東京、丸の内の三菱一号館美術館で『ヴァロットン―黒と白』が開催中です。19世紀末のパリで活躍した画家、フェリックス・ヴァロットン(1865-1925)。抜群のデザインセンスをもった彼のモノクローム版画は、今の時代に見ても驚くほどクールです。さらに、本展では音声ガイドに最新の音響技術が使われ、ユニークな鑑賞体験も可能。展示風景と一緒に見どころなどをレポートします!約180点を一挙に見られる!『ヴァロットン―黒と白』展示風景【女子的アートナビ】vol. 275『ヴァロットン―黒と白』では、三菱一号館美術館が所蔵する世界有数のヴァロットン版画コレクション約180点を一挙に公開。黒と白でつくられたヴァロットンの独特な版画世界を、心ゆくまで楽しむことができます。スイスに生まれ、19世紀末のパリで活躍したヴァロットンは、独自の視点で生み出したモノクロームの木版画で名声を獲得。本展では、希少な連作〈アンティミテ〉や〈楽器〉などを揃った形で見ることができます。『ヴァロットン―黒と白』展示風景また、同時代に活躍したトゥールーズ=ロートレック(1864-1901)の作品も特別展示。こちらは、三菱一号館美術館と姉妹館提携しているフランスのトゥールーズ=ロートレック美術館から来日した作品で、ヴァロットン作品と比べて鑑賞できる貴重な機会になっています。音声ガイドもミステリアス!また、本展の音声ガイドもユニークです。ナビゲーターは、声優・俳優で映画監督などもされている津田健次郎さん。今回のガイドの一部コンテンツには、最新の空間音響技術「Re:Sense™」が導入され、AR(拡張現実)音声ガイドを体験できます。音の臨場感や人の気配感がリアルに再現されているので、津田さんが背後にいたり、近づいて耳元でささやいたりといった感覚、錯覚を楽しめます。謎めいた雰囲気が漂うヴァロットンの作品にあわせ、音声ガイドの構成もちょっとミステリアス。不思議な「ネコ」も出てきます。(このネコは、展示室にも出没しているので、見つけてみてください!)大人の色気を感じる津田さんの声にゾクゾクしながら見るアートは、本当に格別。特におすすめは、薄暗くなった平日夕方の閉館前の時間帯です。人の少なくなった館内で、ひとり静かにガイドを聴けば、ヴァロットンの謎めいた世界にどっぷりひたれます。なお、この音声ガイドはスマホなどのアプリに一度ダウンロードすれば、配信期間中に何度でも聴くことができます。作品もミステリアス!『ヴァロットン―黒と白』展示風景もちろん、作品そのものもミステリアスです。画面の半分以上が黒で覆われた斬新な構図や、あやしい雰囲気が漂う男女の絵など、見れば見るほどヴァロットンのつくりだす不思議な世界に惹きこまれていきます。特に、連作〈アンティミテ〉は必見。本作品は、1898年に限定30部で刊行されたもので、男と女の親密さや不穏な空気感などが黒と白の世界で表現されています。フェリックス・ヴァロットン《お金(アンティミテV)》1898年絵は大胆に単純化され、さらにヴァロットンは暗示的なものを画面に潜ませているので、見ていると想像力を掻き立てられます。小説家・江國香織さんは、公式図録のエッセイに、「ヴァロットンの絵はとても小説的だ」と書かれています。実際、ヴァロットンは、35歳と42歳のときに小説も執筆していたそうで、江國さんは、この画家のことを「日常生活のなかに不可避的に物語を見てしまう人」と記述。特に〈アンティミテ〉の連作については、「小説的の極致だと思う」と述べています。まさに、上質な小説のように、想像力を刺激してくれるヴァロットンの版画を180点も見られる機会はなかなかありません。ぜひ、音声ガイドを聴きながら、小説的なアートの世界を楽しんでみてください。「丸の内イルミネーション2022」も開催中!なお、三菱一号館美術館のある丸の内エリアでは、現在「丸の内イルミネーション2022」も開催中です!( 2023 年 2 月 19 日まで)丸の内エリアにある340本を超える街路樹が、シャンパンゴールド色の LED 約 120 万球で彩られています。アートを見たあとは、ぜひステキなイルミネーションもお楽しみください!Information会期:~2023/1/29(日)休館日:月曜日、12/31、1/1※但し、12/26、1/2、1/9、1/23は開館会場:三菱一号館美術館開館時間:10時~18時(金曜と会期最終週平日、第2水曜日は21時まで)※入館は閉館の30分前まで観覧料:一般¥1,900、大学・高校生¥1,000、中学・小学生 無料
