご褒美が欲しい」というふうにすり替わってしまうのです。すると、「褒められたい」「ご褒美が欲しい」というときには同じことをするかもしれませんが、「褒められたくない」「ご褒美はいらない」というときには、それまでならすすんでやっていたことをやらなくなってしまうというわけです。褒め方次第では子どもの自主性の芽を摘むことになるという点には注意が必要です。そこで、「褒める」よりも「認める」ことを意識してください。「すごいね!」「天才かも!」といった大げさな言葉ではなく、子どもの行動をしっかりと見て、「頑張ってるね!」「自分でやり切ったね!」といった言葉で、「あなたがやっていることをきちんと見ているよ」ということを伝えてあげてほしい。それこそが「認める」ということであり、認められた子どもは「このままでいいんだ!」とさらに自主性を伸ばしていくことになるはずです。『自分をコントロールする力 非認知スキルの心理学』森口佑介 著/講談社(2019)『非認知能力を育むリーフレット』(大阪府教育委員会)森口佑介先生作成協力■ 京都大学大学院准教授・森口佑介先生 インタビュー記事一覧第1回:エビデンス多数あり。「目標を達成する力」のある子どもは幸せになる!第2回:困難に立ち向かえる自信のある子の育て方。何より大切なのは親子間の「アタッチメント」第3回:“真の我慢”によって「子どもの自主性」を伸ばす。これぞ子育ての最終目標!【プロフィール】森口佑介(もりぐち・ゆうすけ)1979年生まれ、福岡県出身。京都大学大学院文学研究科准教授。科学技術振興機構さきがけ研究員を兼任する。京都大学文学部卒業、京都大学大学院文学研究科修了。博士(文学)。専門は発達心理学、発達認知神経科学。人文学に着想を得た問題を科学的に検討している。主な著書に『自己制御の発達と支援』(金子書房)、『おさなごころを科学する 進化する幼児観』(新曜社)、『わたしを律するわたし 子どもの抑制機能の発達』(京都大学学術出版会)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年05月13日子育てにおいて重要なものとされる、「アタッチメント」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?発達心理学を専門とする京都大学大学院准教授の森口佑介先生は、「しっかりとしたアタッチメントが、子どもにさまざまな力を与えてくれる」と語ります。そして、そのための鍵を握るのが「親の子離れ」なのだそう。まずは、そもそもアタッチメントとはどういうものなのかという話から始めてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカット)アタッチメントにより子どもは自信を持つ「アタッチメント」とは、ごく簡単にいえば「親子の絆」のことです。子どもが赤ちゃんのときには、なにをするにも親の助けが必要です。あるいは、なにか嫌なことがあったときにお母さんが抱っこしてくれるなどすれば安心できる。そういう親子のやり取りのなかで、子どもは親との感情的な絆を深めていきます。そして、このアタッチメントこそ、子どもがよりよい人生を歩んでいける人間になるための「礎」なのです。たとえば、親とのあいだにしっかりしたアタッチメントが形成できた子どもは「自信を持つ」ことができます。親からしっかりと愛情を受け取って育っているために、なにか嫌なことや困ったことがあったときにも、「親やまわりの人は自分のことを助けてくれる」「自分は親やまわりの人から愛される存在だ」という認識を持っているために、自信を持って問題解決に臨むことができるのです。しかし、親とのあいだのアタッチメント形成が不十分な子どもの場合は、「親やまわりの人は自分を助けてくれることなんてない」「自分なんて親やまわりの人から愛されない存在だ」という認識があるために、自信を持つことができず、ちょっとした困難にも立ち向かうことができません。社会で生きる人間に不可欠な「感情をコントロールする力」また、強いアタッチメントを形成できれば、子どもは「感情をコントロールする力」も獲得していきます。なぜなら、その力をアタッチメントの形成途上で親から学ぶからです。赤ちゃんが泣くと、親は必死に慰めますよね?このことは、いわば親が子どもの感情をコントロールしている状態だといえます。でも、こういうことを繰り返し経験するうちに、子どもは自分自身の慰め方、自分自身の感情をコントロールする方法をどんどん吸収して学んでいるのです。この「感情をコントロールする力」が重要なことについては、想像しやすいものでしょう。自分の感情をコントロールできず、場や相手を考えずに喜怒哀楽を周囲にぶつけていては、いい人間関係を築くことはできません。人間には、「他者とうまくつき合う力」が欠かせません。どんなに一匹狼に見える人でも、人間は社会のなかでしか生きられない生き物だからです。そして、他者とうまくつき合うためにも、「感情をコントロールする力」をしっかりと身につけなければならないのです。この「感情をコントロールする力」が育っていない子どもは、駄々をこねたりかんしゃくを起こしたりするようなことが増えます。もちろん、イヤイヤ期の影響もありますが、一般的なイヤイヤ期を過ぎてもかんしゃくを起こすようだと、アタッチメントの形成が不十分であることのほか、子どもが日常的にストレスを感じていることを疑ってもいいかもしれません。ついさっきまで機嫌がよかったのに、突然かんしゃくを起こすなど感情をコントロールできなくなる子どもには、ストレスに弱いという特徴があります。そして、どういう子がストレスに弱いかというと、日常的にストレスを受けている、虐待や体罰を受けているような子どもです。虐待や体罰などによって強いストレスを受け続けると、ストレスに強くなるのではないかと思う人もいるかもしれませんが、実態は真逆。ストレスを受け続けた子どもは、ストレスに対して敏感になり、ちょっとした嫌なことに対してもストレスを感じてしまうのです。もし子どもが頻繁に感情をコントロールできなくなるというなら、「しつけのつもりで虐待をしてしまっていないか」というふうに、自身の子育てを冷静に振り返ってみてください。子どもの成長の鍵を握る「親の子離れ」また、子どもがしっかりと自分自身で感情をコントロールできるようになるには、「親の子離れ」も欠かせない要素だということも、加えてお伝えします。いつまでたっても親が子どもを慰めるように、子どもの感情をコントロールしていては、子どもは自分の感情をコントロールする実践の場を経験できません。この子離れについては、いまの親は大きな問題を抱えているように思います。たとえば、わたしが勤める京大の卒業式を見ても、学生の親がついてくるケースが本当に多いのです。わたしが学生だった頃は、大学の体育館で卒業式をしたものですが、いまは同席する親があまりに多いために、大きなイベント会場を借りて行わなければならなくなっているくらいです。そういった子離れできない親の特徴として、子どもを「自分の所有物」のように思っていることが挙げられます。自分の「もの」だから、必要以上にかわいがって甘やかすのです。また、逆の方向として、虐待についても親が子どもを自分の所有物だと思っていることがひとつの原因です。自分の「もの」だから殴ってもいいというような思考を持っているのでしょう。そうではなくて、「子どもは自分とはまったく別の人格を持ったひとりの人間」という認識を持たなければなりません。そういう認識を持っていれば、最初はひとりではできなかったことを子どもができるようになってくれば、そのあとは子ども自身に任せられるようになる。そうして、きちんと子離れができるのです。『自分をコントロールする力 非認知スキルの心理学』森口佑介 著/講談社(2019)『非認知能力を育むリーフレット』(大阪府教育委員会)森口佑介先生作成協力■ 京都大学大学院准教授・森口佑介先生 インタビュー記事一覧第1回:エビデンス多数あり。「目標を達成する力」のある子どもは幸せになる!第2回:困難に立ち向かえる自信のある子の育て方。何より大切なのは親子間の「アタッチメント」第3回:“真の我慢”によって「子どもの自主性」を伸ばす。これぞ子育ての最終目標!(※近日公開)【プロフィール】森口佑介(もりぐち・ゆうすけ)1979年生まれ、福岡県出身。京都大学大学院文学研究科准教授。科学技術振興機構さきがけ研究員を兼任する。京都大学文学部卒業、京都大学大学院文学研究科修了。博士(文学)。