理化学研究所(理研)は3月11日、iPS細胞とES細胞の違いを決める分子を特定したと発表した。同成果は理研ライフサイエンス技術基盤研究センタートランスクリプトーム研究チームのピエロ・カルニンチ チームリーダー、同 アレクサンダー・フォート 客員研究員と、理研統合生命医科学研究センター免疫器官形成研究グループの古関明彦 グループディレクターらの研究グループによるもの。2月12日付け(現地時間)の米科学誌「Cell Cycle」に掲載された。体細胞に由来するiPS細胞と受精卵に由来するES細胞は、幹細胞としての多くの共通した性質をもつ。これまで、両者では遺伝子発現が異なると報告がある一方、特定のiPS細胞はES細胞とほぼ区別がつかないという報告もある。同研究グループは、2014年に、iPS細胞とES細胞の核内にはこれまで知られていなかった数千種類のRNAが発現していることを独自技術によって明らかにしていた。また、その多くがレトロトランスポゾンという遺伝子因子に由来するノンコーディングRNA(ncRNA)であることを突き止めた。ncRNAは、メッセンジャーRNAと異なり、タンパク質の設計図として用いられないRNAのため、これまでの解析では詳しく調べられていなかった。今回の研究では、マウス由来のES細胞とiPS細胞を用い、ncRNAを含めた全転写産物の網羅的な発現比較を行った。その結果、ES細胞の核内で発現するncRNAの多くが、iPS細胞では十分に発現していないことが判明。これらのncRNAの中には、多能性に関わる遺伝子の発現を促進する遺伝子制御部位や、レトロトランスポゾン由来のRNA配列が含まれており、既存のiPS細胞作製方では、ES細胞で機能している多くの遺伝子制御部位の活性が十分に起きていないことが示唆された。今回の結果は、今後、臨床に用いるiPS細胞を適切に評価する方法の開発や作製技術の改良に役立つと期待される。
2015年03月11日リプロセルは3月9日、国立がん研究センター(国がん)とヒト正常上皮細胞とがん細胞の培養試薬に関する共同研究契約を締結したと発表した。同研究では、これまで樹立や培養が困難だった各種がん細胞および正常上皮細胞を安定的かつ高効率に培養することが期待される。同社は「上皮細胞向けの培養試薬は身体のさまざまな部位に存在する、あらゆる上皮細胞を対象としております。また、がん細胞向けの試薬も、がん研究の障害であった培養の困難を克服する画期的なものであります」とコメント。次世代シーケンサーを用いた臨床検査事業におけるがん診断サービスへの取り組みに着手しているとした。
2015年03月11日金沢大学は3月5日、アルギニンバソプレシン(AVP)という神経ペプチドを産生する神経細胞が体内時計の機能に重要な役割を果たし、概日リズムの周期や活動時間の長さを決定すると発表した。同成果は金沢大学医薬保健研究域医学系の三枝理博 准教授、同 櫻井武 教授と北海道大学、理化学研究所の研究グループによるもので、3月4日の米科学誌「Neuron」のオンライン版に掲載された。ヒトを含む哺乳動物のさまざまな身体機能は約24時間周期リズム(概日リズム)を刻んでおり、視床下部の一部である視交叉上核に存在する体内時計により制御されている。同研究グループは、視交叉上核を構成する約2万個の神経細胞の中から、最も多いとされる(約40%)AVPを生み出す神経細胞に目を付け、AVPだけで細胞時計を破壊した変異マウスを作成し、実験を行った。その結果、常に光を遮断した環境でマウスを飼育し、ケージ内を自発的に動き回る行動の概日リズムを解析すると、正常なマウスは24時間弱の周期を示すのに対し、変異マウスは周期が約1時間長くなっていた。1日の活動時間と休息時間を比べると、変異マウスは正常マウスに比べて活動時間が約5時間長くなった。また、明暗サイクルを8時間早めて時差を起こすと、変異マウスは正常マウスに比べ約5日早く新たな環境に対し行動リズムが順応し、体内時計の機能が弱まっていると考えられた。この変異マウスの視交叉上核を調べると、神経細胞間コミュニケーションに重要な遺伝子の中で、AVP産生神経細胞が激減していたほか、各AVP産生神経細胞が刻む概日リズムが弱く不安定で、周期が長くなっていた。これらの結果から、AVP産生神経細胞の細胞時計がきちんと機能することで、神経細胞間コミュニケーションに重要な分子が作られネットワーク機能が高まり概日リズムが安定し、適切な周期および活動時間帯で行動するように調節されることが確認された。これまでAVP産生神経細胞は体内時計のリズムに関与していないと考えられていたが、今回それを覆す結果が得られたことで、同細胞を新しくターゲットとした体内時計を調節する技術の開発につながる可能性が期待される。
2015年03月09日京都大学は2月27日、ヒトiPS細胞から軟骨細胞を誘導し、硝子軟骨の組織を作製したと発表した。同成果はiPS細胞研究所(CiRA)の妻木範行 教授、同 山下晃弘 研究員らの研究グループによるもので、2月26日付け(現地時間)の米科学誌「Stem Cell Reports」に掲載された。関節軟骨は骨の端を覆い、腕や膝を曲げた時などにかかる衝撃を吸収している。正常な関節軟骨は硝子軟骨と呼ばれ、加齢に伴いすり減ったり、事故などの怪我により損傷受けるとより機能的に劣る繊維軟骨に変わってしまう。一度軟骨が繊維化すると、元に戻ることはなく、関節をスムーズに動かすことが難しくなり、痛みや炎症が起こることがある。現在、自分の軟骨細胞を移植する方法が有効とされているが、高品質で十分な量の軟骨細胞を用意することは難しい。また、採取した細胞をシャーレ上で増殖させると、繊維芽細胞様に変質し、それを移植すると修復時に繊維軟骨ができてしまうという課題があった。同研究では、ヒトiPS細胞から軟骨細胞を作製するための培養条件を検討した上で、足場材を使わずに細胞自身が作るマトリックス(細胞と細胞の間を埋めるように存在するタンパク質)からできた硝子軟骨組織を作製することに成功した。足場剤とは、細胞を培養する際に、細胞外マトリックスを模す目的で使用されるゲルや多孔体などのこと。これを用いて軟骨組織を培養した場合、残存する足場材が炎症を起こしてしまうなどの問題がある。また、免疫不全マウスやラットを用いた実験では、軟骨細胞を移植しても腫瘍形成は見られず硝子軟骨が形成されたほか、関節軟骨を損傷させたラットやミニブタの患部に移植したところ、生着して損傷部を支えるなど、動物実験において安全性および生体軟骨と融合することが確認された。同研究グループは今後、ヒトへの臨床応用を目ざして有効性や安全性の確認など、さらにデータを積み重ねる予定だ。
