世界各国で新たな社会保障として注目されているベーシックインカム。国が国民全体に基本的な所得を保障するこの制度は、2020年に起こったコロナウイルスの感染拡大によって、さらに注目を浴びています。しかし、ベーシックインカムは問題点も多く、話題には上がるものの導入に踏み切る自治体はなかなか出てきません。この記事ではベーシックインカムの制度と問題点を解説します。ベーシックインカムとは?制度の概要ベーシックインカムとは、国が国民全体に生活保障のためのお金を給付する社会保障政策です。生活保護をはじめとした既存の社会保障政策は、受給するのに一定の条件があります。一方、ベーシックインカムは無条件で支給するという特徴があります。ベーシックインカムは社会主義的な考えとは違い、資本主義社会の下支えとなる政策です。最低限の生活を保障して、それ以外の収入や経済活動は国民が自由に行うことができます。ベーシックインカムが注目されている理由は現在、各国で起こっている社会課題に対して有効な解決策となるポテンシャルがあるからです。ベーシックインカムを導入するメリットベーシックインカムは低賃金や働けない人への保障となるとともに、人々の働き方や会社の在り方を変えるインパクトのある政策です。ここからはベーシックインカムを導入すると、どのようなメリットがあるかをご紹介します。職業選択や生き方を自由に選べるベーシックインカムの導入は「収入がなくなるかも」という不安をなくします。「収入のために我慢して労働する」という労働目的がなくなることで、職業選択の自由度が増えます。特に、起業やアーティストへの挑戦など、決められた賃金がない職業へいつからでも挑戦がしやすい環境になるでしょう。生活が保障されれば働き方も変わります。特に子育て中の世帯にとって、働く時間に融通が効くのは大きなメリットです。また、ベーシックインカムは子供も1人の国民としてお金が支給されるため、少子高齢化対策になる可能性も秘めています。労働環境の改善近年、問題になっているブラック企業。労働環境が悪い会社とわかっていながらも、失業状態が怖くて働かざるを得ない人も多くいます。ベーシックインカムが導入されれば失業状態の不安がなくなるため、ブラック企業で働く人は少なくなるでしょう。結果的に労働環境がよい会社が残ることになり、労働環境は改善されていくはずです。社会保障の一本化現在は生活保護、雇用保険、国民年金など社会保障がさまざまな形に分かれていますが、ベーシックインカムが導入されると、これらの社会保障が一本化されてシンプルになります。現在の制度では、国民は適用される社会保障それぞれに申請しなければなりません。制度を知らなければ、適用される社会保障でも受け取れないのです。しかし、ベーシックインカムは無条件で全員に給付されるため、このような受給漏れはなくなります。行政にとっては、社会保障が一本化することでさまざまな申請の手続きに関した労力を減らすことができます。人員配置も少なくて済むため、社会保障に関わるコストを圧縮することもできます。ベーシックインカムの導入事例ベーシックインカムを継続的に導入している国はありません。しかし、いくつかの国・自治体では実験的に期間限定で導入しています。ここではベーシックインカム実施国の導入事例をご紹介します。フィンランドでの導入事例フィンランドでは2017年から2018年までの2年間に渡ってベーシックインカムの導入実験を行っています。2020年に研究チームから発表された最終報告書によると、ベーシックインカム受給者のほうが生活に対する満足度は高く、精神的なストレスを抱えている割合が少なかったと言います。ベーシックインカムによって自律性が高まったというインタビュー回答も多く、実際にベーシックインカムによってボランティア活動などに新たに参加したケースもありました。フィンランドの国民アンケートでは、ベーシックインカムの導入に46%が「賛成」もしくは「部分的に賛成」としています。カナダでの導入事例MINCOMEカナダでは異なる州で2度、ベーシックインカムの導入実験が行われています。1度目はマニトバ州ドーフィンで1974年〜1979年の5年間に渡って行われた「MINCOME」と呼ばれる実験です。