今の悩みに早く答えが欲しい、もっとうまくやらなければ…。そんな焦りに支配されそうになったら。自信や自己肯定感を失わせるネガティブな気持ちを払拭するヒントを、書評YouTuberのアバタローさんが“名著”から解き明かします。“自分を高めた”偉人たちの哲学に学ぶ。3分でわかる!名著解説。自信、やる気を取り戻したい時に…岡本太郎『自分の中に毒を持て〈新装版〉』生涯芸術家による長年愛される大ロングセラー。本書は、多くの著名人が愛読書として挙げる岡本太郎の代表的著作。箴言の宝庫だが、なかでも〈ほんとうに生きるということは、いつも自分は未熟なんだという前提のもとに平気で生きることだ〉は強烈なメッセージだ。「生きるうえでは、優れた技能やたくさんの知識を持っていなくてはいけないと一種の理想像に縛られ、それで自己肯定感を持てずにいる人がとても多いですよね。それを太郎は“型にハマっているだけ”と一蹴します。自由に明るく、その人なりのユニークさを押し出せば、未熟さも逆に生きてくる。コンプレックスも小さくなります」青春文庫/¥814岡本太郎(1911‐1996)1930年代のパリで抽象芸術やシュルレアリスム運動に参画。帰国後は前衛芸術のアイコン的存在として人気を博した芸術家。哲学者バタイユとの親交も知られる。傷つきやすさを克服したい時に…マルクス・アウレーリウス『自省録』ローマ帝国に君臨した哲人皇帝による古典的名作。アウレーリウスが皇帝となったのは、外敵の侵攻、パンデミック、天災など、ローマ帝国に多事多難が降りかかった時代。「自分の怒りや痛みを切々と綴ったこの手記からは、皇帝なのに人間関係で悩み、他人の目線や評価に心を乱されるさまがうかがえるんですね。彼の繊細さに共感するはず。内面を綴るうちに、彼は“感情の手前には判断がある”ことに気づく。例えば無能と言われて腹が立つなら、その中傷に自分も納得してしまったのと同じこと。コントロールできないものは最初から無視すればいいという、スルースキルも学べます」神谷美恵子 訳/岩波文庫/¥946マルクス・アウレーリウス(121‐180)ローマ五賢帝最後の皇帝。早くからストア哲学に傾倒し、哲人皇帝の異名も持つ。その彼が「不動心」を求めて終生綴った、自分との対話の記録が『自省録』。人間関係で失敗した時に…洪 自誠『菜根譚』約400年前の中国・明代の学者による処世術!志や仕事、人生の逆境を乗り切り、幸せになるためのノウハウを、自身の人生体験を元にまとめた書。「この本の白眉は、人間関係について書かれた部分です。人との関係がギクシャクすると、自分が何か間違っていたのではないかとメンタルが削られがち。そうしたつまずきをあらかじめ排除しておくには、例えば前集一〇五にある“相手の小さな過ちをとがめず、人の隠し事を暴かず、過去の過ちをいつまでも覚えておくようなことをしなければ、自分の徳も養えるし、人の恨みを買うこともない”が有効。無駄な敵を作らない知恵に、首肯しました」今井宇三郎 訳注/岩波文庫/¥1,067洪 自誠(生没年未詳)詳しい来歴は不明だが、中国・明代末期に三教(儒教、仏教、道教)を修めた著述家であろうとされている。本書は前集と後集から成り、合わせて約360の哲理を記した。大切な人との絆を守りたい時に…エーリッヒ・フロム『愛するということ』愛の理論と愛の技術を説く世界的ベストセラー。愛は自然発生的な個人の体験だと思われているふしがあるが、実は修練を要する技術だというのがフロムの主張。「人を愛するためには、相手への配慮、責任、尊重、知が不可欠。かつ、成熟した人間同士に見られるものだという立場をとるので、愛することの困難さにひるむかもしれません。しかし、相手の話をよく聞こう、相手を知ろうなど、愛するための能動的な技法を具体的に教えてくれる本でもあります。また、西欧思想では否定されがちだった自己愛についても、自分を愛せない人間が他者を本当に愛することはできないと語り、肯定しています」鈴木 晶 訳/紀伊国屋書店/¥1,430エーリッヒ・フロム(1900‐1980)ユダヤ系ドイツ人の社会心理学者。ドイツの複数の大学で学んだ後1933年に渡米、のちに帰化。精神分析に社会的視点をもたらし、「新フロイト派」の代表的存在とされた。せわしない日常から抜け出したい時に…セネカ「人生の短さについて」(『人生の短さについて他2篇』に所収)古代ローマの哲学者が語る人生の処方箋。多くの人が人生は短いと嘆くが、「それは時間を浪費しているせいだ」と批判したのが、古代ローマの哲学者セネカ。「人は多くの時間を退屈しのぎの娯楽や無益な仕事などで無駄遣いし、まるで時間が無尽蔵な資源であるかのように生きています。それをセネカは〈多忙〉と呼び、その真逆の時間の使い方〈閑暇〉の大切さを訴えます。