夏の暑い盛りにサッカーをすることが、子どもたちの成長に有効なのだろうか? という疑問を持ち、夏休み期間中に3週間ほどの「サマーブレイク」を導入している大東JFC(島根県雲南市大東町)。前回の記事では、コーチのみなさんにサマーブレイクについての考えをうかがいました。今回は保護者や子どもの反応をまとめました。夏休み期間中のサマーブレイク導入について、どんな声があがっているのでしょうか?(取材・構成鈴木智之)写真提供:大東JFC<<前編:夏場に休むことで子どもが伸びる!あるサッカークラブが「夏休みは練習しない」ことを決めた理由■サッカー以外の経験をさせることができるし、コーチたちも家族と過ごす時間が増える◆山崎真吾さん(保護者会長/6年生の保護者)サマーブレイクをとることで、子どもたちの熱中症のリスクが軽減されますし、家族で過ごす時間が増えると思います。サッカー以外にも、いろんな経験をさせることができると思います。一方で6年生の親としては、このチームで子どものサッカーが見られるのも、卒業まであと数ヶ月と考えると、少しでも多く見たい気持ちがあります。休みは3週間程度かもしれませんが、寂しい気持ちも出てきたりします。ただ、コーチのみなさんにも家庭があって、お子さんがいらっしゃるので、サマーブレイクがあることで、家族の時間が増えるのはいいことだと思います。今年のサマーブレイク中には、友達家族とキャンプに行く予定です。娘は小学校の友達とは違うクラブに入っていて、普段は遊ぶ時間がなかなか合いません。サマーブレイク中に、友達と遊ぶ時間が増えることを期待しています。最新ニュースをLINEで配信中!■海に行ったり、旅行やレジャーの時間に◆藤原睦美さん(U-11、12コーチ/5年生の保護者)サマーブレイクがあることで、普段できないことや、夏だからこそできることに時間があてられるのはいいことだと思います。子どもたちは夏休みなので、海に行って遊んだりしてほしいです。もしサッカーがしたくなったら、家の庭や近所の広場ですることができます。みなさんも、せっかくのサマーブレイクなので、旅行やレジャーなどの時間にあててもらえたらなと思っています。私は消防署に務めているのですが、消防士は6月頃から、体を暑さに慣らすトレーニングをします。熱中症にならないように、暑くなる前に防火服を着て走って、体を慣らせていきます。サマーブレイク期間中、家でゲームをして過ごしたりと、あまり外に出ない子もいると思うので、休みが明けて出てきたときに、熱中症に気をつけながらトレーニングをしたいです。■休みを取ることで他のチームとの差が出ても、成長のきっかけになる◆新田由香里さん(保護者役員/6年生の保護者)大東JFCには、長男のときから13年間、お世話になっています。長男が在籍していた頃は、暑さを避けるために夕方に練習をしていたこともありました。当時は、子どもが買い物に出かけていて「練習に間に合わせないと」と急いで帰ってきたこともありました。サマーブレイクのように休みがしっかりあると、家族で時間を気にせずに出かけたり、買い物ができる時間がとれるので、すごくいいと思います。休みをとることで、他のチームとの差が出るのではないかという意見もありますが、私は差が出てもいいと思っています。勝ち負けにこだわるのではなく、子どもたちが楽しく練習して、楽しく試合ができればいい。試合で負けたら悔しいけど、その悔しさもいい経験です。負けないために、どうすればいいかを子どもたちも考えるだろうし。とにかく、楽しくサッカーができればOK。そうしていると、内面も成長する気がするんです。彼らも気がつくはずです。「サッカーはみんなでやるから楽しいんだ!」って。◆キャプテン6年生山崎里桜さんサマーブレイクの間、サッカーの仲間と会えなくなるのは寂しいけど、休む時間があるのはいいことだと思います。その期間に自主練をする予定なので、サッカーの技術も落ちなくていいかなと思います。■好意的に受け止める保護者が多数◆横山武志代表僕は練習中、保護者さんとよく話をします。保護者さんが不安を抱えていたとしたら、それはコーチと話をすることで、ある程度、解決するんですよね。それが信頼関係にもつながります。チームで新たな取り組みを思いついたときには、コーチよりも先に、保護者さんに『こんなことを考えているんだけど、どう思いますか?』と意見を求めることもあります。そうすると、考えを理解し合えるので、コーチ、保護者ともにやりやすくなるんです。