専門は発達心理学、発達認知神経科学。人文学に着想を得た問題を科学的に検討している。主な著書に『自己制御の発達と支援』(金子書房)、『おさなごころを科学する 進化する幼児観』(新曜社)、『わたしを律するわたし 子どもの抑制機能の発達』(京都大学学術出版会)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年05月11日我が子には幸せな人生を歩んでほしい――親の誰もがそう思っています。では、我が子が幸せな人生を歩むために、親にはなにができるのでしょうか。発達心理学を専門とする京都大学大学院准教授の森口佑介先生は、「『目標を達成する力』を伸ばしてあげること」だといいます。それには、なにより「子どもの自主性」を大切にすることが重要なのだそう。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカット)非認知能力のなかでも重要な「目標を達成する力」「非認知能力」という言葉もかなり一般的になりましたから、それがどういうものか、多くのみなさんがご存じでしょう。非認知能力とは、文字どおり、「認知能力ではない能力」のこと。この場合の認知能力とは、いわゆるIQで表せるような知能を指します。一方、非認知能力は認知能力以外の能力ですから、ものすごく範囲が広い。よくいわれるように、忍耐力や創造性、へこたれない力など、それこそ枚挙にいとまがありません。これらの能力が、よりよい人生を歩んでいくためには大切なものだ――というわけで、非認知能力の注目度が増しているのです。そして、よりよい人生を歩んでいくためという観点から見ると、世界的には「他者とうまくつき合う力」「感情をコントロールする力」「目標を達成する力」の3つの力が大切だとされています。なかでもわたしが本当に重要なものとして考えているのが、「目標を達成する力」です。その理由としては、なによりその重要性を裏づける研究が世界中にたくさんあるということ。ちょっとあいまいな表現になるかもしれませんが、「目標を達成する力」を調べるテストのようなものがあり、その成績がいい子どもほど学力が高いだとか、クラスのなかでうまくやっていける、将来的に社会的地位の高い職業に就きやすいといった研究結果が数多く存在するのです。つまり、「目標を達成する力」は、それだけ確実に人生においてプラスに働く力だといえるエビデンスがあるということです。目標達成に必要な「切り替える力」と「自己抑制する力」では、その「目標を達成する力」とは具体的にどんなものかというと、大きくふたつにわけられます。ひとつは、「切り替える力」。たとえば、幼稚園で遊んでいる子どもに「お弁当の時間ですよ!」と声をかけたときに、すぐに遊びをやめて切り替えられる力のことです。幼い子どもは、遊びが楽しくてなかなか頭や行動を切り替えることができませんよね?その場合は、まだ「切り替える力」が未発達だということです。もちろん、切り替えが必要なのは、していることをやめるといった場面だけではありません。なにか達成したい目標があったとき、つねにスムーズに目標達成に向かって進めるわけではないですよね。目標の達成には失敗がつきものです。精神的にまいってしまうような嫌な目に遭うこともあるでしょう。そのときに気持ちを切り替えて前に進んでいけるか――。それこそ、目標を達成するためには大切な力です。また、もうひとつの「目標を達成する力」が、「自己抑制の力」です。有名な「マシュマロ・テスト」を知っていますか?子どもの「自己抑制の力」を調べるために、1960年代後半から欧米を中心に盛んに行われた有名なテストです。その内容は、マシュマロやクッキーなどのお菓子を用意し、テスト対象の子どもたちに「いますぐに食べてもいいけど、15分食べずに待てたら2倍のお菓子をあげるよ」と伝え、子どもが我慢できるかどうかを見るというものでした。未来を見越して、きちんと自己抑制できるか否か――。この力が目標を達成するためには大切です。このことは、大人のみなさんでしたら、たとえばダイエットをしている場面を思い浮かべれば分かりやすいでしょう。ダイエットを成功させるには、運動することはもちろんですが、食事制限も大切になる。大好きなビールやラーメン、ケーキを我慢できるのかどうかが、ダイエットという目標を達成できるかどうかをわけるのです。そんな力を測っていたのがマシュマロ・テストであったわけですが、実はこれには注意が必要です。マシュマロ・テストが子どもの将来に重要だという話が少し前に広まったものの、現在ではこの可能性は低いと考えられているのです。というのも、これが「目標を達成する力」を測るテストのひとつであることは間違いないとはいえ、マシュマロ・テストだけではその力を測り切れないためです。それでも、この「自己抑制する力」が「目標を達成する力」につながることは確か。ぜひ子どもには身に付けさせたいものです。非認知能力を伸ばすには「子どもの自主性」を伸ばすさて、我が子の幸せを願うみなさんなら、もちろん子どもにはしっかりと自分の目標を達成して充実した人生を送ってほしいと思っているでしょう。そのためには、心理学では「実行機能」とも呼ばれるふたつの「目標を達成する力」をしっかりと高めてあげる必要があります。では、どうすれば子どもの実行機能を高められるのでしょうか?鍵を握るのは、親であるみなさんです。というのも、実行機能を含む非認知能力全般にいえることですが、子どもの非認知能力が伸びるかどうかは、遺伝のほか、教育や家庭環境の影響が非常に大きいからです。ただ、非認知能力を伸ばすためには、「これをすればいい」ということははっきりとはいえません。でも、さまざまな研究によって、「これをしてはいけない」ということは明確にわかっています。まず、あたりまえのことですが、虐待や体罰は絶対にしてはいけないこと。というのも、非認知能力の成長をもっとも強く阻害するのが、ストレスだからです。子どもが非認知能力を伸ばしていくには、安心して過ごせる家庭環境、深い親子関係が欠かせません。もちろん、しつけの範囲で叱らなければならないときもあるでしょう。でも、体罰はもちろん、虐待といわれかねない、子どもの心を壊してしまうような言動は絶対にNGです。そう考えると、しっかりした親子関係を築くことが第一となるでしょう。世界的に見ると、日本の親子関係はちょっと特殊な面があります。欧米の家庭の場合、厳しいしつけと温かさが両立しているケースが多いのですが、日本の家庭の場合は、体罰を肯定するような親もいまだに多いかと思えば、逆に甘やかし過ぎている親も目立ちます。なぜか両極端なのです。体罰をするなど厳し過ぎるかかわり方がよくないのは、すでにお伝えしたとおりです。一方、子どもを甘やかし過ぎている親の問題は、「手出し口出し」をしてしまうこと。じつは、実行機能を含む非認知能力を伸ばすキモとなるのが、「子どもの自主性」なのです。それなのに、子どもがどうしたいかを確認することなく、「こうしたほうがいいんじゃない?」などと、自分の考えを押しつけている親が多いように思います。子どもがやることを一歩後ろから見届ける――そんな姿勢で子育てに臨んでください。『自分をコントロールする力 非認知スキルの心理学』森口佑介 著/講談社(2019)『非認知能力を育むリーフレット』(大阪府教育委員会)森口佑介先生作成協力■ 京都大学大学院准教授・森口佑介先生 インタビュー記事一覧第1回:エビデンス多数あり。「目標を達成する力」のある子どもは幸せになる!第2回:困難に立ち向かえる自信のある子の育て方。何より大切なのは親子間の「アタッチメント」(※近日公開)第3回:“真の我慢”によって「子どもの自主性」を伸ばす。これぞ子育ての最終目標!(※近日公開)【プロフィール】森口佑介(もりぐち・ゆうすけ)1979年生まれ、福岡県出身。京都大学大学院文学研究科准教授。科学技術振興機構さきがけ研究員を兼任する。京都大学文学部卒業、京都大学大学院文学研究科修了。博士(文学)。専門は発達心理学、発達認知神経科学。人文学に着想を得た問題を科学的に検討している。主な著書に『自己制御の発達と支援』(金子書房)、『おさなごころを科学する 進化する幼児観』(新曜社)、『わたしを律するわたし 子どもの抑制機能の発達』(京都大学学術出版会)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年05月09日宿題をしていてもすぐに気が散って、ほかのことを始めてしまう……そんな子どものことでお困りではありませんか?