閑暇とは、自分が本来なすべきことをするために、自分と向き合う時間のこと。現在という瞬間も、過去の哲人たちの叡智を学ぶために使えば何かを成し遂げることができるし、そんな人生は十分に長いと語っています」中澤 務 訳/光文社古典新訳文庫/¥990セネカ(紀元前1‐65)ストア派と呼ばれる哲学学派の重要な人物のひとりで、政治家、劇作家でもあった。古代ローマのカリグラ帝時代には財務官として活躍。ネロ皇帝の教育係だった時期も。生き方を見直したい時に…アラン『幸福論』世界中で読み継がれる三大幸福論の一つ。アランは、幸福になるのは意志の力だと考えている。「彼は、もし幸せに働きたいのであれば誰かの畑ではなく自分の畑を耕しなさい、と言います。歌を聴くのが好きなら聴くだけではなく歌ってみよう、絵を見るのが好きなら描いてみよう。つまり、幸福になるためには、傍観者を卒業しようということなんですね。人から与えられる受動的な喜びは一瞬で消えてしまうけれど、労働でも作業でも、自分で自由に取り組み、そこから学ぶのであれば、感情の一番深い部分が刺激されるし、幸福を作り出すことになる。そのための知恵が詰まった本です」神谷幹夫 訳/岩波文庫/¥1,078アラン(1868‐1951)フランスのリセ(高等中学校)で40年間哲学教師を務め、30年にわたり新聞に「プロポ(哲学断章)」を書き続けた。本書は5000にも及ぶプロポから、幸福に関する93を所収。自分を見失いそうになった時に…マーク・トウェイン『トウェイン完訳コレクション 人間とは何か』世界的文豪が匿名で遺した伝説の教え。人間は〈外部の扶(たす)け〉なしには何も生み出せないと語る〈老人〉に、〈若者〉は反発し、論戦を挑む。「老人の主張は“人間は機械だ”。誰もが生来の気質や環境、つまり外部の力に影響されて生きているのだから、何かを自分の力で成し遂げたように考えるのは思い上がりだと。逆に言えば、優位な環境や特別な才能を持たない自分を“ガチャにハズレた”ように思って自己肯定感を下げてしまう必要はないわけです。シニカルでありながら、反骨精神もある強烈なアンチテーゼが展開され、平凡な人間にとっては救いとなる言葉がたくさん」大久保 博 訳/角川文庫/¥726マーク・トウェイン(1835‐1910)フロリダで生まれ、少年時代から職を転々。1865年に『ジム・スマイリーと彼の跳び蛙』で脚光を浴びる。『トム・ソーヤーの冒険』でも知られるアメリカ文学の先駆者。失恋をして立ち直れない時に…坂口安吾「恋愛論」(『日本文化私観』に所収)恋と愛の違いを説く“精神の巨人”の名エッセイ。「恋愛論」は、恋や愛をめぐる日本語やその概念を説明しながら、恋愛の本質に迫るエッセイだ。「恋愛論とありますが、むしろ失恋した直後の慰めになる失恋論。恋愛は一時の幻影、恋愛では人は満たされない等々、恋愛の愚かさを笑うのですが、〈恋愛は、人生の花であります。いかに退屈であろうとも、この外に花はない〉と、恋愛がなければ人生自体の意味がなくなるようなものだとも書かれているんですね。人間は不条理を受け入れ、それを乗り越えることで成長し、人生の意義を見つけ出していく生きものなのだというエールに、励まされます」講談社文芸文庫/¥1,540坂口安吾(1906‐1955)小説家。第二次世界大戦前から戦後にかけて活躍。戦後の本質を鋭く洞察した随筆「堕落論」、小説「白痴」の発表により、地位と人気を確立。無頼派と呼ばれる作家のひとり。アバタローさん書評YouTuber、Book Community Liber管理人。早稲田大学文学部卒業。趣味の読書の延長で立ち上げたYouTubeチャンネルの登録者数は現在38万人超。著書に『自己肯定感を上げる OUTPUT読書術』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。※『anan』2023年9月13日号より。写真・中島慶子イラスト・倉永和恵取材、文・三浦天紗子構成・菅野知子(by anan編集部)
2023年09月08日『anan』の本を紹介するコーナーでいつもステキな新刊を紹介してくれる、ライターの瀧井朝世さん。書評や作家インタビューで引っ張りだこなので、ほかの媒体で瀧井さんの文章を読んだことのある人もいるはず。新潮社の雑誌『波』で7年にわたって連載している書評コラムが、ついに書籍化!読みたい本が連鎖していく、人気ライターの偏愛読書コラム。「私は書評家ではなくライターですので、上から薦めるのではなく、この本、面白かったよねっておしゃべりしているような雰囲気にしたいと思いました。アンアンで著者インタビューをするときは、アンアンの読者が好きそうな作品を選んだりしますが、これに関しては好き勝手にやらせていただきましたね」本書のキーワードは、タイトルにもある“偏愛”。