今年’21年は、3年に1度の「介護報酬」を改定する年です。介護報酬とは介護サービスの料金のこと。身体介護が何分でいくらと、国が定めている。4月からの改定に向けて、新しい料金体系が固まってきた介護報酬について、経済ジャーナリストの荻原博子さんが解説してくれたーー。■政府は、介護報酬の公費負担増やすべき今回の改定では、介護サービス費全体を0.7%引き上げます。たとえばデイサービス(通所介護)は、1回約100円上がります。ただ多くの利用者が1割負担なので、「1カ月分で数百円上がる」という方が多いでしょう(所得によって2割負担、3割負担の方も)。今回のポイントは、床ずれの予防やおむつ使用がなくなるなど身体状態の改善に、介護報酬がつくようになったことです。そもそも介護報酬は、介護の手がかかったときに料金が発生します。そのため大変な労力をかけ自立を支援しても、たとえばおむつがはずれ、自分でトイレに行き、用が足せるようになると、排せつの介助に対する介護報酬はなくなり、結果的に介護業者の利益を減らしてしまいます。これが自立支援を阻んでいるのではと問題視されていました。3年前の改定で、おむつをはずすためのケアに介護報酬が設定され、今回はもう一歩進めて、おむつがはずれたなどの成果に料金加算が認められました。介護の重度化を防ぎ、自立支援に力を注ぐきっかけになってほしいと思います。またコロナ禍で、介護業者はかなり疲弊していると思います。そこで、新型コロナウイルスの対策費として、4〜9月の期間限定で、すべての基本料金に0.1%上乗せします。現場のご苦労を思うと、私は足りないくらいだと思います。こうした介護報酬は、介護サービスを受けた方の支払額に反映されるだけでなく、介護業界で働く方の給料にも影響します。介護保険サービスを行う事業者は、介護報酬が上がれば収入が増えますから、職員の給料を増やす余裕が生まれるでしょう。慢性的な人手不足の介護業界で働く方を増やすため、またコロナ禍のいま働く方の給料アップのためにも、介護報酬の引き上げは必要だと思います。介護報酬は、利用者が1〜3割を負担しますが、残りは公費(税金)と介護保険でほぼ折半しています。国全体の介護費は、介護保険制度が始まった’00年には約3兆6,000億円でしたが、’20年度予算は約12兆4,000億円とほぼ3倍。’25年には団塊の世代が後期高齢者になり、膨らんでいくでしょう。それにつれて、私たちが負担する介護保険料も上がっていますが、消費税率も引き上げたのですから介護報酬は公費負担を増やすなどして対応していただきたい。’20年度の第3次補正予算には、約1兆円ものGo To トラベル事業費が組み込まれましたが、正しい税金の使い道なのでしょうか。税金のムダを改め、介護や医療などの社会保障を充実させるよう努めていただきたいものです。「女性自身」2021年2月23日号 掲載
2021年02月12日2019年からスタートした、福祉・介護の魅力を伝えるプロジェクト「介護のしごと魅力発信等事業」の一環として、一昨年から昨年にかけてBSフジで放送された「にっぽんの要 わかる・かわる介護・福祉」。幅広い人に介護や福祉を身近に感じてもらうことを目指したユーザー参加型・体験番組で、俳優・タレントの要潤さん、介護福祉士でモデルの上条百里奈さんがメインパーソナリティを務めています。同テレビ番組は、昨年に引き続き、2021年2月より全3回でのオンエアが決定。これまで番組を通して日本の福祉・介護の“いま”を伝えてきた要さんと上条さんに、介護に対する意識の変化や、介護の現状について伺いました。要さんが語る、介護へのイメージの変化要潤さんは番組を通して、「介護に対して身近に感じることが出来るようになりました」と語り、介護のヒントは日常にあるということを実感したそう。介護福祉士でモデルの上条さんは、「介護施設などを訪問した学生の様子を見て、介護について知ってもらえれば魅力的だと思ってくれるというのを再認識しました」と語りました。「介護について知る」重要性上条さんによると、介護の現場では、認知症患者の徘徊や暴力など、症状が重篤になってはじめて介護の手が入るケースがあるといいます。「もっと早くSOSを出してくれたら、介護職員がここまで重労働にならなかったかもしれない」と、現代における介護の課題感について、介護分野における「情報不足」を挙げました。コロナ禍における介護の現状とは?コロナ禍における介護の現状について、上条さんが挙げた問題は以下2点。・コミュニケーション不足・介護職員の精神的な負担「認知症の方に対しては、表情や目の向け方、瞬きの回数、口の角度といった『非言語コミュニケーション』を多く使います。しかし今はマスクで半分が見えないため、コミュニケーションがうまく取れないこともあります」(上条さん)また「介護職員の精神的な負担」の背景には、クラスターの問題があるのだそう。「介護施設によっては、職員や入居者に感染者が出てクラスターが起きても、受け入れてくれる病院がないという現状があるんです。なかには4人部屋で隔離が難しく、介護職員の精神的負担が大きいことを心配しています」(上条さん)本当に必要な人が医療を受けられるように、それぞれが出来る限りの感染対策を行うのが大事だとコメントしました。「最新の介護・福祉」を知る第一歩に!2月7日より放送中の「にっぽんの要 わかる・かわる介護・福祉」は、まさに今回お二人に伺ったような最新の介護・福祉を知るきっかけとなる番組です。介護や福祉に興味のある方はもちろん、これまで介護に良いイメージがなかったという方も、ぜひ番組を最新の介護・福祉を知るきっかけにしてみてはいかがでしょうか。【参考】※にっぽんの要 わかる・かわる介護・福祉
2021年02月09日「介護は『一人でがんばれば、なんとかなる』ものではありません」そう話すのは約10年にわたって両親を介護したエッセイストの鳥居りんこさん。介護の実体験から『親の介護をはじめる人へ伝えておきたい10のこと』(学研プラス刊)を上梓した。「『介護は大変』って言いますよね。私も覚悟はしていました。それでも実際は、想定をはるかに超えてくる。私のメンタルは壊れる寸前でした」介護の初心者は、わからないことだらけ。用語さえ理解できない。「介護の相談窓口である地域包括支援センターを『ホウカツ』と呼ぶのですが、私はなぜか『呆活』と脳内変換してしまい、話が全くかみ合いませんでした」(鳥居さん・以下同)懸命に介護をしていても、心ない言葉を発する人もいる。認知症のために、親から罵声を浴びせられることもあるかもしれない。そんな状況でも、介護する人の心が折れないように守っていこう。経験者の鳥居さんに介護の本音をぶっちゃけてもらった。【金言1】親への恩が怨になっても大丈夫介護生活が長期化すると、介護をする人の心がむしばまれていく。「当時は、ひどい精神状態でした。母の前で『お願いだから、今日死んで』と思ったのは、一度や二度ではありません」親の恩はもちろん感じるが、仕事をセーブして、家庭をかえりみず、体力をすり減らして介護にあたる人は、どんどん追い詰められていく。「恩」が「怨」に変わっても仕方ない。それほど過酷なのだ。「ついぽろっと、禁断の言葉を吐き出してしまったら、『罰当たり』『親不孝』などと非難ごうごう。最終的には『介護って文句は言われても、誰からも感謝されないものだ』とわりきりました」他人がほめてくれないなら、自分で自分をほめてあげよう。怨がこぼれおち、親の死を一瞬願ったとしても、日々必死に介護する人にバチなんて当たるはずがない!【金言2】ゴネた人が得をするたったひとりで、徘徊のひどい親を介護していた男性がいた。親は認知症が進むものの体は丈夫で、要介護度は2。3以上が条件の特別養護老人ホームには入れない。数年に及ぶワンオペ介護の末、親が亡くなった。やっと解放されたとホッとした数カ月後、今度は彼が亡くなった。介護に追われ、自分の病気を放置していたのだ。「ただ黙ってがんばり続けるだけではダメだと思います。つらいときは必死でSOSを叫び続けないと、だれも気付いてくれません」介護は「ゴネた人」が得をする。何度も何度も助けを求め続けた人が救われる。変なプライドを捨てて、大声で助けを呼ぼう。「介護は孤軍奮闘では戦えません。困っていることは、具体的に訴えて。一度でダメなら、何度もかけあってゴネてゴネてアピールしましょう。命あっての物種ですから」【金言】「理想の死」は存在しない介護では、「延命治療をするかどうか」が大きな意味を持つ。「母は日ごろから『延命を望まない』と話していたので迷うことはないはずでした。それなのに、最後の決断はなかなかできませんでした」親は、延命治療の意味をきちんと理解していたのか。本当はもっと生きたかったのではないかと、余命いくばくもない母の姿に気持ちが揺さぶられるという。「介護施設の方から、『最期は、遠い溺死か、近い餓死のどちらか』といわれました。延命治療を行えば、水分が徐々に肺にまわって、おぼれるような感覚で死んでいく。いっぽう、延命治療を行わない場合は、栄養や水分の点滴もやめていき餓死が待っている。どちらを選んでもつらいのですが、どちらかを選ばないといけないのです」どんな死も苦しいのだろう。「理想の死」などないのかもしれない。きれいごとだけでは済まされない、ハードな親の介護。この“介護の金言”を、リアルな問題に立ち向かう心の支えにしよう。「女性自身」2021年2月9日号 掲載
2021年02月01日「介護は『一人でがんばれば、なんとかなる』ものではありません」そう話すのは約10年にわたって両親を介護したエッセイストの鳥居りんこさん。介護の実体験から『親の介護をはじめる人へ伝えておきたい10のこと』(学研プラス刊)を上梓した。「『介護は大変』って言いますよね。私も覚悟はしていました。それでも実際は、想定をはるかに超えてくる。私のメンタルは壊れる寸前でした」介護の初心者は、わからないことだらけ。用語さえ理解できない。「介護の相談窓口である地域包括支援センターを『ホウカツ』と呼ぶのですが、私はなぜか『呆活』と脳内変換してしまい、話が全くかみ合いませんでした」(鳥居さん・以下同)懸命に介護をしていても、心ない言葉を発する人もいる。認知症のために、親から罵声を浴びせられることもあるかもしれない。そんな状況でも、介護する人の心が折れないように守っていこう。経験者の鳥居さんに介護の本音をぶっちゃけてもらった。【金言1】介護の沙汰も金次第「介護は先手必勝です。『介護なんてまだまだ先』と笑えるうちに、親も含め介護に関わる全員を集めて親族会議を開くのがベストです」そこでの議題は介護のキーパーソンを決めたり、親がどんな最期を望むかを確認したり。なにより避けて通れないのが、お金の話だ。「介護の世界に、『格安なのに高品質』はありません。使える金額次第で、介護のカタチが決まります」お金持ちなら高級老人ホームも夢ではない。そうでなければ、お金の代わりに介護者の「時間と労力」を使うことになる。介護する人の負担は、『親がいくら持っているか』にかかっているのだ。「ストレートに『貯金っていくらある?』と聞くしかありませんが、集まった全員でエンディングノートを書くのもよい手だと思います」ポイントは、親だけでなく子どももそれぞれ書くこと。預金通帳のありかや暗証番号などを書き出し、親の貯蓄額も聞き出そう。「親が認知症になったら、親名義の財産を簡単に動かすことはできません。早め早めに、親の財産を把握して、現実的な介護方針を決めることが大切です」【金言2】外野は口を出すな金を出せ介護をする人は自分の生活を後回しにして、介護と日常のバランスをとっていることが多く、ギリギリの精神状態ということも。「介護ストレスが最高潮のとき、知人が『せっかくなら、笑顔で介護してあげたら』と。笑顔を出せない自分が悪い。でも、余裕などなくて、これ以上どうすればいいのだろうと、相当落ち込みました」そんなとき注文を付けてくるのは、介護に手を出さない外野だけ。上から目線で意見するのは、介護を経験したことのない人ばかり。「介護の当事者だったころは言えなかった本音を、いまから言います。外野は口を出すな!手を貸さないなら、金を出せ!」きれいごとだけでは済まされない、ハードな親の介護。この“介護の金言”を、リアルな問題に立ち向かう心の支えにしよう。「女性自身」2021年2月9日号 掲載
2021年02月01日’21年1月、「改正育児・介護休業法」が施行された。コロナ禍であまり注目されないが、育児・介護と仕事の両立には欠かせない法律だ。読者世代に関わりの深い介護を中心に、経済ジャーナリストの荻原博子さんが解説してくれたーー。■より利用しやすくなった介護休暇まず基本を確認しましょう。働きながら介護を行う方は、「介護休業」と「介護休暇」という2種類の休日が取得できます。介護休業はまとまった期間の休業です。介護される方1人につき通算93日間を、最大3回に分けて取得できます。たとえば、自宅の改修や介護施設の選定など、まとまった期間が必要なときに利用できます。いっぽう、介護休暇は単発で取得するものです。介護される方1人につき年5日まで、通院の付き添いやケアマネジャーとの打ち合わせなどに利用できます。今回の改正法では、介護休暇について2点が変わりました。1点目は、これまで介護休暇は半日単位でしたが、今後は1時間単位で取得できるようになります。たとえば1日6時間働く方は、1時間の介護休暇なら6回、2時間なら3回とると、1日分とカウントされます。これまでは半日単位だったので、年5日間は回数にすると年10回。毎月通院する付き添いには足りませんでしたが、1時間単位だと、1回を短時間にし回数を増やすこともできるので、使い勝手がよくなったと思います。また、1日の就業時間がまちまちで決まっていない方は、年平均を基準にし、1日の就業時間が7時間30分など1時間未満の端数がある方は切り上げて、8時間で1日分とカウントされます。ただし、勤務時間の途中で職場を離れる「中抜け」は、認められていません。介護休暇は始業時間を遅くするか、終業時間を早くする形で取得するもの。たとえば10~17時まで勤務の方が13~14時といった途中の時間帯では取得できません。なかには、社内規定によって中抜けOKの会社もありますので、ご確認ください。法改正の2点目は、これまで1日の勤務時間が4時間以下の労働者には介護休暇がありませんでしたが、今後はだれでも取得可能になりました。介護休暇は原則として、パートでも介護休業制度のない勤め先でも取得できます。ただ、正社員であっても雇用期間が1年未満の方や週の労働日数が2日以下の方は、労使協定によって対象外となることがあります。最後に、介護休業・介護休暇とも、給料は出ません。有給の介護休業制度がある会社もありますが、有給休暇もあわせて介護休暇の取り方を工夫してください。新型コロナウイルスの感染を恐れて、介護サービスの利用を減らす方もいるようです。ますます介護する家族の負担は重くなりますが、介護休暇・介護休業などを駆使して、なんとか離職しないで済む方法を考えてほしいと思います。「女性自身」2021年2月2日号 掲載
2021年01月22日コロナ禍で、高齢者はデイサービスの利用を控えたり、ヘルパーさんの来訪を断ることを余儀なくされている。そんななか代わって親の介護を担うため、仕事を休んだり差し入れをしたりと金銭的負担が重くなった人も多いはず。また介護にかかる費用は月額7.8万円(「生命保険に関わる全国実態調査・平成30年度調べ」)という試算もあるが、蓄えがなく無年金・低年金の親に代わって子どもが負担するケースも珍しくはない。『届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)などの著書もあるファイナンシャルプランナーの井戸美枝さんはこう言う。「親の介護で負担が重くなっている人には、国や自治体などからもらえるお金や税控除もいろいろあります。親名義、本人名義で手続きをしますが申請・届け出主義なので教えてはくれません」ということで井戸さんとともに主にどんな制度があるか利用方法や注意点を見てみよう。■高額療養費〈もらえる&得するお金〉医療費が規定額を超えた場合、お金が一部戻ってくる。年収により上限が異なる〈申請者〉親〈届出先〉会社員は会社の健保を通じて、自営業者らは市区町村「1カ月の自己負担が一定額を超えた場合、超えた分の医療費が戻ってきます。意外と制度を知らず、取り戻していない人もいるようです。たとえば入院手術で100万円かかったとすると3割負担の場合約30万円を窓口で払いますが、70歳未満で一般的な年収(370万〜770万円)であれば約9万円が自己負担額の限度額で、30万円から9万円を引いて約21万円が戻ります」(井戸さん・以下同)70歳以上は高齢者医療制度で自己負担の上限はさらに低くなる。高齢になると医療費の過度な心配はいらないということだ。■高額医療・高額介護合算療養費〈もらえる&得するお金〉医療費と介護費が規定額を超えた場合、お金が一部戻ってくる。年収により上限が異なる〈申請者〉親〈届出先〉市区町村「同じ世帯に医療と介護を受ける人がいる場合、年間でこの合計額が一定額を超えた分は戻ってきます。両親2人分を合算できますが、夫婦とも後期高齢者医療制度といったように、同じ制度に加入していることが条件となります」たとえば年収約370万〜770万円未満(年齢70歳以上)の場合、1年間の自己負担限度額は56万円となり、超えた分は戻ってくる。■親を扶養している場合の所得税控除〈もらえる&得するお金〉親を扶養している場合に節税可能。年収により額が異なる〈申請者〉子〈届出先〉税務署「同居で介護をしている人はもちろん、別居でも介護や仕送りをしているなら親を扶養にすることで48万円が税控除に。たとえば年収500万円(所得税率10%なら)の人は、48万円に10%をかけて、4万8,000円戻ってきます」「女性自身」2020年12月15日号 掲載