もしかしたらその原因は、「片付けができていない」ことにあるかもしれません。収納カウンセラーの飯田久恵先生が言うには、勉強への集中力は片付けによって引き出せるのだそうです。さらには、収納次第で子どもの知的興味を誘うこともできるのだとか。そのための具体的な収納テクニックを、飯田先生がStudyHackerこどもまなび☆ラボ読者のためにたくさん教えてくれました。取材・文 /木原昌子(ハイキックス)写真/児玉大輔(インタビューカット)片付けで、子どもが集中できる環境を作りだす子どもに片付けの習慣を身につけさせるために、モノの指定席を決め、欲しいモノがすぐに出せる状態にするのはとても大切です(インタビュー第1回参照)。と同時に、目の前のことに集中するためにも、片付けのテクニックは大いに役立ちます。子どもは気が散りやすいもの。目に入ったものに気を取られると、なかなかひとつのことに集中できません。勉強しなさいと言われても、視界の中に好きなマンガが入ってくれば、どうしても読みたくなって手を伸ばしてしまいます。そこで、おもちゃやゲームやマンガなど、子どもの気を散らすモノの指定席を変えてあげましょう。そうすれば、子どもが目の前の勉強だけに集中できる環境が生まれます。同時に、勉強に必要なモノがすぐ取り出せるような指定席作りをしておけば、時間の無駄なく勉強に取りかかることもできるでしょう。片付けは、子どもの教育にとっても良いのです。「目に見える収納」と「目に見えない収納」を使い分ける子どもたちの集中や興味を上手に引き出してあげるには、目に見える収納、目に見えない収納を使い分けるのもひとつの方法です。かつてカウンセリングをしたおうちでは、キッチンカウンターの下に扉付き収納棚があり、絵本や図鑑がきれいに収納されていました。ですが、本が扉の中にあって普段目に入らないと、その本の存在を忘れてしまうこともあります。そこで、ねじを外して扉を取り払い、棚の中の本が見えるようにしました。すると子どもが棚の前に座って本を見るようになったのです。あえて視界に入るようにしたことで、子どもが本に興味を持つようになったというわけです。また、部屋のレイアウトも、子どもが勉強に集中できるように考えてみましょう。勉強机の横にベッドがありどうしても横になってしまうようであれば、机とベッドの位置を離すなどして配置を変えてみるのもいいかもしれません。子どもに勉強をうながすリビングの作り方子どもが小さいうちは、リビングが生活の中心になるでしょう。リビングで勉強する子も多いはず。子どもがリビングで落ち着いて勉強するためには、やはり気の散るものが目に入らないよう、リビングを片付けておくことが大切です。先ほど述べた「子どもの気を散らすモノの指定席を変える」という方法は、リビングでもぜひ実践してください。大人の中には、家よりもカフェのほうが集中して勉強できる、という人がいますよね。家にいると、自分に関係のある情報が入ってきたり、つい手に取りたくなるモノがいろいろ置いてあったりするので、なかなか勉強に集中できないもの。一方、カフェは静かではないにしても周りの会話は自分と関係がありませんし、余計なモノも置いてありません。だから集中できるのです。気を散らすモノがあるかないかで、勉強への集中力が変わる。これは大人も子どもも同じだというわけです。さらに、勉強道具を入れた子ども専用の棚や入れ物を用意し、それを勉強するテーブルの近くに置くと、リビングにいながらにしていつでも勉強道具をすぐに手にできるようになります。ここでも、棚には扉や引き出しを作らないことがコツ。置いてあるものがいつでも目につく状態になっていることが重要です。勉強道具入れの例学校のプリント置き場を作る子どもが小学生になると、幼稚園・保育園の頃に比べて、学校や塾からの連絡プリントが多くなります。そこで、プリント用紙の置き場所のルールを子どもと一緒に決めてみましょう。A4の紙が入るスタッキングトレーを用意してください。最近では100円ショップでも売られていますね。プリントには子ども向け、親向けのものがあります。親向けのプリントには重要な連絡が書かれていることも多いので、すぐ見ることができるようにダイニングやリビングなどいつもいる場所にトレーを設置し、その中にプリントを入れるようにするのがおすすめです。こうすれば、子どもは持ち帰ったプリントをその場所に置くことが習慣になりますし、プリントが散らかったりなくなったりしなくなるので、親にとっても管理が容易になります。兄弟姉妹がいる場合は、それぞれの専用トレイを用意するとよいでしょう。モノがあふれたら、子どもに「捨てる」ことを教えるチャンス一度は部屋をきれいにしてモノの指定席を作ったとしても、新しくおもちゃを買ったり、小学生になって教科書や道具が増えたり、ライフイベントを重ねたりすることによって、家の中のモノはどんどん増えていきます。おもちゃなどの持ち物が増えたときには、ぜひ子どもと一緒にモノの取捨選択をしてみてください。「このスペースに置けるぶんしかおもちゃを持てないから、ここに入るだけのものを選びなさい」と子どもに考えさせ、捨てるということを教えてあげるのです。3歳の子どもでも、「これはいる、これはいらない」と意外にもちゃんと考えて仕分けしていくもの。むしろ親御さんのほうが、思い出に引きずられてなかなか捨てられないことが多いようです。その過程で子どもは、「これがなぜ大切なの?」と親が思うようなモノを残すと言ったり、大切にしていたはずのモノを捨てる選択をしたりするかもしれませんが、そこは子ども本人の意思を尊重しつつ、必要に応じてアドバイスをしましょう。子どもは、自分でモノを取捨選択することで持ち物を把握し、自分で管理しているという意識を持つことができるのです。片付けは、子どもの生きる力を伸ばす最後にお伝えしたいのは、「片付けは、自立への道である」ということです。片付けを子どものころに覚えないと、できないまま大人になってしまいます。大人になるとモノの管理だけでなく、時間の管理、お金の管理もしなければなりません。モノの管理ができない人が、時間やお金の管理までできるでしょうか?家も時間もお金もキャパシティが決まっています。その中でどうやりくりするかが生きる知恵であるということは、大人の親御さんであれば十分に実感していることだと思います。片付けの習慣は、そういった管理すべて、つまり「生きる力」につながっているのです。***片付けには、子どもの集中力や知的好奇心を高めるほか、さまざまな教育的効果があります。そうとわかれば、いつまでも家の中を散らかしておくわけにはいきませんね。まずは、モノの指定席を決めるところから。飯田先生のお話をヒントに、ぜひ親子で一緒に片付けの習慣づくりにチャレンジしてみませんか。『頭のよい子が育つ片づけ術』飯田久恵 著/学陽書房(2009)■ 収納カウンセラー・飯田久恵先生 インタビュー記事一覧第1回:子どもがモノを散らかしてばかりなのは、親が「○○」を決めていないから。第2回:勉強への集中力、学びへの興味を引き出す「片付けテク」を、収納カウンセラーが伝授!【プロフィール】飯田久恵(いいだ・ひさえ)収納コンサルティング会社(社)日本収納カウンセラー協会(旧社名「ゆとり工房」)主宰。結婚、子育てを経て、システムキッチンや収納家具の設計に従事。そこでの経験をもとに独自の収納の法則を編み出す。新職種「収納カウンセラー」を確立し、家庭の収納相談や、マンション・ハウスメーカーの、収納設計・提案の仕事を行っている。またテレビや雑誌の仕事、執筆、講演、商品開発などにも携わる。片づけやすさを「収納指数」という数値で表すことを2001年に編み出し、その人にとって、無理しなくても片づけられる、シンプルな収納を目指す。著書に『頭のよい子が育つ片づけ術』(学陽書房)、『家庭も仕事もうまくいく 一流の収納術』(ぱる出版)など多数。近著に『服を1着買ったら、2着捨てなさい』(内外出版社)。