2011年に発表された最終報告書によると「入院期間の減少」「高校課程への進級」に成果があったとされています。一方、「出生率の増加」には影響が出ていないとされました。MINCOMEは実施していた政権が力を失ったことで終了。2009年までデータの分析も行われませんでした。そのため、一部データは不明なままとなっています。オンタリオ州の導入事例2度目はオンタリオ州で2017年に行われています。当初は3年間の予定でしたが、実施の1年後に政権交代がなされたことで、ベーシックインカムは終了しました。政権交代後の州政府は失敗だったと発表していますが、研究チームからは成果があったと報告されています。研究チームによると、年収が一定額を超えるとベーシックインカムが支給されない制度にもかかわらず、4分の3が仕事を継続したとされています。また、仕事を辞めた人の約半数は学校に通い始めており、次のキャリアにつながる行動をしていたそうです。約8割が健康状態が改善し、不安やストレスが減ったとアンケートで回答していますし、食生活の改善や通院の頻度の減少など一定の効果が出た結果となったのです。ベーシックインカムの問題点とは?ベーシックインカムの導入事例からはポジティブな結果が出ているにもかかわらず、導入が広がらないのはなぜでしょうか。ベーシックインカムの導入は国の政策を根底から覆すインパクトがあり、課題も多くあります。ここではベーシックインカムの問題点と、導入事例から見る問題点の分析をご紹介します。[adsense_middle]労働意欲の低下ベーシックインカムの導入によって働かなくてもよい環境ができ上がると、労働意欲の低下が懸念されます。労働人口が減少すると、結果的に国自体の発展が阻害されてしまうのです。全体的な失業率が悪化しなかったとしても、業種によって労働力に差が出るかもしれません。例えば、製造業や建設業といった体力的にきつい業種の人気が下がり、労働力を確保できなくなるかもしれません。また、公務員や医療関係者などの労働力が減ると国全体の社会保障が成り立たなくなってしまいます。導入事例から見る問題点への影響フィンランドの導入事例では、報告チームより「雇用への影響は限定的だった」と発表されました。カナダでもMINCOMEでは「住民の労働時間に大きな差は出なかった」、オンタリオ州の導入では「4分の3が仕事を継続し、辞めた半数もキャリアアップのために行動した」と、労働意欲の低下を示す結果は出ていません。導入の年数が初めから限られていたことが結果に影響を与えていますが、労働意欲が低下するという仮説は実際には実証されていないのです。財源が確保できないベーシックインカムの導入には多額の財源が必要となります。例えば、月に10万円を日本国民約1.2億人に支給するとしましょう。年間で144兆円がベーシックインカムに必要となります。2020年度の日本の国家予算案の一般会計は102兆円。社会保障費は35兆円規模です。現在の国家予算案を超える金額をベーシックインカムだけに投入しなければなりません。そのためには抜本的な税制改革によって税収を上げる必要があります。導入事例から見る問題点への影響カナダの2度の導入実験は政権交代によって途中終了していますが、理由はどちらも財源不足や適切な支出ではないという判断からです。ベーシックインカムを導入するには国民の理解と税制改革が大きな壁として立ち塞がるでしょう。ベーシックインカムが日本で導入される可能性ベーシックインカム導入の議論は日本でもされており、希望の党では一時期、公約にも掲げられていました。コロナウイルスの感染拡大によって、日本全体で減収や解雇が問題になったことで議論の盛り上がりも見せています。しかし、実際には日本での実現の可能性は低そうです。これには下記の事情が関係します。導入した国は高福祉国である日本は増税して社会保障を充実させようという考えが浸透していないフィンランドやカナダは高福祉国と呼ばれる国で、「税金を高くして、社会保障を充実させる」という考えを持っています。例として日本・フィンランド・カナダの公的社会支出の対GDP比と消費税率を見てみましょう。カナダは日本よりも公的社会支出の対GDP比が少ないですが、カナダは高齢化率が低く(日本:28%、カナダ17%)、年金の支給額が低いことが理由です。