2020年12月05日■親子愛神話にノーを突きつける、『きらいな母を看取れますか?』「そうは言っても、実の親子なんだから」「子どものことを愛していない親なんていないよ」親に対して抱いているマイナスの感情について人に話したとき、相手からしばしば返ってくる言葉。「親なんだから」子どもに愛情を注がないはずはないし、「子どもなんだから」親の気持ちを汲まなければいけない。“親子愛神話”とも呼ぶべきそんな考え方は、私たちの社会のなかにごく自然なものとして浸透し、いまもなお強固な地位を築いています。特に、親の介護と看取りという親子関係の最終章においては、第三者から「親子の絆や愛は絶対だ」という圧力がかけられがちです。中には、親子関係が良好ではないから親の面倒を見たくない、と言う人に、親の最期を見届けるのは子どもの義務であると言わんばかりに「和解しなよ」と説く人もいます。しかし、高齢者介護や医療の分野で取材を重ねてきたフリーライターの寺田和代さんは、それを“無知で傲慢なこと”ときっぱりと言い切ります。“人生の早い時期に親子愛の恩恵をあきらめざるを得なかった人たちに、「親の愛は山より高く海より深い」と説き、親子なのだから今生の別れまでに、赦せ、和解せよ、とたとえ暗黙のうちであったとしても期待するのは、異性愛以外のセクシュアリティの人に「なぜ異性愛になれないの?」と問うのと同じくらい、無知で傲慢なことではないだろうか。(――寺田和代『きらいな母を看取れますか? 関係がわるい母娘の最終章』8頁より)”この言葉にハッとしたり、胸がすくような思いをする方もいるのではないでしょうか。寺田和代さんによる著書、『きらいな母を看取れますか? 関係がわるい母娘の最終章』は、親からの虐待やネグレクト、過干渉などといった問題が原因で良好な関係を結べなかった母と娘が、親子にとっての最後の局面である“介護”とどう向き合うかに焦点を当てた1冊です。■父の不機嫌と母の過干渉に悩まされ続けた、50代女性のケース著者は、現在の自分の生きづらさが親との関係に起因すると認めている「AC(アダルト・チルドレン)」の当事者。本書には、著者と同じく母娘関係に困難を抱えた当事者である、6名の女性たちの語りが収録されています。たとえば、エリコさん(53歳)という独身女性のケース。会社員の父と専業主婦の母のひとり娘として生まれたエリコさんは、突然押し黙ったり、怒り散らかして家族に暴力をふるったりする父の不機嫌と、欠落した団欒の空洞を埋めるがごとく、エリコさんの人生をすべてひとりでコントロールしたがる母の過干渉に、幼い頃から悩み続けていたと言います。外面はいい両親だったために、その苦しみを大人になるまで誰にも打ち明けることのできなかったエリコさん。短大への進学、就職も母が決めたルート通りにしたものの、自分の人生を一切生きられていないストレスに押しつぶされ、神経症や摂食障害をたびたび発症してしまいます。40代で出会った本をきっかけにカウンセリングや自助グループに通い始め、43歳のときにようやく実家を出ることのできたエリコさんは、父が病気で亡くなったいま、ようやく母と“月に一度くらいは外食や温泉に出かける”関係になったと語ります。エリコさんは、母に過去のおこないを謝ってほしいとは思っていません。謝られても赦せないほどのことをされてきたからこそ、いまの母を特に責めようとは思わない、と考えています。“「赦せない気持ちを抱いたまま、母と向き合いつづけることはできません。お金や公的支援などを使って、(同居は)なにがなんでも避けるでしょう。一対一で本気で向き合ったら、危険な状況になってしまうのは目に見えているから。それを避けるためにもなんとか“本当の気持ち”にはふれないまま関係を終わらせたい。本当のことを口にしないことで、静かな別れを迎えられるかもしれない、と思っているんです」(――同書、36頁より)”現在、高齢者マンションで暮らす母の介護は、マンションに付帯するサービスに任せることが決まっている、とエリコさんは言います。あえて“本当の気持ち”を母に伝えないまま静かに関係を終わらせたいと語る彼女の選択を、間違っていると非難できる人はいないはずです。■「もとはと言えばそれだけのことを母が娘にしてきたからです」その他の5名の女性たちも、両親のアルコール依存症やギャンブル依存症に悩み「家族解散」を決めたというケース、支配的で暴力的な母に悩み、血縁以外の人々に支えられて生き延びる道を選んだというケースなど、立場や状況は違えど、「母を看取ることはできない/看取りたくない」という思いを抱えています。また、母娘関係やアダルトチルドレンなどの問題に取り組んでいるカウンセラー・信田さよ子さんへのインタビュー。そして、弁護士である松本美代子さんに介護や相続、親子関係の法律について聞くQ&Aも、本書の巻末に収録されています。親の介護をどうしても引き受けたくない、看取ることはできない――と考えている方にとって、本書の中で6名の当事者の女性たちがとった(とろうとしている)選択を知ることや、親に対する扶養義務の法律上の範囲について把握しておくことは、「親の老い」という遠くない未来を生きるためのたしかな力になるはずです。本書の中で、カウンセラーの信田さよ子さんは、“──世間は常に親の味方です。老いた母を“捨てる”のか? とヒューマニズムに訴えてきます。多勢に無勢です。押し返す力が娘に持てるでしょうか。”という著者からの質問に、“世間が娘に突きつけるヒューマニズムはいったいだれにとってのヒューマニズムでしょう。「人を殺してはいけない」以外に、万人に共通のヒューマニズムはない、と私は考えています。世間のヒューマニズムは親、しかも年老いた親の味方です。すると、だれかが必ずその犠牲になる。それははたしてヒューマニズムなんでしょうか。私は家族についてそういうシビアな全体観を持っています。自分の人生や子どもたちを守るために、手放さざるを得ないものもあるのではないでしょうか。(――同書、151頁より)”と答えています。さらに、“そんな関係”のまま親に死なれたらあなたが後悔する、と言ってくる人に対しては、“そんな関係になったのも、もとはと言えばそれだけのことを母が娘にしてきたからです。そこまで追い詰められ苦しんでいる娘たちは、なにも自分のわがままや身勝手から訴えているわけではありません。(――同書、152頁より)”とはっきりと言い切っています。親子関係で悩み続けている人にとっていちばんつらいことは、世間や家族からの圧力以上に、「介護をしたくない」「これ以上、親に関わりたくない」という自分の思いに、自分自身が罪悪感を覚えてしまうことかもしれません。しかし、親の介護や看取りにあたってどんな選択肢をとるかは、当然ながら自分自身が決めていいことです。本書は、当事者や専門家による複数の語りを通じて、親ではなく、自分自身の人生を最優先にしていいということを繰り返し説いてくれます。親の介護についてこれから考え始めたい人にはもちろん、「親がきらい」という気持ちにうまく向き合えず、モヤモヤとした思いを抱えている人にもお薦めしたい1冊です。
2020年12月02日家族による介護といえば、40代や50代の世代が自分の親を介護しているというイメージがあるだろう。だが、じつは10代や20代で介護している若者が多くいる。相談する相手もおらず、理解もされない孤独な介護を強いられているーー。「小・中学生や高校生など18歳未満の『ヤングケアラー』や18歳以上の『若者ケアラー』が大勢いることを知ってほしいです。しかも、通学や仕事をしながら家族を介護している、そんな若年介護者は増加しているのです」そう語るのは、16歳から難病の母親の介護した経験から、ヤングケアラーの支援や若者ケアラーの転職支援を行っている「Yancle(ヤンクル)」代表の宮崎成悟さん。総務省の調査によれば、15~29歳で家族を介護している人は’17年で21万100人。その5年前の調査(17万7,600人)から急増している。そのうち10代は全国に3万7,100人いることが、毎日新聞の分析で判明した。「総務省の調査では14歳以下の小・中学生が含まれていないため、本当の実態は把握できていません。ヤングケアラーのなかには、8歳からアルコール依存症の父親の世話をしていた人もいます。家族を介護している子どもたちはもっと多い可能性があります。若年介護者が増加している背景は、少子高齢化社会が進んだうえに、シングル世帯や共働き世帯も増加したこと。家族ケアをする大人の人手が少ないことから、たとえ未成年でも大人が担うような介護をしているのです」(宮崎さん)そんな若年介護者の問題点はどんなことなのだろうか?「家族がケアすることは悪いことではありません。ただ、認知症の祖父や祖母のケア、障害のある兄弟姉妹の介護、病気の親の世話などをするなかで、負担が限界を超えて、学業や就業、若者らしい生活や将来、自由まで犠牲になってしまう。その結果、不登校になったり、中退したり、進学や就職を諦めてしまったりするケースが多いのです」宮崎さんも、高校卒業する直前に母親の容体が悪化。介護に注力するため大学進学を一度は諦めた経験がある。さらに、介護の話をしても周囲が理解してくれない場合も多いという。「介護は中高年層がやるものだという認識が強いため、若くして介護していると『なんであなたが?』と疑問視されることが多い。そのため学校や会社でも事情が伝わらず、1人で抱え込んでしまうケースも少なくないのです。若年介護者の多くは、どんなにつらくても、家族のことだからとSOSの声を出しづらい。まずは実態把握が急務。さらに相談したり、カウンセリングが受けられたりするサポート体制が必要です。そしてなにより大切なことは、私たち大人が、若年介護者がいることに無関心でいないことです」厚生労働省は12月から若年介護者の実態調査を始める。今も多くの若い介護者が苦しんでいることを胸に刻んでおこう。「女性自身」2020年11月24日号 掲載
2020年11月12日身の回りのことは、全部自分で決めたい。そういえば、趣味が少ないほうかも……。思い当たるフシがある人は要注意!介護によるストレスで、「介護うつ」になってしまうかも。回避のポイントは“頼る”ことだーー。「現在のコロナ禍にあっては、とくに介護うつ発症のリスクが高いといえるでしょう。ただでさえ弱っている高齢の家族に万が一のことがあってはいけないと、外出や友人との食事を控えたりしているうちに、家に閉じこもって介護に向き合う時間が増え、逃げ場がなくなる。こうした傾向は、うつ病の発症につながります」そう話すのは、高齢者の訪問診療に取り組む、つばさクリニック院長の鈴木智広先生だ。介護うつとは、介護や看病からくる精神的な負担から発症するうつ病のこと。介護者の過半数が精神的負担を感じているのが現状だ。高齢化社会といわれて久しい日本において発症する患者はあとを立たず、介護、看病疲れが原因の自殺者は、今や年間200人以上にのぼっている。「症状としては通常のうつ病と同じで、無気力になり、今まで楽しかったことが楽しいと感じられない、自責の念が強くなるなどの傾向が目立ちます。また、よく眠れなくなったり、食欲が落ちたりするケースも。原因は、介護によるストレスです。介護によって仕事を辞めたり、趣味の時間を減らしたりと生活を変えざるをえない方が多いかと思いますが、これは大きなストレスになりえます。また、つきっきりの介護で24時間気が抜けないような緊張状態も大きな負担になりますし、介護に関わる経済的な負担が原因で、気持ちが不安定になることもあるでしょう」しかし、こうした過酷な状況であっても、介護うつを発症しない人がいるのも事実だ。そこにはどんな差があるのだろうか。「生真面目で責任感が強く、すべてを一人で抱え込もうとする人は、追い詰められやすく、介護うつになりやすいといえます。いわゆる“ワンオペ介護”をしている人は、要注意です」’17年に発表された厚生労働省の調査によると、夫婦のみの世帯では、配偶者の要介護度が重症化しても、施設への入所を検討していない割合が高いとの結果が出ている。つまり、妻、もしくは夫ひとりで介護を背負い込んでいる家庭が多いということだ。住み慣れた自宅で夫婦で過ごしたいという思いのいっぽうで、介護する側にかかる負担が大きくなりすぎると、その生活自体が破綻してしまう危険もある。「介護者が疲労から介護うつになり倒れてしまったら、介護をする人がいなくなってしまいます。本末転倒の結果を招かないためには、なにより介護する人自身の健康が重要です。適切な介護サービスを利用して負担を軽くするのもそのためだと考えれば、“甘え”とはならないことがわかるはず」介護うつになりやすい人の特徴をチェックリストにまとめたので、自分が該当するかどうか、確認してみて。【介護うつ危険度チェックリスト】□ 生真面目□ 融通が利かない□ 責任感が強い□ 完璧主義□ 趣味がない□ 自分でなんでも決めたい□ 近親者にうつ病になった人がいる「介護うつにならないためには、誰かに相談すること。相談相手として、いちばん身近なのが高齢者福祉のスペシャリストであるケアマネジャーです。要介護認定を受けると、介護サービス利用のサポートをしてくれますが、実務的なことだけでなく、介護にあたって不安に感じていることを包み隠さず相談してみましょう。訪問診療をしていると、ケアマネジャーから『介護しているご家族が、かなり疲弊されています』と連絡があり、施設への入所やショートステイを案内するケースがあります。自身では判断ができなくても、身近で見ているケアマネジャーが気づいてサポートしてくれるのはよくあること。ふだんから、なんでも相談できる関係を築いておくことが大事です」介護の負担が減ればそのぶん自分のために使える時間が増え、気持ちを休めたり、趣味に時間を費やしたりして、ストレスの解消ができる。それが結果として、介護うつ発症の回避につながるのだ。「介護をひとりで抱え込んでいる方は、まず市区町村の役所の介護担当部署に相談することからスタートを。また、地域の医療や福祉などを支援する『地域包括支援センター』では、介護認定を受けていなくても相談ができます」介護を受ける家族のためにも、助けを求める勇気を持とう。「女性自身」2020年9月22日 掲載
2020年09月20日お笑いコンビ『EXIT』のりんたろー。さんが、2020年9月17日にTwitterを更新。介護に悩む人の心を軽くするコメントに、称賛の声が寄せられています。りんたろー。、泣きながら電話をかける祖母に…8年間、老人ホームで介護のアルバイトをしていていた、りんたろー。さん。祖母は老人ホームを利用しているといいます。ある日、今日が何日の何曜日なのか分からなくなってしまった祖母が、泣きながら母親に電話をかけてきたことがあったようです。焦る母親ですが、りんたろー。さんは、認知力が低下してしまった祖母にこのように声掛けをするのだとか。おばあちゃんが何日の何曜日かわからなくて泣きながら電話をかけてくると母が大騒ぎ「僕もわからないよ」「そのうち思い出すよ」「そんなに曜日が重要?」「職員さんが教えてくれるよ」僕は適当に言葉をかけます!介護って良い意味で適当さが重要一緒に落ちたら共倒れ!認知と共に楽しく生きよう!— りんたろー from EXIT (@rinnxofficial) September 17, 2020 「僕は適当に言葉をかけます!」と、介護には適当さも必要と明かすりんたろー。さん。きっと、肩に力を入れすぎないことは、認知力が低下した祖母にも、その介護をする母親にとっても、いい関係を保つことに繋がるのでしょう。ネット上では、たくさんの称賛の声が寄せられていました。・自分だって曜日と日にちが分からなくなることがある。そんなの重要じゃないって考えたい。・適当さがないと支える家族もつぶれてしまう。本当にその通りだと思います。・りんたろー。さんの言葉に救われました。ありがとうございます。認知症が進むと話が通じなかったり、すぐに忘れてしまったりして支える家族はどうしてもイライラしがち。ですが、「認知と共に楽しく生きよう!」というりんたろー。さんの言葉は多くの人を励ましたに違いありません。[文・構成/grape編集部]