2015年02月27日理化学研究所(理研)は2月19日、ヒトES細胞から毛様体縁を含む立体網膜を作製することに成功したと発表した。同成果は理研多細胞システム形成研究センター器官発生研究チームの桑原篤 客員研究員、立体組織形成研究ユニットの永樂元次 ユニットリーダーらと、住友化学生物環境科学研究所の共同研究グループによるもの。2月19日付けの英科学誌「Nature Communications」に掲載された。同研究グループはこれまで、「SFEBq法」という分化誘導法を開発し、マウスES細胞やヒトES細胞から立体網膜を作製していた。今回の研究では、「SFEBq法」を改良し、胎児型網膜に似た毛様体縁を含む立体網膜の作製に成功した。毛様体縁は、胎児の網膜の端に存在する領域。魚類や鳥類などで幹細胞を維持する働きをしていることが報告されていたが、ヒトではその役割がほとんど分かっていなかった。そこで、作製した立体網膜を解析したところ、ヒト毛様体縁には幹細胞が存在し、この幹細胞が増殖することで試験管内で網膜を成長させることが判明した。今回開発された新しい分化誘導技術は、立体網膜を効率よく安定的に生産できため、同研究グループは同技術を用いて生産した立体網膜を、網膜色素変性を対象とした再生医療に応用するための研究を進めていくとしている。
2015年02月20日幹細胞コスメへの関心度を調査いつまでも美肌を保ちたい、若返りたい。多くの女性が常にエイジングケアに関心をよせている。2月10日、パシフィックビューティーは、エイジングケアにおける調査を行ったと発表した。同調査ではエイジングケアに関する幹細胞研究、及び今注目をあびている幹細胞コスメへの関心度について調べた。加齢による毛穴の開きやしみなどに悩む女性は9割を超え、年齢肌に悩む女性の8割が幹細胞研究による肌悩みの改善を期待していることがわかった。ヒト由来成分が1位コスメにも活用幹細胞とは、分裂して同じ細胞を作るだけでなく別の種類の細胞にも分化する能力を持つ。増殖に限りがないため、細胞の新陳代謝を活発にするといわれている。女性の関心は高く、同調査でも将来のエンジングケアの進歩させるものとして「幹細胞」が1位にランクインした。また、最も美容効果のあると思われる幹細胞由来成分としては、植物や動物由来成分をおさえて、ヒト由来成分が1位に選ばれた。コスメへの活用もはじまっており、同調査では「WABIO (ワビオ)」から発売されているヒト幹細胞由来成分を配合した美容液「ステム アクティブ エッセンス」を紹介している。(画像はプレスリリースより)【参考】・パシフィックビューティー プレスリリース(@Press)
2015年02月12日理化学研究所(理研)は1月30日、ヒトES細胞を小脳の神経組織へと、高効率で選択的に分化誘導させることに成功したと発表した。同成果は理研多細胞システム形成研究センター器官発生研究チームの六車恵子 専門職研究員を中心とする研究チームによるもので、1月29日付(現地時間)の米・科学誌「Cell Reports」オンライン版に掲載された。同研究チームは、以前の研究でマウスES細部から、小脳の主要な神経細胞で、医学的に重要なプルキンエ細胞への分化誘導に成功していた。今回の研究ではマウスで成功した培養法を応用することで、ヒトES細胞をプルキンエ細胞を含む小脳の神経細胞へと分化させ、さらに初期の小脳皮質構造へと誘導することができた。また、iPS細胞からプルキンエ細胞への分化誘導にも成功しており、将来的にはヒトiPS細胞を脳神経組織へと分化させることで、さまざまな脳神経系疾患に対する治療法開発への応用につながることが期待される。
2015年01月30日エイジングケアに株式会社パシフィックビューティーは1月7日、ヒト幹細胞培養液由来成分配合のエイジングケアブランド、WABIO(ワビオ)の美容液「ステム アクティブ エッセンス」を、日本最大のコスメ・美容の総合サイト@cosme(アットコスメ)の姉妹版通販サイトcosme.com(コスメ・コム)にて、6日より販売を開始したと発表した。同社は同製品を2014年11月に発売しており、今回、cosme.comでの販売開始によってエイジングケアに向けた「2015年はヒト幹細胞コスメ元年」とするべく販売促進していくとしている。ヒト幹細胞培養液由来成分配合の、朝晩の洗顔後の1滴でエイジングケアを可能にするオンリーワン美容液である同製品は、15mLで21,600円(20,000円税抜)、肌用ビタミンCが肌に透明感を与え、毛穴を引き締めるながら、3種のヒアルロン酸が、速攻でたっぷりと潤す。バイオの力を肌に従来のエイジングケアが肌から失われてしまったコラーゲンやヒアルロン酸などを補う対処療法的なものだったのに対して、同製品の特長は、肌悩みの根本にダイレクトにアプローチし、活性力アップによって自らハリ組織を増産し、ダメージから肌を守ることのできる「自立した肌」をめざすという点である。高度な技術と高額費用を要することから、ヒト幹細胞培養液の美容医療への利用は限定的なものだったが、同社は新しいエイジングケアの市場の開拓をめざす先端的バイオテクノロジー企業との協業により、ヒト脂肪細胞順化培養液エキスを美容液に処方し、一般の消費者が購入しやすい価格帯で販売することを可能にした。幹細胞培養液に含まれるサイトカインはコラーゲン、ヒアルロン酸、エラスチンなどのタンパク質や抗酸化物質の生成だけでなく、皮膚のターンオーバーを促進することで、肌をイキイキ若返らせてくれる。同社はcosme.comでの販売開始によって、より多くのエイジングケアに「効果」を期待するお客様にこの製品を届けることができると考えている。【参照】・ワビオブランドサイト・cosme.com
