シェアしたくなる法律相談所がお届けする新着記事一覧 (12/28)
*画像はイメージです:先日ある大食いタレントが、自身のブログで食べ放題の焼肉店から「出入り禁止」を告げられたことを明かし、賛否両論となりました。店としては食べ放題といえども1人に多くの肉を食べられては採算が取れないという判断からそのような行為に出たものと思われるだけに、理解を示す人もいるようです。一方で「食べ放題なんだからいくら食べてもいいじゃないか」「出入り禁止はやり過ぎ」など、批判の声も根強い状況です。このように食べ放題を謳う店舗が「よく食べるから」という理由で特定の客を「出入り禁止」にすることは許されるのでしょうか?エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解を伺いました。 ■食べ放題店での「出入り禁止」は合法?「“食べ放題”、“飲み放題”と並ぶこれら魅惑の言葉に、胸の高鳴りを禁じ得ないのは私だけでしょうか。さて早速解説ですが、“食べ放題”に限らず、そもそも飲食店に入店するのは、飲食物供給契約を締結することの申込みに当たると考えられます。お店には契約を締結する事由、言い換えるとどの客を立ち入らせ、どの客の立入を断るかの裁量があるので、特定の客を出入り禁止にすること自体が違法になることは考えられません。ただし、お店の社会的評価を考えると、少なくとも出禁にするためには、出禁にするだけの合理的な理由まで必要になると思われます。では、合理的な理由とはどういったものが考えられるでしょうか。たとえば、一定の属性に基づいて差別的な選択をしているような場合、例えば、特に理由もなく特定の宗教を信仰している人について一律に入店を断る場合や、人種や民族、性別等により入店を断るような場合には、合理的な理由なく入店を拒否するものと考えられ、入店拒絶行為が客に対して精神的損害を与えたとして、不法行為(民法709条)などの責任を生じさせる可能性があります。ここで、“食べすぎること”が合理的な理由にあたるかが問題になるところ、食べ放題は基本的に“フードファイターのようなプロまたはプロに準ずる大食いではない一般人”が来店することを前提に料金設定がされていると思われます。その意味では、今回のプロの大食い選手や、一般人の何倍も食べる相撲の力士などが来店して大量に食事をされると、採算が取れなくなってしまうため、そのような客をあらかじめ一律に断ることには合理的な理由があるといえそうです。そのため、食べ放題の店で一般人をはるかに超える量を食べる大食いの人をあらかじめ出禁にすることは合理的な制限として社会的にも許容されると言えそうです。なお、あらかじめプロのフードファイターなどについては入店をお断りする旨の告知をしていたにもかかわらず、それを秘して来店したような客に対しては、大食いでないことが飲食物提供契約の前提となっているため、錯誤無効(民法95条)や、客の言動次第では詐欺取消し(同96条1項)などを主張して、飲食物提供契約を解消し、その場で退店するよう求めることもできると考えられます。私は学生時代、昼食はカツ丼大盛りとラーメン、食後にアイスを食べてようやく腹八分でしたが、今ではすっかり胃袋も縮んでしまいました。とはいえ、特に金曜日の夜になると、ついつい飲み放題の看板に惹かれてしまったりします。食べると飲むが放題でも、油断をすれば健康だって壊し放題。“~放題”の文字に目がくらむことなく、健康第一で食べ放題ライフを楽しみましょう」(大達弁護士) 客の立ち入りについては店側の裁量に任せるため、特定の客を「出入り禁止」にしたとしても、違法にはなりえないとのこと。ただし、社会的通念上、「合理的な理由」が求められるようです。そして、大食い番組などに出演するフードファイターと呼ばれる人々や、力士など、食べ放題店で大量に飲食することが予想される人物を出入り禁止にすることは、「合理的な理由」に該当する可能性が高いとのこと。当然といえば当然ですが、やはり店側の都合も考えねばならないようですね。 *取材対応弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)【画像】イメージです*hungryworks / PIXTA(ピクスタ)
2018年02月15日*画像はイメージです:月31日、会社経営者の男性がGoogleで自分の名前を検索すると振り込め詐欺事件の逮捕歴が出るとして、結果の削除を求めていた裁判で、最高裁が上告を受理しない決定をしたことが判明。これにより、一審・二審の請求棄却判決が確定。男性は敗訴することに。なお二審で東京地裁は棄却理由について、「振り込め詐欺に対する社会的関心は高く、事件で男性の果たした役割は決して小さくはない」と指摘。執行猶予から6年が経過している状態だとしても、逮捕情報を公開する必要性を否定できないとしました。 ■削除要求が認められたこともあったはずだが検索サイトに自分にとって不利益な情報が掲載された場合、男性のように、裁判所に削除を求め訴えるケースが増加。中には要求が認められたこともありました。削除要求が認められるか否かの基準は一体どこにあるのか。また、今回の判決について弁護士はどのような見解をもっているのでしょうか。法律事務所アルシエンの清水陽平弁護士に、ご意見を伺いました。 ■弁護士は今回の判決をどう見た?「犯罪報道の削除については、最決平成29年1月31日が基準を示しています。「検索事業者が,ある者に関する条件による検索の求めに応じ,その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは,当該事実の性質及び内容,当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度,その者の社会的地位や影響力,上記記事等の目的や意義,上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,上記記事等において当該事実を記載する必要性など,当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので,その結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当」 この基準によれば、逮捕歴の削除が認められる余地がほぼないということになります。そのため、上告を認めなかったことも当然という結論になるかと思われます。もっとも、この結論がよいかというと、全くそんなことはなく、変える必要があると考えています。この決定は、実際上、「犯罪者はずっと晒しておけ」といっているに等しい内容であり、これは私刑を容認しているのと同義です。そのため、少なくとも一定程度の時間が経過しているものについては削除を認めることができるような基準を定立すること、少なくとも運用においてそのようなあてはめをするようなことを裁判所がしていくことが必要と考えます」(清水弁護士) 削除基準については明確なものがあるようですが、法律が現状に追いついているとはいえないようです。今後、時代にあった法律が定立されることを期待したいものです。 *取材協力弁護士:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)【画像】イメージです*Snipergraphics / Shutterstock
2018年02月14日*画像はイメージです:先日、インターネット上の掲示板に「妊娠中に突然夫から“性格の不一致で離婚したい”と告げられた。私は離婚したくないのだが、どうすればわからない」という相談の書き込みがありました。夫は浮気をしているようで、離婚を口にしていますが、現在は子どもがいて、妊娠もしているようです。子どもがいながら、「性格の不一致」と称して浮気を隠し離婚を迫るという行為に、「無責任だ」「妻はバカにされているのでは」批判の声が集中しています。 ■妊娠中に「性格の不一致」で離婚はあり?夫の行動については賛否両論ありますが、妻としては身籠った状態で離婚を告げられるのは、厳しいものがあるでしょう。将来のことを考えると、やはり離婚は避けたいもの。そもそもこのような「性格の不一致」による離婚は、認められるのでしょうか?また、「妊娠中」であることは、考慮されるのか。離婚問題に詳しい高島総合法律事務所の理崎智英弁護士に見解を伺いました。 ■離婚事由として認められる?「離婚事由として認められるのは、不貞行為や配偶者からの暴力その他“婚姻を継続し難い重大な事由”です。性格の不一致があるというだけでは“婚姻を継続し難い重大な事由”には該当しないため、離婚事由としては認められません。性格の不一致によって夫婦関係がもはや修復不可能な状態(長期間別居している、同居していても長期間会話や性交渉が一切ない等)にまで至っている場合に初めて離婚事由として認められるに過ぎません」(理崎弁護士) ■妊娠中であることは考慮する要素になる?「性格の不一致は原則として離婚事由とはならないため、妻が拒否している限り夫からの離婚請求は認められません。妻が離婚を拒否することは当然の権利行使なので、妻が離婚を拒否しているという事実をもって離婚事由が認められることにはなりません。なお、妊娠中であることが離婚を決める場合に考慮する要素となるか否かという点については妻が妊娠中であることは離婚を制限する事由として考慮されることになります」(理崎弁護士) 性格の不一致では夫婦関係が修復不可能な状態と認められない限り、離婚事由とはなりえないとのこと。一方が拒否している場合、離婚することは難しいようです。子を持つということは、親に責任が発生します。妊娠中の浮気や離婚は、やはり無責任な行為といわざるをえないでしょう。一時の感情だけでは、離婚することは難しいということも、結婚前にしっかりと把握しておくべきかもしれません。 *取材対応弁護士: 理崎智英(高島総合法律事務所。離婚、男女問題、遺産相続、借金問題(破産、民事再生等)を多数取り扱っている。)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*sasaki106 / PIXTA(ピクスタ)