2020年05月05日子どもがおもちゃで遊びっぱなしで、どんどん散らかっていくお部屋……。叱ってもなかなか片付けを覚えてくれないと悩んでいる親御さんも多いのではないでしょうか。収納カウンセラーとして数多くのお家の収納を提案してきた飯田久恵先生は、親が収納上手になることで子どもにも片付けの習慣が身についていく実例をたくさん見てきました。さらに、「片付けのできる子は我慢する力があり、思いやりのある子になる」と言います。飯田先生に、親が覚えるべき家の中の収納・片付けの考え方、そして子どもに片付けの習慣を身につけさせる方法をお伺いしました。取材・文 /木原昌子(ハイキックス)写真/児玉大輔(インタビューカット)モノの「指定席」がないと子どもは片付けられない収納カウンセラーは、家の中のすべての持ち物を使いやすく収納する方法や、そのために必要な収納家具などを提案する仕事です。必要なモノだけを使用頻度に合った場所に収納し、すべてのモノの「指定席」を作ってあげる。そして、使ったらそれを戻す場所がある。片付けの習慣作りには、この戻すべき「指定席」を家の中のすべてのモノに決めてあげることが非常に大切です。子どもが片付けられない要因の多くが、この「モノを片付ける場所=指定席」が決まっていないことにあります。子どもが普段使っているおもちゃや道具について、まずは指定席を作ってあげましょう。そして、使ったモノをその場所に戻すことを子どもに約束させます。「おもちゃを入れた箱はいつもここに置いておく」「クレヨンや画用紙はこの棚にしまう」というモノの居場所、指定席を設けるのです。もしかして、この指定席がないまま子どもに「片付けなさい」と言い、散らかった状態に「イライラ」していませんか?子どもでもラクに戻せる指定席を決めてあげれば、片付けの習慣はちゃんと身につくもの。収納カウンセリングの仕事でいろいろなご家庭を見てきましたが、どのご家庭でも収納計画をしっかり作り、モノの「指定席」を決めると、子どものうちに身につけた片付けの習慣が大人になるまでずっと続くのです。収納に関する言葉を整理すると「指定席」が作りやすくなるモノの「指定席」を作る際に、まず言葉の整理をしましょう。片付け、整理、整頓、収納という言葉の違いを、意識したことがありますか?これらを意識しないで行動に出ると、やり直しが出てきたり、無駄な収納用品を買ったりしてしまいます。これらの言葉を以下のように定義してみました。飯田式・収納関連の言葉の定義(一般的な国語辞書の定義とは異なるので飯田式とします)整理:要らないモノを捨てること指定席作り(収納):使用頻度や動線に合わせてモノの定位置を決めること片付け:出したら戻す習慣大切なのは、使うたびに行なう3.片付けがラクにササっとできることです。モノが多すぎると、ササっと戻せる2.指定席作り(収納)がむずかしくなります。そうならないようにするために、仕方なく1.整理が必要になる。指定席が作れるだけのスペースがあれば、無理して捨てることはありません。モノが多くてジャマだなぁと思ったときに整理すればいいのです。では、その指定席をどうやって作ればいいのか?決める要素はふたつ、「置く位置」と「入れ方」です。まず「置く位置」について。たとえば、ランドセルの置き場所が部屋の出入り口から遠いベッドの向こうにあると、回り込むのが面倒で、多分入り口近くに「ドサッ」と置いてしまうでしょう。また、よく使う教科書や参考書が学習机から離れた場所にあると、取りには行きますが、戻すのが面倒で、机の上や床にどんどん置いてしまうかもしれませんね。学習机の前に座ってすぐ取れる位置なら、戻しやすいので戻すでしょう。そう、「置く位置が悪い」と戻すのが面倒になり、散らかる可能性が大きくなるのです。よい置き場所を考えるときは、「これがどこにあると私(子ども)は便利?私(子ども)は嬉しい?」と考えればいいでしょう。次は「入れ方」です。前述のランドセルも教科書も、指定席が扉の中だと、出し入れが面倒ですね。扉がないオープンの収納なら、すぐに出し入れができます。指定席は、動作=アクションがあまりなくても出し入れできるところを選びましょう。毎日使うランドセルやかばんにも指定席を作り、机からもアクセスしやすく配置した例「整頓」という言葉は、2の指定席作りをしたあとに、さらにきれいに見えるように整えることです。人によって「これくらいならきれいだ」と思う基準は違います。これを私は「整然感覚」と名付けているのですが、整頓については自分や家族の感覚に合わせ、快適だと思うレベルでよいでしょう。ブログやインスタグラムなどで、ホテルの部屋のようにキレイにすっきりと収納されている写真をよく見かけますが、そのような美しい部屋にすることが片付けだ、と思わなくていいのです。片付けられないときは「指定席」を見直してみるもし、親がモノの指定席を作っても子どもがなかなか片付けてくれない場合は、置く位置や入れ方・入れ物に問題があるかもしれません。ここで紹介したいのが「収納指数」という考え方です。私は、「片づけが面倒かラクか」を数値で表すことを考えました。モノの出し入れをする際には、使いたいモノがある場所まで歩く、そこで立ち止まってドアを開ける、さらに引き出しやフタなどを開けて取り出す、といった動作を伴います。歩く動作を「歩数」、ドアやフタなどを開ける動作を「アクション数」として数値に置き換え、その2つを足したものを「収納指数」と名付けているのです。つまり、「歩数+アクション数=収納指数」となります。たとえば、テーブルではさみを使うとき、はさみを手にするまでに、椅子から立ち上がり(1アクション)文具の入った棚まで2歩歩き(2歩)引き出しをあけて取り出す(1アクション)という動きが必要だとします。この場合は、はさみを手にするまで「2歩+2アクション」で「収納指数=4」と考えます。もしDMなどを開けるために毎日のようにはさみを使っているとしたら、収納指数が4もあると出し入れが面倒で、はさみがテーブルの上に出しっぱなし、ということになりがちです。そこで、テーブルの近くに文具立てを置き、それにはさみを立てて入れておけば「0歩+0アクション」で「収納指数=0」となるので、使ったはさみをすぐに戻すことができるのです。家の中に「収納指数」が大きいモノがたくさんあると、散らかる原因になります。たまに使うモノならば収納指数は大きくても問題ないかもしれませんが、毎日何度も使うモノであれば、指数が小さいほうが片づけやすくなりますねよね。子どもの片付けも同様に、収納指数をできるだけ減らしてあげると、片付けができるようになります。遊ぶ場所の近くにおもちゃの指定席を作る。棚を開ける動作をひとつでも減らしてあげる。片付けのハードルを下げ、簡単に片付けができるようにしてあげましょう。片付けができる子は思いやりのある子になる片付けができるということは、自分の持っているモノを把握している、ということ。何がどこにあって、今必要なモノがあるかないかをわかっているということです。片付けるという行為により、子どもは自然とモノの管理能力を備えていくことができます。また、モノの置き場所を管理することができると、スペースに限界があることを理解し、これ以上モノが入らないから我慢する、ということも覚えていきます。さらにはモノを大切にして、「散らかすとお母さんがきっと困るはず……」と、人への思いやりの気持ちが育つことにもつながります。***「お友だちのおうちに行ったらすごくきれいでびっくりした」という子どものころの経験は、誰にでも一度はあるのではないでしょうか。子どもは自分の家のことに意外と敏感。「うちはあんまりきれいじゃないから、お友だちを呼べない。でも、それを言うとお母さんを悲しませるかもしれないから言えない」と思っている子もいるかもしれません。家の中の「指定席」作りについて、子どもと一緒に考えてみるのもよいかもしれませんね。次回は、具体的な収納テクニックについて、飯田先生に教えていただきます。『頭のよい子が育つ片づけ術』飯田久恵 著/学陽書房(2009)■ 収納カウンセラー・飯田久恵先生 インタビュー記事一覧第1回:子どもがモノを散らかしてばかりなのは、親が「○○」を決めていないから。第2回:勉強への集中力、学びへの興味を引き出す「片付けテク」を、収納カウンセラーが伝授!(※近日公開)【プロフィール】飯田久恵(いいだ・ひさえ)収納コンサルティング会社(社)日本収納カウンセラー協会(旧社名「ゆとり工房」)主宰。結婚、子育てを経て、システムキッチンや収納家具の設計に従事。そこでの経験をもとに独自の収納の法則を編み出す。新職種「収納カウンセラー」を確立し、家庭の収納相談や、マンション・ハウスメーカーの、収納設計・提案の仕事を行っている。またテレビや雑誌の仕事、執筆、講演、商品開発などにも携わる。片づけやすさを「収納指数」という数値で表すことを2001年に編み出し、その人にとって、無理しなくても片づけられる、シンプルな収納を目指す。著書に『頭のよい子が育つ片づけ術』(学陽書房)、『家庭も仕事もうまくいく 一流の収納術』(ぱる出版)など多数。近著に『服を1着買ったら、2着捨てなさい』(内外出版社)。