サマーブレイク導入も、好意的に受け止めてくれる人が多かったです。◆保護者の声「我が家は夫婦ともに働いていて、毎日が追われる日々。夏は、家族参加の地域の行事もあり、その部分も大切にしたいと思っています。団体活動をしなくても、サッカーがしたければ、子どもはボールを持って、ロケットのように出ていきます!」(3年生保護者)「JFCの予定日に地域の活動があるとします。人数が少ないので欠席だと悪い。でもJFCも、コーチがわざわざ家庭を置いて出て来てくださるので、一人でも多く出たほうがいいだろうと、どちらを選択するか悩みます。それもあって、サマーブレイクには感謝してます」(3年生保護者)「子どもは日曜日の練習が無くて残念がっていますが、その分、水曜日の夜練習に参加させて頂けるので喜んでいます」(2年生保護者)「サマーブレイク、とてもいいと思いました。子どもたちには長い休みになりますが、大人は普通に仕事ですし、最近の子どもは忙しいですよね。宿題や自由研究、イベントや夏の教室などあるので、少し余裕ができて子どもも休息できます」(4年生保護者)「うちの子は、毎週サッカーの練習を楽しみにしています。夏休みは毎日家の中で過ごし、テレビなどの時間が増えてしまって、体が鈍りそうです。練習する事で運動不足解消にもなりますね。息子に夏休みに練習がほとんどないことを伝えると、残念がっていました。週一でもいいのでやって貰えるとありがたいです」(3年生保護者)「うちの子はサッカーがしたくてウズウズしておりますが、これまで通りサマーブレイクを取り入れて頂きたいと思います。お互いに時間がとれるのでいいんじゃないでしょうか。普段は日曜日しか子どもと過ごせる日がないですが、日曜日などは半日サッカーでなくなります。たまにはゆっくりできる時間も必要な気がします。ただ、インドア派の息子には運動不足が心配ですが......笑」(4年生保護者)サッカー少年少女の親の心得「サカイク10か条」■「遊び」としてサッカーを楽しむことも大切、サマーブレイクはサッカーを楽しむ余白づくりにもなる保護者のみなさんからは、サマーブレイク導入に対して賛成の声が多く挙がりましたが、なかには「もっとサッカーがしたい!」という意見もありました。そのため、水曜日の夜に自由参加の練習を設けたりと、クラブ側も工夫しているようです。また「サッカーがしたければ、子どもたちは集まって勝手にする」という意見も多くありました。習い事ではなく、遊びとしてサッカーをするのも大切なこと。サマーブレイクは、サッカーを楽しむ余白づくりと捉えることもできます。成長期の子どもにとって、体作りの面からも休息は不可欠です。熱中症のリスクがあり、暑さゆえ集中力が切れやすく、トレーニング効果が高まらないのであれば、夏の間を休む期間にあててもいいのではないでしょうか。大東JFCの取り組みは、暑い夏を乗り切る上で大きなヒントになりそうです。サッカー少年少女の親の心得「サカイク10か条」
2022年07月13日2022年6月、各地で気温が40度を越え、平均気温が過去最高を記録するなど、危険な暑さが続きました。これから訪れる夏本番も厳しい暑さが予想され、炎天下のサッカーは熱中症のリスクが高まるなど、普段以上の健康管理が求められます。はたして、暑い夏の盛りにサッカーをすることは、サッカーの上達、選手の成長面で有効なのでしょうか?島根県雲南市大東町で活動する大東JFCは、3年前から小学校の夏休み期間中に「サマーブレイク」を設けています。2022年は7月下旬からお盆明けまでのおよそ3週間、自由参加の練習を除き、全体練習はしないそうです。なぜサマーブレイクをとることにしたのか。大東JFCの横山武志代表を始め、コーチ、保護者のみなさんに話をうかがいました。(取材・文鈴木智之)写真提供:大東JFC■夏の練習を休むきっかけになった出来事大東JFCがサマーブレイクを取り入れたのが、2020年のこと。ある出来事がきっかけでした。「ある年の8月に参加予定の大会があったのですが、暑さで子どもたちがダウンしてしまいました。体調のこともあるので『参加を見合わせた方がいいのではないか』と、クラブで話し合いを行いまして、それならばいっそのこと夏休みの期間中、まとまった形で休みにしてはどうだろうという結論になりました」とくに近年の暑さは異常で、「昔とは体感が変わってきた」という声をよく耳にします。