2022年12月25日芸術の都・パリが最も華やぎ、芸術家を惹きつけてやまなかった19世紀末。その彩り豊かな街でただ一人、黒と白の境地を突き詰めた作家がいる。名はフェリックス・ヴァロットン(1865~1925)。この秋、生涯にわたる彼の作品のうち、三菱一号館美術館所蔵の約180点が「ヴァロットン―黒と白」展で一挙に初公開される。黒と白で描く光と闇、理性と本能の狭間のドラマ。画家として教育を受けたヴァロットンが、初めて木版画の手ほどきを受けたのは25歳のとき。翌年にはすぐに雑誌で紹介され、木版画家として活動が本格化したというから、その才能は最初から際立っていた。木版画は15世紀に活版印刷が発明された当初に多用された技法で、ヴァロットンの時代には多色刷りができるリトグラフ(石版画)を手掛ける作家の方が多かったという。古くシンプルな技法をあえて選んだのはなぜだろう?作品を見ると、黒の領域の存在感、含蓄するものに圧倒される。連作〈アンティミテ〉では、白いドレスをまとった主人公に闇が迫り、今にも飲み込もうとしているかのよう。別の作品で描かれる人殺しの場面では、真っ白に彫り抜いた室内で、被害者に襲いかかる下手人(げしゅにん)の背中だけが不気味に黒く残る。こうした「黒」の表現について、「黒い染みが生む悲痛な激しさ」(芸術評論家タデ・ナタンソンの言葉 1899年)という評も。墨だけで描かれた水墨画がその濃淡で豊かな表情を見せる一方、ヴァロットンの色のない世界は、時に一途なまでの思いを秘めているように見えてくる。第一次世界大戦が勃発すると、52歳にして従軍画家として前線に赴く。その前年に制作された連作〈これが戦争だ!〉では、触手のような鉄条網に搦めとられた人間の体(死体)が描かれる。若かりし頃、辛辣さやブラックユーモアと解されてきた精神は、年齢を重ね、達観した表現へと至ったようにも。愛しくも哀しい人間界のドラマは、黒と白で描くからこそ美しいのかもしれない。フェリックス・ヴァロットン《お金(アンティミテV)》1898年木版、紙三菱一号館美術館フェリックス・ヴァロットン《フルート(楽器II)》1896年木版、紙三菱一号館美術館フェリックス・ヴァロットン《怠惰》1896年木版、紙三菱一号館美術館フェリックス・ヴァロットン《有刺鉄線(これが戦争だ!III)》1916年木版、紙三菱一号館美術館ヴァロットン―黒と白三菱一号館美術館東京都千代田区丸の内2‐6‐2開催中~2023年1月29日(日)10時~18時(金曜と会期最終週の平日、第2水曜は21時まで。入館は閉館の30分前まで)月曜(11/28、12/26、1/2、1/9、1/23は開館)、12/31、1/1休一般1900円ほかTEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)※『anan』2022年11月16日号より。取材、文・松本あかね(by anan編集部)