カナダは基本的な医療費が無料など福祉制度は非常に充実しています。つまり、日本では税金を高くして社会保障を充実させようという考えがフィンランド・カナダより浸透してないため、国民の理解を得ることが難しいのです。特に、大きな反対が起こりそうな3つのポイントを紹介します。導入には税金の増税は避けられない前の章でも紹介したように、ベーシックインカムの導入には大きな財源が必要となります。現在の税制では厳しいため、増税や税制改革は避けられないでしょう。消費税の10%増税が反対によって何度も延期されたことからもわかるように、日本では増税へのハードルは非常に高いです。医療費などより大きい保障の扱いベーシックインカムが大きな社会保障となるため、ほかの社会保障は縮小されます。つまり、ベーシックインカムで賄えない費用は自己負担になるのです。例えば、多額の医療費がかかった場合、現在は上限なく保障されます(高額療養費制度)。ベーシックインカム導入によって高額療養費制度がなくなった場合、医療費が払えないことで治療を諦める人が出てくるかもしれません。ベーシックインカムでは賄えない負担への社会保障が薄くなるという課題を解決しなければならないのです。ベーシックインカムの成功例がないご紹介したフィンランドやカナダ以外にもアメリカやケニアなどでベーシックインカム導入の実験は行われています。しかし、明確に成功したという事例は今のところありません。ケニアでは12年間続けていますが、多くの事例では途中で中止や大きな制度変更をしています。実験のデータからは一定の成果が認められていますが、継続的な導入ができる制度設計まではできていません。まだ、成功例がない制度を導入するのはハードルが高いのです。ベーシックインカムのデメリットに関するまとめこの記事ではベーシックインカムの制度・導入事例・問題点を解説してきました。ベーシックインカムは国の制度を大きく変えるため、課題も数多くあります。しかし、貧富の差が激しくなっている現在では、画期的な解決策として検討すべき政策の1つです。これからのベーシックインカムに注目してみてはいかがでしょうか。
2020年07月06日貧困や経済格差の拡大を背景に、ベーシックインカム制度導入についての議論が以前からありました。しかし、2020年に発生した新型コロナウイルスにより世界的な社会的な不安が増すことで、ベーシックインカムの流れは加速するかもしれません。実際に試験的に導入が進められている国もあり、一定の成果を上げています。この記事では、ベーシックインカムとはどのような仕組みなのかを、メリット・デメリットと合わせて解説します。ベーシックインカムとは政府が行う経済政策には、「国民にお金を配る」という政策があります。これを実現させると、すべての国民が毎月一定額のお金をもらえるようになります。これを「ベーシックインカム」といいます。ベーシックインカム(Basic Income)は「最低所得保障」と呼ばれ、年齢や性別、所得を問わず、すべての人に所得保障として一定額の現金を支給する制度。つまり、働かなくても生活に最低限必要なお金がもらえるという政策なのです。ベーシックインカムを導入すると、世の中のお金が回り始めます。日本は現在、お金の量が足りなくてモノの値段が下がる「デフレ」の状態です。モノが売れないと企業の売上が落ちます。企業は売上を増やすため、商品を値下げしないといけないので物価が下がります。これがデフレと呼ばれる状態です。しかし、商品を値下げすれば利益が減るので、従業員に支払う給料も減ってしまいます。これが、今の日本の状態なのです。ですから、足りない分のお金をベーシックインカムとして国民に配ることで、不足を埋め合わせします。お金の不足が解消されるので、すべての人が豊かになれる制度なのです。定年を迎えた人には年金、働けない人には生活保護、失業した人には失業保険といった社会保障制度によって、所得が少ない人を支える仕組みは用意されています。しかし、これらの給付には審査があり、満足のいく額を受給できなかったり、まったく支給されなかったりする恐れがあります。そうなると、憲法で保障されている「最低限の生活」を送れない人も出てくるでしょう。日本は先進国ですが、貧困による餓死が社会問題化しています。