2020年09月19日羽屋きとさんは、ブログに夫との日常や前職での実体験をもとにした漫画を投稿しています。さまざまな人物とのやりとりがゆかいに描かれ、「クスッ」としてしまう作品ばかりです。介護士だった頃の話羽屋さんが介護士として働いていた時のエピソードの中から、選りすぐりの作品をご紹介します!気難しい男性に、とんでもないお願いをした結果…クリスマス会の準備中、サンタさん役を誰にするかという話になり…。いや、めちゃめちゃノリノリやん!!普段の気難しい様子とは反対に、ノリノリでサンタ役をこなすSさんでした。「それ息子だと思ってチョイスした…?」利用者のSさんが、スタッフに向かって怒りをぶつけています。そこに救世主がやってきて…。Sさんは自分の息子が、イケメン俳優に似たリハビリの先生だと思っている様子。最後の羽屋さんの冗談まじりの鋭いツッコミが、冴えていますね!利用者が行方不明になる大ピンチ。実は…。利用者さんが行方不明に…!?羽屋さんが働く施設の利用者であるCさんの姿が、見えなくなった時のこと。慌てて探して回ると…。ずっと部屋にいましたー!Cさんは、なんとベッドと壁の間に挟まっていたのです。無事で本当によかった…。利用者たちの日常を支える介護士。羽屋さんの描いた利用者たちの笑顔は、まぎれもなく介護士の力があってこそのものといえるでしょう![文・構成/grape編集部]
2020年09月18日「介護をしている家族は心身の健康を損なったり、仕事を犠牲にしていたりするなど多くの問題を抱えています。ところが、そんな家族に支援の手が及ぶことはありませんでした。この条例が要介護者の影での存在であるケアラー(=家族などの無償の介護者)に光をあてるのです」3月27日、埼玉県議会で成立した「埼玉県ケアラー支援条例」について、こう語るのは日本女子大学名誉教授で日本ケアラー連盟代表理事の堀越栄子さん。全国初となる「埼玉県ケアラー支援条例」は、介護をしている人が個人として尊重され、健康で文化的な生活を営めるように、ケアラーが孤立しないように社会全体で支えることを目標としている。現在、ケアラーについての実態調査が行われており、その後、介護者のための相談窓口の設置や休息施設の整備、経済的支援、就業機会の提供などの支援策が検討されていくという。条例に関する有識者会議のメンバーでもある堀越さんが解説する。「実態調査の結果を受け、計画を練り上げ、来年3月には基本方針と具体的支援策を定めるスケジュールで動いています。介護というと、中高年の女性が行う高齢者介護のイメージがありますが、ケアラーには男性もいるし、18歳未満の“ヤングケアラー”から100歳のケアラーまでいます。また2〜3人と複数の人を介護している人、子育てと親の介護を同時にしている人など多種多様。当初、ケアラーの定義には、介護期間や継続してやっていることなどの要件がありましたが、間口を広げて、誰もが相談できるような体制にしたほうがいいという認識で、その要件は外されました」埼玉県条例が定義するケアラーは、次のとおり。《高齢、身体上又は精神上の障害又は疾病等により援助を必要とする親族、友人その他の身近な人に対して、無償で介護、看護、日常生活上の世話その他の援助を提供する者をいう。》(「埼玉県ケアラー支援条例」第二条一より)厚生労働省の調査によると、介護者の約6割が同居家族だ。日本労働組合総連合会が’14年に行った要介護者を抱える家族に対しての実態調査によると、介護者の35.5%が要介護者に対して憎しみを感じたことがあると回答。認知症の人を介護している人にいたっては7割にのぼった。家族介護に依存しない“介護の社会化”を掲げた介護保険制度がスタートして20年たつが、日本では、家族による介護殺人や心中事件は2週に1件の頻度で起きている。また介護離職者は年間約10万人いるが、その8割弱が女性だ。現在、議論が進んでいる「ケアラー支援条例」では、どのようなサポートが行われるのだろうか。今回の条例の有識者会議のメンバーでもある「認知症の人と家族の会」副代表理事の花俣ふみ代さんが語る。彼女自身も、姑の在宅介護を7年間したあと、実母の遠距離介護を5年間した経験がある。「支援策として、1人で抱え込んでいる介護者にとって駆け込み寺のようなところを設置して、介護者が『がんばらなくてもいい』と言ってもらえる空間をつくることが重要だと考えています」海外では介護者に対する支援を法律で明記している国が少なくない。次にあげた3カ国は、とくにケアラー支援の先進国だ。■日本が見習いたいケアラー先進国の取り組み(※IACO supported by Enbracing Carers TM、「家族介護者支援に関する諸外国の施策と社会全体で要介護者とその家族を支える方策に関する研究事業」より本誌作成)【全人口】イギリス:6,643万5,550人ドイツ:8,291万4,191人オーストラリア:2,499万2,860人【65歳以上人口】イギリス:1,216万5,557人ドイツ:1,779万8,089人オーストラリア:391万4,673人【65歳以上の割合】イギリス:18.3%ドイツ:21.5%オーストラリア:15.7%【ケアラーの数】イギリス:650万人ドイツ:320万人オーストラリア:265万人【ケアラーの定義】イギリス:無償で長期にわたって、身体・精神的な疾病・障害、また高齢にともなうケアの必要によって、家族や友人、その他の人を世話している人ドイツ:介護保険で要介護者と認められた近親者を、通常は週に2日以上、かつ合計10時間以上介護しているオーストラリア:障害のある人、医学的状態、精神疾患、または加齢による身体の衰えのある人々に対し、身の回りのケア、手助けもしくは援助を提供する人々【現金給付】イギリス:日本円で週約9,000円(介護者1人当たり。収入要件あり)ドイツ:在宅ケアの場合、月約4万〜11万円を要介護度に応じて介護を受けている人に支給オーストラリア:介護のため就労できない単身者の場合、約10万円を支給【介護休暇】イギリス:介護のためにフレックスタイム、休暇および休職を要求できるドイツ:最長2年の介護休暇の権利。緊急に介護が必要な場合は最長10日、終末期ケアとして最長3カ月の休暇オーストラリア:年間10日間の有給の介護休暇に加え、無給の「2日間休暇」やケガや病気を負った場合「2日間特別休暇」など【保険・税制】イギリス:現役世代のケアラーでも、基準を満たせば、公的年金を受給できるドイツ:収入減には無利息での貸付け制度。ケアラーには労災、年金、失業、疾病、介護保険が適用オーストラリア:介護者給付、介護者手当は非課税【その他の支援】イギリス:夜間の見守りサービス、教会、病院、美容院、映画などへ行く時間などの休養プログラムドイツ:介護技術を学べる無料講習や介護者同士の交流の機会の提供オーストラリア:カウンセリング、デイサービスや宿泊付きの施設利用などケアラーの負担軽減サービスこれら“先進国”から学ぶことは多いと、花俣さんが語る。「ケアラーが孤立しないように、また苦しくなったり疲労困憊したりしたときに、いつでも休息が取れるなど、さまざまな支援で支えているのが特徴です。各国のような現金支給の導入も議論されていいでしょう。ただ、それだけでは家族介護の固定化につながるので注意が必要です」最後に堀越さんが語る。「ケアラー支援は、よい介護をするための支援ではなく、介護者自身の人生の支援。この埼玉県の動きが国全体にも波及してほしい」「女性自身」2020年9月8日 掲載
2020年08月27日介護は子が親にする最後の恩返しといわれますが、実情は甘いものではありません。認知症ともなれば、「手に負えない」ことが多く、困り果ててしまいます。高齢化が進むなかで、介護の必要性は高まっていますが、受け入れる側の体制は整っていないようです。 親の介護を拒否したいHさん介護について悩んでいるのが、50代男性のHさんです。彼の父親は窃盗などで犯罪を重ねており、つねに頭を悩ませられてきた存在。疎遠になりほとんど連絡もとっていませんが、最近病魔に倒れ、親戚から「息子に介護を頼みたい」と話していると伝えられました。様々な場面で「ネック」となってきた父親の介護をすることについて、Hさんは強い抵抗感を持っており、関わりを持ちたくないと考えているそう。しかし周囲には「お前が面倒を見るべきだ」「子供としての義務を果たすべきだ」という声もあり、思い悩んでいます。Hさんは介護しなければならないのでしょうか?あすみ法律事務所の高野倉勇樹弁護士にお聞きしました。 介護しなければいけないのか?高野倉弁護士:「自分で介護する必要はありませんが、経済的援助(扶養)をする必要はあります。まず、子ども自らが父親を介護する必要はありません。これは、父親が犯罪を重ねていてもいなくても同じです。大人になった子どもには親を扶養する義務があります(民法877条1項)。扶養の方法は、金銭的な援助が原則です。同居するなどして子ども自身が世話をする必要まではありません。介護保険を利用して介護サービスを入れる、施設に入所してもらい施設費を援助するといった方法が考えられます」 保護責任者遺棄になる場合も高野倉弁護士:「ただし、既に介護していた父親を何の手当もなく急に放置した場合には、保護責任者遺棄罪(刑法218条)に問われる可能性があります。扶養義務自体はなくならないとしても、親の不行状は扶養の内容に影響する可能性はあります。親子間に「容易に融和できない対立」があり、その原因が親の「やや異常と思える程のかたくなな性格」にあるとしても、扶養義務自体は認められるとした裁判例があります(大阪高等裁判所昭和45年11月26日決定)。このような事情は、扶養として支払う金額を少なく定めるという方向に働きます。なお、介護を受けるような状態にある人が犯罪を重ねるケースの場合、認知症を含む精神障害がないか、その影響で犯罪に及んでいるのではないかと考えてみることが必要です。精神障害が原因であれば、精神科病院や精神保健福祉センターなどでの治療によって状況が改善する場合があります」 遺産相続はどうなる?仮に介護を拒否した場合、遺産相続はどうなるのでしょうか?高野倉弁護士:「親(被相続人)の不行状は、相続に特別の影響はありません。子ども(相続人)は、相続したくなければ「相続放棄」の手続をすればよいということになります。相続放棄は、親(被相続人)の存命中はできません。親(被相続人)が死亡し、相続が開始した後に初めて、家庭裁判所に申立てをすることで相続放棄をすることができます」 子が親を介護は義務?介護は由々しき問題です。Hさん以外にも、放棄したいと考えている人はいることでしょう。子は親を介護しなければいけないものなのでしょうか?高野倉弁護士:「先ほど述べたとおり、子どもが『自ら介護をする義務』はありません。ただし、扶養義務として、経済的な援助をする義務はあります。法的に『親子の縁を切る』ということはできないので、扶養義務はどうしても残ります。介護するかしないかの選択権はありますが、扶養するかしないかの選択権はないといえます」 しっかりと覚えておこう子が親を介護するのは一般的なケースですが、「しなければいけない」という義務はありません。誤った認識を持っている人も多いと聞きますので、しっかりと覚えておきましょう。 *取材協力弁護士:高野倉勇樹(あすみ法律事務所。民事、刑事幅広く取り扱っているが、中でも高齢者・障害者関連、企業法務を得意分野とする)*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)犯罪を重ねる親の介護を拒否したい!子は親を「介護しなければ」いけない?はシェアしたくなる法律相談所で公開された投稿です。犯罪を重ねる親の介護を拒否したい!子は親を「介護しなければ」いけない?はシェアしたくなる法律相談所で公開された投稿です。
2020年07月31日’00年に介護保険制度がスタートし、認知症などの高齢者の介護は家庭だけでなく、社会全体で取り組むことになった。ところが介護を理由とした家族間での殺人の件数は減らず、厚生労働省の統計によると年間20〜30件起きている。2週間に1件程度の頻度で、介護殺人が起きている計算だ。同調査によると、加害者の3割から4割が女性で、女性が男性を上回ることは一度もなかった。しかし、「異変が起きている」と語るのは、日本福祉大学社会福祉学部教授で『介護殺人の予防』(クレス出版)の著書がある湯原悦子先生だ。「介護殺人の加害者の男女比率は長年この割合で推移してきましたが、今年1月から7月までを調べてみると、女性が加害者である割合が増加しているんです」次の「2020年に起きた介護が理由とみられる死亡事件」を見てほしい。湯原先生が独自に調べた、今年に入ってから7月21日現在までに起きた15件の介護殺人の内容だ。加害者が女性のケースは9件と、男性を上回っている。■2020年に起きた介護が理由とみられる死亡事件(※年齢は逮捕当時。湯原先生の調査を基に本誌が作成。高齢者に対する介護を原因とした死亡事件に限った)【1月2日・神奈川県相模原市】容疑者/加害者:娘(53)1月6日、85歳の母親の遺体を自宅に放置したとして、死体遺棄の疑いで娘を逮捕した。5日に自ら通報して発覚。娘によると母は2日に亡くなったという。遺体の顔面や上半身に内出血があり、「たたいたことはある」と供述している。【1月7日・静岡県伊豆の国市】容疑者/加害者:息子(54)1月7日、警察が衰弱した母親を自宅で見つけ、病院に搬送されたが、死亡した。81歳の母親は歩行困難だったが、介護をしていた息子は1月5日朝に家出。3月12日に発見され、保護責任者遺棄致死の疑いで逮捕された。【1月28日・愛知県東海市】容疑者/加害者:夫(79)夫は「妻を刺した」と長男に電話し、長男が通報。駆け付けた警察官が72歳の妻の遺体と意識不明の重体の夫を発見した。夫妻は2人暮らし。夫は周囲に妻の介護に悩んでいると漏らしていたといい、心中を図ったとみられる。【2月3日・宮城県気仙沼市】容疑者/加害者:妻(69)妻が親戚に「夫を殺してしまった」と連絡し、事件が発覚。目が不自由な74歳の夫は日常的に介護が必要だった。妻は「介護に疲れた」と供述し、警察は殺人の容疑で妻を逮捕。近所の人たちの証言によると、2人は仲むつまじい夫婦だったという。【2月4日・宮城県仙台市】容疑者/加害者:妻(69)、息子(43)2月2日、末期がんで体が不自由な78歳の夫を放置して、妻と長男が外出。3月未明に、妻の通報で救急搬送されたが、4日午前に死亡。妻と長男は保護責任者遺棄容疑で逮捕、送検されたが、3月6日に仙台地検は妻と長男を不起訴とした。【3月2日・兵庫県明石市】容疑者/加害者:息子(41)マンションの一室で72歳の母と息子が倒れていると、親族が通報。母はすでに死亡しており、意識不明だった息子も病院搬送後に死亡が確認された。母は認知症を患い息子が介護していた。無理心中だとみられている。【3月7日・埼玉県羽生市】容疑者/加害者:妻(71)「夫を殺した」と妻が自ら通報。「介護に疲れていた」と供述し、72歳の夫を、首を絞めて殺害した容疑で逮捕された。妻の首や手首には切り傷があり、無理心中を図ったとみられている。【4月7日・東京都杉並区】容疑者/加害者:夫(82)夫は「母さんが死んだ。俺も後を追う」と長女に電話。長女が通報して、事件が発覚した。81歳の妻は要介護3だった。夫は「将来を悲観して一緒に死のうと思ったが、死ねなかった」と供述、殺人容疑で逮捕された。【4月18日・大阪府大阪市】容疑者/加害者:息子(57)特別養護老人ホームに入所した91歳の母を毎日のように見舞っていたが、新型コロナの流行で面会が禁じられ、4月17日に自宅に引き取った。翌日の夜、母を殺害し、自身も自殺。「母に『死にたい』と言われ、糸が切れた」という遺書が残されていた。