2015年01月10日体内のサビだといわれる、活性酸素やあらゆる毒素をはじめとして、現代社会に生きる人間の細胞は、常に高いストレスにさらされています。そんな悩みを解消するうえに、快眠にもよいといわれている成分があるようです。グルタチオンでガン予防!?グルタチオンという成分を聞いたことがありますか?これは、3つのアミノ酸で構成される抗酸化物質。医薬品にも使用されていることから、安全性が高い成分として知られています。摂取方法はサプリメントが中心ですが、さまざまな毒素を抱え込んで体の中で消去する働きがあります。そのため、細胞を活性化し、ガン予防やアンチエイジングに効果が期待できる成分だと言われています。また、脳内の神経細胞が死んでしまうのを防ぐ働きのある抗酸化物質として、医学的な関心も高いグルタチオン。今後、脳虚血疾患の治療に活用できないかと研究が進められている注目の物質なんです。脳の興奮状態を抑制する効果もあり抗酸化物質として関心を集めるグルタチオン。でも、どうして睡眠と関わっているのでしょうか?実は、グルタチオンは細胞を修復するだけではなく、脳内の興奮状態をシナプスレベルで抑制する働きがあるようです。その結果、脳内がリラックスした状態になり、スムーズな睡眠を促進してくれると言われています。実は、睡眠医学の世界ではすでに注目が集まっているグルタチオン。抗酸化・抗老化物質であると同時に、睡眠物質としてもよく知られています。このような成分を摂取することで、生体リズムや体内時計が整うというメリットもあるそうです。受験勉強や資格試験の勉強にも!?勉強したいという気持ちは大切ですが、寝不足だと効果がないことも。受験勉強や仕事によって、脳内の神経細胞であるニューロンが過剰に働きすぎることが、神経毒を生み出す原因だという説があります。グルタチオンハードな知的労働や作業、勉強で酷使された脳細胞を修復してくれる効果があるそうです。また、睡眠そのものが脳細胞を修復する働きを担っているといいます。グルタチオンを摂取すると、相乗効果でさらに脳内のニューロンをダメージから守ってくれるでしょう。テストや資格試験の勉強などで疲れた頭と身体。グルタチオンでリフレッシュすると良いかもしれません。Photo by Lies Thru a Lens
2014年12月27日慶應義塾大学(慶大)は12月24日、ヒトの皮膚細胞を血管内皮細胞に転換する遺伝子を同定したと発表した。この成果は慶大医学部微生物学・免疫学教室の森田林平 専任講師と吉村昭彦 教授、久留米大学医学部心臓・血管内科学の安川秀雄 准教授、佐々木健一郎 講師らの共同研究によるもの。12月24日(現地時間)に米科学雑誌「アメリカ科学アカデミー紀要」のオンライン版で公開された。血管内皮細胞は、発生の初期に、血液細胞と共通の前駆細胞から作られることがわかっている。同研究グループは今回、血管内皮細胞だけでなく血液細胞の発生にも重要な転写因子18種類をスクリーニング対象とした結果、ETV2という遺伝子を、健常人から採取しヒト皮膚線維芽細胞に導入することで、血管内皮細胞に3~4%と高効率で転換することを見出した。また、ETV2が細胞内の別の転写因子と共役的に作用し、血管内皮細胞の分化に重要なさまざまな遺伝子の発現を誘導していることも突き止めた。実験ではさらに、このヒト皮膚線維芽細胞から転換させた血管内皮細胞を免疫不全マウスの皮下に移植したところ、1.5カ月後に成熟した血管の形成が観察されたという。また、下肢の血管を閉塞させて壊死を起こさせる下肢虚血モデルマウスに移植した場合、有意に虚血を回復させることが分かった。これらの実験により同方法で作成された血管内皮細胞は、生体内でも機能的な血管を形成でき、虚血性疾患の治療に使用できることが確認された。この「人工的」血管内皮細胞はETV2が発現し続ければ安定するが、発現しないと血管内皮細胞のままでいる細胞と、ヒト皮膚線維芽細胞に戻る細胞に分かれるため、今後、これらの細胞集団の違いをもたらすDNAレベルでの分子メカニズムを明らかにし、「ETV2フリーの安定な血管内皮細胞」を誘導する方法を開発できれば、安全で臨床応用可能な血管内皮細胞の開発につながると期待される。
2014年12月25日理化学研究所(理研)は12月19日、7月より行っていたSTAP細胞が存在するかどうかの検証実験の結果を公表した。理研は8月の中間報告でもSTAP細胞を作ることはできなかったと発表していたが、実験には熟練した技術が必要な可能性があるとして、11月末まで小保方晴子氏が参加するかたちで検証が続けられていた。検証は小保方氏による実験と、相澤慎一リーダーと丹羽仁史副チームリーダーらの検証実験チームによるものが行われた。小保方氏による検証では、論文にあったように、脾臓由来のリンパ球からのSTAP現象の検証に集中して実験を行った。一方、丹羽氏らの検証実験チームでは、脾臓以外に肝臓と心臓についても検証を実験したが、どちらもSTAP細胞の存在を確認することができなかった。相澤氏は「これ以上は検証実験の範疇を超えるもの」と語り、当初3月末までを期限としていた同検証を打ち切るとした。なお、検証終了をもって小保方氏は理研に退職願を提出し、承認された。同氏は「予想をはるかに超えた制約の中での作業となり、細かな条件を検討できなかった事などが悔やまれますが、与えられた環境の中では魂の限界まで取り組み、今はただ疲れ切り、このような結果に留まってしまったことに大変困惑しております。私の未熟さゆえに論文発表・撤回に際し、理化学研究所を始め多くの皆様にご迷惑をおかけしてしまったことの責任を痛感しておりお詫びの言葉もありません。検証終了を以て退職願を提出させていただきました」とのコメントを発表している。
2014年12月19日岡山大学はこのほど、左心低形成症候群に対する心臓内幹細胞自家移植療法の第1相臨床研究を実施し、冠動脈注入法による幹細胞移植法の安全性と心不全治療における有効性を確認したと発表した。同成果は同大学病院新医療研究開発センター再生医療部の王英正 教授、同小児循環器科の大月審一 教授、同大学大学院医歯薬学総合研究科心臓血管外科の佐野俊二 教授らの共同研究グループによるもので、米科学誌「Circulation Research」に掲載された。左心低形成症候群は、左心室が異常に小さい単心室症の一つで、予後不良の先天性心疾患。重度の場合は「心臓移植」しか治療法がない場合があるが、日本では小児の臓器提供者の数が少ないのが現状だ。同治療法は、心臓組織を約100mg採取し、幹細胞を抽出して10日間培養後、体重1kgあたり30万個を冠動脈へカテーテルで注入するというもの。同研究では2011年1月~2012年1月まで、合計14症例の左心低形成症候群に対し、「標準外科手術+細胞治療群」と「標準外科手術単独群」に分けて第1相臨床研究を実施。18カ月間の長期追跡調査により、「標準外科手術+細胞治療群」は「標準外科手術単独群」に比べ、心臓の機能が8%以上改善していることがわかった。また、細胞移植時における急性虚血や致死的不整脈は認められず、アレルギー反応もなかった。研究グループは2013年6月より実施中の合計34症例の小児心臓病患者を対象とした無作為割付第2相臨床研究においても、その安全性と有効性を確認しているとのことで、同治療法の標準医療化に向けて2015年以降に企業主導臨床治験を実施する予定だという。同治療法の標準医療化が進めば、先天性心疾患患者の心機能を向上させ、心不全を繰り返すことなく過ごすことができようになると期待される。