ベーシックインカムのような社会保障制度は、弱者を救済する手段の1つとなるのです。近年、ベーシックインカム制度に注目が集まり、エリアや支給対象を絞って試験的に導入する国が増えています。日本も政党によって考え方は違うでしょうが、今後は議論が進んでいくでしょう。ベーシックインカムを導入している国それでは、ベーシックインカムを試験的に導入している国が、いつから始めたのかを見ていきましょう。成功と失敗で見ると、成功している国が多いようです。フィンランドフィンランドでは、2017年1月1日より2年間にわたりベーシックインカムの給付実験を行いました。失業手当受給者のうち学生などを除いた25~58歳の中からランダムに2,000人選び、月額560ユーロ(約7万円)を給付したのです。ベーシックインカムの支給額は、失業手当とほぼ同じです。しかし失業手当の場合は、職を探していることが条件で、また収入があるときにはその額に応じて減額されますが、ベーシックインカムにそのような条件はありません。雇用に関しては、2017年度の所得記録に大きな効果は見られませんでした。しかし、本当の効果は健康面と幸福面で見られました。参加者には、健康、ストレス、気分と集中に関する問題が明らかに少なくなったのです。また、自分の将来への信頼と自信度が高まるといった効果もありました。ベーシックインカムを導入後、「貧困から抜け出せた」「自由な時間が増えた」などプラスの効果が多く見られたのです。カナダ2017年7月から、カナダのオンタリオ州で4,000人近い人々を対象に、ベーシックインカムを支給する制度を試験的に導入しました。そして、参加者はベーシックインカムが始まった後も仕事を続け、より健康的になったという調査結果が発表されました。オンタリオ州のプログラムでは、低所得層に対して独身世帯に年間1万6,989カナダドル(約134万円)、結婚している世帯に年間2万4,000カナダドル(約190万円)を支給しました。ただし、収入の50%がベーシックインカムから差し引かれます。しかし、プログラム開始時に働いていた人のうち、4分の3はベーシックインカムの受け取りを始めた後も仕事を継続していたことがわかりました。さらに、仕事を辞めた人のうちの約半数は、以前よりも良い仕事を手に入れるために学校へ通い始めたのです。働き続けた人の多くは、以前の仕事よりも時給が高く、安全な仕事に転職しています。そして、約80%の人がプログラムに参加している間に健康状態が改善したと回答しているのです。ベーシックインカムの導入方法ベーシックインカムを導入する方法は、主に次の4つが考えられます。少額スタート逓増方式毎月1万円をすべての国民に給付するところから始め、様子を見ながら徐々に給付金額を増やしていく方法。ベーシックインカムをスタートするときに大きな財源を必要としない、これまでの社会制度に大きな変更を加える必要がないというメリットがあります。また、月数万円の給付なら仕事を辞める人が増えるとは考えにくく、逆に所得がアップすれば働くモチベーションもアップするでしょう。少額スタート逓増方式は、始めようと思えば今すぐにでも始められるという点でも優れています。満額支給スタート方式満額支給スタート方式は、毎月10万円や15万円など最低限生活ができるような金額を支給する方法。この方法が問題なく導入できれば良いのですが、いくつかの不安要素があります。たとえば財源の問題があります。毎月10万円を給付しようとすると、年間で144兆円ものお金が必要になります。税金で対応するにしても、かなりの増税を強いることになります。ベーシックインカムを導入しても、税金が大幅に引き上げられるのではないかという不安があるのでは、人々は安心できません。働かなくなる人も増えるのではないかという心配もあります。ベーシックインカムがどれだけ優れた制度でも、満額支給スタート方式ではこれまでの世の中の仕組みを根底から変えてしまうインパクトがあります。いきなり全面的にスタートすれば、社会に混乱を招く恐れがあるのです。年金・子供手当方式65歳以上の高齢者と、15歳未満の子供に給付金を支給するところからスタートする方法。支給金額は、毎月10万円や15万円のように最低限の生活を保障する金額にします。ベーシックインカムを導入すると、「働く人がいなくなる」という主張があります。