【4月28日・宮城県仙台市】容疑者/加害者:娘(68)強い足の痛みを抱える94歳の母が「早く逝きたい」と言うように。娘は多量の睡眠薬を混ぜたジュースを飲ませ、座布団で顔を押さえつけて母を窒息死させた。嘱託殺人の罪に問われ、7月15日に検察は懲役3年を求刑。判決は8月19日予定。【5月5日・埼玉県さいたま市】容疑者/加害者:娘(26)60歳の母を殺害し、娘が自ら110番通報した。母と娘の2人暮らしで、「3年ほど前に脳の病気で体が不自由になった母を、自分が介護をしていた」と供述し、「介護に疲れた」と容疑を認めているという。【5月14日・茨城県利根町】容疑者/加害者:妻(73)5月14日、呼び鈴を押しても応答しないことを不審に思ったデイサービス施設の職員が長男を呼び出して確認したところ、死後数日が経過した夫婦の遺体が見つかった。介護が必要だった77歳の夫は首を絞められた痕があり、妻は首をつっていた。【6月5日・神奈川県小田原市】容疑者/加害者:妻(73)83歳の夫と妻、長男次男と4人暮らしだった。5日午前0時ごろ、妻は夫の首を絞めて殺害。妻に起こされて、事情を明かされた長男が通報し、事件が発覚。妻は「夫の介護に疲れた」と供述し、殺人容疑で逮捕された。【6月18日・沖縄県南風原町】容疑者/加害者:妻(72)6月18日夕、同居している家族が帰宅すると、意識不明の76歳の夫と妻を発見。介護が必要な状態だったという夫は搬送先の病院で死亡した。自殺を図ったとみられる妻は、意識が回復後に「介護に疲れた」と供述し、殺人容疑で逮捕された。【7月11日・鹿児島県知名町】容疑者/加害者:息子(70)90歳の母親を複数回殴打した翌日、ぐったりとしているのに気づき、息子自らが通報。息子は寝たきりの母を介護しながら2人暮らしだったが、介護を巡って親子で対立があったと伝えられている。「妻が夫を殺害し、その後、自らも命を絶とうと無理心中を図っても死にきれなかったという事例が増えています。気がかりなのが、加害者となった女性が、一様に『介護に疲れて』と動機を語っていること。これまで『介護に疲れた』という理由で肉親を殺害するケースは比較的男性に多かったのです」(湯原先生)いったいどうすれば、最悪の事態を防ぐことができるのだろうか。「まずは介護する人は、自分も支援される立場だということを認識することが大事です。介護者(ケアラー)支援の先進国であるイギリスやオーストラリアではすでに法整備されていて、介護者に対して休暇取得や現金支給、カウンセリングなどのサービスが提供されています。今年3月には埼玉県で、全国初となる『ケアラー支援条例』が施行。介護事業者や医療機関を通じて介護者が抱える課題を聞き取り、具体的な支援につなげることを法制度化しました。この動きが全国に広がっていくことが求められています」(湯原先生)湯原先生は、こんなアドバイスをしてくれた。「たとえば、要介護者の4分の1を占める認知症の場合、家族である介護者は『戸惑い・否定』『混乱・怒り・拒絶』『割り切り・あきらめ』『人間的・人格的理解』という4段階の心理的ステップを必ずたどります。介護殺人は第2段階にとどまっている人が、1人で苦しんだ末に事件を起こしているケースが少なくありません。とくに親など自分が大切な人が、訳のわからない言動をすることで戸惑い、そして混乱や怒りの感情を抱いて『今が最悪』な状況と思ってしまうのです」早く次の「割り切り・あきらめ」の段階に進むことが重要だという。「この段階になれば、さまざまなサポートを受け入れられるようになり、介護者がイライラせずに、肩の力を抜いて穏やかに暮らすことが可能になります。第2段階から第3段階に進むためには、他人の介護の体験談から学ぶことです。多くの体験を聞くことで、自分の状況を相対的に見ることができたり、心構えができたりするのです」(湯原先生)認知症患者とその家族の交流の場「認知症カフェ」を開催している目白MMクリニックの内田暁彦院長が語る。「認知症の症状を止めるのは困難です。私ができるのは、患者と家族が自分らしい生活を続けられるよう寄り添い続けることです。心身の負担が大きい介護者が語り合い、情報交換をする場は、問題を共有することで介護者の気持ちが少し楽になるという効果も。またデイサービスも、患者さんのためだけではなく、介護者にとって自分の時間を作るためにも活用するようにしてください。介護の苦しみは永遠に続くわけではありません。1人で抱え込まずに、仲間を作ることも大切。公的な介護サービスを利用したりして負担を分散することが重要です」もし、自分や周囲の人が介護によって追い詰められる事態になれば、どうすればいいのか?「病院や医師だけでなく、住んでいるところの地域包括支援センターや役所、地域の家族会など、介護の不満やSOSが言える場所をいくつか確保しておくほうがいい。また、社会としても、困難に陥っている介護者を早く見つけ出して、いかに手を差しのべるかが課題なのです」(内田院長)介護殺人を回避するためには、介護者の心の余裕と社会のサポートが欠かせないようだ。「女性自身」2020年8月11日 掲載
2020年07月30日介護の疲れから、身内の苦痛を見るのがつらくて……親族に手をかけてしまう“介護殺人”は長年の社会問題だ。だが、コロナ禍で起こり方に変化の兆しがあるというーー。’00年に介護保険制度がスタートし、認知症などの高齢者の介護は家庭だけでなく、社会全体で取り組むことになった。ところが介護を理由とした家族間での殺人の件数は減らず、厚生労働省の統計によると年間20〜30件起きている。2週間に1件程度の頻度で、介護殺人が起きている計算だ。同調査によると、加害者の3割から4割が女性で、女性が男性を上回ることは一度もなかった。しかし、「異変が起きている」と語るのは、日本福祉大学社会福祉学部教授で『介護殺人の予防』(クレス出版)の著書がある湯原悦子先生だ。「介護殺人の加害者の男女比率は長年この割合で推移してきましたが、今年1月から7月までを調べてみると、女性が加害者である割合が増加しているんです」次の「2020年に起きた介護が理由とみられる死亡事件」を見てほしい。湯原先生が独自に調べた、今年に入ってから7月21日現在までに起きた15件の介護殺人の内容だ。加害者が女性のケースは9件と、男性を上回っている。■2020年に起きた介護が理由とみられる死亡事件(※年齢は逮捕当時。湯原先生の調査を基に本誌が作成。高齢者に対する介護を原因とした死亡事件に限った)【1月2日・神奈川県相模原市】容疑者/加害者:娘(53)1月6日、85歳の母親の遺体を自宅に放置したとして、死体遺棄の疑いで娘を逮捕した。5日に自ら通報して発覚。娘によると母は2日に亡くなったという。遺体の顔面や上半身に内出血があり、「たたいたことはある」と供述している。【1月7日・静岡県伊豆の国市】容疑者/加害者:息子(54)1月7日、警察が衰弱した母親を自宅で見つけ、病院に搬送されたが、死亡した。81歳の母親は歩行困難だったが、介護をしていた息子は1月5日朝に家出。3月12日に発見され、保護責任者遺棄致死の疑いで逮捕された。【1月28日・愛知県東海市】容疑者/加害者:夫(79)夫は「妻を刺した」と長男に電話し、長男が通報。駆け付けた警察官が72歳の妻の遺体と意識不明の重体の夫を発見した。夫妻は2人暮らし。夫は周囲に妻の介護に悩んでいると漏らしていたといい、心中を図ったとみられる。【2月3日・宮城県気仙沼市】容疑者/加害者:妻(69)妻が親戚に「夫を殺してしまった」と連絡し、事件が発覚。目が不自由な74歳の夫は日常的に介護が必要だった。妻は「介護に疲れた」と供述し、警察は殺人の容疑で妻を逮捕。近所の人たちの証言によると、2人は仲むつまじい夫婦だったという。【2月4日・宮城県仙台市】容疑者/加害者:妻(69)、息子(43)2月2日、末期がんで体が不自由な78歳の夫を放置して、妻と長男が外出。3月未明に、妻の通報で救急搬送されたが、4日午前に死亡。妻と長男は保護責任者遺棄容疑で逮捕、送検されたが、3月6日に仙台地検は妻と長男を不起訴とした。【3月2日・兵庫県明石市】容疑者/加害者:息子(41)マンションの一室で72歳の母と息子が倒れていると、親族が通報。母はすでに死亡しており、意識不明だった息子も病院搬送後に死亡が確認された。母は認知症を患い息子が介護していた。無理心中だとみられている。【3月7日・埼玉県羽生市】容疑者/加害者:妻(71)「夫を殺した」と妻が自ら通報。「介護に疲れていた」と供述し、72歳の夫を、首を絞めて殺害した容疑で逮捕された。妻の首や手首には切り傷があり、無理心中を図ったとみられている。【4月7日・東京都杉並区】容疑者/加害者:夫(82)夫は「母さんが死んだ。俺も後を追う」と長女に電話。長女が通報して、事件が発覚した。81歳の妻は要介護3だった。夫は「将来を悲観して一緒に死のうと思ったが、死ねなかった」と供述、殺人容疑で逮捕された。【4月18日・大阪府大阪市】容疑者/加害者:息子(57)特別養護老人ホームに入所した91歳の母を毎日のように見舞っていたが、新型コロナの流行で面会が禁じられ、4月17日に自宅に引き取った。翌日の夜、母を殺害し、自身も自殺。「母に『死にたい』と言われ、糸が切れた」という遺書が残されていた。【4月28日・宮城県仙台市】容疑者/加害者:娘(68)強い足の痛みを抱える94歳の母が「早く逝きたい」と言うように。娘は多量の睡眠薬を混ぜたジュースを飲ませ、座布団で顔を押さえつけて母を窒息死させた。嘱託殺人の罪に問われ、7月15日に検察は懲役3年を求刑。判決は8月19日予定。【5月5日・埼玉県さいたま市】容疑者/加害者:娘(26)60歳の母を殺害し、娘が自ら110番通報した。母と娘の2人暮らしで、「3年ほど前に脳の病気で体が不自由になった母を、自分が介護をしていた」と供述し、「介護に疲れた」と容疑を認めているという。【5月14日・茨城県利根町】容疑者/加害者:妻(73)5月14日、呼び鈴を押しても応答しないことを不審に思ったデイサービス施設の職員が長男を呼び出して確認したところ、死後数日が経過した夫婦の遺体が見つかった。介護が必要だった77歳の夫は首を絞められた痕があり、妻は首をつっていた。【6月5日・神奈川県小田原市】容疑者/加害者:妻(73)83歳の夫と妻、長男次男と4人暮らしだった。5日午前0時ごろ、妻は夫の首を絞めて殺害。妻に起こされて、事情を明かされた長男が通報し、事件が発覚。妻は「夫の介護に疲れた」と供述し、殺人容疑で逮捕された。【6月18日・沖縄県南風原町】容疑者/加害者:妻(72)6月18日夕、同居している家族が帰宅すると、意識不明の76歳の夫と妻を発見。介護が必要な状態だったという夫は搬送先の病院で死亡した。自殺を図ったとみられる妻は、意識が回復後に「介護に疲れた」と供述し、殺人容疑で逮捕された。【7月11日・鹿児島県知名町】容疑者/加害者:息子(70)90歳の母親を複数回殴打した翌日、ぐったりとしているのに気づき、息子自らが通報。息子は寝たきりの母を介護しながら2人暮らしだったが、介護を巡って親子で対立があったと伝えられている。「妻が夫を殺害し、その後、自らも命を絶とうと無理心中を図っても死にきれなかったという事例が増えています。気がかりなのが、加害者となった女性が、一様に『介護に疲れて』と動機を語っていること。これまで『介護に疲れた』という理由で肉親を殺害するケースは比較的男性に多かったのです。男性は認知症になった妻や親の介護を抱えても、周囲に悩みを打ち明けたり、何かに頼ったりしない傾向があります。思いどおりにいかない介護を1人で背負い、あるとき何かがポキンと折れるように事件を起こしてしまうケースが多いのです」(湯原先生・以下同)一方、女性の場合、介護のことを育児と同じように身近な話題として、友人や知人、職場などで愚痴や悩みを共有しやすいという。「女性に多い動機は、夫や親など、介護している対象の『苦しみを終わらせてあげたい』というものが多かった。しかし、ここにきて、介護疲れを理由とした女性の事件が増えているのです」いったい、何が起こっているのだろうか?「『介護に疲れて』という動機は『将来を悲観して』という動機と表裏一体。この先、よくなるとは思えない暗い将来を憂い、介護を続ける気力を失い、“ならば一緒に死んでしまおう”、という発想になってしまう女性が増えているのかもしれません」昨年は「老後資金2,000万円不足問題」など、老後の不安が拡大する話題が多かった。そして、今年は新型コロナウイルスの感染が拡大。他者との交流がしづらく、悩みを共有する機会を失ったり、将来への不安を深めたりしている人は多い。そんな時代背景が介護している女性を追い込んでいるのかもしれない。「女性自身」2020年8月11日 掲載
2020年07月30日【今週の悩めるマダム】コロナ禍のなか、同居している要介護1〜2の義父母(主人の両親)の介護に明け暮れる日々です。近くに住んでいるのに両親と仲の悪い主人の2人の妹たちは、訪問はおろか電話1本ありません。私の都合の悪いときくらい、手伝ってくれてもいいのにと思ってしまいます。唯一の救いは主人からの感謝の言葉です。(愛知県在住・50代主婦)これは切実な話ですね。奥様の立場になって、いろいろと考えてみました。結論から申し上げますと、奥様はとっても優しい方です。だから、断れないのですね。少しきつい言い方をしますが、お許しください。綺麗事を言っていても解決できません。奥様がこの問題で離婚するとか、不幸になることは絶対にあってはいけませんから、多少は心を鬼にして挑んでもらいたい。奥様も生きているんですよ。ご自身の幸せを大事にしないと生きていることが辛くなりますよね。僕が暮らすフランスでは、子どもたちが親の介護をすることはほとんどありません。親がそれを望まないからです。ましてや嫁がやることではありません。フランスの親は子どもに頼らない。そういう国もあるんだ、と思ってください。これが日本の価値観に当てはまるとは思っていませんが、でも、実際にそういう世界もあるんです。奥様は優しくて、またご主人を愛しているし、ご主人のご両親にも情が湧いているのがよくわかります。しかし、これを続けていくと、奥様ご自身の人生が死んでしまいます。それはダメだ。絶対、ダメです。僕がもし奥様の立場だったら、まず、ご主人とご主人の妹さんたちにはっきりと言います。血の繋がったあなたたちが何もやらないで血の繋がってない自分がすべて引き受けるのは不条理だ、と。ストライキというのは人間の権利です。奴隷じゃないんです。実の娘が2人も近所にいて何もやらないっておかしいです。鬼ですよ。妹さんたちとご両親が仲が悪いということは奥様にはまったく関係ない話です。もし奥様が病気になったら、誰かがこの代わりをすることになるわけです。そういうことは起こりえます。まず、ご主人と妹さんたちと話をし、なんなら妹さんたちのご主人たちも含めてみんなで話し合い、自分にも時間が欲しいと訴えてください。そういう話し合いの場を持つべきでしょう。その上での解決策ですが、デイサービスや介護施設などを利用することに持っていければいいですね。まずは時間の確保が必要です。費用は3家族で割りましょう。そして、その判断をご主人と妹さんたちにやってもらうのがいいでしょう。こうすれば、これまでのようなハードな毎日からは多少解放されるはずです。それをしなければ、奥様はずっと自分を犠牲にして生きていかないとならなくなるのです。奥様にだってご両親がいますね。自分の親の面倒もそのうち看ないとならなくなるでしょう。奥様の優しさはわかりますが、ここはご自身が死なないためにはっきりと訴えましょう。「赤ん坊は泣かないとミルクを与えてもらえない」のです。我慢せず、演技でもいいので、号泣してください。「あなたたちの親でしょ、私にだって親がいるんですから」と主張してください。【JINSEIの格言】僕が暮らすフランスでは、子どもたちが親の介護をすることはほとんどありません。親がそれを望まないからです。ましてや嫁がやることではありません。そういう国もあるんです。この連載では辻さんが恋愛から家事・育児、夫への愚痴まで、みなさんの日ごろの悩みにお答えします!お悩みは、メール(jinseinospice@gmail.com)、Twitter(女性自身連載「JINSEIのスパイス!」お悩み募集係【公式】(@jinseinospice)、またはお便り(〒112-0811 東京都文京区音羽1-16-6「女性自身」編集部宛)にて絶賛募集中。※性別と年齢を明記のうえ、お送りください。以前の連載「ムスコ飯」はこちらで写真付きレシピを毎週火曜日に更新中!