2018年02月13日*画像はイメージです:配偶者ゲームやスマホばかりいじっていて家事や育児に全く協力しないというケースに苦しんでいる方はいないでしょうか?あまりにも非協力的であれば、離婚も考えるのではないかと思います。今回は、上記のようなケースで離婚が成立するのかについて紹介します。 ■ゲームやスマホだけでは難しい離婚請求が認められるためには、「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)が必要ですが、単に、ゲームやスマホばかりいじっているというだけでは、「婚姻を継続し難い重大な事由」は認められません。「婚姻を継続し難い重大な事由」がある場合とは、夫婦関係が崩壊していて、もはや修復不可能な状態に至っているような場合です。この点、配偶者がゲームやスマホばかりして家事や育児に全く協力しない場合であっても、夫婦が同居していて、夫婦間に会話があるような場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由」があるとはいえないので、離婚請求は認められません。 ■程度が過ぎれば認められることも一方で、ネットゲームで多額の課金をしていて、十分な金額の生活費を家に入れないといった状態が長期間続いてるような場合や、ゲームに没頭しすぎて会話が一切ないといった場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由」があるとして、妻離婚請求が認められる可能性はあると考えます。ゲームやスマホばかりしていることを理由に離婚できるかどうかは、それによって夫婦関係が崩壊し、修復不可能な状態に至っているかがポイントとなります。 *著者: 理崎智英(高島総合法律事務所。離婚、男女問題、遺産相続、借金問題(破産、民事再生等)を多数取り扱っている。)【画像】イメージです*よっしー / PIXTA(ピクスタ)
2018年02月10日*画像はイメージです:意外と多い男女間での隠し事。とくに「人の過去」は、知られたくないことも多く、相手に告げず伏せておくこともあります。好きだからこそ、過去を隠匿しておきたいと考えるのは、自然なことかもしれません。 ■婚歴を隠すケースもそんな「隠したい過去」の1つが、離婚歴。「バツがついている人との結婚は嫌」という人も多く、初婚ということにしてつきあい、婚約するケースもあるのだそう。しかし、最近は情報化社会であるだけに、婚約後すぐに婚歴がバレてしまうことが多々あります。そのような場合、事実を知った側はショックを受けてしまい、最悪婚約破棄を考えることになるでしょう。そのような場合、破棄事由として認められるのか。エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に解説して頂きました。 ■婚約破棄できる?「未婚だと思っていた交際相手に離婚歴があったことが発覚した場合、騙されたと感じる人は少なくないと思います。婚約していた場合には、なおさらそのように感じてしまうのも無理はありません。しかし、婚約は婚姻の予約であり婚姻状態にはないことから、法律上は何らの規定もありません。この場合、婚約の破棄は無制限にできるのでしょうか。この点について、裁判所は、男女間の一般的な交際にとどまらず、いわゆる婚約をしているといえる場合には、婚約当事者に対して一定の法的保護を与えています。いかなる状態が婚約に該当するかについては一義的に決まるわけではないので、別の機会に譲りますが、具体的には、婚約が正当な理由なく破棄された場合には、慰謝料等の損害賠償を相手方に請求できることになります(最高裁昭和38年12月20日判決参照)。これは、裏を返すと、正当な理由がある場合には慰謝料等を支払うことなく婚約の破棄ができる、ということでもあると理解できます」(大達弁護士) ■正当な理由になるのか?「では、未婚だと偽っていた相手に離婚歴があったという事情は、婚約を破棄する上で“正当な理由”といえるでしょうか。この点について、直接判示した裁判例は見当たりませんが、今後婚姻をすることが社会通念上困難な状態であるといえる場合には、「正当な理由」があると考えられます。具体的には、不貞行為、重要な事実について虚偽がある、経済状態の極度な悪化、暴力・暴言、社会常識を相当程度に逸脱した言動などが挙げられます。今回のように、婚約相手に離婚歴があったという事情のみでは、今後婚姻をするのに支障が生じるほどの重要な事実について虚偽があったとは言い難いように思われます。例えば、前妻との間に子どもがおり、多額の養育費等を負担しているなどの事情がない限りは、婚約破棄の正当事由があるとは認められにくいのではないでしょうか。もっとも、交際や婚約の条件として、離婚歴のないことを相手方に明示しており、それに応じて離婚歴がないと宣言していたような場合には、重要な事実に虚偽があるといえ、婚約破棄について正当な理由があるとされる可能性もあるかもしれません」(大達弁護士) ■婚姻後だったら?「なお、婚姻後に離婚歴の存在が発覚した場合には、離婚歴を偽っていたことを捉え、詐欺による婚姻取り消し(民法747条1項)をするということも考えられますが、これは詐欺によって、婚姻に重要な事実の錯誤が生じることまで必要があるため、婚約破棄の場合と同様、離婚歴のないことが当事者にとって重要な事実であるといえる場合に限って、取り消しが認められる可能性があると思われます。仮にそのような場合であっても、離婚歴があることを知ったときから3ヶ月以内に婚姻の取り消しをする必要がありますので、注意が必要です(同条2項)。婚姻は人生の一大事。大切な伴侶には隠し事なくお付き合いをしたいもの。寒風吹きすさんでおでんの美味しい季節ですが、こんにゃくも婚約も愛情たっぷりの出汁の中でじっくりと育て、味のある二人になって欲しいものです」(大達弁護士) 婚歴を隠した人としては、なにか理由があったのでしょうが、伏せておいた事実はいずれ発覚するもの。打ち明けられた側が未婚にこだわりを持っていた場合は、法的に破棄事由として認められる可能性が高まりますので、やはり事前に説明したほうが良いかもしれません。 *取材対応弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*【Tig.】Tokyo image groups / PIXTA(ピクスタ)
2018年02月06日*画像はイメージです:先日、ある女性が掲示板に、「いつも行くメガネ屋の店長が帰りにさりげなく肩を揉んでくるのが不愉快」という内容の書き込みを行ったことが話題となりました。女性は「接客上肩を揉む必要はない」「下心があるのではないか」と感じているそう。この書き込みに対し、ネットユーザーからは「セクハラで訴えればいいのではないか」という声があがっています。 ■線引きが難しいセクハラセクハラについてはその線引きが難しく、たびたび議論になっています。一般的には「女性が不愉快と感じたら該当」という定義のようで、それと照らし合わせると、店長の行動は、セクハラになるものと思われます。しかし、店長が「無意識」や「スキンシップ」の可能性もあり、男性としてはそのような指摘にビックリしてしまうかもしれません。セクハラの線引きや境界線は法律的にどのようになっているのか。また、この店長の行動は該当するのか。パロス法律事務所の櫻町直樹弁護士に見解をお伺いしました。 ■セクハラの線引きは?「セクシュアルハラスメントという表現は、今日においては生活の色々な面で耳にしたり、あるいは目にしたりしますが、法律による規制がされているのは、職場(あるいはそれに準じる場所・機会)における行為であり、セクシュアルハラスメントという表現から一般的に想定されるものよりは、限定的であるといえます。具体的には、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(いわゆる“男女雇用機会均等法”)において、 「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」 と規定されています(同法11条1項)。そして、これを受けて、厚生労働省から“事業主が職場における性的言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針”という告示が出されています。また、日本の裁判において初めて“セクシュアルハラスメント”という表現が使われたのは、静岡地裁沼津支部平成2年12月20日判決(判タ745号238頁)とされています。この裁判では、ホテルの女性従業員が男性上司の運転する車に同乗して帰宅中、当該上司が従業員に対して“モーテルに行こうよ。裸をみせてよ。”と言い、原告がこれをはっきりと断ったにもかかわらず、自動車をモーテルのある方向に向けて走らせ、あるモーテルの前で車をとめて、原告の腰の辺をさわり、“いい勉強になるから入ろう。”と、執拗に誘った。“執拗にキスをくりかえし、路側帯に車を停め、又執拗にキスをくり返した。”などの行為をし、こうした行為について、従業員から“オートロックで走行している自動車内にあって逃げ出せない状態の原告の意思を無視し、かつ、上司である立場を最大限利用して、脅迫のうえ行われたものであるから、刑法の強制わいせつ罪に該当する犯罪行為であり、かつ、セクシュアル・ハラスメントの典型行為でもあり、民法七〇九条の不法行為に該当する。”との主張がされました。また、福岡地裁平成4年4月16日判決(判タ783号60頁)では、セクシュアルハラスメントという表現は用いられていないものの、「被告丙が、被告会社の職場又は被告会社の社外ではあるが職務に関連する場において、原告又は職場の関係者に対し、原告の個人的な性生活や性向を窺わせる事項について発言を行い、その結果、原告を職場に居づらくさせる状況を作り出し、しかも、右状況の出現について意図していたか、又は少なくとも予見していた場合には、それは、原告の人格を損なってその感情を害し、原告にとって働きやすい職場環境のなかで働く利益を害するものであるから、同被告は原告に対して民法七〇九条の不法行為責任を負う」と述べ、職場における性的な言動が不法行為となり得るという裁判所の判断が示されました。したがって、「メガネ屋の男性店長がやたらと肩をもんでくる」という行為は、職場における関係を前提としたものではありませんので、上記のような意味でのセクシュアルハラスメントには該当しないものといえるのではないかと思います。もっとも、「意思に反して身体に触られる」という行為については、乳房や臀部等の「触られたら性的に羞恥心を感じるのが通常」といえる部位に触られた場合、「性的自由の侵害」として行為者に民事上の損害賠償責任が発生する可能性があります。ただ、本件の場合は、「肩」であり、「触られたら性的に羞恥心を感じるのが通常」とは言い難い部位を数回揉まれたということですが、よほど長時間にわたってしつこく揉まれる、頻繁に行われるといった、社会通念上許容できる限度を超えていると認めらるような事情がない場合には、損害賠償責任が認められる可能性は低いのではないかと思われます」(櫻町弁護士) セクハラについては事案・状況・場所などを総合的に判断し、該当するか否かが決まるよう。上司など立場の強いものからのセクハラは、なかなか人に相談できず、エスカレートすることもあります。仮に「相談できる人がいない」「困っている」という場合は、弁護士に相談してみるのも、1つの手段です。 *取材協力弁護士:櫻町直樹(パロス法律事務所。弁護士として仕事をしていく上でのモットーとしているのは、英国の経済学者アルフレッド・マーシャルが語った、「冷静な思考力(頭脳)を持ち、しかし温かい心を兼ね備えて(cool heads but warm hearts)」です。)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*aijiro / PIXTA(ピクスタ)