ですから、働く必要がない非生産年齢人口の退職者から支給を開始するのです。年金や子供手当の代わりとしても考えられます。そして、状況を見ながら対象年齢を拡大していきます。年金支給開始年齢を65歳から引き下げ、子供手当を15歳から引き上げていくのです。失業給付方式こちらは失業中の人に給付する方法。ベーシックインカムはすべての国民に給付されますが、就業者にお金が給付されることはムダだと思う人もいるでしょう。そこで、失業者のみに給付すれば良いだろうという考え方です。現在の失業保険給付制度では、失業保険に加入していなければ給付を受けられませんし、給付も3カ月や6カ月と短いので、あくまでも短期間での再雇用を前提とした制度です。不景気になった場合、失業が長期化する恐れもあります。また、人工知能やロボットの進化によって生じる失業では、そう簡単に再就職できない可能性も考えられます。そこで給付期限を無期限に延長するのです。また家庭の主婦や高齢者も含め、失業中のすべての人が給付対象になります。この方法だと支給対象者が限定されるので、制度を運用するために必要な予算を低く抑えられるメリットがあります。ただし、この制度だと「働かない方が得だ」と考える人が出てくるかもしれず、働く人から見れば不公平に映るでしょう。その結果、働く人のモチベーションを下げてしまう恐れがあります。ベーシックインカムのメリットベーシックインカムを導入するメリットについて確認していきましょう。[adsense_middle]貧困対策になる日本では生活保護レベル以下の生活をしながら、生活保護を受給していない「隠れた貧困層」が全国で2,000万人以上いるといわれています。ベーシックインカムは申請の手間が不要で、生活保護を受けられない層への対策として有効です。また、子供にも支給されることから、子供が多いほど世帯収入が増え、少子化に歯止めがかかることも期待できます。労働意欲の向上につながる可能性があるベーシックインカムは、生活保護のように一定の収入があると打ち切られるということはありません。働いて得た収入は、ベーシックインカムに上乗せされることになります。生活がギリギリで生きるためだけに働くとなると労働意欲は低下しますが、最低限の所得があれば、本来やりたかった仕事にチャレンジしようという気にもなるでしょう。そして働いて収入が増えれば、自由に使えるお金が増えるので労働意欲の向上が期待できます。これまで生活保護受給者は働かない人も多くいましたが、ベーシックインカムでは労働者が増え、労働不足の解消も期待できるのです。社会保障制度のコスト削減になる年金や生活保護などの社会保障制度は、窓口が別々に分かれていますが、ベーシックインカムを導入することにより一本化できます。また、生活保護では相談窓口の設置や審査制度を設けるといったコストがかかりますが、ベーシックインカムは無条件で支給されるので、そのようなコストがかかりません。ベーシックインカムを導入すれば、現在行政にかかっているコストを負担でき、財源確保にもつながるのです。ベーシックインカムのデメリットと問題点ベーシックインカムのデメリットについても確認していきます。財源確保への不安ベーシックインカムの導入には、ある程度の財源の確保が必要。20歳以上に限定して月10万円支給しようとしても、日本の成人人口はおよそ1億500万人なので、年間で約105兆円が必要です。その財源を確保するためには大幅な増税が避けられないでしょう。働かなくなる人が増加するベーシックインカムで最低限の生活が保障されると、待遇面に不安を抱きながら仕事をすることがなくなりますし、誰もやりたがらないような過酷な労働を収入のために行う必要もありません。労働自体を拒否する人が出てくる可能性もあります。ただし、ベーシックインカムは最低限の給付なので、それだけで生活していくことは困難です。ですから、労働時間は減っても、働く人の減少にはならないと見られています。日本のベーシックインカムに関するまとめ今回はベーシックインカムの仕組みと、メリット・デメリットについて解説しました。日本は先進国ですが、憲法で保障されている最低限の生活を送れない人もたくさんいます。そのような人たちにとって、ベーシックインカムは大きな生活の支えになるでしょう。世界各国でもベーシックインカムの注目が高まり、エリアや支給対象を絞って試験的に導入する国が増えています。そして、2020年のコロナショックにより、スペインでベーシックインカムを導入することが決定しました。ただ、今回は低所得者への給付である「ユニバーサル・ベーシック・インカム(最低所得保障制度)」であり、純粋なベーシック制度とは異なります。しかし未曾有の経済危機を迎え、今後はベーシックインカムの議論が世界各国で高まることが予想されます。