2020年05月03日子どもにとって、親の言葉は良くも悪くも強力です。たった一言が、子どもに確固たる自信を与えたり、一生の傷を残したりすることもあります。なかには、特別な言葉ではなく、何気なく発したちょっとした言葉が、知らぬ間に子どもに悪影響を与えてしまう場合も……。今回は、そんなつい言ってしまいがちなNGワードをご紹介します。「親の言葉でやる気を失う」51%個別指導塾「スクールIE」を運営する、やる気スイッチグループホールディングスが実施した調査によれば、中高生の51%が、親の言葉により「やる気スイッチ」がオフになった経験があると言います。彼らが言われた言葉で最も多かったのが、「勉強しなさい・早くしなさい」。そのほとんどは、彼らが「やろうと思っている」、もしくは「やらなくてはいけないことはわかっている」という状況のなかで言われたそうです。たしかに、自分がやろうとしているところに、他人から追い打ちをかけるような言葉を言われるといい気はしないでしょう。しかし、ほとんどの場合、この言葉を発する側に悪気はありません。口癖のようになっていて、言ったことすら覚えていないということも少なくないのではないでしょうか。つまり、自覚なく発している親の言葉が、繰り返し子どものやる気を奪っている可能性があると考えられるのです。こうした現象は、残念ながら決して珍しいことではありません。じつは、子どもの教育に悪影響を及ぼしてしまう、親がつい言ってしまいがちな言葉というのは、「勉強しなさい・早くしなさい」のほかにもたくさんあるのです。親から子へのNGワード7選つい言ってしまいがちなNGワードを7つご紹介しましょう。NGワード1:「なんで○○するの!?」子どもが意にそぐわない行動を取ったとき、「なんでこういうことをするの!?」と語気を荒げて言いたくなることもあるでしょう。しかし、「コミュニケーションのプロ」としてメディアに多数出演する作家・カウンセラーの五百田達成さんは、それを「親としてイマイチな対応」と指摘します。たとえば、子どもがレストランで水をこぼしてしまったとき。「なんでこぼすの!」と叱るのは、親としてイマイチな対応といえます。とても純粋な人間である子どもは、どうしてこぼしたのかと親に問い詰められたら、怖くて黙ってしまうか、もしくは原因をあれこれ言うでしょう。でも、親は言い訳を聞きたいわけではなく、反省の弁を聞きたいわけで、子どものウジウジした態度にますます腹が立ってしまうのです。つまりこの質問は不毛なわけです。(引用元:ウーマンエキサイト|子どもに言ってはいけない「なんで○○するの?」声がけは“愛情より戦略”【あなたは大丈夫?話し方で得する人・損する人 第3回】)五百田さんが提案するのは、子どもが何かしでかしたときでも、「これからはどうすればいいと思う?」などの前向きな言葉がけをすること。親が親身になって話を聞けば、ガミガミ叱らなくても子どもは十分反省するのだそうです。NGワード2:「ちょっと待って」同様に、五百田さんは、親が忙しいときによく言ってしまう「ちょっと待って」という言葉もNGとしています。その理由は、「ちょっと」という表現が曖昧で、どの程度の時間を示すのか子どもにはわからないからだそう。たとえて言うならば、職場で上司から「なる早でお願い」と仕事を頼まれたときと同じです。“なる早”の感覚は今日だったり、1週間後だったり、人それぞれ違います。こんなあいまいな会話ではコミュニケーションとしては成立しませんよね。(引用元:ウーマンエキサイト|子どもに言ってはいけない「なんで○○するの?」声がけは“愛情より戦略”【あなたは大丈夫?話し方で得する人・損する人 第3回】)では、どうすればいいのでしょうか。五百田さんが提案するのは、「ちょっと」がどれくらいなのか具体的に示すこと。「洗い物が終わるまで待って」 「あと10分待って」と、子どもにもわかるように伝えればいいのです。NGワード3:「そんなこともできないの?」教育関係のベストセラーを多数持つ教育評論家の親野智可等さんは、子どもの能力を否定するような言葉を発する親に警鐘を鳴らします。その言葉のひとつが、「そんなこともできないの?」。たとえば、算数の計算問題でミスをした子どもが、「3年生にもなって、足し算もできないの?」と親から言われたとしましょう。すると、その子は「自分は算数ができない」という思い込みにとらわれ、何十年も抜け出せなくなる可能性があるのだそうです。悪気がなくとも、「絵が苦手なんだね」「運動音痴だね」などの言葉を発してしまう方も要注意。大切なのは、能力を肯定して信じてあげること。「次はきっとできるよ!」など、前向きな言葉がけを心がけてみましょう。NGワード4:「そんな子はうちの子じゃありません!」親野さんは、存在否定の言葉も子どもに言ってはいけないと言います。たとえば、「そんな子はうちの子じゃありません!」という言葉。これを本心から言う人はいないと思いますが……子どもが反抗したときなどについ感情的になって、もしくは冗談半分で言ってしまったことのある人は少なくないはず。親野さんいわく、存在否定の言葉を言われた子どもは、「自分はいてはいけないのではないか?」と自己否定感にとらわれ続けることになってしまうのだそう。我が子が自己否定感にとらわれ続けるなんて、親としても不本意でしょう。であれば、存在否定の言葉は能力否定の言葉と同様、今すぐやめなければなりません。そして、正反対の言葉がけを心がけましょう。「あなたのことが大好き」「生まれてきてくれてありがとう」など、子どもの存在を無条件に肯定する言葉を日頃から伝えることで、子どもの自己肯定感も高められると言います。NGワード5:「だから言ったでしょう」子どもが親の注意を無視した結果、トラブルを招いたとき――たとえば、子どもが走り回って、親の「危ないからやめなさい」という注意を無視して転んだときは、「だから言ったでしょう」とため息混じりに言いたくもなるでしょう。しかし、心理カウンセラーの佐藤栄子さんは、子どもにとっては、このやり取りのなかで「何が “だから” なのか」がわからないと指摘します。このようなやり取りを繰り返していると、子どもは理由がわからないまま謝り続けることになり、積極性や自信を失ってしまうのだそう。その結果、何かに取り組む際に自身にブレーキをかけてしまうようになることがあるのだとか。佐藤さんによれば、この言葉を使うときの注意点は、「何が “だから” なのか」を説明すること。「ここで走り回ったら、人やモノにぶつかって転ぶことがあるってわかったよね。今度からは気をつけよう」など、わかりやすく伝えましょう。NGワード6:「○○ちゃんってすごいんだね」佐藤さんは、親が子どもの友人の名前を挙げてほめることもNGとしています。理由は、子どもが「ママは自分より○○ちゃんをすごいと思っているんだ」と思い込み、「親の期待に応えられない自分」に自信が持てなくなってしまうからだそう。なかには、親の注目を集めようと悪さをするようになることもあるのだとか。そんなときは、必ず自分の子どもの良いところも挙げるようにすると良いそうです。「○○ちゃんは絵が上手だね。あなたは工作がすごく上手。ふたりともすごいね!」というように、一緒にほめてみてはいかがでしょう。子どもに「自分もママに認めてもらえている」と認識させることができ、安心感を与えることができるはずです。NGワード7:「いい子だね」「いい子だね」は、おそらく多くの方が頻繁に口にしているでしょう。しかし、保育歴60年のベテラン保育士である大川繁子さんの著書『92歳の現役保育士が伝えたい 親子で幸せになる子育て』(実務教育出版)では、この言葉は親が子どもに言うにふさわしい言葉とされていません。同書によれば、「いい子だね」は人を評価する言葉であり、上の人間が下の人間を判定する際に使うもの。また、「いい子だね」とほめられた子どもは、次もほめられることを目的に行動するなど、評価ばかり気にするようになってしまうのだそうです。そのため、子どもが良い行動をしたとき、大川さんは別の言葉で子どもを喜ばせることをすすめています。ですから子どもに対しても評価の言葉は使わず、自分の気持ちを軸に接します。たとえばお友だちにおもちゃを譲ってあげていたら、「友だちに優しくできたね。先生、とってもうれしいよ」って。(中略)「だれかによろこんでもらったり、人のためになったりすることって、うれしいな」――褒めずに感謝の気持ちを伝えることで、そんな貢献のよろこびを感じてほしいと思うのです。(引用元:YAHOO!JAPAN ニュース|子どもに「いい子だね」「すごいね」と言ってはいけない理由)「いい子だね」といった言葉の代わりに、「○○ができたね。ママ嬉しいな」と感謝の気持ちを伝えてみてはいかがでしょう。***こうして見ていくと、親が子どもについ言ってしまうNGワードは、大人どうしでもNGであることが多いことがわかります。それをつい言ってしまうのは、良く言えば親子間の親密度の高さ、悪く言えば緊張感のなさの現れと言えるのかもしれませんね。子どももひとりの人間。相手の気持ちを考えながら接することで、子どもに悪影響を与える発言を控えられるとともに、親子関係もより良くなっていくのではないでしょうか。(参考)やる気スイッチグループ|親に言われてやる気スイッチがオフになる言葉 第1位「勉強しなさい!」東洋経済ONLINE|子どもに絶対言ってはいけない「全否定3要素」YAHOO!JAPAN ニュース|子どもに「いい子だね」「すごいね」と言ってはいけない理由ウーマンエキサイト|子どもに言ってはいけない「なんで○○するの?」声がけは“愛情より戦略”【あなたは大丈夫?話し方で得する人・損する人 第3回】ウーマンエキサイト|親が直すべき口癖3つ! 子供の性格にも影響が出るリスクも