2020年07月28日タレントで加藤茶(77)の妻・加藤綾菜(32)が6月16日、インスタグラムを更新。介護士として施設で働くことを報告した。《撮影が終わり緩和ケアの授業をうけたノートを復習。やっぱり、初任者研修(ヘルパー2級)をとったなら1級(実務者)とって知識を深めたい》と切り出した綾菜。《自己満のためじゃなく役に立つ自分になりたいと心から思ったよ!》とつづり、《介護の現場にも立ちたい。。。学びたい!って事で働かせてもらえる施設を探してまして。。。見つかりました働かせて頂ける事になりました!!感謝です》と意気込みを見せた。3月にインスタグラムで、基本的な介護技術を身につける「介護職員初任者研修」の試験に合格したと明かしていた綾菜。5月20日放送の『ノンストップ!』(フジテレビ系)では、綾菜の試験当日の様子を紹介。昨年から約4カ月間にわたって週2~3回のペースで通学し、計130時間の講義と実技を受講したという。またびっしりメモが取られたノートや、たくさんの付箋がついた3冊のテキストも公開された。綾菜は資格取得を決意したきっかけを「今後10年、20年先に加トちゃんが病気した時、自分が何かやってあげたいと思った」とコメント。さらに学習を通じて、日常にも変化があったという。加藤に対して何でも世話するのではなく、「自分で動いてもらうことも大切」と語っていた。そんな綾菜の「加トちゃんにとって良き妻になる」という決意は固いようだ。「結婚4年目、加藤さんはパーキンソン症候群に罹りました。綾菜さんは体重が38キロになった夫を『絶対に死なせてはいけない』と決意したものの、実際には何もできないと悔いていたそうです。しかしその後、通信教育で食育インストラクターの資格を取得。さらに減塩料理の教室に通い、夫の健康維持に努めていました。綾菜さんは現在、介護資格の次なるステップである『実務者研修』も勉強中のようです。加藤さんもそんな妻の行動に、『ありがとう。これで安心だ』と感謝しているといいます。当初は45歳差から“財産目当て”といったバッシングを浴びていた綾菜さんですが、すっかり“良妻”のイメージが定着していますね」(芸能関係者)「夫が最優先」の軸がブレない綾菜。着実にステップアップしていく姿に、エールが寄せられている。《凄い!目標へ目指して行動して…達成して次のステップへ…素敵です!》《素晴らしいです!応援しています》《お身体にお気をつけてご無理ないように頑張ってください》
2020年06月17日2011年に当時23歳だったタレントの加藤綾菜さんと結婚した、『ザ・ドリフターズ』のメンバーである加藤茶さん。45歳差という『超・歳の差婚』は世間を驚かせました。結婚から9年が経ち、加藤茶さんは77歳に。そんな加藤茶さんを支えていくため、綾菜さんは必死に勉強をして介護試験に合格したといいます。加藤茶「めっちゃ幸せ」加藤綾菜が明かした『介護試験のエピソード』に「尊敬」の声加藤綺菜、介護の知識を深めるため介護施設で働くことを決意同年6月16日、綾菜さんがInstagramを更新。初任者研修の合格では満足せず、介護の知識を深めるために実務者研修の合格を目指すことにした心の内を明かしました。介護の基礎知識を学ぶ初任者研修からステップアップし、より実務的な知識と技術を求められる実務者研修。綾菜さんは「介護の現場に立ちたい」という思いから、介護施設で働くことにしたといいます。撮影が終わり緩和ケアの授業をうけたノートを復習。やっぱり、初任者研修(ヘルパー2級)をとったなら1級(実務者)とって知識を深めたい!自己満のためじゃなく役に立つ自分になりたいと心から思ったよ!介護の現場にも立ちたい。。。学びたい!って事で働かせてもらえる施設を探してまして。。。 見つかりました。働かせて頂ける事になりました‼️感謝です。katoayana0412ーより引用※画像は複数あります。左右にスライドしてご確認ください。 この投稿をInstagramで見る 加藤綾菜(@katoayana0412)がシェアした投稿 - 2020年 6月月16日午前7時48分PDT情報番組『ノンストップ!』(フジテレビ系)で初任者研修の合格を明かした際、「介護試験は介護職のためではなく夫のため」といっていた綾菜さん。きっと勉強しているうちに、さらに知識を深めたいという思いや、介護現場で働きたいという気持ちが強くなったのでしょう。加藤茶さんとの結婚が報じられた際は、その年の差から綾菜さんに対して心ない言葉や憶測がネットで飛び交ったこともありました。しかし、綾菜さんの加藤茶さんを想う姿に多くの人が心打たれたようです。・結婚当時は心ない言葉も多かったけど、夫のために頑張っているのが伝わってきます。・純粋にすごいと思う。尊敬するし、頑張ってほしいです。・自分は介護従事者ですが、行動力が素晴らしいと思いました。応援しています!大切な家族のためだからこそ、綾菜さんは「もっと学びたい」「頑張りたい」と思うことができるのでしょう。今後も夫婦で仲よくいてほしいですね。[文・構成/grape編集部]
2020年06月17日管理栄養士・日本抗加齢医学会指導士の美肌スープ簡単に作ることができて作り置きもできる管理栄養士考案の美しい肌のためのスープが紹介されている新刊『管理栄養士が教える美肌スープ』が発売された。著者は管理栄養士で日本抗加齢医学会指導士の森由香子氏であり、文庫判で176ページ、青春出版社より青春文庫として968円(税込)の価格で発売中である。肌トラブル別に効果的なスープレシピ森由香子氏は現在、東京・千代田区のクリニックにて栄養指導、食事記録の栄養分析、食事管理業務に従事し、『毒になる食べ方 薬になる食べ方』『疲れやすい人の食事は何が足りないのか』『老けない人は何を食べているのか』など多数の著作もある。化粧品を扱う企業に勤めていた同氏は、20代の頃から美肌に関心を持ち、30代になると肌トラブルを実感。食と栄養に関わる職業に就き、美しい肌には体の中から健康を保つことが重要だと悟ることになる。新刊では、料理が苦手でもできる簡単な美肌スープを紹介。スープだけでバランスのよい食事ができ、作り置きも可能。和洋中とバラエティに富んだ味つけでも楽しめ、肌荒れ、吹き出物、シミ、そばかす、肌のたるみ、シワなどの悩み別に効果的なスープが掲載されている。(画像はAmazon.co.jpより)【参考】※管理栄養士が教える美肌スープ - 青春出版社
2020年06月17日病気やケガが原因で介護が必要になった場合、真っ先に思い浮かべるのは「介護保険が使えるかどうか」ではないでしょうか。まさしくそのとおりで、「介護状態になったら介護保険」というイメージで合致しています。では、医療保険では全く介護のサポートができないのかというと、そうではありません。今回は、介護保険と医療保険のそれぞれの制度の概要と、どのような場合に、どちらの保険が適用されるのかを詳しく解説していきます。介護保険とは介護保険とは、40歳以上になると加入義務のある制度です。40歳から65歳までの第2号被保険者と、65歳以上の第1号被保険者に分けられます。要支援1または2、要支援1から5までの7段階に区別され、それぞれの支援や介護の度合いによって、被保険者の負担割合が違います。介護保険が適用された場合、認定された区分に応じた介護サービスを受けることができます。要支援・要介護のそれぞれの区分に応じて、支払限度額が設定されており、それを超えた分は全額を自己負担として支払う必要があります。介護保険の被保険者介護保険の被保険者(対象となる人)は2種類に分けられます。65歳以上:第1号被保険者40歳以上65歳未満:第2号被保険者介護保険の適用条件第1号被保険者と第2号被保険者で、介護保険の適用される条件が違います。介護状態になった理由を問わず、介護状態になった場合に適用されるのは、65歳以上の「第1号被保険者」です。一方、40歳から65歳までの第2号被保険者の場合、加齢が原因とされる16種類の特定疾病が原因で介護状態になった場合のみ、介護保険が適用されます。介護保険料の支払い介護保険料は、加入している健康保険に上乗せして納付します。40歳の誕生日を迎えると、当月分から介護保険料が上乗せされた金額を納付することになります。自営業者やアルバイトの方など、国民健康保険に加入している方は、納付書(または自動引き落とし)にて支払います。会社員や公務員など社会保険加入の方は、介護保険料の上乗せされた金額を給与天引きにて支払うので、未納がなく安心です。すでに退職後で年金受給者の方は、受給する年金から、あらかじめ介護保険料を差し引いた金額が2カ月に1度振り込まれます。これを「特別徴収」といいます。申請すると、特別徴収ではなく、それぞれ納付書で介護保険料を納める「普通徴収」に変更することもできますが、万が一の未納などの恐れを考えると、特別徴収のほうが利便性は高いといえます。医療保険とは医療保険(公的健康保険制度)とは、日本国民全員が加入する義務のある制度です。「国民皆保険」という言葉で表されることもあります。医療保険は「病気やケガに対して広く保障する」という役割があります。なお、医療保険はお勤めの形態によって2種類に分けられ、加入要件などが少々違います。医療保険の概要は違いますが、どちらの医療保険に加入していても、一般的には自己負担3割で医療を受けることができます。お子さんを対象として、お住まいの地域ごとに乳幼児助成制度があります。未就学児の医療費は全額無料になる地域もあります。または、1か月の医療費上限が1000円程度で済む制度を取り入れている自治体もあります。該当する子どもの年齢も、就学前までなのか、義務教育期間中なのか、行政によって規定はさまざまです。主に2つの健康保険制度自営業者やアルバイトの方などが加入するのは「国民健康保険」です。会社員や公務員などが加入するのは「社会保険」です。その中には協会けんぽや、企業独自の健康保険組合などがあります。いずれの場合でも、ひとりに1枚「健康保険証」が発行されます。医療機関でこの健康保険証を提示すれば、かかった治療費のうち、自己負担分の3割のみを清算すればよいという決まりになっています。もうひとつの健康保険制度として、後期高齢者医療制度という制度があります。75歳以上になった方は、どなたでもこちらの健康保険制度に移行することになります。75歳以前に加入していた健康保険制度に関わらず、一律「後期高齢者医療制度」の加入者ということになります。一般的な分類でいくと、自己負担割合は1割です。ただし、現役並み所得のある75歳以上の方は、3割負担です。介護保険と医療保険の関係ここまで、介護保険と医療保険のそれぞれの概要についてまとめました。介護と医療は密接な関係にあり、混同してしまいがちですが、相互に作用する部分もあれば、全く違う部分もあります。似通ったイメージのある2つの保険ですが、2つの関係について項目別に解説していきます。[adsense_middle]併用できる?介護保険と医療保険は、基本的には併用できません。どちらかのみを利用する決まりです。何らかの理由から介護状態になった場合、介護や支援の認定が受けられれば「介護保険」の適用となり、認定が受けられない場合は「医療保険」で可能な限り介護のサポートをすることになります。末期がんなどで、医療も介護も手助けが必要であると判断された場合は、一部例外的に2つを併用できる場合もあります。介護保険が優先介護や支援の認定を受けることができ、介護保険も医療保険もどちらでも受けられる状態となった場合、その2つが併用ができないのはおわかりいただけたと思います。この場合、優先されるのは「介護保険」です。介護や支援の認定を受けたということは、その区分に応じたサポートが必要であるということです。介護保険と医療保険のそれぞれの概要でも説明しましたが、医療はケガや病気の治癒と目的としていて、介護だけに特化しているわけではありません。つまり、介護や支援に認定を受けたのであれば、介護保険を使ったほうがよりよいサポートが受けられるということです。適用範囲の違い似ているようで違う部分も持ち合わせている2つの保険ですが、まず全く違うのは「適用範囲」です。根本的に、介護保険が適用されるのは「介護認定を受けてから」です。そもそも40歳以下の場合であるなど、介護認定を受けることができなければ、介護保険を使うことはできません。一方、医療保険は、国民健康保険または社会保険のいずれかの健康保険証を持っていれば、かかる医療機関にその保険証を提示することで、必要な医療を受けることができます。介護認定の有無は関係ありません。介護保険でできること介護保険は、介護だけのために使うことができます。病気やケガによって介護状態になった場合、行政から要支援や要介護の認定を受けます。その認定された区分の範囲内で、介護サービスを受けることができます(介護サービスについてはこの後詳しくまとめます)。ただし【介護保険の適用条件】でも書きましたが、40歳から65歳までの第2号被保険者では、16種類の特定疾病が原因で介護状態になった場合のみ、介護保険の適用を受けることができます。介護保険の第2号被保険者で、この16種類が原因ではなく介護状態になった場合や、脳疾患や交通事故などが原因で、40歳未満で介護状態になった場合は、介護保険の適用がありません。医療保険でできること医療保険は、保険証さえ提示すれば、誰でも医療機関を3割負担で利用することができます(後期高齢者制度や、市町村の乳幼児医療費助成などを除く)。介護保険と違って、何かしらの認定を受けなければ医療保険を使えない、ということもありません。なおかつ、医療保険は国民全員が加入義務のある制度なので、医療機関にかかる理由・原因を問わず、どなたでも必要な医療を全国の医療機関で平等に受けることができます。2つの違い介護保険は「介護認定を受けなければ使えない」医療保険は「保険証を提示すれば誰でも使うことができる」対象となる介護サービスの違い医療保険と介護保険が併用できないことはおわかりいただけたかと思います。では医療保険、介護保険、それぞれで受けられる介護サービスとは何があるのでしょうか。ここからは、医療保険、介護保険それぞれの概要をご紹介します。介護サービスの中でも、今回は主に、在宅のままで受ける訪問サービスについてまとめます。訪問サービスには「訪問看護」と「訪問介護」の2つがあります。これまでに解説したとおり、「看護(医療)」と「介護」は似ていますが実は全く違います。「訪問看護」とは在宅で医療行為を行うことで、「訪問介護」とは介護サービスを行うことです。[adsense_middle]医療保険における訪問サービス医療保険で訪問サービスを受けるには【医師が必要と認めた範囲内】という条件が付きます。医療保険の根本的な考え方は【必要な医療行為を受けること】ですので、それに則って行われることになります。医療保険による介護サービスの場合は、看護師や保健師などの看護に携わる専門職の方が行います。訪問看護の場合では、主に血圧や脈拍など健康状態の把握から始まり、点滴や注射など、医師の指示に基づいた処置が行われます。要支援・要介護認定を判断する役割も看護師や保健師など、看護の専門職の方が訪問看護を行うもう1つの役割は、医療保険ではなく介護保険に切り替えたほうがよいのではないか?という点を判断することです。簡単にいうと、看護職の方の訪問看護を通じて、要支援や要介護の認定をする際の判断基準となるということです。最初は医療保険上の訪問看護のみでよかった方でも、状態によっては後に支援や介護が必要となることも十分ありえます。その判断の1つとして、専門職の方による訪問看護は大切な役割を担っているということです。介護保険の訪問サービス介護保険における訪問サービスは、言語聴覚士や作業療法士、理学療法士などのリハビリを専門に行う専門職の方や、訪問介護専門のヘルパーさんなどが行います。ここで一番の注意点は、【介護では看護はできない】ということです。ヘルパーさんは医療行為はできません。訪問介護での在宅サービスの一例としては、入浴の介助や食事の手伝いなど、主に日常生活のサポートをすることがメインです。介護サービスの一環として、自宅のリフォーム費用も対象となる場合があります。介護のために必要とされるリフォームを実施した場合や、必要な介護用品のレンタルも認められる場合があります。これらのサービスを利用する前に、リフォーム業者や介護用品レンタルショップに、あらかじめ訊ねておくことをおすすめします。いずれも現金の給付はない介護保険と医療保険、どちらのサービスを受けることになっても、現金での給付はありません。介護は長期化する場合がほとんどです。そのリスクに備えて、民間の生命保険会社が販売している介護保険(介護特約)などで費用を準備しておくと安心です。民間の介護保険も、所定の介護認定を受けたら「一時金」として給付を受けられるものから、一定期間あるいは一生涯に渡って「年金形式」で介護年金を給付するものなど、いろいろな商品があります。公的な介護保険と併用することを前提に、介護費用の準備として検討してみるのもおすすめです。判断に迷うときは医療保険と介護保険、どちらをどのように利用したらよいのか、なかなかわかりづらい場合もあるかと思います。特に医療的な判断というのは、医療や介護に携わる方ではない限り判断に迷うのも当然です。適用されるのが医療保険か介護保険か、よくわからない場合には、お住まいの地域の医療や介護に関する相談窓口に尋ねてみましょう。また、かかりつけの医療機関がある場合は、医療機関内に相談窓口が併設されている場合もあります(大きい病院ではほとんどが相談窓口があります)。ご自身やご家族だけで抱え込むのではなく、早めに然るべき相談機関に相談し、先々の対策を取っていくようにすると安心できます。介護保険と医療保険・まとめ介護保険と医療保険は、一見すると似ている制度です。どちらも加入義務がありますが、介護保険は利用するのに一定の条件があり、医療保険は保険証さえあれば誰でも使うことができます。今回はこの2つの違いと、同時に併用できない場合がほとんどであるということを、少しでもご理解いただければ幸いです。似ている制度とはいえ「介護は介護」「医療は医療」それぞれ専門の役割があります。然るべき医療サービス、介護サービスを受けることができるよう、基礎知識だけは覚えておくときっと役に立つでしょう。