2014年12月15日新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は12月10日、東北大学、Clioらのグループと共同で、多能性幹細胞の一種であるMuse細胞からメラニン産生細胞を安定的に作り出す技術の開発に成功し、そこで得られたメラニン産生細胞を用いて3次元培養皮膚を作製する技術を確立したと発表した。Muse細胞は2010年に東北大学大学院医学系研究科の出澤真理 教授らの研究グループが発見した多能性幹細胞。皮膚、骨髄などに広く存在し、腫瘍性を持たない、損傷部位へ自発的に移動し修復するなどの特徴をもつ。一方、メラニン産生細胞は紫外線による皮膚障害や悪性腫瘍の発生などを抑えるメラニンを産生することが知られているが、単離が難しく、増殖性が弱いことから、これまでは大量に培養することが難しかった。今回、Muse細胞からメラニン産生細胞を誘導する方法を確立できたことで、大量培養が可能となり、同細胞を組み込んだ3次元培養皮膚を作製することが可能となった。同技術はDSファーマバイオメディカルにライセンスされ、医薬品・化粧品の開発におけるスクリーニングや製品性能検証などに用いるキット「POCA ヒト3D HADA」として2015年1月15日より販売される。NEDOの山崎知巳バイオテクノロジー・医療技術部長は今回の成果について「従来品に比べてヒトの皮膚にきわめて近いものが作れるので、医薬品・化粧品などの安全性試験の精度向上につながる」と説明。より精度の高い安全性試験が実現することによって、新薬の開発における安全性へのリスクを低減できることから、コスト削減にも貢献するという。今後、東北大学は今回の成果を白斑症の治療へ応用することを検討していくほか、DSファーマバイオメディカルではMuse細胞から分化誘導した肝臓の細胞を用いた薬物代謝などに対する細胞アッセイ系として、実用化を進める予定だ。
2014年12月11日一般向けに発売も株式会社ストリームの子会社、株式会社エックスワンは12月1日より幹細胞コスメ「XLUXES(エックスリュークス)」の発売を開始した。株式会社エックスワンの商品は会員制で販売されているが「XLUXES」は一般の消費者もWEBから購入する事が出来る。商品名である「XLUXES」は、社名の頭文字とフランス語のLuxe(贅沢)を合わせ複数形にした造語だ。肌に最高の贅沢を提供するというコンセプトのもと考えられた造語であり、エイジングケアから若さを再生するリバースケアへと新しいジャンルを開拓していく。幹細胞コスメとはiPS細胞を使った再生医療技術を美容分野に応用した物が幹細胞コスメと呼ばれている。肌の再生因子が200種類以上含まれている「ヒト幹細胞培養液」は、ヒトの脂肪細胞から取り出した幹細胞を培養した物で、研究過程で生まれる副産物だ。肌を若返らせる幹細胞コスメは従来の表皮成分を補うだけのコスメとは異なり、表皮の奥にある真皮幹細胞に効果が及ぶ。この美容液を使用し「ヒト幹細胞培養液」を直接肌に浸透させる事で細胞機能を活性化、成長期には誰もが備えていた肌本来の機能を取り戻す事が出来る。そうする事で自らの力で肌にハリ、潤いを産み出させ、時間を巻き戻したような初々しい肌へと導いていく。(画像はプレスリリースより)【参考】・エックスワン、幹細胞コスメを新発売
2014年12月02日科学技術振興機構(JST)、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)および京都大学細胞—物質システム統合拠点(iCeMS)は11月27日、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)患者から作製したiPS細胞において、病気の原因遺伝子の修復に成功したと発表した。同成果はCiRA初期化機構研究部門の李紅梅 大学院生、同 堀田秋津 助教らの研究グループによるもので、11月26日付(現地時間)の米科学誌「Stem Cell Reports」に掲載された。DMDはジストロフィン遺伝子が機能を失うことによって、筋肉が萎縮してしまう疾患。ジストロフィン遺伝子を修復できれば、治療につながると考えられている。しかし、これまでの技術では30億塩基で構成されるヒトゲノムの中でたった1カ所だけを精密に修復するのは困難だった。同研究チームは、ターゲット以外の遺伝子に傷を付けないように、特異的な配列データを使うことで、狙ったところだけを修復することに成功した。遺伝子を修復したiPS細胞を、ジストロフィンタンパク質を作る骨格筋細胞へと分化させたところ、ジストロフィンタンパク質が作られていることが確認された。今回の成果を効果的なDMD治療に結びつけるためには、修復したiPS細胞由来の筋肉細胞をどのように移植するかなどの課題があるが、今後の遺伝子治療の枠組みとなることが期待される。
2014年11月27日ランゲルハンス細胞は肌の基礎体力を呼び起こすと言われています。睡眠は、肌の基礎体力を呼び起こすための土台となります。しっかりとケアをして肌本来の美しさを目覚めさせ、素肌のキレイな女性を目指しましょう。肌の基礎力、ランゲルハンス細胞とはあなたは自分のすっぴんに自信がありますか? どんな女性でも素肌美人に憧れていると思います。しかし、紫外線や乾燥など日常生活のなかで肌の敵は多いものです。そんな中で継続してケアをし続けることは簡単なことではありません。しかし、ケア次第で美肌を取り戻し、素肌美人になることができるので諦めてはいけません。その鍵となるのが、ランゲルハンス細胞です。ランゲルハンス細胞とは、肌の司令塔とも言われていて、外部からの刺激に対してどうコントロールするか決めるという重要な役割を担っています。ランゲルハンス細胞と睡眠で美肌を取り戻すランゲルハンス細胞を強くすることで、どんな外部の刺激にも対応できるようになります。最近では、このランゲルハンス細胞に直接働きかけて肌本来の力を取り戻す効果が期待できる化粧品も発売されています。また、同時に欠かせないのが睡眠です。睡眠不足が続くと、肌の基礎力も弱まってしまいます。