2020年05月01日以前、運動会のかけっこで順位をつけず、最後はみんな手をつないで一緒にゴールした小学校が話題になったことがありました。有名なモンテッソーリ教育も、“競争させない” のがポリシーです。仲良し教育を是とする風潮に、「今の子どもたちは昔に比べて競争心がない」とも言われ、子どもに競争させることの良し悪しはいまだ賛否両論あります。一方で、「負ける」ことに意義を認める日本の伝統競技があります。将棋です。「負けました」と敗者が自ら宣言し勝敗が決まるものは、勝負事としてほかにはないでしょう。期待の若き棋士藤井聡太7段(*)は、将棋を通して今も成長し続けています。その成長には、“負ける” という経験が大きく作用しているそうです。勝敗を競うべきか否かには一長一短ありますが、今回は「負けることの意義」にフォーカス。そこから得られる学びについて詳しく検証してみましょう。*…2020年4月現在子どもの「負け」を成長につなげるために負けると誰でも悔しいものです。その “負” の感情をどう自分の中で処理するかに成長の鍵が潜んでいます。負けを成長につなげるためのポイントは2つです。■負けを認める「自分の弱さを認めることで、どんな困難も乗り越えられる」とは、アメリカ国防総省現役官僚のカイゾン・コーテ氏の言葉。その心理ステップは次の通りです。自分の弱さを受け入れると、本当の自分が見えてくる本当の自分が見えてくると、自分を正しく機能させることができる自分を正しく機能させることができると、最善の選択ができる(引用元:STUDY HACKER|“負け”から成長できる人とできない人の決定的な差。一流営業パーソンは失敗しても〇〇を言わない。)つまり、負の感情を認めることで、自分の気持ちが一度リセットでき、ストレスのない状況で冷静な判断と落ち着いた行動ができます。負の感情をいつまでも引きずらずに前に進むための第一歩が、「負けを認める」ことなのです。しかし、子どもにとって「負けを認める」のはなかなか難しい。そんなときは、親が共感してあげるとよいのだそう。モンテッソーリ教育を掲げる「吉祥寺こどもの家」の百枝義雄先生は、親が「悔しいね」と共感するだけで、子どもは負けてしまったにもかかわらず「自分の持っている感情は間違っていない」「自分の経験は間違っていない」と自信をつけると言っています。■負けを乗り越える弱い自分を受け入れることで第一段階はクリア。しかし、負けを認めるだけでは成長はありません。その後に悔しい思いを糧に努力することが大事です。将棋の世界では、負けを宣言することにはもうひとつ重要な意味があります。それは、負けを口にできる精神的強さを証明したことになり、メンタルでは勝者を上回ったと認められるということなのです。「負けることの意義」は、まさにここにあります。「負けるのはダメなことではない、強さにつながる過程なのだ」と学び、負けを恐れず積極的にチャレンジできる人になれるのです。とはいえ、子どもには少々難しいかもしれません。日本ストレスマネジメント学会事務局長である小関俊祐先生は、「いいチャレンジだったよ!」「毎日頑張っていたよね」と、結果ではなく、毎日の行動や努力を親がほめてあげることで、再び挑戦する力を身につけられると話しています。子どもが思った結果を出せなかったときこそ、日々の努力や頑張りをたくさんほめてあげましょう。競争しない教育を受けた子どもは「攻撃的な大人」になる!?逆に、「負けないこと(競争しないこと)」のデメリットはあるでしょうか。反競争的な教育は、成績に優劣をつけないことで、仲良く協働できるようになること、そして競争に惑わされずに本来の学びに集中することを目指しています。しかし、経済学者で大阪大学大学院経済学研究科教授の大竹文雄氏の研究では、「反競争的教育を受けた子どもは、利他性が低く、非協働的、攻撃的な大人になる」という驚くべき結果がでたのです。本来、人の能力には生まれながらの素質がそれぞれあり、誰しも得意・不得意がありますよね。しかし、競争をしてこなかった子どもは、「能力は誰しも平等で、努力すれば等しく向上できる」と思ってしまうのだそう。もし能力に劣った人がいると、「努力を怠ったから」と断定し、困っている人がいても、助けてあげない傾向があると言うのです。負ける悔しさや、克服する大変さを身をもって知るからこそ、人を思いやり、協働できる人間力が育まれるのだとすると、楽しいこともつらいことも含めた多様な体験こそが、子どもの将来のために何よりも必要なものなのではないでしょうか。「いい子でなきゃいけない!」と思っている子ども子どもは自分の気持ちにきちんと向き合ったり、人に伝えたり、感情をうまくコントロールしたりする術をまだ完全には身につけられていません。消化できないもやもやを分析してみると、負けを認めない子どもの心理には大きく2つ原因があるようです。要因1:生まれつきの性格生まれ持った性格は皆それぞれ。アメリカの精神科医であるトーマス博士が研究発表した「9つの気質」(活発さ・集中力・粘り強さ・環境対応力・規則正しさ・順応力・五感の敏感さ・感情表現・ベースの気性)が混じり合うことによって、子どもは、負けず嫌いの子、のんびりした子、几帳面な子などの性格になります。そして、そこに家庭環境などが影響し、“負け” をどうしても受け入れられない子が出てくるのです。要因2:親からの “いい子” プレッシャー子育て支援士の田宮由美さんによると、どんな子にも保身の気持ちはあるので、親から感情的に叱られたりすると、つい自分の負けを人のせいにしてしまうことも。また、日頃から保護者や先生に「いい子にしなさい」と言われて育つと、「いい子でいなければ受け入れてもらえない」という不安を抱くことに。「負け=悪い子」という構図ができ上がり、どうしても負けを受け入れられない気持ちになってしまうのだといいます。これらの子どもの心理には、やはり親の接し方が大きく関わってきます。注意点を2つ見てみましょう。「レジリエンス」を育むための2つの方法レジリエンスの言葉の意味は「回復力・弾力性」。心理学的には「折れない心・しなやかな強さ」という概念で使われています。つまりは「負けてもへこたれない打たれ強さ」のことで、「生きる力」には不可欠な要素。負けを恐れないレジリエンスを育むためには、どんなことが必要なのでしょうか。以下の2つは、つい「言ってしまう・やってしまう」親の対応ともいえるのでは?NPO法人ハートフルコミュニケーション代表理事の菅原裕子さんのアドバイスを参考に、ポイントをまとめてみました。■子どもを否定しない親は、子どもの気質や思考のクセをできるだけ正確に把握し、常に意識しておく必要があります。特に気をつけたいのが、ネガティブ思考に陥るときのパターン。几帳面で正義感が強い子は、ほかの子がルールを破ったりすると許せず、怒ってしまうことも。そんなときは、親がフォローしてあげましょう。ここで重要なのは、決して子どもを否定や非難してはいけないということ。子どもの気持ちを受け止めたうえで、「Aちゃんはどうしてあんなことをしたのかな?たぶん〇〇だったんじゃない?」と相手の気持ちを慮ることを促すなど、いろいろなものの見方があることに気づかせてあげるのが大事です。ひとつの考えに固執しないことに慣れていくことで、子どもの気持ちも楽になり、視野も広がっていくでしょう。