2020年06月16日今回のテーマは「介護保険」です。介護保険といっても、40歳以上になると加入義務のある、行政が主体の「介護保険」ではなく、生命保険会社が販売している民間の介護保険について、制度の内容から加入要件についてまとめていきます。本記事をご覧になっている方ご自身にすぐに直結する内容ではないかもしれませんが、親御様など身近な方のためにも知っておくと役に立つ内容です。民間介護保険の仕組み民間介護保険の仕組みは、公的介護保険制度とは違って、保険会社が定めた所定の介護状態になった場合に、保険金として現金が給付されます。公的介護保険制度では、現金給付ではなく介護サービスの提供がメインです。その大きな違いを把握しておくと、これから民間の介護保険について解説を進めるにあたって、整理がしやすくなります。参考・公的介護保険制度とは公的介護保険制度とは、40歳になったら必ず加入しなければならない制度です。保険料の徴収方法は、国民健康保険加入の方は、毎月の保険料に上乗せされて納付します。会社員などで社会保険加入の方は、毎月給与天引きで自動的に納付しています。要支援・要介護合わせて7段階に分けられており、それぞれの段階に応じた介護サービスの提供を行政から受けられることになっています。民間の介護保険の内容現在、国内の生命保険会社のほとんどで介護保険を販売しています(介護特約も含む)。昭和の時代ごろまでは、医療保険と死亡保険、せいぜいがん保険が販売されている程度でしたが、平成に入り、平均寿命も毎年伸びていることから「長寿化」へのリスク対策として「介護保険」が注目されるようになりました。もちろん加入している医療保険でも、補うことができる部分もあるでしょう。しかし、介護には介護の、より充実した保障内容があるほうが安心ですよね。現在販売されている商品の主な概要について、これからご紹介します。公的介護保険に連動している介護保険に加入している方が、その保険から給付を受ける場合に、ひとつの目安となるのが「公的介護保険の認定」です。たとえば、保険会社が独自で定めた介護状態にならなければ給付金がもらえないのでは、少々わかりにくさが残ります。一方、近年販売されている介護保険では、給付の対象が「公的介護保険における要介護2以上で給付金をお支払い」など、公的介護保険で一定の基準以上の認定を受ければ、給付金がもらえるというわかりやすい仕組みになっています。給付金が受けられる所定の要支援・要介護状態は、保険会社・保険商品によって基準が違いますので、ご加入の際にはあらかじめ調べておきましょう。要介護・要支援認定だけでなく、公的介護保険の介護サービスを利用したら給付金が支払われるタイプの介護保険もあります。一時金として給付される場合もある保険会社によっては、所定の要介護状態になった後、一生涯に渡って年金形式で一定の金額を支払う商品も販売されています。また、介護保険として別に加入していなくても、ベースは医療保険で、介護に関する特約を付加することで、一時金としてまとまった金額の給付金を受け取ることができる商品もあります。介護保険単体で加入するよりも、特約で付加する場合のほうが保険料が安い場合もあります。ぜひ見積もりを作成してみて、ご自身のニーズにより近いものへの加入を検討しましょう。介護保険の主な種類一般的な民間介護保険の商品の中には、大きく2種類があります。保険期間や保険料に、それぞれ正反対の特徴を持っています。介護に対する考え方や、必要としている保障内容によって使い分けをされるとよいでしょう。貯蓄型(終身)介護保障が一生涯続くタイプの介護保険は、終身型であることがほとんどです。終身型とは、一般的に貯蓄性が高いので、掛け捨ての定期型保険よりも保険料が割高です。しかし、終身型で貯蓄性の高い介護保険に加入するメリットとしては、「保障は一生涯」「保障に代えて年金としても受取可能」などがあります。特に「年金として受取可能」という点は、貯蓄型が人気であるポイントです。介護状態に該当しなくても、まとまった額の死亡保障として遺族へ遺すこともできます。さらに、ご本人の生前に、解約してまとまった資金として使うこともできます。貯蓄性の高い介護保険では、介護状態に該当しない場合の使い道もあり、より自在性に富んでいます。掛け捨て型(定期)一定期間の介護保障を目的とした定期タイプの介護保険は、いわゆる「掛け捨て」ですので保険料が安価で済みます。前述した「終身型」とは正反対の特徴を持つ掛け捨ての介護保険は、貯蓄性がほぼない、または少しだけ解約金が戻る性質を持っています。高い保障が欲しい場合でも、保険料が割安なので、使い方によっては非常に合理的です。預貯金やほかの生命保険商品で十分な備えをお持ちの方は、それらに掛け捨ての介護保障を上乗せをするイメージで加入を検討してもよいでしょう。民間介護保険の加入条件民間の介護保険に関しては、加入条件は特にほかの生命保険と変わりがありません。既往症がなく、加入時にありのままを告知し、保険会社所定の加入条件を満たしていれば、介護保険に加入できます。ただし、すでに介護状態である場合や、認知症であるなど、そもそも加入できない場合もあります。民間介護保険・加入のピーク公益財団法人・生命保険文化センターの取りまとめたデータによると、介護保険(特約も含む)の加入率は50代がピークだということです(平成30年度生命保険に関する全国実態調査・民保の特定の機能を持つ生命保険や特約の加入状況・参照)。50代というと、一般的には子育てがひと段落し、定年を前に、老後ご自身の生活について立ち止まって考える時期でもあります。実際に、親御さんの介護が始まるのも50代くらいが多いと推定されます。そのような環境の変化から、50代が介護保険(特約)の加入のピークであると推測されます。[adsense_middle]比較・検討のポイントこれまで、民間の生命保険会社による介護保険(特約)について、制度の内容や仕組みについてまとめてきました。ここからは、実際に加入しようとする際の目安となるポイントについて、いくつかご紹介します。①受取方法の違いまずポイントとなるのは「介護保険の給付金を、どのような受け取り方でもらいたいか」という点です。受け取り方法は、以下の3パターンがあります。【一時金】所定の介護状態に該当したら「一時金」としてまとまった金額の給付を希望する【年金形式】介護状態になったら、その後の長期間に渡って「年金形式」で年に一度受け取りを希望する【一時金+年金形式】最初は「一時金」として大きな金額を、その後は年金形式で、少しの額でも長期間受け取りたい一時金民間の介護保険に加入した場合、一番シンプルでわかりやすいのは「一時金で受け取る」内容の商品です。保険会社が定めた条件に該当すれば、加入時に設定した金額を「一時金」として一括でまとまって支払われます。デメリットとして考えられるのは、介護が長引いた場合に、最初に一時金で受け取った給付金が足りなくなる場合があるという点です。年金形式年金形式で介護保険を受け取る保険商品は、長引く介護生活の支えになります。ただし、年金形式での受け取りを希望する場合、一時金受取タイプよりも保険料が割高の場合がほとんどです。加入年齢と保険料のバランスを見て検討してもよいですね。一時金+年金形式とても合理的な受け取り方法は「一時金+年金形式」です。介護保険を請求した際に、まずは「一時金」としてある程度まとまった給付金を受け取ります。その後、毎年一定額(加入時に設定した年金額)を生涯に渡って受け取ります。とても理想的で、安心できる受け取り方法ですが、3パターンの中で一番保険料が割高です。例えば独身の方で、万が一老後にご自身の介護のお手伝いをしてくださる方がいらっしゃらない場合などは、このような安心できる保険で備えるとよいでしょう。②加入するタイミング先にも書きましたが、介護保険の加入年齢のピークは50代です。50代になって、ご自身やご家族の介護に触れることでリスクに直面し、介護保険に加入する方が多いようです。公的介護保険制度では、40歳以上になると公的介護保険の第2号被保険者となります。主に加齢が原因の16種類の特定疾病が原因で介護状態になったと認定されれば、公的介護保険制度から介護サービスを受けることができます。ただし、介護状態になるリスクは40歳から突然増えるというわけではなく、例えば脳卒中の後遺症などで40歳以下でも介護状態になるリスクもあります。ご自身の現在の環境などを踏まえ、いつごろから備えたほうがよいか検討してみましょう。介護保険だけでなく、生命保険の保険料は「若ければ若いほど安価で加入できる」システムです。本当に介護のリスクが迫ったときに加入しても、保険料が高くて加入を断念することがないよう、早めに検討することをオススメします。民間介護保険・まとめ公的介護保険制度が適用となるのは、40歳以降です。しかし実際は、40歳から65歳が含まれる第2号被保険者では、16種類の特定疾病に該当しなければ介護保険制度を利用することができません。若年層でも、脳疾患、心疾患の後遺症などで介護状態になるリスクはあります。生命保険の本来の意義どおり「リスクに備える」としたら、より若いうちから、安価な掛け捨て型でもよいので、介護に対する備えはスタートしておいたほうがよいのではないかと考えます。また、民間介護保険を選ぶポイントとして、保険金受取の方法があります。3パターンのうち、ご自身のニーズにより近い方法はどれなのか検討してみるとよいでしょう。
2020年06月15日「公的介護保険は本来、あまねく提供される社会保障として『平等に受けられる』というのが基本的な考えのはずです。医療は、保険証があればだれでも受診できますが、介護保険サービスは、要支援や要介護に認定されなければ利用できません。公的サービスを受けるための大事な“入り口”である介護認定に、大きな地域差が出るのは、望ましいことではないと思います」厚生労働省のデータをもとに編集部が作成した介護認定率の全国ランキング(※)を見て、こう分析するのは、介護施設のコンサルタントを請け負う「スターパートナーズ」代表の齋藤直路さんだ。介護度は、要支援1〜2、要介護1〜5の7段階に分けられており、それぞれ利用できるサービス内容や利用上限額が変わってくる。ランキングは都道府県別に65歳以上の高齢者に占める要支援・要介護者数の割合で介護認定率を算出した。上位3県と下位3県は次のとおり。■上位3県【1位】和歌山県/介護認定率:21.8%【2位】大阪府/介護認定率:21.7%【3位】愛媛県/介護認定率:20.8%■下位3県【45位】山梨県/介護認定率:15.7%【46位】茨城県/介護認定率:15.4%【47位】埼玉県/介護認定率:15.3%その結果、介護認定率がもっとも高い和歌山県と、最も低い埼玉県では6.5%、約1.4倍もの地域差が生じる結果となった。介護保険がスタートして20年。当初、自己負担分も含めた介護にかかる総費用は3.6兆円だったが、高齢化が進んで現在は10兆円以上に。介護財政はひっ迫している。「財務省からは、要支援1〜2は訪問介護や通所介護サービスを保険給付の対象外にする案も出されています。来年の法改正では見送られる公算が大きいですが、全国的に介護の費用を少なくするため、認定の抑制は始まっています」(齋藤さん・以下同)そのきっかけの一つとみられるのが、介護認定率がいちばん低い埼玉県の和光市での取り組みだ。「和光市は高齢化率がまだ高くなかった’03年ごろから介護財源が枯渇する将来を見据え、認知症カフェ等の交流の場や健康促進サービスを整え、介護が必要な高齢者を減らす“和光モデル”を始めました。介護財政の負担を軽くするために、予防に力を入れて認定率を下げるという理想的な試みですが、一方で“認定率を下げれば、財政負担が軽くなる”と、短絡的な捉え方もされるように。中心となった職員が厚労省に出向したこともあり、全国的な“認定抑制”の流れができたと感じています」広がる“認定抑止”の流れ。齋藤さんは、今後もこうした流れは強まると予想する。「’18年度から都道府県や市区町村ごとに、介護予防への取り組みを61の項目から点数評価し、点数が高い地域に交付金が分配されるようになりました。要介護状態の“維持”や“改善”も、評価基準となっています」つまり介護認定率が低く、給付費が少ないほど交付金がもらいやすい仕組みになっているのだ。その効果なのか、制度開始前の4年間はほぼ横ばいだった数字にも変化があらわれており、要支援1で“1年後に介護度が上がった人の割合”は約36%から約24%と、10%以上も低下。要支援2の場合も約25%から約17%と8%ほど下がり、どちらも“介護度が維持される人の割合”は増えている。交付金制度の開始を境に“健康維持”ができている人が増えるという不可解な現象が起きているのだ。「’18年度には、地域支援総合事業といって、より介護予防に力を入れる事業も始まっています。軽症者の介護度が上がるケースがかなり減っているのは、もちろん地域でリハビリ等の取り組みの成果もあるでしょうが、効果が出るまでには時間もかかるため、ほかにも要因がある可能性はあります」交付金の予算は、’20年度には200億円から400億円に倍増されており、“介護度が上がりづらい”傾向は強まる可能性がある。適切な認定を受けるためにはどうしたらいいのか。「審議会の際、大きな影響力を持つのが医師の意見書です。たとえ一次判定が現実の介護の必要度にそぐわなくても、意見書によって個々の事情が反映されます。介護を受ける人の状況をよく知った、信頼できる医師を見つけて、相談してみてください。また認定された介護度が実際と見合わない場合、ケアマネジャーと相談し、ときには地域によって設けられている特例を利用することも、自衛のための重要な要素といえます」※厚生労働省「介護保険事業状況報告(暫定)令和2年1月分」をもとに作成。介護認定率は内閣府「要介護(要支援)認定率の地域差要因に関する分析」での計算方法を参考に、要支援1〜2と要介護1〜5の総数を第1次保険者数(65歳以上の人口)で割って算出。「女性自身」2020年5月26日号 掲載