ランゲルハンス細胞を強め睡眠をしっかりととることで、眠っている間に肌に働きかけることができ、美肌の基礎の基礎ができあがるのです。今まで素肌ケアをさぼりがちだった方も、今からまた始めてみませんか?特に肌は年齢がでますので、年齢を重ねるにつれて意識を高めていきたいところです。大切な日を美しい肌で迎えたいという思い結婚式やデートなど大切な日ほど良い肌状態で迎えたいものですが、そんな日に限って肌が荒れてしまった経験はありませんか?2人に1人は大事な日の直前に肌荒れを経験しているそうです。肌が荒れても、通常通りのスキンケアをし続ける方が多いようですが、肌が荒れたときは、その状態にあったスキンケアを取り入れることをおすすめします。肌が弱っている状態ですので、刺激を与えないように優しいケアが求められます。肌の基礎力がしっかりしていれば、不調なときでも適切なケアで肌荒れの治りは早くなるものです。また、大切な日の前日にはしっかりと睡眠をとり、心をリラックスさせましょう。Photo by Ignacio Bernal
2014年11月24日ヨーグルトや牛乳などのパッケージで見かける「低脂肪(ローファット)」の表示。低脂肪のものとそうでないものをコンビニで見かけた場合、どちらの食品を手に取りますか?似たような商品なら、低脂肪のものを選ぶ人が多いのではないでしょうか。なんとなく低脂肪の方がカロリーが低そうに思えるけれど、実はそうとは言い切れません。牛乳と低脂肪乳を比較した米バージニア大学の研究では「低脂肪の牛乳を飲み続けた子どもは、牛乳を飲んでいた子どもに比べて肥満の傾向がみられた」という、衝撃の事実を発表しています。「低脂肪=低カロリー」は間違いだった!低脂肪の飲み物や食品は、ナチュラルなものと比べて味が劣ります。そこで美味しさを補うために、砂糖の量や口当たりをよくするための油分(トランス脂肪酸など)を増やして対応するメーカーも少なくありません。この結果、低脂肪でも普通のものと同等のカロリーになることも!要注意!「トランス脂肪酸」の罠って?バターや生乳などの乳製品や、肉などに含まれる飽和脂肪酸の摂り過ぎは、動脈硬化につながる恐れがあります。そこで脂肪分の代替として普及したのが「トランス脂肪酸」を使った食品です。バターの代わりにマーガリンを積極的に取り入れてきたのも、低脂肪ドリンクやお菓子類、ヨーグルトなどが普及したのも「健康によい」、「減量につながる」と思われていたためです。ところが、近年では「よい」とされてきた低脂肪食品に疑問が投げかけられています。アメリカではマーガリンを始めとしたトランス脂肪酸を含む食品の禁止に向けて動き出しています。国内ではトランス脂肪酸に対する規制がないため、マーガリンだけでなくカップ麺や菓子パンなどを購入する際にも注意が必要です。やっぱり手料理がダイエットへの近道!!効果的に痩せるためにはどうすればよいのでしょうか?答えは意外とシンプルで、できるだけ手料理を食べること。お料理をすることは、ダイエットだけでなく健康になるためにも大切です。自分で作れば、日頃からどんなものを口にしているのかが分かりますよね。また、なるべくコンビニやスーパーの加工食品などに頼りすぎないこと、食品の表示をよく見ることが、ダイエットを成功に導くための近道です(食品添加物の摂取を避ける方法についてはこちらの記事をご覧ください)。「ある食品を食べているだけで、簡単に痩せられる」なんていうことは残念ながらありません。バランスのよい食生活を心がけましょう!※参考: news.verginia.edu、bbcgoodfood.com、foodbeast.comPhoto by Pinterest
2014年11月23日クレディセゾンは17日、山中伸弥教授が所長を務める京都大学iPS細胞研究所「iPS細胞研究基金」の活動に賛同し、セゾンカード・UCカード会員がポイントプログラム「永久不滅ポイント」およびクレジットカード決済を通じて、iPS細胞研究に支援できる取り組みを開始した。「iPS細胞研究基金」は、iPS細胞研究所にて実施している研究成果をより早く患者のもとに届けるための基金。iPS細胞は、iPS細胞技術による目の細胞の移植手術の実施、軟骨の疾患に効く薬の候補物質の探索といった研究成果に世界中から関心が寄せられているが、世界最高レベルの研究を進めていくためには、生命倫理に関わる問題や、知的財産権の確保と維持、企業の橋渡しなど、多角的な方向から研究活動を支える人材が必要となる。しかし現状は、必要な人材に対し、長期的に安定したポストを十分に与えられておらず、この状況を改善し、より高度な研究を推進していくことが求められているという。クレディセゾンの支援活動では、永久不滅ポイントの交換またはカード利用で寄付することができる。永久不滅ポイントの交換では、200ポイントを1口としてポイント交換し、交換したポイント相当額を「iPS細胞研究基金」に寄付する。寄付を行った会員には、山中教授のメッセージが記載された礼状を送付する。詳細はクレディセゾンWebサイトまで。
2014年11月18日東北大学の研究2014年11月10日、東北大学は米国国立顎顔面歯科学研究所との共同研究で、上皮幹細胞から上皮前駆細胞への分化と増殖を制御する単一の分子を発見したとの発表を行った。研究成果はJournal of Cell Scienceのオンライン版に2014年10月26日から公開されている。上皮細胞とは表皮、毛、爪、消化管上皮などの上皮組織は、常に細胞増殖により、自己再生を続けている。表皮の場合は角化細胞(ケラチノサイト)の前駆細胞が幹細胞から分化・増殖し、表皮の最深部に単層構造を形成する。その表皮が肌表面の表皮がなくなるにつれ、表面に近づき、肌も常に再生が行われている。上皮細胞の幹細胞が前駆細胞へと分裂し、活発に増殖した後に増殖を停止してから、上皮細胞に分化する機構は、肌、毛、爪でも共通に見られるものであるが、どのような仕組みでコントロールが行われているのかは明確になっていない。研究内容幹細胞から生まれた前駆細胞が増殖活性を獲得した後、細胞分裂を停止し、分化・成熟する一連の過程を検討した。その結果、エピプロフィンという単一の分子が細胞周期調節因子や転写因子として複数の機能を発揮することで前駆細胞の分裂や増殖停止、上皮細胞への分化促進をすべて制御していることを明らかにした。エピプロフィンを作れなくなったマウスでは、体毛が生えない、前歯が伸び続けるなど、表皮細胞の再生能の破綻が観察できた。応用毛髪、皮膚、歯の再生に関してはいくつかの成功例が見られ、皮膚に関しては実用化に至っている。しかしながら、幹細胞から前駆細胞への誘導、前駆細胞から上皮細胞への分化に関しては制御方法が不明のため、毛髪では大量に必要なことから、実用化の目処は立っていない。皮膚に関してもやけど等の限られた部分への移植が実用化されているだけである。今回のエピプロフィンによる制御過程が明らかになったことから、大量に細胞を作り出せる可能性があり、肌や毛髪の再生への実用化が実現性を帯びてきた。iPS細胞やES細胞に比較して、上皮幹細胞はすべての上皮細胞で作られていることから、遺伝子的にも問題なく、倫理的にも使いやすい幹細胞である。(画像はプレスリリースより)【参考】・プレスリリース東北大学プレスリリース