2018年02月05日*画像はイメージです:月5日、福島県須賀川市の東北自動車道で、茨城県石岡市に住む80歳の男性が運転する乗用車が逆走。青森県弘前市に住む40代の男性が運転する大型トラックと衝突する事故が発生しました。このような高速道路の逆走事故は昨今頻発しており、昨年12月には、勤続24年のベテランバス運転士が、客にミスを指摘されたことをきっかけに、高速道路を逆走した事案も起きています。高齢者でなく、その道のプロでも、パニックに陥ると、逆走してしまうことがあるよう。運転免許証を持つ誰もが、経験する可能性を持っているといえます。 ■どんな罪になる?高速道路を逆走した場合どのような罪になるのでしょうか。まず、逆走したのみで事故に至らなかった場合ですが、道交法第十七条違反となり、9,000円以下の罰金と違反点数2点となります。車両は、歩道又は路側帯(以下この条において「歩道等」という。)と車道の区別のある道路においては、車道を通行しなければならない。ただし、道路外の施設又は場所に出入するためやむを得ない場合において歩道等を横断するとき、又は第四十七条第三項若しくは第四十八条の規定により歩道等で停車し、若しくは駐車するため必要な限度において歩道等を通行するときは、この限りでない。(道交法第十七条)現行の法律では「高速道路を逆走すること」について直接的に罰する法律はなく、改正すべきではないか、という声があがっています。 ■事故を起こした場合は?高速道路を逆走し、事故を起こした場合はどうなるのでしょうか?この場合は、自動車運転死傷行為処罰法(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)の「危険運転致死傷罪」となる可能性があります。この場合、1年以上20年以下の懲役。かなり重い罪が科せられます。また、民事での損害賠償金についても、高速道路の逆走が原因である場合は、100%加害者の責任となり、高額化します。普通に運転していれば逆走はありえませんが、走り慣れていない場所や、何らかのトラブルによって知らぬ間にそのような状態になってしまう可能性は、ゼロではありません。逆走をしないよう、十分注意して高速道路を走りましょう。 *記事監修弁護士:弁護士 小野智彦(銀座ウィザード法律事務所。浜松市出身。エンターテイメント法、離婚、相続、交通事故、少年事件を得意とする。)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*たわばう / PIXTA(ピクスタ)
2018年02月03日*画像はイメージです:プロ野球選手が匿名掲示板で妻の悪口を書いたことで、名誉が侵害されたとして損害賠償を求めたことが話題になっています。匿名であればバレないと考えている人もいるかもしれませんが、実際には悪口を書かれた側がなんらかの理由で書き込みをした人を特定しようとしていないだけで、書き込んだ人を特定できるケースが多いです。今回は、どのように特定をするのか解説してみたいと思います。 ■匿名の書き込み者をどのように特定するのか書込みをした者を特定するためには、基本的には以下の2つのステップを経る必要があります。 (1)書込みをされたにサイトの管理者(管理会社)にIPアドレス等の開示をしてもらう(2)開示されたIPアドレス等の情報をもとに、プロバイダに対して契約者の情報を開示してもらう サイトの管理者というのは、たとえばヤフー知恵袋であればヤフー、アメーバブログであればサイバーエージェントといったところです。プロバイダというのは、OCNやSo-net、エキサイト、ドコモ、KDDI、ソフトバンクなどです。IPアドレスはインターネット上の住所などといわれることがありますが、IPアドレスから分かるのは、せいぜいどのプロバイダが使われているのかということくらいであり、これだけで個人の特定ができるわけではありません。そこで、プロバイダに対して、そのIPアドレスをいつ誰に割り振っていたのかということを調査してもらうことではじめて、誰が契約しているのかが分かる仕組みになっています。ただし、特定するためには通信記録(ログ)が残っていることが必要です。ログの保存については法律上決まりがなく、各社の判断になっていますが、3ヶ月程度(長いと6ヶ月程度)しか保存がされていないことが一般的です。したがって、その間に、少なくとも(2)のプロバイダへの開示請求まで辿り着かないと、書き込んだ人を特定することはできないということになります。 ■権利侵害があると開示請求や損害賠償が認められる開示請求や損害賠償請求が認められるためには、権利侵害があるといえることが必要です。そのためには、 (1)その書込みが「現実の自分」に対してされているものかが分かること(2)書込み内容が名誉権やプライバシー権、名誉感情等の権利を侵害するものであること、(3)侵害について違法性がないといえるような事情がないこと といった点を満たしていることが必要です。名誉権とは、社会的評価のことであり、この低下があると名誉権侵害となります。しばしば、名誉感情と混同されていることもありますが、名誉感情は自分が自分について持っている評価についてのものであり、社会的評価という外部からの評価とは異なるものです。プライバシーは、私生活上の事実または事実らしく受け取られるものが当たるとされます。たとえば、不倫をしているという指摘を受けた場合には、それが本当か嘘かにかかわらず、一般的に不倫は良くないこととされているため、社会的評価の低下があるといえます。また、不倫は私生活上のことであるため、プライバシー権侵害にもなり得ますし、自己評価についての侵害にもなり得るため、名誉感情侵害とも言い得ます。違法性がないといえるかどうかについては、侵害された権利によってその要件が異なります。名誉権侵害については、公共性、公益目的、真実性があれば違法性がないとされます。不倫が真実であれば、違法性がないという余地があるということになります。プライバシー権侵害や名誉感情侵害については、受忍限度を超えるかどうかという観点から判断されることが多く、不倫が真実であるとしても、これを公表するべき正当な理由があるといえるかどうかなど種々の事情を検討することになります。 *著者:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)【画像】イメージです*icsnap / Shutterstock
2018年01月31日*画像はイメージです:配偶者が自分以外の異性とデートをしていることが発覚した……という方はいませんか?食事をしていただけであれば許せる方が多いかと思いますが、実際に何をしていたかがわからず疑心暗鬼に陥るケースも少なくありません。そこで今回は、デートをしていることを根拠に離婚は認められるのか、慰謝料は請求できるのかなど、法的にはどのように扱われているのか、解説します。 ■デートは不貞にならないまず、デートが不貞になるのかですが、結論からいうとデートしただけでは不貞とは認められません。不貞行為について、具体的な内容は民法には全く書かれていませんが、大まかな内容は、最高裁判所の判例に示されています。その判例では、「配偶者のある者が、自由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」が不貞行為であると定義されています。相手方の自由な意思に基づくものであるかどうかは問いませんので、相手方を強姦した場合も、配偶者が不貞行為をしたことになります(最高裁昭和48年11月15日判決)当然ながらデートをしただけでは性的関係を結んだことにはなりませんので、「配偶者に不貞な行為があったとき」には該当せず、不貞とみなされることはありえないのです(上記判例が変更されない限りは、ですが)。 それでは、デートが原因で離婚は成立するのでしょうか?これは、デートを理由に離婚話をまとめられるのかという点と、デートが離婚原因に該当するかという点を分けて考える必要があります。 ■話し合いで合意できれば離婚は成立そもそも話し合いでの離婚(協議離婚・調停離婚)では、離婚原因は必要ありません。たとえば、あなたが「他の女とデートするなんて許せない!別れて!」と言って、夫がそれに合意するのなら、それだけで離婚は成立します。ですから、「離婚原因にならないなら離婚を請求してもしょうがない」というわけでは全くありません。夫が離婚に応じるように色々と策を講じつつ交渉すればよいのです。 ■裁判では離婚原因が必要しかし、頑として夫が合意しない場合には、デートが離婚原因に該当するのかが問題になってきます。もし離婚原因になるのなら、夫が拒否していても裁判離婚を認めてもらえるからです。ところで、民法上の一般的な離婚原因として「婚姻を継続し難い重大な事由」というものがあり、デートが離婚原因にもし該当するのなら、これしかありません。しかし、「婚姻を継続し難い重大な事由」というのは婚姻関係が破綻して回復の見込みがないことを意味しており、とりわけ客観的婚姻破綻(=別居)の事実が重視されます。そのため、デートがこれに該当するというのは、かなり無理があります。 ■デートでも例外はあるとはいっても、デートが常識外れに親密であったり高頻度であったりする場合には、「これだけ親密なのであれば、(はっきりとした証拠はないが)常識的に考えて不貞行為があってもおかしくはない」、「正常な夫婦関係を継続する意思がないのだろう」と裁判官に判断してもらえる可能性もなくはありません。そうなると、離婚を認める判決を書いてくれるかどうかは正直微妙でも、離婚に応じるよう相手方を説得してくれる可能性はありえます。 ■慰謝料についてこれとは別に不倫慰謝料請求の場面でも、不貞行為の有無が問題になります。理屈上、不貞行為は不倫慰謝料請求の必須要件ではありませんが、事実上、肉体関係を証明できなければ慰謝料はほとんど認められないからです。もっとも、度を越した親密な交際があったこと等を証明できれば、慰謝料が認められる余地が出てきます。親密な交際が肉体関係の存在を推測させたり、配偶者としてのあなたの地位を積極的に害する意思があることを推測させたりするからです。 *著者:弁護士 近藤美香(秋葉原よすが法律事務所。家事事件を専門的に取り扱い、500件以上の家事事件を取り扱った経験を持つ。JADP認定の夫婦カウンセラーの資格を保持している。)【画像】イメージです* Antonio Guillem / Shutterstock
