マキノノゾミ作・演出の『東京原子核クラブ』が1月10日(日)に開幕、17日(日)まで東京・本多劇場にて上演中。その初日レポートをお届けする。’97年に初演され、今回は22年ぶりのマキノ自身による演出となる本作。物理学者・朝永振一郎博士ら実在の人物もモデルにしながら、昭和の戦前~戦後を生きる若者たちを描いた群像劇で、読売文学賞戯曲・シナリオ賞も受賞した。出演者は、主演の水田航生、大村わたる、加藤虎ノ介、平体まひろ、霧矢大夢、上川路啓志、小須田康人、石田佳央、荻野祐輔、久保田秀敏、浅野雅博、石川湖太朗 (登場順)。事前取材でもマキノが「こだわった」と明かしていたが、それぞれがハマり役だと感じる好演をみせた。舞台となるのは昭和7~21年、東京・本郷の下宿屋「平和館」。理化学研究所に勤務する物理学者・友田晋一郎が暮らすその下宿屋は、野球好きの彦次郎(小須田)と娘の桐子(平体)が切り盛りし、謎の女性・富佐子(霧矢)や新劇青年の谷川(石田)、ダンスホールのピアノ弾き・早坂(加藤)ら、どこか風変わりな住人が集っている。一幕では、彼らの暮らしが数多く描かれ、それは、友田とその同僚の武山(上川)や小森(荻野)が上司に振り回されながらも研究に打ち込む様や、富佐子の神出鬼没ぶり、桐子の独特な献立に一喜一憂する住人たちの姿、東大野球部員の橋場(大村)が住人をキャッチボールに誘う様子など、どれもささやかで、すっと流れていってしまいそうな日常だ。けれどそのどの場面でも彼らがいきいきと生きているため、鮮やかに胸に飛び込んでくる。しかし友田のモデルは物理学者・朝永振一郎博士で、昭和20年に日本に投下された原子爆弾は物理学によって生み出されたものである。そんな事実も少しずつ顔を見せながら物語は二幕へと進み、紛れ込む戦争の音が少しずつ増えていき、気付けば激動の時代に突入する。友田は原子爆弾の開発に携わり、早坂の職場であるダンスホールは国によって閉じられ、橋場には召集令状が届く。もはや市井の人々には動かせない大きな波が彼らを巻き込む。しかし、この作品で描かれるのはやはり彼らの日常で、そこではやはり、一人ひとりがいきいきと生きていた。その姿は、さまざまなどうにもならないことにまみれながら“生きる”ということに力を注がなければいけない今こそ、観てもらいたいものだと感じた。『東京原子核クラブ』は1月17日(日)まで東京・本多劇場にて上演中。ライブ配信は1月17日(日)13:00開演(アーカイブ配信は1月23日23:59まで)各チケットは発売中。文:中川實穂
2021年01月12日マキノノゾミの作・演出で’97年に初演された『東京原子核クラブ』が2021年1月に上演される。本作の演出は22年ぶりとなるマキノ、主演の水田航生、霧矢大夢に話を聞いた。本作は、実在の人物もモデルにしながら、昭和初期という時代の中で闊達に生きる若者たちを描いた群像劇。初演時には読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞した作品でもあるがマキノは「初演の時は昔の話を書いたつもりだったのに、今読むとなんとなく近未来な感じがします。もしかしたら今はもう戦後ではなく戦前なのではないかとか、似たようなことが起こりつつあるなとか感じて。だからこの戯曲はむしろ今のほうが合っている。それはいいことか悪いことかで言えば、悪いことですけどね」と語る。描かれるのは、若き原子物理学者・友田晋一郎をはじめとする風変りな住人が集う下宿屋「平和館」での、昭和7~21年の出来事。水田が「昭和のお話ではありますが、誰もが、日常の何もない“あの時”“あの瞬間”が実は美しいものだったんだってことを思える作品だと感じました」と語る作品だ。しかし、水田演じる友田のモデルは物理学者・朝永振一郎博士。まさにその時代、昭和20年に日本に投下された原子爆弾は物理学によって生み出されたもの……という現実もしっかりとある。そこについてマキノは「でも、平和館に住んでいたのがたまたまそういう人だっただけで、そのことを描きたいわけじゃないんです。描くのは、ここで生きている人たちの暮らしです。それを奪ったなにか大きなもの、そして止められなかった大きな悲劇はあるけど、この人たちは日常を誠実に生きただけ。そういうものを描きたかった」と語る。一方、霧矢が演じる「平和館」の住人・富佐子は謎に満ちた女性。霧矢は「すごく個性的で独特。初演はキムラ緑子さんが演じられた役と伺い、台本を読みながら、きっと出てくる度に強い存在感を放たれていたんだろうなと想像しました。レビューガールということで、私も歴史あるレヴュー劇団出身ですから、自分の経験を活かせるかなと思いつつ、でももっと胡散臭い雰囲気を出していくような役だと思うので、マキノさんとも相談して富佐子像をつくっていきたいです」と意気込む。マキノは「僕も富佐子は何を考えているかわからない(笑)」と笑いつつ「でもこういう人に救われる。僕用語で言えばこの作品の“エンジェル”なんです」と霧矢に期待を寄せる。水田が「マキノさんの現場はずっとポジティブな気持ちでいられる」と稽古に入るのを楽しみにする本作は、2021年1月10日(日)から17日(日)まで東京・本多劇場にて上演。チケットぴあでは11月29日(日)まで抽選先行受付中。文:中川實穂