■子どもを人と比べない「〇〇君には負けないで」「お兄ちゃんは一番だったんだから、あなたも頑張って」など、特定の人と比べる言葉をお子さんに投げかけてしまうと、子どもは周りの人に対して偏った競争心を持ってしまい、本来の勉強や競技に集中できなくなってしまいます。対象が身近であるほど、負けることでコンプレックスを抱えてしまうことにも。競争心は特定の人物にではなく、自分の目標に対して抱くべきものなのです。たとえば、一緒にサッカーを練習しているお友だちのほうが上手で、いつもレギュラーで試合に出ているとしたら、子どもは悔しいと思うと同時に、自分にコンプレックスを抱くでしょう。そんなとき、努力のモチベーションを、友人に対する負の思いではなく、自分に向けるべく親が誘導してあげましょう。「目標はレギュラーになること」と定め、そのための手段として「ひとつずつ技を着実に身につけること」とし、具体的なトレーニングメニューを考えます。自分のレベルアップにフォーカスするのです。そうすることで、競争心は前向きな力となります。親は、子どもの意識を他人ではなく自分の内側に向けるガイドの役割を果たすことが求められます。正しい努力をして負けたなら、子どもは負けを受け入れられるようになっているはずです。そこからたくさんのことを感じ取って、成長してくれることでしょう。***長い人生、競争を完全に避けることは不可能ですよね。大小さまざまな優劣、勝敗によって傷ついてしまうこともあるでしょう。目標は、「負けることは悪いことじゃない」と子どもが思えるようになること。負けることにへこたれない強さと、挫折をプラスに転じる力がつけば、自己肯定感も高まります。「子どもの頃にたくさん負けて人間力アップ!」という気持ちで、親子一緒にいろいろなことにチャレンジしてみましょう!(参考)STUDY HACKER|“負け”から成長できる人とできない人の決定的な差。一流営業パーソンは失敗しても〇〇を言わない。JCER 日本経済研究センター|2014年8月14日 反競争的な教育が助け合いを減らす?公益社団法人 日本将棋連盟|将棋コラム|将棋で負けた子供へはどう接すればいい?「負けました」から得られる心の成長【子供たちは将棋から何を学ぶのか】SHINGA FARM|子育てのコト|自分の過ちや失敗を「人のせい」にする子どもの心理と対応法STUDY HACKERこどもまなび☆ラボ|「おしごと」と「集中現象」とは?“親にしかできない”もっとも重要なことSTUDY HACKERこどもまなび☆ラボ|我が子はどのタイプ?個性がわかる「9つの気質」の組み合わせから、子どもを伸ばす方法が見えてくる!さぽナビ|子どものココロジー 競争心の弱い子・すぐあきらめる子STUDY HACKERこどもまなび☆ラボ|子どもの「レジリエンス」を高めるのは、親子の会話。結果ではなく“挑戦”を褒める!
2020年04月27日共働き家庭が増加し、かつ教育熱も高まっているいま、「歴史上かつてないほど、お母さんが頑張っている時代」なんてこともいわれます。そういうお母さんたちに向けて、「すでに十分に頑張っている自分を認めることが大切」と語るのは、自身が母親になったことをきっかけに絵本の世界に飛び込んだ「絵本スタイリスト®」の景山聖子さん。景山さんがおすすめするお母さん向けの絵本の紹介と併せて、頑張っているお母さんに向けてメッセージを頂きました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカット)とにかく「頑張りすぎている」いまのお母さんたちいまのお母さんたちは、とにかく「頑張りすぎている」というのがわたしの印象です。というのも、いまはすぐに「比較」できてしまう時代だからです。インターネットが浸透したいまは、いくらでも情報が手に入りますよね?とくにまだ幼い子どもがいる場合、自分のために外出することなどほとんどなく、家では基本的に子どもと過ごすことになるでしょう。そのためにインターネットでいろいろな情報に触れる機会も増えます。すると、まずは他のお母さんと自分を比べてしまう。自分の子どもの成長や自分の子育てを、他の子どもの成長ぶりや他のお母さんの子育てと比べてしまうのです。そうして、「もっと頑張らなきゃ!」というふうに思ってしまうお母さんが多いのではないでしょうか。また、その比較対象は他人ばかりではありません。自分の記憶にある、ワーキングウーマンとしてばりばり働いていた頃の自分といまの自分を比較することもあります。子育てや家事に疲れていて、仕事では勤務時間が限られていたりするためにむかしほど成果を挙げられないいまの自分とむかしの自分を比べて、「あの頃の自分は輝いていたな……」なんて考えてしまうこともあるのです。お母さん向けの絵本を読んで本当の自分の気持ちを知るそんなときに大切なのは、すでに頑張っている自分を認めてあげること。そのための助けになるような、お母さん向けの絵本がたくさんあります。たとえば、『今日』(福音館書店)という絵本もそのひとつ。これは、ニュージーランドの子育て支援施設に伝わる詩を、詩人の伊藤比呂美さんが日本語訳したものです。登場人物のお母さんは、その日、皿洗いもしなければ窓ガラスも磨かなかったし、ベッドはぐちゃぐちゃのままにしていました。そうして「わたしは今日なにもしなかった」と自己嫌悪に陥ります。でもその日、お母さんは子どもが眠るまでおっぱいをあげたり、泣きやむまで抱っこをしてあげたり、子どもとかくれんぼをして遊んであげたりしました。そうして、なにもやっていないどころか、「いちばん大切なことをしていたんだ」とお母さんは気づくのです。それこそ、共働きをしているような忙しい毎日を送っているお母さんには、ぜひ読んでほしい1冊です。また、お母さん向けの絵本には、先にお伝えしたようなインターネットなどから入ってくる情報に振り回されることなく、自分自身の子育てができるようになるという効果もあります。たとえば、のんびりした雰囲気の絵本を読んだときに、「こういう生活がいいなあ」と感じるようなら、そのお母さんには詰め込み教育のような子育ては合わず、もっとのんびりした子育てが合っているのです。たとえば、『くまくまちゃん』(ポプラ社)という絵本は、まさにそういうのんびりした雰囲気の絵本です。内容としては、ただただお母さんがしたいことがいっぱい書かれているだけのもの(笑)。この絵本にぐっとくるようなら、もっとのんびりとした子育てができるようにすることを考えるのがいいかもしれませんね。いずれにせよ、お母さんを対象にした絵本を読んで、そこから湧き上がる自分の感情をキャッチしてみましょう。そうすることで、自分がどんな子育てをしたり家庭を築いたりしたいのかということが見えてくるはずです。夫を褒めると夫自ら子育てに協力的になる!最後に、ご主人との関係についてわたしからお母さんたちにアドバイスをしておきます。多くのお母さんたちから、「夫との関係が修正できた」という感想が届いている方法です。共働き家庭が増えたとはいえ、やはり子育てや家事の中心を担うのはお母さんだという家庭が多いはず。そのため、「夫が協力してくれない」と悩んでいるお母さんも多いものです。ここでも、まずは絵本を読んでほしい。わたしからおすすめするのは、『みつけてん』(クレヨンハウス)。内容はちょっとシュールなのですが、夫婦が仲良くできていたときの愛情を思い出せて穏やかな気持ちになれるような内容です。すると、普段は忘れていたようなご主人のいいところもまた思い出せるようになる。そうして自分の心を満たしてから、ご主人に対して文句をいったり要望を伝えたりするのではなく、その思い出したご主人のすてきなところを褒めてあげてみてください。そうすると、不思議なことに、ご主人が自分からどんどん子育てや家事に協力してくれるようになるはずです(笑)。わたしが講演などを通じて出会ったお母さんたちからは、「夫が自分から皿洗いをしてくれるようになった」といった声がたくさん届いていますよ。一方で、不満は不満で吐き出すことも大切です。核家族化が進んだいま、子育てなどをめぐってご主人とぶつかっている状態では、家庭には不満を吐き出す場所がありません。ですから、ママ友同士のつながりが大切なのです。イライラしたり怒りを感じたりしてしまうのは、人間だから当然です。そういう自分を「駄目な自分」というふうに決めつけるのではなく、「人間とはそういうものだ」ととらえ、ママ友の集まりの場に積極的に参加してイライラなどを吐き出すようにしましょう。それが、結果的には家庭円満につながるのです。