2020年04月26日こんにちは。エッセイストで経済思想史家の鈴木かつよしです。最低限の生活を営むために必要な現金を国民全員に無条件で支給する「ベーシックインカム(BI) 」制度。みなさんはこの言葉を耳にされたことはありますでしょうか?『働かない人に“タダ乗り”を許すのか』とBIを批判する声もあります。しかし国民の6人に1人が貧困で子どもが高等教育を受ける権利がなく、非正規雇用と長時間労働に伴う諸問題は事実上野放しです。日々の仕事や子育てに悪戦苦闘するママのみなさんにとって、メリットの多い制度であることは間違いありません。今回は“BIの導入でママはこんなに幸せになれる”というテーマでお話をさせていただきます。日本だけが世界の中で20年もゼロ成長なのか? この話は、雇用があるなしとは全く別の話です。日本のように労働力人口そのものが急激に減っている社会の雇用は「ある」のが当たり前で、政権与党の功績でもなんでもありません。日本だけが20年も経済成長してない理由は実はとてもシンプルで、政治が「富の分配のしかたを間違ってきたから」に他ならないのです。つまり「これ以上豊かになっても社会にさほどの影響を与えない強い層」ばかり税制面で優遇し、「この人たちに手厚い支援をすれば社会が飛躍的に活性化する弱い層」からばかりお金を搾り取ってきたことになります。シングルマザーとその子どもたちが“生活のための労働”に追われ、学問によって知識や技術を習得する機会をえられない事実はいい例です。このような“残念な国”こそが近年のわが国の実態なわけですが、ベーシックインカムというシステムにはこの残念な国の諸問題を一気に解決してくれる可能性があるのです。ベーシックインカムとは何かこれに関しては『AIとBIはいかに人間を変えるのか』の著書、経済評論家の波頭亮さんによる説明が分かりやすいので引用します。波頭さんによればベーシックインカムとは、**********『最低限の生活を営むに足る額の現金を国民全員に無条件・無期限で給付する制度』で、『生活保護や国民年金と同水準の1人当たり8万円と設定すると夫婦に子ども2人の家庭では32万円の給付になる』というもの。財源的には『不要になる国民年金・基礎年金、生活保護の生活扶助費、雇用保険の失業保険費や厚生年金の分を充当する』ことや『消費税率は8%から15%にする』**********こと等で、計算上は十分可能であると波頭さんは述べています。BIは18世紀の末にイングランド出身の思想家トマス・ペインによって、初めて提唱された社会保障制度です。そして現在、アメリカ合衆国のアラスカ州では実際に本格的に導入され、成果を上げています。ベーシックインカムを導入することのメリットでは次に、ベーシックインカム制度を導入することによって生じるメリットにはどのようなものがあるかを列挙してみましょう。◆貧困の解消日本の社会保障制度では非正規雇用のワーキングプアの人たちは、ぎりぎり生活保護を受けなくても生きて行けるはずだと見なされるため、半永久的に貧困状態から抜け出すことができません。BIが導入されると、このような人たちがそのパート収入やアルバイト収入を「プラスアルファの収入」として活用できます。そのため、ただ生活に追われるだけの非人道的なワーキングプア状態・貧困状態から脱出することが可能になってくるのです。◆子どもに職業選択の自由が生まれる芸術家や作家などのクリエイティブな職業は、「ほとんどの人はそんな仕事で食べては行けない」という理由で多くの才能ある子どもたち・若者たちから敬遠されてしまっています。BIが導入されることによって子どもたちは収入の安定性をあまり気にせず職業選択ができるようになり、子どもたちが夢を持ちやすくなります。