2014年11月13日京都府立医科大学と科学技術振興機構は11月11日、マウスES細胞を用いて細胞分化と密接に関連した体内時計の発生メカニズムを解明したと発表した。同成果は、同大学大学院医学研究科 八木田和弘 教授、同 梅村康浩 助教、米テキサス大学のジョセフ・タカハシ 教授、大阪大学の安原徳子 博士(現 医薬基盤研究所)らの共同研究によるもの。11月10日(現地時間)の米科学雑誌「アメリカ科学アカデミー紀要」のオンライン速報版に掲載された。体内時計は、「昼と夜」という地球の環境周期を予測し、これに先んじて身体の機能を適応させることで生体機能を維持する役割を担っている。哺乳類では、睡眠覚醒リズムのみならず、内分泌やエネルギー代謝、循環器機能や消化器機能など様々な生理機能の約24時間周期のリズム(概日リズム)を生み出している。シフトワーカーなど、不規則な生活を長年続けることによる体内時計の乱れは、様々な健康問題を引き起こすことが分かっている。哺乳類の体内時計は、全身のほとんどの細胞に備わっている、普遍的な細胞機能でもある。体内時計は一生にわたって時を刻み続けるが、発生初期段階では体内時計のリズムが見られず、発生過程を通して形成されると考えられている。しかし、体内時計の発生メカニズムは今までほとんど分かっていなかった。八木田教授は、マウスES細胞を用いたこれまでの研究で、ES細胞に体内時計のリズムが見られないこと、培養皿上で分化誘導培養すると細胞自律性に約24時間周期の体内時計リズムが形成されることを世界で初めて発見していた。この発見から、体内時計の発生が細胞分化制御と何らかの関連があるのではないかということが示唆されていた。同研究グループは今回、マウスES細胞を用いた研究で、細胞分化に関連する遺伝子を欠損したES細胞では、分化誘導によっても体内時計が正常に形成されないことを突き止めた。また、体内時計リズムがない細胞には共通して、周期的に核内に蓄積されるはずの「PERIOD(PER)」というタンパク質が細胞質に留まり、その結果核内蓄積が起こらないことが判明した。この現象の制御する鍵因子を同定するために研究を進めたところ、タンパク質の核内への移行を制御し、細胞分化制御に必須の役割を果たすインポーチンの一種に異常が起きると、PERタンパク質の細胞内局在パターンにも異常を来すことが確認された。同研究グループは、細胞分化と体内時計という普遍的な細胞機能に、これまで考えられていなかった新たな関係性を見いだしたことで、これまで統一的見解が無かった体内時計と「がん」との関係の理解や、新たな体内時計の活用法開発などの応用にもつながると期待されるとしている。
2014年11月11日新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は11月7日、バイオ3Dプリンタや細胞シート積層技術などの立体造形技術を用いて、iPS細胞などから骨、血管、心臓などの立体組織・臓器を製造する技術の開発に着手すると発表した。事業期間は2014年から5年間、総事業費は約25億円を予定している。プロジェクト期間中にはステージゲート審査を設け、実現性が見込まれるテーマを絞り込み、iPS細胞を用いた骨、軟骨、人工血管、心臓組織などの作製技術の実用化を目指す。再生医療の技術開発では、これまで、iPS細胞などの培養や分化誘導など再生医療に用いる細胞をいかに効率良く調製するかについての技術開発が行われてきた。同プロジェクトは、再生医療製品の実用化に向けて、細胞を用いて機能的な立体組織・臓器を作製する新たな技術開発段階へ進むための第一歩となる。
2014年11月10日テルモは10月31日、虚血性心疾患による重症心不全を対象とした骨格筋芽細胞シートについて、製造販売承認申請を行ったと発表した。骨格筋芽細胞シートとは患者の大腿部より筋肉組織を採取し、組織内に含まれる骨格筋芽細胞を体外で培養してシート状にしたもの。それを傷んだ心筋の表面に貼ることで、重症心不全の病態改善が期待できる。細胞は患者自身から採取するため、拒絶反応がないことが特徴として挙げられる。同社は大阪大学との共同研究を進めており、2012年に治験の実施に至り、2014年に完了した。同申請が承認されると、世界初の心筋再生医療製品となり、心不全治療における新たな選択肢として期待される。
2014年10月31日新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は10月30日、ヒトiPS細胞由来心筋細胞の大量製造技術の開発に着手すると発表した。2015年度中に心筋細胞の商用製造を開始することを目指すという。同プロジェクトでは、京都大学iPS細胞研究所の山下潤 教授が開発したiPS細胞から心筋細胞への分化誘導技術をベースとし、新しい安全性評価試験法で求められる品質を備え、製造ロット間の差がない心筋細胞の大量製造を可能とする製造工程の開発をタカラバイオが目指す。開発は、国立医薬品食品衛生研究所などと連携しながら進められる。背景には新薬の開発コストを抑える狙いがある。500億円から1000億円もの費用がかかると言われる新薬の開発は、副作用の発生などにより、その途中で開発中止となってしまうことが多々ある。開発中止となるケースのうち、心臓に対する副作用で開発中止となるケースは約20%と一番多く、医薬品開発のコスト増の要因となっている。心臓に対する安全性評価に関しては、新しい方法について国際的な議論が昨年より始まっており、日本ではヒトiPS細胞由来の心筋細胞を利用した新しい安全評価試験法を提案するための検証試験が進められている。しかし、現在用いられているiPS細胞由来の心筋細胞は、製造ロット間に品質の差があるなど、目的により適した品質を備えた細胞を均一に製造する技術の開発が求めれられている。