2018年01月28日郵便や配送物は、「正しく届けられて当たり前」と考えている人がほとんどでしょう。しかし、人間が関わる以上、誤配送されることもあります。他人宛の荷物が自分に届いた場合、速やかに業者に返さねばなりません。ところが、中には「これ自分も欲しかったんだよな。バレなければいいか」と、着服したくなってしまう人もいるはず。仮にそのような行為に出た場合、どのような罪になるのでしょうか? Q.誤送された荷物を返さずに着服……どのような罪になる?*画像はイメージです:遺失物横領罪になる可能性があります。刑法253条と254条に以下のような条文があります。第二百五十三条業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。(遺失物等横領)第二百五十四条遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。(準用) 他人の郵便物や荷物を自分のものにしてしまう、勝手に捨てるなどすることは、上記の法律に抵触する犯罪行為になります。法律に詳しい人なら「わかっていること」ではあるのですが、故意でなく「忙しくて誤送された荷物を放置してしまう」ことはよくあることかもしれません。このような場合、故意でないことを証明せねばなりませんが、「言い訳なのではないか」と取られることもあり、なかなか難しいようです。不要な前科をつけない意味でも、誤送された荷物は速やかに業者に返すようにしましょう。 *記事監修弁護士:弁護士 小野智彦(銀座ウィザード法律事務所。浜松市出身。エンターテイメント法、離婚、相続、交通事故、少年事件を得意とする。)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*Graphs / PIXTA(ピクスタ)
2018年01月27日*画像はイメージです:今月22日、東京都心でも4年ぶりに大雪が降り、各種交通機関では入場規制や大幅な遅延が発生するなど、混乱が発生しました。普段雪の降らない地域に住んでいる人は、慣れない雪に困惑したのではないでしょうか。また、街中では冬用タイヤを用いていない車も散見されました。ですが、積雪・凍結している道路を夏用タイヤで走行することは法令違反になる可能性もあるのです。 ■どのような罰則があるのか道路交通法には、その71条で「車両等の運転者は、次ぎに掲げる事項を守らなければならない。」とし、同条6号で「道路又は交通の状況により、公安委員会が道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要と認めて定めた事項」と規定しています。ここでいう公安委員会は、都道府県公安委員会のことを指し、各都道府県毎の公安委員会がそれぞれの地域に応じた規則を定めているのです。東京都の場合は、東京都道路交通規則第8条第6号に、「積雪又は凍結により明らかにすべると認められる状態にある道路において、自動車又は原動機付自転車を、タイヤチェーンを取り付ける等してすべり止めの措置を講ずること」と定めています。これに違反すると、道路交通法施行令(別表)で、「公安委員会遵守事項違反」ということで、大型車7,000円、普通車6,000円の反則金が科されます。 ■ノーマルタイヤで事故を起こしたら?ノーマルタイヤでの積雪・凍結道路の走行が法令違反である危険行為である以上、当然過失割合は大幅に大きくなります。ある判例では、先行車両がスタッドレスタイヤであったにも関わらず接触事故を起こしたことを理由に、ノーマルタイヤによる追突に過失がないと主張した事案に対し、「雪が降り,積雪もあるような道路状況において,ノーマルタイヤでチェーンも着けずに走行すること自体危険な行為であるというべき」として、ノーマルタイヤの運転手に過失を認め、損害賠償を命じたものがあります。 *著者:弁護士 小野智彦(銀座ウィザード法律事務所。浜松市出身。エンターテイメント法、離婚、相続、交通事故、少年事件を得意とする。)【画像】イメージです*yoojiwhan / Shutterstock
2018年01月26日*画像はイメージです:上で、蟹を使ったと思われるチャーハンのメニュー写真と、注文して出てきた一見カニカマが入ったチャーハンの写真を掲載したツイートが拡散されています。蟹チャーハンを頼んだつもりがカニカマチャーハンだった、なんてことが起きたら少なからず戸惑いがあることでしょう。そこで、今回は本件が「蟹チャーハンを頼んだらカニカマチャーハンが提供された」と仮定して、そういった場合に客には支払い義務が発生するのか、解説してみたいと思います。 ■写真と実際に出てきた料理が違う場合支払う必要がある?注文した料理と明らかに違う料理が出てきているため、お店側の不完全履行であり、客側としては、納得しないで食べなければ、注文したはずの料理の提供を求めることができます。また、注文した料理の提供が不可能ということであれば注文をキャンセルすることができると考えます。法律的には、客が料理を注文し、お店が料理の提供を承諾することによって飲食物提供契約が成立し、お店は料理を提供する義務、客は料金を支払う義務を負います。義務を負う者は、債務の本旨に従った履行をしないといけません。お店は、本物の蟹を使用していると思われるチャーハンの写真をメニューに掲載しているわけですから、常識的に本物の蟹を使用したチャーハンを提供する義務を負います。この場合、カニカマを使用したチャーハンの提供は非常識であり、債務の本旨に従った履行とはいえません。したがって、客としては、お店に対し、飲食物提供契約に基づいて本物の蟹を使用したチャーハンの提供を求めることができるわけです。そして、お店に本物の蟹がないような場合、注文した料理を提供する義務は履行不能ですから、客としては飲食物提供契約を解除(キャンセル)して料金の支払いを免れることができるわけです。 ■写真と出てきた料理のボリュームが違う場合は?メニューの写真と比較して明らかに少ないようであれば、やはり債務の本旨に従った履行とは言えずお店の不完全履行ですので、客としては、飲食物提供契約に基づいて相応の増量を求めたり、履行不能の場合に注文のキャンセルをしたりすることが可能と考えます。 ■SNSに掲載することの注意点以上のように注文した料理と違う料理が出てきた場合、客としては、本来の料理の提供を求めたり、注文をキャンセルしたりすることが可能です。しかし、こうしたことをTwitterなどのSNSに掲載した場合、お店の方から信用毀損だとか業務妨害だとか言われ、自身の個人情報を調査されて逆に責任追及される可能性もありますので、SNSに掲載することまでは止めておいた方が無難だと思います。 【画像】イメージです* wavebreakmedia / Shutterstock
2018年01月24日*画像はイメージです:ショッピングモールなどに併設されていることが多いフードコート。広いスペースにテーブルとイスが設置され、そのまわりを複数の飲食店が取り囲む形式で、客は好きな店舗の食事を味わうことができます。飲食店の利用を前提に設置されているフードコートですが、最近は「ただ座って水を飲むだけ」というケースや、自分で飲食物を持ち込む人もいるようです。このような場合、施設側は場所から立ち去るよう求めたいところ。また、営業妨害を主張したくなります。そのようなことが可能なのか、星野・長塚・木川法律事務所の星野宏明弁護士にお話を伺いました。 ■フードコートで飲食店を利用しない場合どうなる?「刑事上の責任までは問われず犯罪になる可能性は低いものの、民事上の責任を負う可能性はあり、かつ、退席を求められた場合は、退席する義務があると考えられます。フードコートもしくはフードコートが入っているショッピングモールの利用規約上、明文がなくとも、持ち込み利用または飲食店非利用の席占拠は、禁止されていると解釈できることが多いと思います。したがって、正規の使用方法でない席を長時間占拠し続けることは、民事上、営業損害等の賠償責任に問われる可能性があります。ショッピングモール側から退席を求められた場合は、退席する義務があると解釈されます」(星野弁護士) ■刑事責任は問えない可能性が高い「ショッピングモールのような誰もが出入り自由な公開の店舗にあっては、たとえ結果的にショッピングモール内のサービス利用や物品購入をしなかったとしても、それが建物施設管理者の意思に反する立ち入りとはいえず、窃盗等の違法行為をする目的での立ち入りでない限り、建造物侵入罪に問われることはありません。したがって、フードコートエリアで飲食せずに居座っていたり、飲食物持ち込みをしていても、刑事責任に問われる可能性は極めて低いと思います。もっとも、長時間にわたって不正使用し、ショッピングモール側から退去を求められたにもかかわらず、退席しなかったような悪質なケースでは、建造物不退去罪が成立する可能性はあります」(星野弁護士) フードコートで店舗を利用しない行為は、刑事責任に問われる可能性は低いものの、「正規の使用方法」ではないため、賠償責任が発生する上、退席要求にも応じる義務が発生するそうです。「場所だけ利用したい」という気持ちは理解できますが、フードコートは「店舗の利用が前提」のスペース。そのことを、忘れないようにしましょう。 *取材協力弁護士:星野宏明(星野・長塚・木川法律事務所(旧星野法律事務所)。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*風待人 / PIXTA(ピクスタ)