2020年05月21日「公的介護保険は本来、あまねく提供される社会保障として『平等に受けられる』というのが基本的な考えのはずです。医療は、保険証があればだれでも受診できますが、介護保険サービスは、要支援や要介護に認定されなければ利用できません。公的サービスを受けるための大事な“入り口”である介護認定に、大きな地域差が出るのは、望ましいことではないと思います」厚生労働省のデータをもとに編集部が作成した介護認定率の全国ランキング(※)を見て、こう分析するのは、介護施設のコンサルタントを請け負う「スターパートナーズ」代表の齋藤直路さんだ。介護度は、要支援1〜2、要介護1〜5の7段階に分けられており、それぞれ利用できるサービス内容や利用上限額が変わってくる。ランキングは都道府県別に65歳以上の高齢者に占める要支援・要介護者数の割合で介護認定率を算出した。上位3県と下位3県は次のとおり。■上位3県【1位】和歌山県/介護認定率:21.8%【2位】大阪府/介護認定率:21.7%【3位】愛媛県/介護認定率:20.8%■下位3県【45位】山梨県/介護認定率:15.7%【46位】茨城県/介護認定率:15.4%【47位】埼玉県/介護認定率:15.3%その結果、介護認定率がもっとも高い和歌山県と、最も低い埼玉県では6.5%、約1.4倍もの地域差が生じる結果となった。介護保険がスタートして20年。当初、自己負担分も含めた介護にかかる総費用は3.6兆円だったが、高齢化が進んで現在は10兆円以上に。介護財政はひっ迫している。「財務省からは、要支援1〜2は訪問介護や通所介護サービスを保険給付の対象外にする案も出されています。来年の法改正では見送られる公算が大きいですが、全国的に介護の費用を少なくするため、認定の抑制は始まっています」そのきっかけの一つとみられるのが、介護認定率がいちばん低い埼玉県の和光市での取り組みだ。「和光市は高齢化率がまだ高くなかった’03年ごろから介護財源が枯渇する将来を見据え、認知症カフェ等の交流の場や健康促進サービスを整え、介護が必要な高齢者を減らす“和光モデル”を始めました。介護財政の負担を軽くするために、予防に力を入れて認定率を下げるという理想的な試みですが、一方で“認定率を下げれば、財政負担が軽くなる”と、短絡的な捉え方もされるように。中心となった職員が厚労省に出向したこともあり、全国的な“認定抑制”の流れができたと感じています」(齋藤さん)和光モデルの勉強会にも出席し、首都圏で介護認定員をしていたAさんも同様の見方だ。「介護認定は、まず認定希望者へのアンケート調査で一次判定を出します。こちらはコンピュータで機械的に行うので、結果は全国一律です。が、それでも差が生じるのは、一次判定をもとに各市町村レベルで組織された審議会での協議が影響するため。あからさまに“認定率を下げろ”とまでは言われませんが“介護財政が厳しいから、介護度を上げないほうがいい”という空気は、はっきりと肌で感じました。たとえば一次判定が要介護1の場合、その上下の要介護2と要支援2の両方の可能性が話し合われるべきですが、協議は要支援2に下げるかどうかが中心。介護度が下がることはよくあります」Aさんは地域の財政など健康状態とは別の要因で認定が変わり、受けられない介護サービスがでてくることも危惧する。「入浴やリハビリ、認知症予防トレーニングもできるデイサービスは、要支援2では週2回通えますが、要支援1だと1回しか通えません。適正な認定でないと利用回数が少なくなり、認知症などが進行するリスクがあります。また、夜間対応型ホームヘルプやグループホームなども要介護からしか受けられず、要支援2から要介護1への壁は高いです」福祉用具も介護度によってレンタルできるものが変わる。「介護ベッドを求める声は多いのですが、基本的に要介護1では使えません。要介護2以上でベッドを使っていても、要介護1に下げられてしまうと、返却しなければならないのです」※厚生労働省「介護保険事業状況報告(暫定)令和2年1月分」をもとに作成。介護認定率は内閣府「要介護(要支援)認定率の地域差要因に関する分析」での計算方法を参考に、要支援1〜2と要介護1〜5の総数を第1次保険者数(65歳以上の人口)で割って算出。「女性自身」2020年5月26日号 掲載
2020年05月20日介護保険を受けるのに必須な介護認定。介護度が1変わるだけでも受けられるサービスには大きな違いがあるのに、認定審査の“厳しさ”は住んでいる地域で差があるようでーー。「公的介護保険は本来、あまねく提供される社会保障として『平等に受けられる』というのが基本的な考えのはずです。医療は、保険証があればだれでも受診できますが、介護保険サービスは、要支援や要介護に認定されなければ利用できません。公的サービスを受けるための大事な“入り口”である介護認定に、大きな地域差が出るのは、望ましいことではないと思います」厚生労働省のデータをもとに編集部が作成した介護認定率の全国ランキング(※)を見て、こう分析するのは、介護施設のコンサルタントを請け負う「スターパートナーズ」代表の齋藤直路さんだ。介護度は、要支援1〜2、要介護1〜5の7段階に分けられており、それぞれ利用できるサービス内容や利用上限額が変わってくる。ランキングは都道府県別に65歳以上の高齢者に占める要支援・要介護者数の割合で介護認定率を算出した。上位3県と下位3県は次のとおり。■上位3県【1位】和歌山県/介護認定率:21.8%【2位】大阪府/介護認定率:21.7%【3位】愛媛県/介護認定率:20.8%■下位3県【45位】山梨県/介護認定率:15.7%【46位】茨城県/介護認定率:15.4%【47位】埼玉県/介護認定率:15.3%その結果、介護認定率がもっとも高い和歌山県と、最も低い埼玉県では6.5%、約1.4倍もの地域差が生じる結果となった。「理由はいくつか考えられ、内閣府の調査では、65歳以上の高齢者のうち75歳以上の後期高齢者が占める割合が高い地域ほど認定率が高く、スポーツ振興やリハビリに力を入れる地域などは認定率が低く出ると分析されています」(齋藤さん・以下同)つまり、ランキングで下位にきたからといって、一概に“介護認定が厳しい”“高齢者にやさしくない”地域とは言い切れない。しかし齋藤さんは続けてこう語る。「ただ“財政”の問題も一つにあるかもしれません。介護保険の財源の半分は私たちが納める保険料ですが、残りの半分は国や都道府県、市区町村の負担です。財政が厳しく、介護にお金が回せない自治体ほど、介護認定を出しにくくなる可能性は、否定できません」※厚生労働省「介護保険事業状況報告(暫定)令和2年1月分」をもとに作成。介護認定率は内閣府「要介護(要支援)認定率の地域差要因に関する分析」での計算方法を参考に、要支援1〜2と要介護1〜5の総数を第1次保険者数(65歳以上の人口)で割って算出。「女性自身」2020年5月26日号 掲載
2020年05月20日平均寿命は女性がおよそ87歳、男性がおよそ81歳。長い老後はそのまま介護の長さに直結する。“ホントのところ”いくらくらい費用がかかるのか。実例をもとに学ぼう!「老後の介護資金を考えるとき、施設のパンフレットに記載される入居一時金や月額利用料ばかりに目を奪われる人が多いです。しかし貯蓄、年金収入、自宅の売却、利用者の健康状態、家族のサポートなど、それぞれの家庭ごとに異なる事情も考慮して、計画を立てなければなりません」こう語るのは、介護施設コンサルタント業務を請け負うスターパートナーズ代表の齋藤直路さんだ。「長寿社会の現在、あなたの親やあなた自身の介護を考えるとき、90歳や100歳まで生きることを前提にした計画を立てることが必要になってきます。長生きすることはうれしいですが、結果、資金的に追い詰められるリスクも……。介護施設に入居した人が、資金が尽きて、ふたたび家庭に戻るという例も最近は聞くようになりました」人生には想定外のことが起こるもの。だからこそ、さまざまなケースを知る必要がある。そこで、介護経験のある家庭の聞き取り取材をもとに、具体例を作り、その総費用を算出した。介護費用はすべて自己負担が1割の場合の金額だ。「介護は本人ばかりでなく、家族全体の問題です。これを機に親子や夫婦で話し合ってほしいですね」【ケース1】母が「介護付き有料老人ホーム」に入居した場合埼玉県に住むAさん。数年前、父を亡くしてから、母がふさぎがちだと心配していた。「料理好きだったのに、“1人分をわざわざ作るのも面倒”と、スーパーでお弁当を買うように。外出する機会もめっきり減って、生活のハリがなくなり、一気に老け込んでしまった」そんな状況が3年ほど続いたが、幸いにして、Aさんが実家の近くに住んでいたため、母のサポートをすることができた。ところが母が82歳のときに、Aさんは夫の転勤で地方都市に引っ越すことに。認知症の症状が始まり、持病の糖尿病の薬を飲み忘れてしまう日も増えてきた母を、一人暮らしさせるのは無理だ。「ケアマネさんと相談した結果、実家近くの介護付き有料老人ホームへ入所することにしました。一時金は、貯蓄や実家の売却費用1,200万円などを充てました」施設生活では、母は気の合う仲間ができて、楽しく過ごしている。いちご狩りなど、月に1回の遠足も楽しみにしていたが、認知症と糖尿病が進行し、86歳で要介護2に引き上げられ、88歳のときに施設で亡くなったのだった。【介護でかかった費用】・入居金:730万円■82~85歳(要介護1)・介護費用:1万8,200円・施設の月額利用料(管理費・食費込み):16万4,000円・レクリエーション費:3,000円・合計(月額):18万5,200円■86~88歳(要介護2)・介護費用:2万300円・施設の月額利用料(管理費・食費込み):16万4,000円・合計(月額):18万4,300円・7年の総費用:2,282万4,400円(1年あたり326万629円)「長年連れ添った夫、または妻を亡くして、心身ともに衰えるケースは珍しくありません。そんなAさんの母は、介護付きホームに入居してからの7年間で、老後生活に約2,300万円ほどかかりましたが、実家の売却費用や貯蓄のおかげで、持ち出し金は1,100万円ほどで済んだ。貯蓄と毎月支払われる年金で、母の介護費用、生活費全般をまかなうことができました」(齋藤さん)具体例を紹介したが、齋藤さんはこう注意を促す。「あくまで概算なので、各ご家庭の事情に照らし合わせてください。さらにこのほかにも、予想外の医療費など“アクシデント”は起こるので、さらに余裕を持った資金計画が必要です」また“ついのすみか”を決める際、お金ばかりでなく“人”もしっかりと見極めなくてはならないという。「利用料が安くても、介護レベルが高い施設はあります。その逆の可能性もあります。入居候補先には事前に見学、施設長に面談をし、理念や施設内の日常の様子も見ておきましょう。さらに、スタッフの離職率なども参考にしてください。次々に人が入れ替わる施設は、介護レベルの低い人材も紛れ込むため、要注意です」絶対に後悔をしないために、ついのすみかは慎重に選びたい。「女性自身」2020年5月12・19日合併号 掲載
2020年05月13日現在、国会で検討されている介護制度“改悪”。一見、自分には関係ないように思えて、将来のあなたの負担を増やすための下準備なのかもしれない。政府がもくろむ、介護保険料2割時代にあなたの家計はどうなる?「高齢者の8割の方が65歳を超えても働きたいと願っておられます。働く意欲のあるみなさんに、70歳までの就業機会を確保します。こうした働き方の変化を中心に据えながら、年金、医療、介護全般にわたる改革を進めます」1月20日、通常国会が召集され、衆院本会議での施政方針演説で、安倍晋三首相は「全世代型社会保障」についてこう宣言した。同日にスタートした厚生労働省の社会保障審議会などで、「介護保険制度の改正」に向けた議論がされる見通しだ。国の財政に詳しい経済評論家の加谷珪一さんは、次のように話す。「2年後の’22年、団塊世代が“後期高齢者(75歳以上)”になり始めます。’18年の出生数が過去最低の『91万8,000人』になるなど、超少子高齢社会が進むなか、政府は国民の自己負担を増やそうと考えているのです。安倍首相は施政方針演説で、『介護』の分野の『改革を進める』と発言しました。じつは厚労省の社会保障審議会で、昨年から『介護保険制度の改正』の具体案が着々と練られているんですが、内容は一様に『国民、とくに高齢者の負担増』の方向で審議が進められているんです」介護保険の自己負担率は、所得に応じて、1~3割の幅がある。厚労省の統計によると、介護保険の受給者は約496万人。そのうち、451万人が1割負担。2割負担や3割負担の人は全体の10%ほど。しかし“うちは1割負担だから、関係ない”と思っている人は注意が必要だ。加谷さんが「自己負担上限の引き上げ」の真の目的を解説。「政府はまず『いちばん文句が出なさそう』な外堀から埋めていくという戦法をとっていると考えられます。介護費負担の上限額が2倍に上げられても、その該当者が一部に限られていれば、多くの国民は該当せず、実感を伴わない。しかし次に打つ手こそが本丸です。政府は近い将来、『介護サービス費の2~3割負担』の対象者拡大を行うでしょう」社会保障審議会で、すでに2~3割負担の対象者拡大については検討されているが、今国会での拡大については見送られた。安部首相は施政方針演説で、一定以上の所得がある後期高齢者の「医療費」の自己負担割合を2割に引き上げを検討すると明言した。医療費と介護費の負担割合を同時に引き上げるのは、国民からの反発が大きいと考えた、政治的な判断だとみられる。「対象者の拡大は政府の既定路線です。’25年までの5年のどこかで、拡大案が国会に提出されることでしょう」これまで1割負担だった人が2割負担に引き上げられた場合、要介護5で限度額いっぱいの月約35万円のサービスを利用すると、負担上限額いっぱいの4万4,400円を自己負担しなければならない。1割負担なら3万5,000円だったので、月に9,400円、年11万2,800円もの負担増になるのだ。今国会で検討されているのは「上限額の引き上げ」だけではない。特別養護老人ホームなどに入所する際の居住費と食費は、介護保険の対象外になっているが、一定の所得以下の人に、「補足給付」という減額が適用されている。介護や医療などの保険制度に詳しい社会保険労務士の石田周平さんはこう解説する。「現在、年金額が155万円以下の単身者は減額の対象となり、毎月5万9,000円で入所できます。しかし、政府はその範囲を『年金額120万円以下』にすることを検討しています。120万円を超える人は、食費が自己負担となり、年間『26万円』もの負担になりそうです」さまざまな形で、政府は国民の負担を増やしている。「すでに1月から施行されている改正所得税法で、サラリーマンの給与所得控除が一律10万円引き下げられ、その上限も220万円から195万円まで引き下げました。基礎控除は10万円引き上げられ相殺されるようですが、年収850万円を超えるあたりから増税になります」(加谷さん)最初は比較的高所得な層を狙って、負担を増やし、その対象を拡大していくというのが政府の常とう手段。“自分には関係ない”を放置していると、損をしてしまうのだ。「女性自身」2020年2月11日号 掲載