2014年10月30日京都大学は10月23日、ヒトiPS細胞から、血管構成細胞を含む、心臓組織を模した心臓組織シートを作製することに成功したと発表した。同研究成果は、米国ルイビル大学の升本 英利 研究員(前・京都大学 心臓血管外科 特定病院助教、前・京都大学iPS細胞研究所(CiRA))、同大学CiRA増殖分化機構研究部門の山下潤 教授、同大学心臓血管外科の坂田隆造 教授らの研究グループによるもの。10月22日(現地時間)の英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。現在、拡張型心筋症注や虚血性心筋症などの、重度の心筋症の患者に対しては、心臓移植が最も有効かつ最終的な治療法とされているが、深刻なドナー不足から、心臓移植以外の有効な治療法を確立することが求められている。重症心筋症の患者の心臓では、心筋細胞が失われているだけでなく、心臓を構成しているさまざまな細胞失われることにより組織構造が壊れ、その結果として機能低下を来す。したがって細胞の移植効果をさらに高めるには、心筋細胞だけでなくその他の心臓を構成する細胞も十分に補い、心臓組織構造として再構築することが望ましいとされている。この点で、iPS細胞は、大量に増殖させた上で多様な心臓を構成する細胞群を効率的に分化誘導することで、十分量供給できる可能性がある。また、心臓への細胞移植治療の問題点は、心臓に注入移植された細胞が十分に生存して長期的に心筋内に留まる(生着)効率が低いことにある。山下教授らのグループは、より細胞の生存・生着を高めるような移植方法として東京女子医科大学の温度感受性培養皿を用いた細胞シート技術をヒトiPS細胞から分化誘導した心臓構成細胞に用いることにより、心臓組織を模した「心臓組織シート」を作製し、それを心疾患動物モデルに移植することで治療効果および細胞生着効果を検証した。その結果、このヒトiPS細胞由来心臓組織シートを3層重ねたものを、ラット心筋梗塞モデルに移植したところ、移植後2カ月の経過観察期間において、心筋梗塞により一旦障害された心機能の回復が認められたという。また、組織学的検査では、移植4週後で、9例中4例において移植細胞の生着を認め、最大で心筋梗塞領域の44%を移植細胞が生着・補充していた(平均24.7%)。さらに生着した移植細胞領域内に、宿主ラットの心臓から伸長した血管網が形成されており、この血流供給により移植後4週にわたる長期生着が実現できたという。同研究チームはヒトiPS細胞由来心臓組織シートについて「重症心筋症により障害された心不全に対する治療方法の一つとして、心臓再生医療の可能性につながる有用な成果と考えられる」とコメント。今後は、シートの多層化など、組織構造を改良し、シートの機能を高めることが期待される。
2014年10月23日コーセーは10月15日、同じ供与者より異なる年齢で得られた皮膚細胞からiPS細胞を作成し、解析したところ、老化の痕跡である「テロメア」が供与年齢に関わらず回復していることを確認したと発表した。同研究成果は、同社の加治和彦 研究顧問(元京都大学 iPS細胞研究所 特任教授)らによるもので、10月27日から30日まで、フランス・パリで開催される「第28回国際化粧品技術者会連盟」世界大会にて詳細が発表される。「テロメア」とは細胞の染色体の両端にある構造で、細胞分裂を繰り返すと短くなり、ある限界を超えて短くなると細胞分裂が止まるため、老化の指標として知られている。今回の研究では、iPS細胞を用いて細胞を初期化することで、「テロメア」を回復可能かを調べた。同研究で用いられたiPS細胞は、同じ人物より異なる年齢(36~67歳)で得られた細胞から作製されたもの。解析の結果、初期化されたiPS細胞の「テロメア」はいずれの供与年齢においても、長さが同程度まで回復していることがわかった。さらに、これらのiPS細胞を表皮細胞に分化させることに成功し、iPS細胞が細胞の供与年齢に関わらず正常に機能することが確認された。今後について同社は「iPS細胞化と供与者の加齢について、遺伝子レベルでの知見を蓄積することで、老化過程の再現やメカニズムの解明が進むことが期待される。また、iPS細胞やそれを分化させた細胞を用いることで、老化研究の領域だけでなく、皮膚の生理機能解析や化粧品成分の評価系の確立、動物実験代替法への応用などに広げることが可能となる」とコメント。次世代の化粧品の開発へと応用していくために、iPS細胞についてより深化した研究を進めていくという。
2014年10月16日アークレイは10月14日、京都大学と共同で、微小流路を用いた超小型細胞培養装置を設計・作製し、さらにこの装置の中でヒトiPS細胞を1細胞から増殖させることに成功し、増殖後も本来の性質を維持していることを確認したと発表した。同成果は、アークレイ、京都大学大学院 工学研究科の小寺秀俊教授、巽和也准教授、同大 再生医科学研究所の多田高准教授、同大 物質-細胞統合システム拠点のLiu Li助教らによるもの。詳細は、国際学術雑誌「Biochemical and Biophysical Research Communications」に掲載された。同装置は、無色透明のシリコン樹脂素材で作製した直径0.5mmの流路と、小型ポンプを組み合わせたもので、顕微鏡のステージ上に設置可能なサイズのため、培養中の細胞を随時観察したいというニーズに応えている。また、同装置による培養手法は、培養皿を用いた従来の手法に比べて、細胞周囲の環境を精密に制御できる他、操作が簡便で自動化に向いている、密閉状態を維持できるため細菌などの混入リスクが低いなどの利点を有する。これらにより、細胞の品質管理が容易で、今後医療応用分野における標準的な手法になると期待されるとしている。さらに、医療応用のための製品化や品質管理が容易であり、装置の大規模化による大量培養装置や培養機能を検査装置に組み込んだ細胞診断機器の開発などに応用することで、再生医療の普及に貢献できるものと考えられるという。今後、先端医療を一般の臨床現場に普及させ、より多くの患者に提供するための再生医療支援機器の開発に役立てていくとコメントしている。