毎回新刊を1冊ピックアップし、そこから自由に連想した好きな作品2冊とともに、合計3冊について語るのが基本形。膨大な読書量のなかから、偏愛本が芋づる式に出てくるのだが、そのテーマと取り上げる本が実に幅広く面白そうで、読書欲が大いに刺激される。「奇をてらわず、頭に浮かんだ作品を素直に挙げているだけなんです。だから自分の読書傾向が、知らず知らず出ちゃってると思います」瀧井さんが書評を執筆する際に細心の注意を払っているのは、書き手としてのスタンス。「取り上げた作品をすでに読んでいる人も、私の原稿を読むのだと意識しています。新刊本を私よりも先に読んでいる人や、より多くの本を読んでいる人が絶対にいるのだと思いながら、読んでくれる人のほうを向いて書いていますね」なかには雑誌に発表した時期からかなり時間が経っているものも。それを踏まえて、作者のその後の活躍や、作品に対する追加情報を新たに注釈で補ってくれているのも、読む人のことを考えた嬉しい心配り。「やっぱり本は無理やり読まされるよりも、自分で選んで読んだという気持ちになれたほうが、楽しめると思うんです。好きな本について語り合ったあとみたいな気分で、これをきっかけに誰かが何かの本を読んでくれたら、私にとってはそれが一番嬉しいことだと思っています」偏愛本ばかりなのに、読者に寄り添っているところはさすが。とっても信頼できる読書仲間を得たような、そばに置いておきたい一冊だ。たきい・あさよライター。数々の雑誌で作家インタビュー、書評などを担当。『王様のブランチ』ブックコーナーの出演を経て、現在はブレーンを務める。’18年2月にインタビュー集を出版予定。『偏愛読書トライアングル』2010年から現在も『波』で連載中の「サイン、コサイン、偏愛レビュー」。そのなかから56本を厳選。160冊以上の偏愛本を網羅している。新潮社1700円※『anan』2017年11月29日号より。写真・土佐麻理子(瀧井さん)水野昭子(本)インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2017年11月26日手前味噌ながら私は毎日、『Suzie』をはじめとする複数のサイトに書評を寄稿しています。1週間に10数本書いていますので、単純計算でも年間600本以上。読むことと書くことが好きだからできているわけですが、きょうはそんな私の著書『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(印南敦史著、KADOKAWA)をご紹介したいと思います。長いライター経験を軸に、「読む」「まとめる」「書く」「伝える」ことについての持論をまとめたもの。「読ませる」文章に必要な4つのポイントを引き出してみましょう。■「読ませる」文章に必要なもの1:センス文章の書き方を解説した書籍は少なくありませんが、いきなりセンスを持ち出してくる書き手は少ないかも。それどころか、冗談扱いされる危険性だってあります。しかし、「伝わる」文章を書くにあたり、センスはとても重要な意味を持ちます。エッセイであれ小説であれ、それどころか企画書などにおいても、センスは読み手を引き寄せる役割を果たすからです。そして個人的に、センスを磨くためのポイントは次の3つだと考えています。(1)読む習慣を身につける(2)他人の視点に立つ(3)好きな書き手の真似をするまずは、読むことをライフスタイル化し、次に読み手の顔をイメージし、自己満足に陥らないように注意しながら書く。ただし、その際には、好きな書き手(作家でもライターでも)の文体を真似る、ということ。そうすればやがて、真似は「オリジナリティー」へと変化していくわけです。■「読ませる」文章に必要なもの2:文法文法の重要性はいわずもがなですが、とりあえず押さえるべきポイントは2つです。まずは「てにをは」。「重み“で”つぶれる」「扉“に”触れる」「時間“を”くり上げる」「弱点“は”隠しておきたい」などの“”にあたる助詞。ここを意識するだけで、文章は引き締まります。そしてもうひとつが、「テンとマル」。どこに、いくつ「、」を打つか?文章をいつ「。」で終わらせるか?この2点が、文章にとって重要なのです。■「読ませる」文章に必要なもの3:リズムそして、「テンとマル」をうまく使うと、そこにはリズム感が生まれます。このリズム感は、スラスラと文章を読ませるための重要なファクター。(1)「Suzie」は数字の魅力をふんだんに盛り込んだサイトなので情報をさまざまな角度からインプットすることができます。(2)「Suzie」は、数字の魅力を、ふんだんに盛り込んだサイトなので、情報を、さまざまな角度から、インプットすること、ができます。