2018年01月21日*画像はイメージです:昨今、一部の開錠業者による詐欺事件が頻発しています。多くの業者ではそのようなことはないでしょうが、報告されている詐欺の手口の典型例は、HPなどに掲載されている料金を見て電話すると、実際に派遣された作業員から「この鍵を開けるためには追加料金が必要」「出張費が別途かかる」などと説明され、10倍近い値段を請求されるというものです。キッパリと「そんな金額は払えない」というべきですが、一刻も早く解錠したいという感情があることや、「支払いを拒否するなら警察を呼ぶ」などと脅されることで、お金を支払ってしまうようです。このような事件は増加傾向にあり、報道によると2014年度に100件程度だった相談件数が、2016年度には300件弱まで増加しているようです。被害に遭わないためにはどうしたら良いのか。また、実際に詐欺業者に直面した場合どのような対応を取るべきなのか。星野・長塚・木川法律事務所の木川雅博弁護士に解説していただきました。 ■費用明細・請求書の交付を求めて毅然とした対応を「ウェブサイトや事前に口頭で伝えられた金額よりも高額を請求されても、実際に作業してもらってしまっているし、早く家に入りたいし等の理由があったり、“ディンプルキーで開錠に手間がかかったため”、“深夜割増料金を加算したため”などと一応説明されたりすると、不本意ながらも支払ってしまうことがあり得ます。しかし、鍵のトラブルに限らず詐欺的商法すべてに共通するのですが、本当に詐欺である場合、一度お金を支払ってしまったらそのお金は取り戻せないと考えたほうがいいでしょう。請求金額が事前の説明と異なる場合、まずはウェブサイトの料金表を示す、電話口で伝えられた金額を作業員に言い、費用明細や請求書を交付するよう求めるなどするとよいでしょう。インターネット上では、“依頼する前に複数の業者を比較したほうがよい”、“開錠業者の仲介業者を選ばないようにする”、“一人ではなく誰かに立ち会ってもらうようにする”などの対策方法が示されており、これらも有効な手段の一つだと思います。ただ、鍵を紛失して家に入りたい状況の場合、近くにホテルや知人の家もなく、時間も遅くて管理会社にも連絡がつかない場合が多いでしょうから、誰かに立ち合いを依頼したり、その時間に来てくれる業者をゆっくり探したりする暇がないかもしれません。このように誰にも頼れない状況のとき(そして、ホテルに泊まるのではなくどうしても家に入りたいとき)は、毅然と費用明細や請求書の交付を求め、事前の説明と異なる金額の支払いを拒むしかないでしょう。開錠業者は“支払わないなら警察を呼ぶぞ!”と言ってくるかもしれませんが、その場合は、はっきりと事前に受けた説明と異なる不当請求であることを説明し、民事上の問題であるとして警察官にはお引き取りいただくほかありませんね」(木川弁護士) ■開錠費用の相場とは「ウェブサイトでは費用が数千円程度とうたっている業者もあるようですが、実際に人を派遣し、しかも時間が深夜であった場合には作業員にも割増手当が払われるわけですから、数千円程度では済まないと考えなければなりませんね。価格競争ですし、錠の複雑さにもよりますので、正当な相場がいくらかとは一概に言えませんが、たとえば建物明渡しの強制執行では少なくとも2~3万円程度の開錠業者費用がかかります。ですから、数千円程度の費用と謳う業者に依頼する場合にはよくサイトを確認し、追加費用がいくらかかるのかを確かめておくべきでしょうね。どうしても家に入らなければならないという弱みに付け込み、高額な費用を請求する業者には腹が立つでしょうが、消費者庁や消費生活センターに苦情を入れてもお金が戻ってくるわけではありません。開錠業者に依頼せざるを得ない状況になった場合、安い業者に飛びつかず可能な限り信頼できそうな業者を探すことに加え、不当請求を受けたときには毅然とした対応を取るという自衛手段を講じなければなりませんね」(木川弁護士) 人の弱みにつけ込む詐欺業者がいることは残念ですが、そのような企業がある以上、自己防衛をせねばなりません。追加料金を請求された場合は支払いを拒むなど、毅然とした態度をとるようにしましょう。 *取材協力弁護士:木川雅博 (星野・長塚・木川法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野・長塚・木川法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中【画像】イメージです*dorry / PIXTA(ピクスタ)
2018年01月20日*画像はイメージです:スターバックスの偽ロゴを用いたスマートフォンのケースを所持していた男女2人が逮捕されたとの報道がありました。この2人は販売目的で所持していた疑いがあり、容疑者のひとりは「去年から、副業としてスマホケースを売って、利益を得ていた」と容疑を認めているようです。本件について、どのような違法性があるのか解説してみたいと思います。 ■「商標権」を侵害する今回の件は、スターバックスの商標権を侵害するため違法ということになります。「商標」というのは、事業者が自分の商品等に自分のビジネスであることを明らかにするために付けるトレードマークのことで、商標が事業者の信用と密接な結び付きを証明し、事業者のビジネスの信用を守るために認められる権利を商標権といいます。商標を利用している人は、自分の商標を登録することによって商標権を取得します。商標権者は、他の人が似たような商標を使うなどして自分の商標権を侵害した場合、その使用中止を求めたり、損害賠償請求したりすることができます。また、商標権侵害は犯罪になりますので、商標権者は、商標権を侵害した人を処罰してもらうこともできるわけです。 ■どんな罰則になるのか他人の商標が入った偽商品を販売目的で所持することも商標権の侵害として扱われていて(商標法37条2号)、そのようなことをした人について「5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」(商標法78条の2)とされています。他人の商標が入った偽商品の「所持」自体は商標権者の信用を喪失させる行為ではありませんが、販売された場合の影響が深刻なので販売を確実に防ぐ必要があるため、販売目的で所持しただけでも商標権の侵害として扱われています。一方で、商標法37条2号は「譲渡、引渡し又は輸出のため」の所持に限って商標権の侵害と扱っていますので、ただの所持であれば商標法違反となりません。ただし、「譲渡、引渡し又は輸出のため」かどうかは客観的事情からも判断されるため、所持人の事業内容や商品の数量によっては、「ただの所持」と言い張っても通用しません。 ■本物だと思って購入したら損害賠償を求められる?販売側が「本物だ」と言って販売した場合、購入者としては販売側の詐欺を理由に契約を取り消して代金の返還を求めたり、損害の賠償を請求することができます。 *著者:冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)【画像】イメージです*parichat nithisatthiyakul / Shutterstock
2018年01月16日年末年始休み、義父母の家に顔を出したという既婚者の方は多いのではないでしょうか。戸籍上は親子でも、やはり所詮は他人であるだけに、「行くのが苦痛で仕方ない」と感じる人も少なくないようです。場合によっては、「気を遣いたくない」と、行くことを拒否している人もいるよう。配偶者が納得していればいいのですが、両親との良好な関係を希望する場合は「どうして上手くやれないのか」と苛立ってしまいます。仮にこのことが原因で離婚を思い立った場合、正当な事由として認められるのでしょうか?高島総合法律事務所の理崎智英弁護士に見解を伺いました。 Q.配偶者が義父母の家に行こうとしないのが不満で離婚したい…離婚事由として認められる?*画像はイメージです:義父母の家に行かないことによって夫婦関係が修復不可能になった場合は、認められる可能性があります「まず、離婚事由があるかどうかは、夫婦関係がうまくいっているかどうかで判断されます。そのため、義父母との関係性は、離婚事由の有無の判断には基本的には関係ありません。ただし、夫が妻、妻が夫の両親の実家に行かないことによって、夫婦関係が悪化し、もはや修復することが難しい程度に至っている場合には、離婚事由が認められる可能性はあります。なお、過去には、配偶者と他方配偶者の両親の仲が悪いのに、他方配偶者は関係改善の努力をせず、むしろ、両親に同調していたようなケースでは離婚請求が認められた事例もあります」(理崎弁護士) 義父母の家に行くことを拒んだとしても、夫婦関係が良好であれば、離婚に至ることはありません。仮に「義父母の家に行くのが嫌」という場合は、配偶者と話し合い、理解を得るようにしましょう。 *取材対応弁護士: 理崎智英(高島総合法律事務所。離婚、男女問題、遺産相続、借金問題(破産、民事再生等)を多数取り扱っている。)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*naka / PIXTA(ピクスタ)
2018年01月13日*画像はイメージです:収入は生きていく上で大切な要素ですが、配偶者の収入が激減したり、はたらく意欲がないといった場合には離婚は成立するのでしょうか?センシティブな問題であるがゆえに、人には中々聞けない話かもしれませんが、今回踏み込んで解説してみたいと思います。 ■収入減だけでは離婚は難しい結論からいえば、夫の収入が減ったことだけを理由として、夫が拒否しているにもかかわらず離婚ができるかというと、それだけではかなり困難です(減収以外に別居など、他の事情があればまた別ですが)。ただし例外的に、夫にそもそも働く意欲が欠如しており、家庭を支えるための努力を一切しないような場合には、離婚が認められる可能性はあります。 ■離婚成立には合意か裁判かまず押さえておかないといけないことは、離婚するには(1)夫と合意して離婚するか、(2)裁判所に裁判離婚を認めてもらうかの、どちらかしかありません。「どうしてもっとがんばらないのか」「収入を元に戻せるようどうして頑張らないのか」といったことを夫に詰め寄り、結果的に夫も結婚生活を続ける意思を無くした場合であれば、(1)夫と離婚で合意できる可能性は十分ありえます(収入のことで妻から責められるというのは夫にとっては非常に辛いことであり、「もうやっていけない」と思う可能性は否定できません)。ただし親権者をどちらにするかで意見がまとまらない場合には、そのままでは離婚届を出せませんので、調停や裁判で親権を争うことになります。それでも仮に夫が離婚に応じない場合、(2)離婚訴訟を提起して裁判離婚を認めてもらうしかありません。夫が拒否しているにもかかわらず裁判所の力を借りて一方的に離婚を認めてもらうということですから、裁判離婚を認めてもらうためには離婚原因が必要とされています。ここで法律上の離婚原因にはいくつかありますが(不貞行為など)、夫の減収や働く意欲の欠如ということを問題にしたいのなら、それらが「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)に該当する、と主張するしかありません。 ■婚姻を継続し難い重大な事由とは?夫の収入減の理由としては、転職、降格や解雇など色々なものがありえます。その理由がどうであれ、結果としてもたらされた減収自体は、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当しないと考えられています。なぜなら、夫婦には互いに助け合う義務(協力扶助義務)がありますが、夫だけで十分に稼がなければならないという理由はないからです(共働きで家事も分担するのなら、夫婦間の協力扶助義務は果たされています)。「専業主婦を希望しているが、減収後の夫の収入では自分も働かざるを得ない。それは納得いかない」と考えるのかもしれませんが、それは単なる性格の不一致(価値観の違い)にすぎず、それだけでは離婚原因には該当しません。また、降格や解雇の理由によっては、それが離婚原因にあたる可能性もありえるでしょうが、それは全く別問題です(たとえば、夫が部下に肉体関係を強要していた(=不貞行為があった)場合など)。もっとも、例外的に、働く意思がない、生活能力がない、怠惰な性格というものは「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたることがあります。たとえば、東京高裁昭和59年5月30日判決は、夫が頻繁に転職を繰り返し、安易に借財に走り、再三妻の実家に援助を求めたというケースですが、妻の請求による裁判離婚が認められています。 以上、まとめますと、夫の減収だけを理由に裁判離婚ができるかというとかなり困難です。しかし、夫にそもそも働く意欲がなく毎日ぶらぶらしているような場合なら、「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたる可能性があります。また、裁判離婚が認められないような場合でも、夫と別居した上で交渉することにより、夫が離婚に応じる可能性も十分にありますので、あきらめる必要はありません。いずれにしても一度専門家に相談することをお勧めします。 *著者:弁護士 近藤美香(秋葉原よすが法律事務所。家事事件を専門的に取り扱い、500件以上の家事事件を取り扱った経験を持つ。JADP認定の夫婦カウンセラーの資格を保持している。)【画像】イメージです*polkadot / PIXTA(ピクスタ)