横山代表は「大人でもこれだけ堪えるのだから、子どもはもっと大変なんだろうなと。それを考えたときに、休むのも一つの方法だと思いました」と、健康面のリスクからサマーブレイクの導入に踏み切ったそうです。最新ニュースをLINEで配信中!■監督、コーチたちも賛同した理由U-12の監督を務める伊藤清行さんは、サマーブレイクについて「暑い中でトレーニングをすると集中が切れやすくなりますし、安心安全な環境を提供することが難しいと感じています」と話し、こう続けます。「私が子どもの頃とは、暑さの質が変わってきていますよね。熱中症のリスクも高くなるので、ヨーロッパで指導している日本人の方の話なども聞いて、夏に長期の休みをとるという考えはありなのではないかと思うようになりました」昨年に続き、2022年の夏も7月下旬からおよそ3週間をオフ期間としています。とはいえ、完全に休みにするわけではなく、水曜日の夜にグラウンドを確保し、全学年、自由参加の場を設けています。U-12の田島隆志コーチは「水曜日に自由参加の場がありますが、クラブが場を作らなくても、サッカーがしたい子は、友達と集まって公園でボールを蹴ったりしています。指導者がいない環境でサッカーをするのも、大事なことだと思います」と、遊びの延長でボールを蹴ることの重要性を語ります。■夏休み後、選手のパフォーマンスが上がった例も一方で、長期のオフを設けることに、不安がないわけではありません。田島コーチは言います。「他のクラブのコーチ仲間とも話をするのですが、休むことに対して、指導者として不安に思うこともあります。自分のクラブが休んでいる間に、他のチームは練習をしているので、その期間に差が出てしまうかもしれません。8月末に地区の大会があると休めませんし、9月には全日本U-12選手権に絡むリーグ戦が始まりますからね」ただし、と田島コーチは言います。「関東のとあるクラブでは、夏休みをとった後、選手たちのパフォーマンスがすごく良くなっていったそうです」と、休むことがプラスに働く事例を教えてくれました。U-9、U-8を担当する渡部平コーチは「毎日の練習も大切ですが、サッカーから離れることで、心の中、体の中からリフレッシュして、新たな気分でサッカーができるのは、とてもいいことだと思います」と前向きに捉えています。サッカー少年少女の親の心得「サカイク10か条」■オフ明けに子どもたちの身長が伸びていた大東JFCは、昨夏もサマーブレイクを設定していました。オフ明けに集まって来た子どもたちの様子を見て、横山代表はあることを感じたと言います。「子どもたちの身長が伸びていました。コロナ禍で活動できなかったときにも感じたのですが、サッカーをしていないときの身長の伸びがすごかったんです。激しい運動を控えると、身長が伸びやすいと聞いたことがあったので、休むことも大事なんだなと思いました」■休みを設けることで「またサッカーがしたい」というエネルギーが出るサッカーに限らず、スポーツにおいて「夏の頑張りが、秋以降の成長につながる」という考えがあります。横山代表は「僕も学生時代は、その考えでやっていましたが、それが合っているかどうかはわかりません」と話し、言葉を続けます。「僕たちは小学生と接していますが、その子たちが大人になったときにどうなるのかは、誰にもわかりません。サッカーをしすぎることで嫌いになったり、成長が止まってしまう可能性もあるかもしれません。選手を預かる責任ある立場として、先のことまで考えたときに、休ませるのも大切なことなのではないかと思ったのです」伊藤監督も「サマーブレイクを設けることで、休み明けに『またサッカーがしたい』『みんなに会いたい』というエネルギーを出してくれると思います。そのためにも、リフレッシュする時間は必要なのかなと思います」と、休みがポジティブに働くことを期待しています。今回のインタビューに参加できなかったコーチからも「これは極論ですが、地域のみならず県、さらには全国で足並み揃えられるといいですね」といった意見も寄せられました。大東JFCのみなさんが、「暑い夏にサッカーをすることが、子どもの心身の成長にプラスなのだろうか?」と考え、出した結論がサマーブレイクの導入でした。それに対し、保護者や選手はどう感じているのでしょうか?次回の記事では、サマーブレイクに対する、保護者と選手の声を紹介します。サッカー少年少女の親の心得「サカイク10か条」
2022年07月12日