(3)「Suzie」は、数字の魅力をふんだんに盛り込んだサイト。ですから情報を、さまざまな角度からインプットすることができます。たとえば上記の3つなら、(1)は息切れしそう。(2)は区切りすぎ。明らかに(3)が読みやすくリズミカルであるとは思いませんか?■「読ませる」文章に必要なもの4:簡潔さ難しい漢字や熟語を使ったり、難解な文体にしてみたり、文章は複雑になればなるほど説得力と品がなくなるもの。シンプルすぎるほど簡潔な方が、相手に伝わりやすいのです。*他にも「読む」「まとめる」「書く」「伝える」を多角的に掘り下げています。ぜひ一度、手にとってみてください。(文/印南敦史)【参考】※印南敦史(2014)『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』KADOKAWA
2015年07月17日ネットで本を購入するのは、もはや当たり前のこと。利用するときに、書評を読む人は多いのではないでしょうか。けれども、星1つと星5つが並存しているのを見かけることも多いです。個人差と言えばそれまでですが、混乱しますよね。星5つばかりでもステマではないかと不安になります。そこで今回は、参考になる書評とステマの見分け方や、どういう人が書評を書いているのかという点について、書評サイト「spiritual book」を運営しているmisaさんに教えてもらいました。――アマゾンなどのネット書店には、書評がいっぱい載っていますよね。本を買うとき参考にした方がいいのですか?「ひとつの指標としては参考になると思います。面白い本はすすめたくなるものなので、多くのレビューが投稿されていることが多いのです。けれども、レビューは個人の主観による自由な感想であって、何か基準のある中立な判定とは違うので、最後はご自分の直観で判断した方が良いと思います」――レビューのつかない本は、あまり面白くないということなのでしょうか?「あまり多くの人に読まれないジャンルの本もありますので、一概には言えません。けれども、面白くなかったり、価格の割に得られるものがなかったと感じる場合、わざわざレビューを書き込む人は少ないと思います。その意味では、少なくとも、レビュー数が多いものは、一定の支持を得ていることが多いのではないでしょうか。書評サイトについても同じことが言えます」――本によっては、賞賛と批判の両方の評価が投稿されているものもあるのですが……。「賛否が分かれやすいジャンルの本もありますね。特に、心理・哲学系などは、その傾向が強いかもしれません。ある人にとってはイマイチな本でも、別の人にとっては得がたい一行が書かれている場合もあります。多数の絶賛に対応して批評が投じられる感もあって、賞賛と批判が混在している方が多様な考えを知ることができて、興味深く思います」――ほめるレビューが並んでいても、ステマの可能性とかはないのですか?「『出版直後なのに多くの絶賛レビューが投じられている』、『レアなジャンルの本なのにレビューが数多くある』、『その絶賛の投稿以外の本にはレビューがないものが並んでいる』などは、ステマである可能性も否定しきれません」――どうすれば見分けられるのですか?「友人や知人、身内の『応援したい気持ち』と、『純粋な感想』との境目を判断するのは難しいですよね。けれども、本の実力ではない不自然なレビューが多い場合は、時間がたてば批評や反対票が投じられて、判断材料が増えてきます。発売から間もない本で疑わしいと感じるものは、当該レビューを書いている人のほかの本へのレビューを参考にしたり、絶賛票を全体から少し差し引いて考えてはどうかと思います」――misaさんは、アマゾンなどのネット書店のレビューに価値があると思いますか?「一括して複数の意見が読めるというサイトの利便性からしても、匿名で、ステマ問題も絡むとはいえ、活用する価値はあると思います。あくまでいち個人の感想だということを踏まえても、やはり、購入した読者の生の声を知ることができる利点は大きいと思います」――最後にメッセージをお願いいたします。「それぞれの経験や知識、趣味嗜好によって、『何がその人に感動や新しい知識をもたらすか?』というのは異なります。レビューだけで、本との相性はわからないかもしれません。けれども、レビューを読んで購入を迷うということは、少しは興味がある証拠でもありますよね。うまく利用して、極力トライしてみてはどうでしょうか? もしかしたら、すばらしい一行に出会えるかもしれませんよ」取材協力:書評サイト「spiritual bookスピリチュアル本」(OFFICE-SANGA 臼村さおり)【拡大画像を含む完全版はこちら】
2013年05月14日