2018年01月06日*画像はイメージです:忘年会や新年会など飲み会が連日のようにある、という方も多いのではないでしょうか?お酒の飲み過ぎが原因で気分が悪くなったり、中には嘔吐した経験がある方もいらっしゃるかと思います。突発的に吐き気を催したのか、トイレまで間に合わず……といった光景も見かけられますね。今回はそんな、電車内での嘔吐について法的な観点から解説してみたいと思います。 まず、刑事上の犯罪になるかどうかですが、“故意に”嘔吐物を相手に引っかけた場合には、「暴行罪」、働いている人に同じようなことをすれば「威力業務妨害罪」になる可能性はありますが、そうでない限りは大丈夫です。誰かの大事な物を嘔吐物によって使い物にならなくしてしまった場合は、「器物損壊罪?」と思うかも知れませんが、この罪は故意犯しか罰しませんので、やはり罪にはなりません。また、嘔吐物が相当悪臭を放ちますので、迷惑防止条例の「悪臭行為に当たるのか?」と考えられる方もいるかと思いますが、基本的には当たりません。ですので、電車内での嘔吐で、警察の世話になることはまずないと思っていただいて結構です。では、民事上は何らかの法的責任が発生するでしょうか?場合分けして、個別に見ていきましょう。 ■1 吐いた上に処理をしないことは?吐いたものをそのまま放っておくと、当然の如く鉄道会社の方が清掃などの処理をすることになります。嘔吐行為は、通常はお酒の飲み過ぎによっておきるもので、いわゆる不注意によって清掃などをさせる手間を発生させることになりますので、本来は損害賠償請求の対象になります。ただ、通常、吐くような人は、既に自分の嘔吐物を処理することなどできないでしょうし、鉄道会社もそのことを見越して清掃の大勢を整えているようですので、特に損害賠償請求をしないそうです。 ■2 誰か(人・物)を汚した場合理屈は同じで、不注意によって嘔吐し、それによって誰かを汚してしまうわけですから、それによってクリーニング代が発生したり、その物が使い物にならなくなったりするわけです。従って、それに掛かった費用は、損害賠償請求されることになります。 ■3 車内清掃で遅延などした場合車内清掃で遅延した時間にもよるでしょうけど、通常の嘔吐物程度であれば、最短での時間によって清掃が可能でしょうし、損害を発生させるほどの遅れがでるとも思えませんので、特に遅延させたことそのものについて損害賠償請求されることはないものと思います。 *この記事は2014年6月に掲載されたものを再編集しています。*著者:弁護士 小野智彦(銀座ウィザード法律事務所。浜松市出身。エンターテイメント法、離婚、相続、交通事故、少年事件を得意とする。)【画像】イメージです* andriano.cz / Shutterstock
2018年01月04日*画像はイメージです:普段のお小遣いよりも多くの金銭をもらうことができる「お年玉」を楽しみにしている子どもも多いことでしょう。そんなお年玉ですが、幼い頃は親に預けるケースもあることかと思います。そのお金が実は親に使用されていることが分かった場合は、怒ることもあるかもしれません。親子とはいえ他人ですし、通常は他人のお金を使うことは法律に触れることもお分かりかと思いますが、親が子どもに無断でお年玉を使ってしまうと、法的な問題が生じるのでしょうか? ■「親権」でどこまで管理できる?未成年の子どもは両親の親権に服します。両親は共同して親権を行使するのが原則ですが、親が離婚すると母か父かどちらか一方のみが親権を行使します。親権とは、子どもを養育監護することであり、また、子どもの財産を管理することでもあります。あるいは子どもの居場所を定めたり、進学先を決めるのも親権に含まれます。従って、親が子どもの財産であるお年玉を管理することはなんら問題がありません。しかし親が自分のために子どもの財産を費消することは許されません。親権とはあくまでも子どもの福祉のために認められた親の義務であり、また権利でもあるからです。お年玉程度の財産であれば、自分のために費消するということはあり得ませんので、法的に問題にはならないでしょう。仮に、全部使ってしまい、子どもにお年玉を渡さなかったとしても、親はそれ以上のことを子どもにして上げていますから、問題になることはありません。つまり、10万円のお年玉を生活費に使ってしまったとしても、親が子どもにかけるお金はそれを遙かに超えていますから、法的な問題にはなりません。しかし、祖父から孫へ多額の遺産相続があり、それを親が勝手に使ってしまったような場合には、横領罪となり刑罰を科されたり、あるいは親の親権が剥奪されることがあります。要は、程度問題ということですね。 *この記事は2015年1月に掲載されたものを再編集しています。*著者:弁護士 星正秀(星法律事務所。離婚、相続などの家事事件や不動産、貸金などの一般的な民事事件を中心に、刑事事件や会社の顧問などもこなす。)【画像】イメージですNana / PIXTA(ピクスタ)
2018年01月02日*画像はイメージです:日本の正月に欠かせない食材、餅。その歴史は古く、縄文時代から食べられていたといわれています。日本人に最も愛された食べ物と言っても、過言ではないかもしれません。現在も親しまれる餅ですが、人間の生命を奪うことも。正月には、高齢者を中心に喉に詰まらせ、窒息死する事案が毎年発生しています。このような場合、責任は誰が負うのでしょうか。そして、損害賠償を請求可否についても気になるところです。 ■責任は誰に?まず、実際に餅を製造した会社に責任を追及することが考えられます。この場合、消費者と製造業者との間に直接の契約関係はないので、民法709条の不法行為責任を追及することになります。「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」(民法第709条不法行為による損害賠償)餅を喉につまらせた原因が製造会社の過失や故意によるものであれば、当然被害者側は損害賠償できることになります。さらに、一般消費者である被害者側が製造業者の過失等を立証することは困難であることから、製造物責任法により、商品に欠陥があることを立証することで足りることになります。「製造業者等は、その製造、加工、輸入又は前条第三項第二号若しくは第三号の氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りでない。」(製造物責任法第3条)なお、販売業者に対して責任を追及する場合には、消費者と直接の契約関係にあることから、販売業者の債務不履行責任を追及することになります。 ■損害賠償請求するのは難しい?理論上は損害賠償が可能ですが、実際のところは難しいといわざるをえません。餅が日本で古来から受け継がれてきた食材であり、特有の粘り気があって噛み切りにくく喉に詰まる危険性があることは一般に広く周知されていることから、そのような餅を製造した製造業者に、製品に「欠陥」があるとして責任追及することは困難ではないかと思われます。同じような事例として「こんにゃくゼリー」による窒息事故があります。こちらの場合、餅と比較すると危険度が認知されていなかったことから損害賠償が認められる余地もありそうですが、結果的には「食品自体に危険性はなく警告表示も不十分ではない」として、訴えは棄却されています。 餅の喉つまりによる窒息死については、製造会社に明らかな過失等がない限り、自己責任となってしまう可能性が高いといえます。楽しい正月が悲劇の日にならないよう、餅を食べるときは十分気をつけましょう。 *記事監修弁護士: 渡部孝至(弁護士法人はるかぜ法律事務所代表弁護士。『身近な弁護士』をモットーに、ご依頼者様の目線で親切・丁寧・迅速な対応を行い、リーズナブルなご費用で良質なサービスを提供することを使命としている。)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*プロモリンク / PIXTA(ピクスタ)
2018年01月01日12月の電車は、忘年会帰りの酔っぱらいによる喧嘩やホームから線路への転落、線路内人立ち入りなど、様々なトラブルが発生します。さらに踏切付近でも酔った人間が線路内に立ち入り、列車の運行を妨げることも。いずれも人身事故に至る危険性があるうえ、運行ダイヤを大きく乱す迷惑行為。このような行為に及んだ場合、鉄道営業法第37条によって、厳しく処分されます。「停車場其ノ他鉄道地内ニ妄ニ立入リタル者ハ十円以下ノ科料ニ処ス」(鉄道営業法第37条)それは誰もが理解していると思われますが、同じ線路内立ち入りでも、新幹線となると、罪がかなり重くなるというのです。本当でしょうか?Q.新幹線の線路内立ち入りは在来線より罪が重くなるって本当?*画像はイメージです:本当です。新幹線は在来線よりもかなり速いスピードで走る鉄道であり、安全性を確保する必要性が高いことから、鉄道営業法では十分な安全確保体制が構築できないとして、昭和39年に「新幹線鉄道における列車運行の安全を妨げる行為の処罰に関する特例法(新幹線特例法)」が施行されています。したがって、同じ線路内立ち入りであっても、新幹線の場合は新幹線特例法第3条第2号が適用されます。「次の各号の一に該当する者は、一年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。二新幹線鉄道の線路内にみだりに立ち入つた者」鉄道営業法では「十円以下の罰金」となっていますが、現在は2万円以下とされています(罰金等臨時措置法第2条第1項)。一方で、新幹線特例法の場合は1年以下の懲役又は5万円以下の罰金とされており、鉄道営業法と比して、かなり厳しいものであることがわかります。在来線、新幹線とも線路への立ち入りは危険かつ迷惑行為。絶対に行わないようにしてください。 *記事監修弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*ケイアール / PIXTA(ピクスタ)