◆少子化対策になるベーシックインカムは個人を単位として給付されるため、子どもを増やすことは世帯当たりの所得の増加につながるので有効な少子化対策になります。◆地方の再生につながるベーシックインカム制度の基本は「国民みな一律」です。物価の安い地方に移住すれば可処分所得が増えますので地方の人口増と再生につながります。ベーシックインカムを導入するとママが幸せになれるのはどうしてかそれでは最後に、ベーシックインカムを導入するとママが幸せになれるのはどうしてか。その理由についてお話したいと思います。最大の理由は、「男性中心思想」が、消えていくという点です。人間社会の歴史は筋力に勝る男性が筋力で劣る女性を「養ってやる」という前提の上に立って動いてきました。が、ベーシックインカムが導入されると、「俺に逆らって生活できるとでも思ってるのか」的なハラスメント男のとんでもない言動に怯える必要はなくなるのです。これは歴史的な偉業です。より多くの収入と生き甲斐のために働きたい女性は、働く道を選択することができる一方、人生の一時期を「育児」というかけがえのない大事業に専念したいママは、生活のための労働に追われることなく育児に専念することができるようになるのです。シングルのママでも夫がいるママでも、同性パートナーがいるママでも平等に、です。ベーシックインカムが施策されれば、ママたちの暮らしが楽になり景気も必ず良くなります。●参考文献『AIとBIはいかに人間を変えるのか』波頭亮・著、幻冬舎、2018年●ライター/鈴木かつよし●モデル/倉本麻貴
2018年07月10日前時代のルールに縛られず、新しい価値観を生み出してきたのは、いつだって若者だった。「若者の〇〇離れ」という言葉が示すのは、盛者必衰の理だ。数々の変遷を重ねてきた「お金」に対する価値観も、また変わり始めている。「何もする気がないなら家を出て行きなさい」。大学受験に失敗し、浪人生になるでもなく、就活するでもなく、家でダラダラと過ごしていた井上さんは母親にこう言われた。筆者なら気を取り直して勉強なり求人情報を漁るなりするところだが、彼は違った。もう典型的なゆとり。やりたいことはないけど、もう一度受験勉強するのも、高卒フリーターになるのも無理だった。でも家を追い出されたから、何とか生きていかないといけないと。だから「お金を借りたら生きていける」って思って、銀行に通いだしたんです。馬鹿ですよね(笑)。そのうち仲良くなった銀行員の方にいろいろ教えてもらって、事業計画書を作んなきゃお金は借りられないってことで、僕なりに案を練ってみたんですが、全然話になんなかった。だから最終手段で、6年ぶりに親父に会いに行ったんです両親の離婚を機に離れて暮らしていた父親のもとを訪ね、挨拶もそこそこに、「起業するからお金を貸してほしい」と迫った井上さん。「親不孝すぎる(笑)」と当時を振り返るが、起業家だった父親はこれを快諾。開業資金600万円と、事業に関するアドバイスを送ってくれた。そうして起業から1年半後には無事に借金を父親に返済。その直後にツテを頼って上京。SNSで親交のあった知り合いに誘われ参加したある上場企業のビジネスコンテストで優勝し、そのまま1300万円の出資を受けて、人生2度目の起業を経験することになる。でもこれがうまくいかなかった。社員はすごく優秀だったけど、僕がチームをうまく回せなかったんです。それで廃業して、そのあと出資してくれた会社に誘っていただいて入ったんですけど、ストレスで蕁麻疹が全身に出るという。やる気満々で入社して、1ヶ月で辞めちゃいました。いろんな人に頭を下げて。このとき分かったのが、自分はどうやら会社員には向いてないらしいということ。だから圧倒的ストレスフリーな居場所が僕には必要だったんです。それで作ったのがMIKKEですこの時彼は22歳。高校卒業からの4年間は怒涛の日々だった。もう一つの居場所を作るために起業。創造性を最大化するために「自分でベーシックインカムを作っちゃった」使用に当たって料金を取らないという特異なビジネスモデルの裏にあるのは、「明日食えるかどうかの心配をしながらクリエイティブになれるワケがない」という考えだ。クリエイターは寝食を二の次にして、社会に対して表現したいことを突き詰めたいって常に思ってるんですけど、でも生きていくためにはお金が必要じゃないですか。