2020年01月31日救急車はすぐに来ず、介護施設は閉鎖してサービスを受けられない。今は、いつでもどこでも受けられる日本の社会保障が崩れる未来。実はすぐそこに迫っているーー。「団塊の世代すべてが75歳以上になる2025年ごろは、医療機関や介護施設で大きな混乱が予想されます。しかし、それは日本の社会保障制度が崩壊する序章でしかないのです」そう語るのは、ベストセラー『未来の年表』(講談社現代新書)の著者で人口減少対策総合研究所理事長の河合雅司さんだ。厚生労働省は、’25年には内科医が1万4,000人、看護師をはじめとする看護職員が最大27万3,000人、不足すると試算している。「都市部ではベッド不足が深刻化する一方で、地方では人口減少により、医師や看護師だけでなく、患者数も不足し、病院が経営難に陥ることも想定されます。閉院する民間病院も出てくることでしょう。結果として地方でもベッド不足が広がります。また、’24年に、日本は全国民の3人に1人が65歳以上、6人に1人が75歳以上という超高齢者社会に。75歳以上になると大病を患う人は増え、1人あたりの医療費が74歳以下の5倍近くかかるというデータもあります。高齢者の増加で救急搬送が増えると、救急隊員の不足で、救急車がすぐに来ないという事態も起こりかねません」暗い医療の未来。しかし、医療だけでは終わらない。さらに10年後は介護崩壊も始まるという。《’35年12月。60歳になったA子さんは、母親の介護で苦労していた。88歳になった母親は、認知症が進行。半年前から週3回のデイサービス(通所介護施設)を受けていた。しかし、施設は介護スタッフを確保できず、閉鎖することに。介護計画を立てるケアマネジャーも打つ手がなく、A子さんは自ら、福祉事務所や介護施設に電話をかけるが、どこも母親を受け入れてはくれない。テレビでは『本日も介護施設で虐待事件がありました』とアナウンサーが淡々とニュースを読み上げていた……》社会福祉に詳しい淑徳大学教授の結城康博さんが解説する。「’35年は、団塊の世代すべてが85歳以上になります。厚生労働省のデータによると85歳から要介護認定率は急激に上昇。2人に1人は介護が必要になります。一方、現在でも慢性的に人手不足の介護職員は、離職率も高く、’25年時点で約33万人が不足する見通しです。’35年には、介護スタッフの人材不足がピークになり、2時間ごとのオムツ交換が半日に1回となったり、週2回の入浴介助サービスが2週に1回になったりすることも予想できます。また、人材不足は人材の質の低下も招きます。介護施設は、適性に欠ける人材を雇わざるをえなくなり、スタッフによる虐待が増えることも否定できません。介護の人手不足を、外国人人材やロボットで解決することも議論されていますが、これらで、今後、増えるであろう訪問介護サービスの需要を満たすのは不可能です」さらに、’35年以降は介護施設も足りなくなり、サービスを受けたくても受けられない“介護難民”が続出するという。「’35年以降の介護現場は、利用者が介護職員に選ばれる時代。悪態をついたり、横柄な利用者は、たとえ大金持ちでも、介護職員に嫌われ、サービスを受けられなくなるでしょう。介護難民になりたくなければ、性格をよくして、介護職員に好かれるシニアになるしかないのです」(結城さん)迫る社会保障サービス崩壊時代。最後に、前出の河合さんが語る。「確かに厳しい現実ですが、個人ができることはあります。たとえば、70歳まで働くなど規則正しい生活を続けて健康状態を少しでも維持することです。また、近隣の住民と仲よくしておけば、困ったときに助けてもらえることもあるでしょう。危機に対応するべく、自ら意識改革をする必要があります」暗い未来には、健康に注意し、人にやさしく接することがいちばんの備えになる。
2019年12月06日“老後2,000万円問題”を機に年金制度に注目が集まっている裏で、じつは介護保険制度の“改悪”が検討されている。’21年から負担が倍になる可能性もある改悪の中身とは――。「介護保険制度がスタートしてからまもなく20年になります。現在、制度改正に向けた審議会が行われていますが、利用者の自己負担増となるような改悪プランが検討されているのです」そう懸念を示すのは淑徳大学総合福祉学部の結城康博教授。’21年4月に施行される介護保険制度の改正にむけ、8月29日に厚生労働省の社会保障審議会介護保険部会で議論が始まった。3年に1度、制度を見直している審議会は、年内までに議論をまとめ、その結果を受け、来年の通常国会で法案が審議される。どんな改悪プランが検討されているのか――。「介護保険制度が始まった当初、要介護認定された高齢者が介護サービスを利用する場合、年収に関係なく、自己負担は1割でした。ところが’15年には280万円以上の年収のある人が2割負担とされ、昨年には年収340万円以上の人が3割の負担とされました。今回の審議会では、2割負担や3割負担の対象者を増やすことが議論されています。とくに2割負担については、厚生年金受給者の平均年収でもある年収190万円以上ある人を対象にする案が具体的に出ています」(結城教授・以下同)所得の基準を下げることで、国民の負担を重くし、国庫の負担を軽くしようという魂胆だ。さらに、比較的軽度な要介護1と2の人を、介護サービスの“対象外”にすることも論点になっているという。「通所介護と訪問介護が、要介護1と2に人が利用する介護サービスの3割を占めています。現在、介護保険において行っているこれらのサービスを、各自治体がボランティアを中心として行っている総合事業に任せようとしているのです」各自治体の裁量に任せられた「総合事業」。介護サービスよりも利用者の自己負担額は安く抑えられるというが……。「’15年の介護制度の改正で、要介護より軽度な要支援1と2が、総合事業に移行しました。ところが、介護のプロではないため利用者が満足なサービスが受けられないケースが続出。ボランティアの人材も不足しており総合事業制度そのものが破綻している状況なんです。とても要介護1、2の受け皿にはなりえません。しかも、洗濯や買い物などの家事は専門職でなくてもできるかもしれませんが、認知症の人に受け入れられ、介助をするとなると、専門的な知識をもった介護職員でないと難しいのです」さらに、介護保険の第2号被保険者として40~64歳が毎月支払っている介護保険料(年間平均3万3,600円)を、若い世代にも払わせることも検討されている。「たとえば、30歳以上から介護保険料を徴収するということも審議される可能性があります。しかし、まだ年齢的に介護が遠く、目の前の生活に手いっぱいの30代から、介護のためと月3,000円も徴収したとしたら、高齢者に対しての悪感情を作ってしまうかもしれません」
2019年10月04日「私はいまだに、なぜこんな目に遭ったのだろうかという思いでいます。義母の介護がなければ、私たちは離婚には至らなかったのだと思います」’01年に離婚成立後も「悶々と考え続けている」と語るのは、離婚専門弁護士として活躍する原口未緒さん(42)の母・原口ふじ江さん(71)。話す内容とは裏腹に、声が大きく、エネルギッシュな明るい雰囲気の女性だ。ふじ江さんは薬剤師として65歳まで勤め上げ定年退職。いまは東京都下の一戸建てで長男と2人暮らし。長女として生まれ、その背中を見続けてきた未緒さんは、「もっと早く離婚に応じていたら母は人生をやり直すこともできたのにとも思います」と語る。ふじ江さんは24歳のとき、実兄の東大時代の友人である男性と結婚した。元夫は当時、公務員だったが、結婚後に「夢が諦められない」と一念発起し、司法試験に再挑戦。30歳で合格した努力の人だった。「ジャニーズ系のイケメンで『こんな人がいるの?』とぽーっとなってしまったんです。弁護士として事務所を独立後、一人前になるまでは私の給料だけでやりくりをして、家計費を請求したことはありませんでした」長女と長男に恵まれ、家族4人、つつましくも幸せな日々を送っていたが、ふじ江さんが30歳になったばかりのころ、すでにこのとき肝硬変を患い、余命宣告も受けていた義母を在宅介護する生活が始まる。しかし、このときの選択を、ふじ江さんは悔い続けることになる。「義母は身の回りのことは自分でできたので、子どもたちを保育園に預け、仕事を再開したんです。義母にとっては私が子どもを連れて出勤したほうが、静かでくつろげるかなと思って。義母は『自分の食べるぶんは自分で』というので、買い物だけを私がして、夕食は好きなメニューを自分でこしらえていた。でも、それがいけなかったんです」義母は2週間で倒れてしまい、搬送され、緊急入院となる。ふじ江さんは毎日仕事が終わると介護のため病院へ駆けつけていたが、結局帰らぬ人となってしまう。そして、このことが、元夫の心がふじ江さんから離れてしまう原因となる。元夫は、この期間の介護について、後に「何から何まで至らないことばかりだった!」と、調停や裁判で主張。入院中の介護も、「訪れても洗濯ばかりして、部屋で付き添うことをしなかった」と指摘された。「私は義母には誠心誠意尽くしたつもりでしたから、なぜなのか?と信じられない思いでした」ふじ江さんは悔しさをにじませるが、未緒さんはこう分析する。「母の『私なりに尽くした』というのは独りよがりなんです。『お父さんはどうしてほしいの?』と尋ねたことは一度もありません。母は自分がしたいことをしているだけで、相手がしてほしいことではないということ。そんな行き違いも離婚の原因かもしれません」最後の手段ともいえる、介護離婚という難しい結論。離婚するかしないか、その分岐点はどこにあるのか。未緒さんは次の4つをあげる。【1】夫の“妻への思いやり”「義父母の介護について「自信がない」とあなたが言ったとき、『悪いね』という夫からの思いやりは感じられますか?まずは感情的にならず話し合うこと。責めるのではなく、いまの自分の気持ちを伝えるように努めてみて。まったく伝わらなければ離婚も視野に」(未緒さん・以下同)【2】夫の“親への依存度”「夫の親への依存度はどのくらいですか?彼の人生において親からの自立は物心共に難しく、施設に入所してもらうことが精神的にも経済的にも不可能な状況で、夫はただあなたに介護を担わせようとするのであれば、離婚を考えることもやむなしかも」【3】妻の“介護スキル”「実際問題として、あなたに介護スキルはありますか?仕事をしているほうが断然好きで、『料理や掃除など家事全般は苦手』というなら、介護スキルは低いでしょう。介護に向いていないのであれば自己犠牲の気持ちは拭えません。自立できるなら離婚もありかも」【4】妻の“自立のための経済力”「1~3で『離婚も視野に入れたほうがよさそう』とわかっても、まずは2人でとことん話し合うことが大切。また経済的自立(仕事、財産分与、年金)は介護離婚をする大前提。それが難しいなら、夫を経済的な関係と割り切り、感情の処理に努めるほうが懸命です」両親の係争を長年見つめてきた未緒さんは、一時は母親に同情し、父親に反発し、疎遠にもなった。しかし同じ弁護士として活動するうちに父親の気持ちも理解できるようになったという。「父のような完璧主義者は、求める水準も高い。母はそういう要求に応えられる人ではない。母は家事全般があまり好きではないから介護には不向きです。どちらかというと仕事をしているほうが生き生きしている。そういう人は介護を担っても自分が犠牲になっているという意識がどこかにあり、うまくいきません」
2019年06月07日「私はいまだに、なぜこんな目に遭ったのだろうかという思いでいます。義母の介護がなければ、私たちは離婚には至らなかったのだと思います」’01年に離婚成立後も「悶々と考え続けている」と語るのは、離婚専門弁護士として活躍する原口未緒さん(42)の母・原口ふじ江さん(71)。話す内容とは裏腹に、声が大きく、エネルギッシュな明るい雰囲気の女性だ。ふじ江さんは薬剤師として65歳まで勤め上げ定年退職。いまは東京都下の一戸建てで長男と2人暮らし。長女として生まれ、その背中を見続けてきた未緒さんは、「もっと早く離婚に応じていたら母は人生をやり直すこともできたのにとも思います」と語る。ふじ江さんは24歳のとき、実兄の東大時代の友人である男性と結婚した。元夫は当時、公務員だったが、結婚後に「夢が諦められない」と一念発起し、司法試験に再挑戦。30歳で合格した努力の人だった。「ジャニーズ系のイケメンで『こんな人がいるの?』とぽーっとなってしまったんです。弁護士として事務所を独立後、一人前になるまでは私の給料だけでやりくりをして、家計費を請求したことはありませんでした」長女と長男に恵まれ、家族4人、つつましくも幸せな日々を送っていたが、ふじ江さんが30歳になったばかりのころ、転機となる義母の介護が始まった。「義母は助産婦として長年働き、義父と建てた家で長男と同居していました。ところがあるとき長男の事業が連鎖倒産してしまい、担保にしていた持ち家も追い出され、次男である元夫が義母を引き受けることになったのです」ふじ江さんは「夫が大切に思っている母親を介護するのは当然」と快く承諾した。3歳の未緒さんと1歳に満たない長男を抱え、すでにこのとき肝硬変を患い、余命宣告も受けていた義母を在宅介護する生活が始まる。しかし、このときの選択を、ふじ江さんは悔い続けることになる。「義母は身の回りのことは自分でできたので、子どもたちを保育園に預け、仕事を再開したんです。義母にとっては私が子どもを連れて出勤したほうが、静かでくつろげるかなと思って。義母は『自分の食べるぶんは自分で』というので、買い物だけを私がして、夕食は好きなメニューを自分でこしらえていた。でも、それがいけなかったんです」義母は2週間で倒れてしまい、搬送され、緊急入院となる。ふじ江さんは毎日仕事が終わると介護のため病院へ駆けつけていたが、結局帰らぬ人となってしまう。そして、このことが、元夫の心がふじ江さんから離れてしまう原因となる。元夫は、この期間の介護について、後に「何から何まで至らないことばかりだった!」と、調停や裁判で主張。入院中の介護も、「訪れても洗濯ばかりして、部屋で付き添うことをしなかった」と指摘された。さらに決定的だったのは、義母の入院後、「仕事は辞めて介護に専念してほしい」と元夫に促されたとき、とっさに「女の働く権利を認めないの?」と反論してしまったことだった。未緒さんがこう解説する。「母はいつも一言多いんです。なぜそこでそんなことを言わなければならないの?というような間の悪さなんです」この直後から夫の浮気の痕跡を感じながら、ふじ江さんは仕事を続け、日々を過ごしていた。そして長男が小学6年生になったころ、夫から「ある女性に子どもができた」と告白される。当初は「認知だけはするが、お前と離婚はしない」と言っていたため、ふじ江さんは「私は妻なのだから」と毅然としていた。相手の女性が出産をしたと知ると、おむつを持って見舞うこともした。しかし次第にその女性は元夫との結婚を望むようになり、調停、そして離婚訴訟へと進む。そして夫側は「母親の介護から始まった妻への不信感が払拭できず、夫婦関係は修復できない」と長年の別居を理由に、離婚を主張。「私は義母には誠心誠意尽くしたつもりでしたから、なぜなのか?と信じられない思いでした」ふじ江さんは悔しさをにじませるが、未緒さんはこう分析する。「母の『私なりに尽くした』というのは独りよがりなんです。『お父さんはどうしてほしいの?』と尋ねたことは一度もありません。母は自分がしたいことをしているだけで、相手がしてほしいことではないということ。そんな行き違いも離婚の原因かもしれません」両親の係争を長年見つめてきた未緒さんは、一時は母親に同情し、父親に反発し、疎遠にもなった。しかし同じ弁護士として活動するうちに父親の気持ちも理解できるようになったという。「父のような完璧主義者は、求める水準も高い。母はそういう要求に応えられる人ではない。母は家事全般があまり好きではないから介護には不向きです。どちらかというと仕事をしているほうが生き生きしている。そういう人は介護を担っても自分が犠牲になっているという意識がどこかにあり、うまくいきません」ふじ江さんは自虐的にこうつぶやく。「ずっとどん底ですよ。もう一度人生をやり直したいの」しかし、未緒さんはこう励ます。「夫がいたらいたで、介護とかお世話が大変よ。お母さんのような人は悠々自適に生きていれば、それなりに幸せなのよ――」
2019年06月07日