『子育ての悩みには“絵本”が効く!! ママが楽になる絵本レシピ31』景山聖子 著/小学館(2018)■ 絵本スタイリスト®・景山聖子さん インタビュー記事一覧第1回:「絵本の読み聞かせ」から、子どもが学ぶもの。そして、親が手に入れるもの。第2回:「勉強が勉強でなくなる」のが絵本の魅力! でも「勉強のつもり」で読み聞かせてはダメ第3回:「上手に読んであげて、感想を聞く」のは絶対に避けて。絵本の読み聞かせの鉄則です第4回:「もっと頑張らなきゃ」と自己嫌悪に陥りがちな母親たちに、励ましをくれる絵本の存在■景山聖子さん連載『絵本よみきかせコーチング』記事一覧【プロフィール】景山聖子(かげやま・せいこ)群馬県出身。絵本スタイリスト®。群馬テレビアナウンサーを経て上京し、TBS、テレビ朝日、日本テレビ等で報道番組などのリポーターを務めたのち、ナレーターへ転身。NHKラジオの朗読番組『私の本棚』などを担当する。一児の母となると同時に、絵本の世界に魅せられ、2013年に(社)JAPAN絵本よみきかせ協会を設立し、代表理事に就任。ボランティア認定資格講座には全国から人が集まり、公共施設やカルチャーなどの「よみきかせ講師」も多数育成。現在は、絵本を介しての子育てに関する講演活動を行うほか、パナソニック読み聞かせ機能搭載ライトのアドバイザーやカルピス読み聞かせ隊のサポーターに就任。アカチャンホンポ・ピジョン保育士の全国社員研修なども担当。NHK総合テレビで絵本の朗読も行う。園や小学校での絵本の読み聞かせも続け、絵本の持つ力を広めるために精力的に活動している。主な著書に、『今日から使える読み聞かせテクニック』(ヤマハミュージックメディア)、(『子育ての悩みには“絵本”が効く!! ママが楽になる絵本レシピ31』(小学館)、『子どもが夢中になる 絵本の読み聞かせ方』(廣済堂出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年04月24日文章に出てくる数字を並べて適当に計算をするだけでは、絶対に正解にたどり着けない――。算数嫌いな子どもたちが、とくに苦手としているもののひとつが「文章題」ではないでしょうか。では、どうすれば文章題に対する子どもの苦手意識をなくせるのでしょうか。算数に特化した学習塾「RISU」の代表である今木智隆先生は、「読み解き、考える」ことをキーワードに挙げてくれました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)文章題が、大人になったときの問題解決能力を育む算数という教科には、「積み上げ型」という特性があります。足し算、引き算、掛け算、割り算のどれかの理解が足りなければ――つまり、それらが積み上げられていなければ、あらゆる要素が含まれてくる四則混合計算の問題を解くことはできません。そうして、重要な要素が抜け落ちたままで先に進むと、理解できないことが増えて算数がどんどん苦手になるのです(インタビュー第1回参照)。しかも、学年が上がるにつれて単元の内容や問題自体が次第に複雑化していき、中学以降の数学になれば変数なども読み解かなければならない。この「読み解く」ということが、文章題を語るうえでのキーワードです。文章題は、それこそ内容を読み解いて考えなければ正解にたどり着くことができない問題です。つまり、小学校の算数で文章題を読み解くことができなければ、読み解かなければならない要素がどんどん増えていくその後の数学、あるいは物理はまともにできないということになるでしょう。そうなると、ロケット開発に携わるといった子どもが持つ夢を叶えることは難しくなります。ただ、同じ理系の科目でも、化学には比較的暗記や実験が重視される側面があります。理系の科目のなかにも、化学のように暗記と実験の要素が強いものと、物理のように数学的要素が極めて強いものというちがいがあるのです。そういう意味では、小学生の頃から文章題が苦手なままだと、将来のいくつかの選択肢がそぎ落とされるということがいえるかもしれません。そのように将来の可能性を狭めないためということの他に、子どもたちには文章題を得意になってほしいとわたしが考える理由があります。それは、文章題を解くという行為が汎用性の高い力を身につけるからです。なにかを読み解いて考えるという行為は、あらゆる問題を解決するプロセスの基本中の基本ですよね。この力は、将来さまざまな場面で役立ってくれます。もちろん、算数の文章題ができない人のすべてが社会に出たときに力を発揮できないというわけではありません。でも、文章題によって問題解決能力を高められれば、それだけ社会で活躍できる可能性も広がると思うのです。「文章題といえない文章題」では読み解く力は育たないでは、どうすれば文章題が苦手ではなくなるのでしょうか?ここで、小学生向けの少しひねった例題を紹介しましょう。【問い】A君はボールを2個、B君はボールを3個、C君はボールを4個持っています。B君とC君のボールを合わせるといくつになるでしょうか?大人のみなさんなら簡単でしょう。B君の3個とC君の4個を足して「3+4=7」となるので、答えは「7個」です。ところが、子どもたちのなかにはA君の2個も足して「9個」と答える子も少なくありません。というのも、公立校で使われる教科書にもそれに準拠した一般的な教材にも、こういった少しひねった問題がほとんど出てこないからです。「足し算」の単元で習った計算問題のように、出てくる数字を頭から足していけばいいと子どもたちは思っているわけです。本来、文章題というのは、文章をきちんと読み解いて考えなければ式を立てられない問題である必要があります。でも、なにも考えず頭からただ数字を足せばいいといった、本当の意味では文章題とはいえないような文章題でも形式的には文章題に見えます。そのため、そのような問題であっても正解すると、「僕は文章題が得意だ」と子どもは勘違いしてしまう。でも、そのままでは、ひねった応用問題に対応するために必要な、読み解いて考える習慣が身につきません。メリットが多い「算数検定」の問題集がおすすめ大切なのは、読み解いて考える習慣を身につけること。そして、そういう習慣を身につけられる、いわゆる「良問」をたくさん解いていくことが重要です。そういったことを前提に、子どものために良問が多い教材を選んであげましょう。わたしが代表を務める「RISU」のタブレット教材もおすすめしたいのですが、他にわたしがおすすめするのは、「算数検定」の問題集。受験者のあいだに差をつけられなければ検定になりません。ですから、算数検定には、本当に力がある子とそうでない子にきちんと差をつけられるような良問が多いのです。また、算数検定の問題集には、実力診断にもなって子ども自身が得意な単元や苦手な単元を把握することもできる、あるいは、算数が得意な子どもなら飛び級でレベルの高い問題に挑戦できるというメリットもあります。文章題の苦手を克服するということ以外にも有意義なものですから、算数検定の問題集を子どもに与えてみてはどうでしょうか。『10億件の学習データが教える 理系が得意な子の育て方』今木智隆 著/文響社(2019)■ 算数塾「RISU」代表・今木智隆先生 インタビュー記事一覧第1回:子どもを「算数嫌い」にしない大原則。幼児期からできる“算数好きの基礎”の築き方第2回:子どもが勉強で成果を出せないのは、親の「勘違い」が原因かもしれない第3回:10億件のデータを調べてわかった、小学生が「ずば抜けて苦手」な算数の単元と例題第4回:「算数の文章題が苦手」な子どもが、ひねった応用問題でも解けるようになる教育法【プロフィール】今木智隆(いまき・ともたか)RISU Japan株式会社代表取締役。京都大学大学院エネルギー科学研究科修了後、ユーザー行動調査・デジタルマーケティング専門特化型コンサルティングファームの株式会社beBitに入社。金融、消費財、小売流通領域クライアント等にコンサルティングサービスを提供し、2012年より同社国内コンサルティングサービス統括責任者に就任。2014年、RISU Japan株式会社を設立。タブレットを利用した小学生の算数の学習教材で、延べ10億件のデータを収集し、より学習効果の高いカリキュラムや指導法を考案。国内はもちろん、シリコンバレーのハイレベルなアフタースクール等からも算数やAIの基礎を学びたいとオファーが殺到している。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年04月23日