2017年12月30日*画像はイメージです:今年11月、運送会社に勤めていた女性事務員が配送する商品を盗みオークションサイトに出品していたため、懲戒解雇処分になっていたことが明らかになりました。本件、盗んだ商品を販売していますが、どのような罪状になるのか、また、補償があるのかといった点について解説してみたいと思います。 ■窃盗・詐欺罪に本件は窃盗罪と詐欺罪になると思います。まず他人の商品を盗み取っているわけですから窃盗罪になります。次に盗んだ商品をオークションに出品し、落札した人からお金をだまし取っているいるわけですから詐欺罪になります。この窃盗罪と詐欺罪は、同じ人が犯した複数の犯罪(併合罪)ということになり、懲役の長期の上限が窃盗の懲役の長期の上限(10年)の1.5倍(15年)となり、重く処罰される可能性があるわけです。 ■商品の落札者の責任は?盗品と知らず落札した場合や、落札した後に盗品と知ったという場合であれば、責任はありません。普通ないことですが、落札者が盗品と知って購入した場合には、落札者は盗品有償譲受の罪の責任を負います。盗品を購入するような人がいれば、窃盗の件数が増えかねませんので、盗品有償譲受の罪は、窃盗罪や詐欺罪よりも重く、「10年以下の懲役及び50万円以下の罰金」で処罰される可能性があります。 ■被害者の補償は?盗んだ人に対して損害賠償請求することも考えられますが、配送会社の事務員が盗んだということであれば、配送会社に補償してもらうことになるでしょう。 *著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)【画像】イメージです*TAROKICHI / PIXTA(ピクスタ)
2017年12月25日昨今、身の覚えのない商品が家に届き、代引引換を迫られるという「送りつけ商法」が横行しています。11月には組織的に送りつけ商法を行っていたグループが千葉県で摘発されましたが、それでもまだ同じような事案が全国各地で発生しているようです。このような「送りつけ商法」は、被害に遭遇する可能性が誰しもにあります。仮に身に覚えがない荷物が送られてきた場合、どのように対応すれば良いのでしょうか?法律事務所あすかの冨本和男弁護士に見解をお伺いしました。Q.身に覚えがない商品が送られてきたらどのように対処すればいい?*画像はイメージです:知らない商品であれば、受け取らないことをおすすめします。「商品を注文していないのであれば売買契約は成立しません。知らない商品であれば、受け取らないのが一番良い方法だと思います。間違って受け取ってしまった場合には、送り返してしまうと良いでしょう。法律上は商品を受け取った日から14日経過すれば処分しても問題ないことになっていますが(特定商取引法59条)、トラブルになる可能性がありますので、やはり送り返すのが無難です。後日のトラブルに備えて、商品を受け取ったときの伝票・商品を送り返したときの伝票は保管しておきましょう。当然ですが、お金を支払う必要はありません。いったんお金を支払ったら取り返すのは困難です。請求書がしつこく届くような場合には、開封せず“受取拒絶”と朱書・捺印してポストに入れて送り返しましょう。また、こうした送りつけは、自分の個人情報が入ったリストが悪質業者に流れていることが原因だと考えられます。事前の対策としては、アンケート等で自分の個人情報を無闇に記入しないことだと思います」(冨本弁護士) いきなり「代引きです」と商品を持ってこられると動揺してしまいがちですが、自分が注文指定ない商品であれば、売買契約は成立しないとのこと。受け取らず、返してしまいましょう。また、受け取ってしまった場合は、伝票などを残したうえで、送り返しましょう。 *取材協力弁護士:冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*Graphs / PIXTA(ピクスタ)
2017年12月22日11月、愛知県内の焼肉店で、肉を焼いていた客のコンロからダクトに火が燃え広がり、店を全焼させるという事故が発生し、飲食店関係者を中心に、衝撃を与えました。今回の火災では、客が食べ放題の制限時間内に肉を食べきろうと大量の肉をコンロで焼いていたことが火災の原因であるとみられています。この場合、責任は誰が負うことになるのでしょうか?法律事務所あすかの冨本和男弁護士に見解をお伺いしました。Q.客が出火原因の火事…責任は誰が取る?*画像はイメージです:客に重大な過失がある場合には客の責任になります。「客のほうに重大な過失がある場合には客に責任があります(失火の責任に関する法律)。仮に客のほうに重大な過失があったとしても、お店のほうがダクトの清掃や定期点検を怠っていたような場合にはお店のほうにも過失がありますので、客の責任はその分軽くなります(民法722条2項)」(冨本弁護士) やはり今回の客による肉の焼きすぎによる出火のように、客側の重大過失によって火災へと発展した場合は、当事者が責任を負うことになるのですね。ただし、店側にも落ち度があった場合は、その罪が軽減されることもあるようです。いずれにしても、自分で起こした火災は、当然ながら自身で責任を取ることになります。焼肉店などでの火の取扱いは、十分気をつけましょう。 *取材協力弁護士:冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*naka / PIXTA(ピクスタ)
2017年12月20日先日、千葉県柏市に住む女性が知人男性に3日間で83通のメールを送ったとして、ストーカー規制法違反の疑いで逮捕される事件が発生し、話題になりました。一体何通メールを送ると「ストーカー規制法違反」になるのか。明確な基準はあるのか。法律事務所アルシエンの清水陽平弁護士に、ご意見を伺いました。Q.メールを何通送ると「ストーカー規制法違反」になる?*画像はイメージです:明確な基準はありません。「具体的に何通送れば逮捕ということはありません。法律上は、“拒まれたにもかかわらず、連続して…電子メールの送信等をすること”が“つきまとい等”とされており、これを反復した場合にストーカー行為とされます。これに当てはまるといえるのであればよく、具体的に何通送ったのかということで分水嶺とされるわけではありません」(清水弁護士) 自分の愛を受け入れてほしいという気持ちから、メールを送り続けたくなってしまうのでしょうが、拒まれたにもかかわらず大量に送信してしまうと、ストーカーと認定されてしまうようです。感情をコントロールすることはなかなか難しいと思いますが、相手に拒絶された場合は、諦める方向で考えたほうが良さそうですね。 *取材協力弁護士:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)【画像】イメージです*naka / PIXTA(ピクスタ)
2017年12月18日*画像はイメージです:大企業では、社員に対し様々な福利厚生が用意されています。その内容は住居や保険、保養所・寮・クラブ活動など、多岐に亘ります。一方、中小企業は費用を福利厚生にかけることが難しいため、内容はどうしても限られてしまいます。零細企業になると「まったく用意されていない」というケースもあります。そのような企業に勤務する者にとっては、非常に納得のいかない事態。そもそも「福利厚生がまったくない」のは許されるのでしょうか?法律事務所あすかの冨本和男弁護士に見解をお伺いしました。 ■「福利厚生がまったくない」のは許される?「結論からいうと、法律で義務づけられている福利厚生もないというのは許されません。福利厚生とは、事業主が労働者のために提供する給料以外のサービスのことをいいます。福利厚生には、雇用保険制度への加入など事業者に法律上の義務がある法定福利厚生と、食堂や社員寮の充実といった事業者に法律上の義務がない法定外福利厚生があります。法定福利厚生については、事業主に法律上の義務があるわけですから、ないというのは許されません」(冨本弁護士) ■法定福利厚生の種類は?「法定福利厚生には、以下のようなものがあります。(1)雇用保険制度への加入雇用保険は、国が失業した労働者に、必要な給付を行ったり、再就職の手助けをしたりするための制度です。事業主は、1週間の所定労働時間が20時間以上で31日以上の雇用見込みがある人を雇い入れた場合、雇用保険制度に加入し保険料を支払わなければなりません(雇用保険法第5条・6条)。保険料は労働者と事業主の双方が負担します。 (2)労災保険制度への加入労災保険は、仕事が原因で怪我をしたり、病気にかかったり、死亡したり、あるいは通勤途中で事故にあったりした労働者に対し、国が事業主に代わって補償する制度です。事業主は、労働者(パートやアルバイトも含みます。)を1人でも雇い入れていれば労災保険制度に加入しなければなりません(労働者災害補償保険法第3条)。保険料は事業主の全額負担です。 (3)健康保険制度への加入健康保険は、労災以外で怪我をしたり、病気にかかったり、死亡したりしたり、出産したりした、労働者やその家族に対し、国が一定の給付をする制度です。一定の業種で常時5人以上労働者を雇い入れている場合、事業主は、健康保険制度に加入し保険料を支払わなければなりません(健康保険法第3条第3項)。保険料は、事業主と労働者の折半です。 (4)厚生年金保険制度への加入厚生年金保険は、労働者が高齢・障害で働けなくなった場合、あるいは労働者が死亡した場合に、労働者やその家族に対し、国が一定の給付をする制度です。一定の業種で常時5人以上労働者を雇い入れている場合、事業主は、健康保険制度に加入し保険料を支払わなければなりません(厚生年金法第6条第1項)。保険料は、事業主と労働者の折半です」(冨本弁護士) ■法定福利厚生がないとどうなるの?「法定福利厚生がないことによって、労働者は、本来もらえるはずの保険給付がもらえなくなる場合があります。この場合、事業主は、労働者から、その分の額を損害として賠償請求されてしまいます」(冨本弁護士) 福利厚生には法律上の義務がある法定福利厚生と、法定外福利厚生があり、法定福利厚生を用意していない企業については、労働者から損害賠償可能性があるとのこと。自分の会社が法定福利厚生に入っていないという場合は、弁護士に損害賠償請求を含めて相談してみましょう。 *取材協力弁護士:冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*polkadot / PIXTA(ピクスタ)