僕は明日食えるかどうかの心配をしながら本当のクリエイションが生まれるのか疑問なんですけど、そんなこと言ったって生活していくためにはお金が必要です。お金が理由で持ってるアイデアに賭けられないって人を見てきたから、それを変えたいと思ってChat Baseを作りましたそんなChat Baseの使用条件はたった一つ。物事の価値を再定義できるクリエイターであること。例えば井上さんは今、“贈り物”専用の本屋をある会社と共同で準備しているというが、彼が目をつけたのは、“贈り物”という行為に隠されていた価値だ。人からもらった本って、「自分では買わない本」だから予想外なことが知れて面白い。自分で買った本は「これ面白そうだな」っていうバイアスが無意識にかかってるから、心の底から感動することって実はあまりない。それを変えたくて。しかも贈り物を選ぶ時間って、「喜んでくれるかなー?」ってワクワクしてるから、贈る側も楽しいんですよね。こんな感じで僕は今“贈り物”を再定義してるんですけど、こういうことができる人が集まってるのがChat Baseですお金の限界が見えてきた? お金じゃ買えない価値ってなんだMIKKEWebsiteMIKKEは、全ての人を「クリエイター」と再定義し、クリエイターとともに事業を生み出すコミュニティです。機械化・合理化が進む時代だからこそ、見落とされがちな「無駄なもの」に価値を見出し、人の感情に寄り添う事業を作っています。また普段忘れてしまっている感情や文化の価値を再評価し、ネット上だけでなく現実世界での人とのつながりやあたたかさを再起するための事業プロデュース/ブランディングを行っています。
2018年05月28日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「ベーシックインカム」です。「ベーシックインカム」とは、年齢や収入にかかわらず、全国民一律に生活に必要な最低限のお金を支給する制度のことです。日本には、国民健康保険や国民年金、失業保険など様々な社会保障制度がありますね。それらを全部取り払い、一定額をすべての国民に支給し、自身でやりくりするという考え方なのです。これを導入するべきかどうか、賛否が分かれるテーマです。資本主義経済が進み、いま世界中で格差が広がっています。世界中の富がごく少数の富裕層に集中し、その集中がものすごい勢いで加速しています。2015年、最富裕層62人の資産を合計すると1兆7600億ドル。それは世界人口の半分以上の人の富を合わせた金額を上回っていました。一方、1日1.25ドル未満で暮らす極度の貧困層は8300万人を超えている。富の再分配が必要なんですね。しかし、ベーシックインカムを導入すれば、最低限の生活が保障されるので、働かなくなってしまうのでは?と心配する声もあります。いま、オランダのユトレヒトで300人規模の実証実験をしており、単身者で1人あたり12万円、夫婦の場合は1世帯18万円を支給しているそうです。ケニアやカナダでも今年から実験がスタート。これらの結果に注目したいですね。日本の社会保障費は年間110兆~120兆円。国民に給付されているのが70兆~80兆円です。1億2000万人にベーシックインカムを導入すると、支給額は1人6万円くらい。多岐にわたる社会保障プログラムをベーシックインカムに一括すれば、コスト削減が図れます。ある程度生活が保障されれば、気持ちに余裕もでき、新しいことにチャレンジしたくなるかもしれません。これまでの世界の実験でも、犯罪件数や子供の死亡率、家庭内暴力の件数が減ったという報告があります。ただ、支給されたお金を一気に使ってしまう人も出てくるかもしれないので、何かしらのフォローは必要でしょう。日本のいまの社会保障制度はこのままいくと、いつか破綻するでしょうから、ドラスティックに変えてみるのもいいのかもしれません。みなさんはどちらの保障がよいと思いますか?堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2017年9月27日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2017年09月24日