2014年10月15日(画像はイメージです)中性脂肪蓄積を抑制するタンパク質AIMが肝臓においてがん細胞を選択的に除去2014年10月3日、東京大学はメタボリックシンドロームのブレーキとして働くタンパク質AIMが、肝臓に生じたがん細胞を選択的に除去することを明らかにしました。AIM(apoptosis inhibitor of macrophage)はCD36などの受容体を介したエンドサイトーシス(細胞外から細胞内への取り込み)によって脂肪細胞や肝細胞に取り込まれ、細胞内で脂肪酸合成酵素(Fatty Acid Synthase; FASN)の活性を阻害することにより、細胞内での中性脂肪の蓄積を抑制します。このAIMの作用は肥満や脂肪肝の進行を抑制します。AIMが欠損したマウスは、高脂肪食を与えた場合に同じ高脂肪食を与えたマウスよりも、肥満や脂肪肝が高度に進行するとの報告があります。AIMの血中濃度は個人差があり、年齢、性別によって変動します。またいくつかの疾患によって変動することも報告があります。したがって、メタボリックシンドロームの中核になる内臓肥満のなりやすさの指標になる可能性を秘めています。今回の研究成果細胞が癌化するとAIMは細胞内に取り込まれなくなります。その結果、がん細胞の表面にAIM蓄積します。細胞表面上に蓄積したAIMは体の免疫作用の標的となり、結果としてがん細胞が死亡することになります。AIM欠損マウスでは高脂肪食で脂肪肝を誘導するとほぼ全例が肝細胞がんを発症したのに、正常マウスでは脂肪肝の状態でとどまることで実際に発癌抑制に働くことが分かりました。さらにAIM欠損マウスが脂肪肝を発症してから、AIMを定期的に投与すると肝細胞がんの発症を予防できました。AIMの今後に関して日本人の肝細胞がんは、C型慢性肝炎から肝硬変を経過して、発症する場合がほとんどです。今回のAIMが外から与えても効果があることが、マウスで示されたことにより、AIMが肝細胞がんの発癌を抑制する可能性があります。AIMは生体内にあるタンパク質ですから、安全性も高いことが予想されるとのことです。【参考】・東京大学プレスリリース
2014年10月10日岡山大学は9月25日、ヒトの血液の中からがん細胞の増殖を抑制する抗体(タンパク)を発見したと発表した。同成果は、同大病院消化器内科の三宅康広助教らによるもの。詳細は10月15~17日にパシフィコ横浜で開催される「BioJapan 2014」で発表される予定だという。日本人が生涯でがんに罹患する確率は約50%と言われており、毎日生じる数千個のがん細胞を生体内の腫瘍免疫システムがそれを排除することで、健康を保てていると考えられている。しかし、どうして同システムがどのようにしてがん細胞を排除しているかについては良く分かっていなかった。今回の研究では、がん細胞に高発現する「リボソームタンパクL29(RPL29)」を認識する血液中に存在する抗体に膵がんや肺がん、乳がん、肝がん、大腸がん、前立腺がんの細胞増殖を抑制する効果があることを確認したほか、膵がん患者105例について検討した結果、血液中に抗RPL29抗体を多く有している患者では、同じ病状で同じ治療を受けた場合でも明らかに生存期間が長いことが判明したという。これらの結果は、抗RPL29抗体を測定して生体内で機能している腫瘍免疫システムの状態を評価することが可能であることを示すものであり、個々のがん患者に適した治療方針を決定することが可能になると研究グループでは説明している。また、同抗体そのものにがん細胞の増殖を抑制したりがん細胞を細胞死(アポトーシス)に誘導したりする効果のあることから、抗RPL29抗体は安全性の高い新規の抗腫瘍薬としても期待されるとしており、すでに抗体医薬やがんワクチンの開発を目指した研究を進めているとしている。
2014年09月26日(画像はプレスリリースより)褐色脂肪組織とカテキン2014年8月26日、茶カテキンが低代謝のヒトの「褐色脂肪組織」を活性化して、脂肪燃焼を改善することを天使大学と北海道大学との共同研究で実証したことを報告。この内容は第68回日本栄養・食糧学会大会(5月30日~6月1日、札幌市教育文化会館他)において発表済。褐色脂肪組織褐色脂肪組織は、脂肪を貯蔵する白色脂肪組織から脂肪を受け取って燃焼する細胞。かつては幼児期を超えると消滅するとの説が多かった。北海道大学斉藤名誉教授らの研究によりポジトロン断層法(Positron Emission Tomography:PET)が体内のブドウ糖を可視化できることを応用して、褐色脂肪組織の活性の可視化に成功。成人にも褐色細胞組織が存在することを実証した。褐色脂肪細胞は体温の産生に関係している。特に低温下では褐色脂肪細胞の活性が高まり、白色脂肪組織に蓄積している脂肪を燃焼する。褐色脂肪組織の活性が低いと白色脂肪組織に蓄積した脂肪は使用されず太りやすくなる可能性がある。茶カテキンの褐色脂肪組織に対する効果男性10名を茶カテキン摂取群と対照群の2群に分けた。5週間後の褐色脂肪組織の活性を測定すると茶カテキン群では投与前に比べて褐色脂肪組織の活性が有意に上昇。対照群では投与前後で差がなかった。茶カテキンが褐色脂肪組織の活性をあげることによって、太りやすい体質を改善する可能性を示した。【参考】・花王プレスリリース
2014年08月29日京都大学は8月22日、ヒトiPS細胞から肺胞上皮細胞を分化誘導し、単離する(取り出す)方法を世界で初めて確立したと発表した。同成果は同大学大学院医学研究科呼吸器内科学講座の三島理晃 教授、同 後藤慎平 研究生、同 伊藤功朗 助教(物質-細胞統合システム拠点連携 助教)、同 iPS細胞研究所増殖分化機構研究部門の長船健二 准教授、同 医学研究科腫瘍生物学講座の小川誠司 教授らの研究グループによるもの。8月21日(米国時間)に米科学誌「Stem Cell Reports」に掲載された。今回の研究では、肺胞上皮細胞の前段階にあたる肺胞前駆細胞を効率よくヒトiPS細胞から分化誘導するのに、CPMという酵素が有用であることを突き止めた。また、蛍光タンパク質(GFP)を注入することで、肺胞を作るのに不可欠な2型肺胞上皮細胞に分化すると光るヒトiPS細胞を作成したという。さらに、CPMを使って単離した肺胞前駆細胞を3次元培養して肺胞上皮細胞を分化誘導したところ、GFPが光り、2型肺胞上皮細胞の単離に成功したことが確認された。同研究グループはこの結果について「ヒトiPS細胞から2型肺胞上皮細胞の分化誘導と単離というプロセスが確立したことで、肺の再生研究だけでなく、さまざまな難治性疾患の研究に踏み込める大きなチャンスが到来した」とコメントしている。
2014年08月22日