2022年11月15日19世紀末のパリで活躍したナビ派の画家フェリックス・ヴァロットンは、黒一色の革新的な木版画で名声を高めた版画家でもあった。その黒と白のみでつくられた木版画の世界に焦点をあてた展覧会が、東京・丸の内の三菱一号館美術館で、10月29日(土)から2023年1月29日(日)まで開催される。三菱一号館美術館は、2014年にヴァロットンの回顧展を開催し、この画家の全貌を日本で初めて紹介した実績がある。その際にも一部の木版画が展示されたが、実は同館は世界有数のヴァロットン版画コレクションを誇る美術館だ。今回は、約180点に及ぶそのコレクションを一挙初公開し、油彩画とはまた違ったヴァロットンの魅力を探求する試みとなる。希少性の高い連作〈アンティミテ〉〈楽器〉〈万国博覧会〉〈これが戦争だ!〉なども含むコレクションはまた、ヴァロットンが生涯に制作した版画の大部分を網羅している。そのため、作品を通じて彼の生涯をたどり、また彼が時代ごとに抱いていた関心の移り変わりを見てとることもできる。たとえば、スイスからパリに出てきた彼が異邦人としてパリを観察した作品では、「群衆」や社会の暗部を露呈するような事件が、皮肉やユーモアを込めて描き出されている。ナビ派の仲間たちと活動した時代には、アール・ヌーヴォーの美学にも似た装飾性豊かな作品が登場。結婚後は、男女関係や結婚生活の不協和音が感じられる作品も見られ、また第一次世界大戦が勃発すると、戦争を主題とした作品もつくられた。テーマや表現は多様だが、一貫しているのは、その独特の視点や、白と黒を効果的に活かした卓越したデザインセンスだ。ときにブラック・ユーモアにあふれるその作品は、観る者を魅了してやまない。なお、今回は、同館と姉妹館提携をしているフランスのトゥールーズ=ロートレック美術館の開館100周年を記念した特別展示もある。ロートレック美術館の協力のもと、ロートレックとヴァロットンの作品を並べて見せる展示室では、同時代のパリでともに女性たちを描いたふたりの画家の個性の違いを見比べる楽しみも待っている。フェリックス・ヴァロットン《ユングフラウ》1892 年三菱一号館美術館フェリックス・ヴァロットン《入浴》1894 年三菱一号館美術館フェリックス・ヴァロットン《フルート(楽器Ⅱ)》1896 年三菱一号館美術館フェリックス・ヴァロットン《嘘(アンティミテⅠ)》1897 年三菱一号館美術館アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《二人の女友達》1894 年トゥールーズ=ロートレック美術館、アルビ【開催概要】『ヴァロットンー黒と白』会期:2022年10月29日(土)〜 2023年1月29日(日)会場:三菱一号館美術館休館日:月曜(10月31日、11月28日、12月26日、1月2日、1月9日、1月23日は開館)、12月31日、1月1日開館時間:10:00〜18:00、金曜と会期最終週平日、第2水曜日は21:00まで(入館は閉館30分前まで)料金:一般1,900円、大高1,000円公式サイト:
2022年10月20日三菱一号館美術館では『開館10周年記念画家が見たこども展ゴッホ、ボナール、ヴュイヤール、ドニ、ヴァロットン』が、6月7日(日)まで開催されている。19世紀末にパリで起こった芸術運動のグループ、ナビ派。親密さや素朴さを追求したナビ派の画家たちにとって、「子ども」は最も身近でいて深遠な芸術のインスピレーションの源になった。同展では、そんなナビ派の画家を中心に、画家たちが見た「子ども」の姿を、油彩・版画・素描・挿絵本・写真など約100点を通して展覧することができる。ナビ派の中でもボナール、ヴュイヤール、ドニ、ヴァロットンに焦点を当て、フランス、ル・カネにあるボナール美術館全面協力のもと、三菱一号館美術館をはじめ国内外の美術館が所蔵する作品を展示。加えて、日本では滅多に見ることのできない欧米の個人コレクター所蔵品も並ぶ。展覧会は、プロローグ「子どもの誕生」から始まり、「路上の光景、散策する人々」「都市の公園と家庭の庭」「家族の情景」「挿画と物語、写真」、そしてエピローグ「永遠の子ども時代」の全6章で構成。プロローグ「子どもの誕生」では、ポール・ゴーガンやフィンセント・ファン・ゴッホらの作品を紹介。19世紀以前まで重要視されていなかった「子ども」を画題としてとりあげ、力強い色彩や単純化された素朴な表現で描き出した作品は、その後に続くナビ派の画家たちに大きな影響を与えた。三菱一号館美術館()
2020年02月20日