2017年12月09日先日、Twitter上で老人に痴漢された女性が老人に回し蹴りをしたことがツイートされ、賛否両論となりました。「痴漢なのだから致し方ない」という声や「過剰防衛なのではないか」という声があがっているようです。このような行為は正当防衛として認められるのか。そして、正当防衛と過剰防衛の違いは、どこにあるのか?星野・長塚・木川法律事務所の星野宏明弁護士にお話を伺いました。 Q.痴漢に回し蹴り……これは正当防衛になる?*画像はイメージです:過剰と評価される可能性もあります「正当防衛は、防衛行為が「やむを得ずにした行為」(刑法36条)であることが条文上の要件です。これは、防衛行為として、必要性、相当性があることを意味し、具体的な事情を総合考慮して決定されます。他の手段がなかったことまでは必須ではありませんが、回し蹴りまでする必要性があったかどうか、は考慮されます。痴漢の犯人が老人で、周りに人もいた状況であれば、回し蹴りせずとも犯行を中止させることは容易だったのではないかと想像できます。今回の事件の場合具体的状況がわかりませんが、一般論としては、老人の痴漢犯人に対する回し蹴りは、防衛行為としては過剰であったと評価される可能性も十分あるでしょう」(星野弁護士) 防衛行為が「やむを得ずにした行為」であれば正当防衛になりますが、今回のように「回し蹴りまでする必要性があったかどうか」などを総合的に判断し、「正当か過剰か」判断されるようです。自分に危機が迫っている場合は防衛せなばなりませんし、一方でやりすぎてもいけない。非常に難しい境界線といえるのではないでしょうか。 *取材協力弁護士:星野宏明(星野・長塚・木川法律事務所(旧星野法律事務所)。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*Graphs / PIXTA(ピクスタ)
2017年11月30日*画像はイメージです:一度は愛し合った夫婦が再び袂を分かつ離婚。別れる際、財産分与や親権など、当事者の間で様々な話し合いが行われます。また、物の所有権を巡る争いも発生。「これは俺の金で買ったものだ」「いや、私だ」などと、互いが権利を主張する場合があります。そんな所有権を巡る争いには様々なものがありますが、意外と多いとされるのがペット。愛していれば「自分が引き取りたい」と考えるのは当然でしょう。仮にペットの所有権を互いが主張した場合どうなるのか。また、養育費などは発生するのか。あすみ法律事務所の高野倉勇樹弁護士に見解を伺いました。 ■当事者の話し合いが最優先「離婚の際の財産分与は、まずは当事者間の話し合いで決まります。当事者だけの話し合いで決まらないときには、家庭裁判所で行われる調停での話し合いによって決まります。これらの話し合いであれば、ペットをどのように扱うか、自由に決めることができます。“養育費”をもらうことにしたり、月に1 回会うといった“面会交流”の取り決めをすることもできます」(高野倉弁護士) ■話し合いで決まらない場合は?「問題は、こうした話し合いで決まらなかったときです。調停でも話し合いがまとまらないときは、審判という手続に進みます。審判では、判決と同じように、裁判官が結論を決めます。柔軟な内容とするには限界があります。従って、ペットの“養育費”や“面会交流”というものが認められる可能性はまずないといえます。法律上の明確な根拠がないからです。離婚の際、ペットは“物”として扱われます。ドイツの民法では“動物は物ではない”と明記されていますが、日本の民法にはそのような規定はありません。不動産や自動車と同じように扱われます」(高野倉弁護士) ■親権や養育費は法律上考えられない「物に過ぎないので、親権や養育費は法律上考えられません。ただし、財産分与においては、法律上、「当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。」(民法768条3項)とされているので、様々なことが考慮されます。例えば、離婚の際に自動車を財産分与するときは、どちらがより必要としているのかといった事情も考慮して、どちらの所有にするのかを決めます。ペットの場合、どちらに懐いているのか、どちらが飼育に適した環境かということも考慮された上で、どちらの所有にするのか決めると思われます。ただし、それは裁判官の裁量として考慮されているだけです。養育費や面会交流のように、権利として認められているわけではありません。あくまで、ペットを引き続き飼うことになった当事者が、責任をもって世話をする、ということになります。財産分与で自動車を受け取った当事者が、ガソリン代を支払い、税金を支払い、メンテナンスを行う、ということと同じです。なお、例外として、結婚前から飼っていたペットは、もとの飼い主のものになります。“特有財産”といって、そもそも財産分与の対象になりません。ペットがいる場合には、できるだけ話し合いでまとめた方がよいといえます。それ以前に、せっかくペットがいるのであれば、ペットと過ごす時間を通じてパートナーとも時間を共有し、良好な夫婦関係を築いていくのが最善です」(高野倉弁護士) ペットがいる場合は、予め話し合っておくことがベストであるよう。お互いが権利を主張しどうしようもなくなった場合は、やはり弁護士の力を借りたほうがよさそうですね。 *取材協力弁護士:高野倉勇樹(あすみ法律事務所。民事、刑事幅広く取り扱っているが、中でも高齢者・障害者関連、企業法務を得意分野とする)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*absolutimages / PIXTA(ピクスタ)
2017年11月29日*画像はイメージです:システム業界などでは、以前勤めていた会社から「ちょっとわからないことがあるんだけど……」と電話がかかってくることが稀にあるようです。中には、自分が構築したシステムに重大なバグや設計ミスが発覚することもあるのだとか。そのようなとき、会社側から「責任をとってほしい」「改修作業をしてほしい」などと、持ちかけられることもあるようです。労働者側としては落ち度があったとはいえ、既に雇用契約は切れているうえ、新しい仕事もあり、応じたくはありません。このような場合、労働者は賠償責任や改修作業に応じるべきなのでしょうか?法律事務所あすかの冨本和男弁護士にお伺いしました。 ■賠償責任の有無や改修作業に応じる義務は?「改修作業に応じる義務はないですが、担当者に落ち度があれば損害賠償請求に応じる義務がある場合もあるのではと考えます。通常、会社と担当者との間では労働契約(雇用契約)があるのではと考えられます。労働契約(雇用契約)の場合は、労働者は使用者の指揮命令に従って労務を提供する義務を、会社の方は賃金を支払う義務を負います(民法623条)。したがって、労働契約の期間中であれば、担当者は、改修作業を行わなければいけません。しかし、担当者が退社して、労働契約が終了しているとなると、担当者は、労務を提供する義務を負いません」(冨本弁護士) ■請負の場合は応じる義務が発生「なお、会社と担当者との法律関係が、労働契約(雇用契約)でなく、請負契約ということであれば、担当者は改修作業に応じる義務があります。請負であれば、請負人は仕事を完成させる義務を、会社の方は報酬を支払う義務を負います(民法632条)。また、請負の場合、納品されたものに欠陥があれば、会社としては、請負人に対しその修理をするよう請求できます(民法634条1項)。したがって、請負であればですが、担当者が開発したシステムに重大なバグが存在し、会社から回収作業を求められた場合、担当者としては応じる義務があります」(冨本弁護士) ■「落ち度」が認められれば損害賠償を負う場合もあるが……「会社と担当者の関係が労働契約(雇用契約)の場合でも、担当者に落ち度があれば、たとえ労働契約が終了した後といえども、損害賠償責任を負う場合があります。ただし、会社は労働者を指揮監督していたわけですから、損害の公平な分担という考え方から、会社の労働者に対する損害賠償請求については、裁判上かなり制限され、軽い落ち度であれば認められないこともあります。法律上は以上のようになると考えますが、改修作業がそれ程難しくないのであれば、退職した担当者としては、制限されているとはいえ賠償責任を負わないようにするために改修に協力し、会社の方も、退社した担当者に協力してもらう以上、相応の対価を支払うのが現実的であるかと考えます」(冨本弁護士) 担当者に「落ち度」があると判断された場合は、損害賠償責任を負うケースもあるようです。改修作業については、請負契約でなければ、原則応じる必要はないとのこと。法的には以上ですが、ブラック企業などは強行な損害賠償や無償による改修作業を求めてくることも考えられます。その場合は、弁護士とともに然るべき措置を取りましょう。 *取材協力弁護士:冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです* stefanphotozemun / Shutterstock
2017年11月23日*画像はイメージです:和歌山県で、知人と共謀し、ひったくりをでっちあげた男性数人に逮捕状をとったことが明らかになりました。捜査を続けるうちに、ひったくり犯と被害者とされる男性が一緒に歩いている姿が確認され、共犯の疑いが浮上したという本件ですが、法的にはどういった罪になるのか解説します。 ■警察は窃盗容疑で逮捕したが……本件に関して警察は、窃盗容疑で逮捕したそうですが、窃盗罪というのはちょっと違和感が残ります。最初からお金をかすめる目的で預かったというのであれば、詐欺罪にあたるでしょう。預かった後にひったくり犯人と共謀したということであれば、預かった人は横領罪。ひったくった人は、被害者(ひったくられた人)の承諾があるとはいえ、違法目的なので承諾は無効となり、窃盗罪となるのかもしれません。被害届を出した方は、少なくとも書類を警察に提出しているのでしょうから、有印私文書偽造罪、同行使罪。虚偽告訴罪は、あながち虚偽でもないので難しそうです。公務執行妨害罪も、警察官に対する暴行、脅迫があるわけでもないので成立しないでしょう。なお、本件では組織的犯罪ということではなさそうですので、共謀罪の適用はなく、通常の刑法上で議論される「共謀共同正犯」ということになりますね。 *著者:弁護士 小野智彦(銀座ウィザード法律事務所。浜松市出身。エンターテイメント法、離婚、相続、交通事故、少年事件を得意とする。)【画像】イメージです*EKAKI / PIXTA(ピクスタ)
2017年11月22日