2020年11月26日東京大学特別栄誉教授の小柴昌俊さんが11月12日、老衰のため亡くなった。94歳だった。小柴さんは観測装置「カミオカンデ」を建設し87年、同装置によって超新星爆発で放出されたニュートリノを世界で初めて検出。ニュートリノ天文学を開拓したことが讃えられ、02年にノーベル物理学賞を受賞している。さらに97年に文化勲章、03年には勲一等旭日大綬章も受賞するなど華々しい経歴を持つ小柴さん。そのいっぽうで、4歳のときに実の母親を亡くしている。「お父さんはもともと軍人で、戦後は公職追放された人だったそうです。ですから小柴さんは学生時代から1歳上のお姉さんとともに、家族の生活を支えていたそうです」(全国紙記者)そんな苦学生だった小柴さんの研究人生は、2人の恩師に支えられたものだった。「小柴さんは、65年にノーベル賞を受賞している物理学者の朝永振一郎先生を人生の師としていました。東京大学の物理学科に入った年に会いにいって意気投合。『とにかく相性が良かった』といい、朝永先生から怒られたこともなかったそうです。大学卒業時の成績は優が2つだけでしたが、小柴さんは小谷正雄先生のもと東大の助教授に。先生同士、同じ理論の仕事を一緒にしていたため『成績はダメだけど』と朝永先生が推薦してくれたのだと小柴さんは考えていました。ですから、『2人には頭が上がらない』と話していました」(前出・全国紙記者)その研究人生に重要人物がもう1人いる。それは、妻の慶子さんだ。慶子さんは03年、本誌の特集ページ「あなたへの遺言状 第21回」に登場。そして様々なエピソードを明かしている。2人が結婚したのは小柴さんが33歳のとき。慶子さんは28歳だった。「彼の生い立ちと夢が重なり合って、周りの人にはない魅力を感じたものです」「彼のほうは、私と結婚するときに『親や弟のことよりも自分自身の生活なのだ』と気持ちを切り替えて、結婚に踏み切ったようです。私のほうは、最終的には“この人を支えてあげたいなぁ”と思っての結婚でした」交際時からデートに行く機会は滅多になかった。また結婚後に即渡米。のちに現地で子育てすることになったものの、それでも小柴さんは研究に夢中。そんな様子から慶子さんは「マサトシはワイフを放ったらかし」と近所の人に心配され、「家で一緒に食事をしよう」とたびたび誘われたという。しかし病院を経営していた父のもと“お嬢様”として育てられ、世間知らずなところもあったという慶子さんは「私も大勢の人に支えられているんだなぁ」と生まれて初めて実感し嬉しかったという。「40歳くらいまでは、主人に愛されているというよりも、私が主人を支え尽くしたという気持ちが正直なところですね」とも本誌で述べていた慶子さん。いっぽう小柴さんと結婚したことで多くの縁が生まれた。そのため本誌を通して小柴さんに、こんな言葉を贈っていた。「とても感謝しています。幸せな人生でございます」周囲の助けを借りながら研究に打ち込んできた小柴さん。天国でも満足の笑顔を見せていることだろう。
2020年11月21日待ちに待った夏休み!いつもよりも親子で過ごす時間がぐっと増える夏休みに、山や海へ遠出して過ごすのも良いけれど、お家でひんやりかき氷を食べながらまったりした一時を満喫することも素敵な夏の思い出になるはず。そこでFASHION HEADLINEでは、夏休みに大人も子供も楽しめる絵本を、本を愛する書店の皆さまに聞きました!目で見て楽しめるアートブックのような絵本、思わず声に出して読みたくなる絵本、頭に残るリズミカルな絵本、じっくり読める絵本など、より感性を豊かにしてくれる個性豊かなラインアップ。連載第1回目の今回は、アート・ブックショップ「NADiff(ナディッフ)」がオススメする4冊をご紹介します。『ジャリおじさん』(大竹伸朗/発売:福音館書房)毎日海を見て暮らしていたジャリおじさんは、鼻の頭にひげが生えている。そんなジャリおじさんが、ある日突然、海に背を向けて歩き出す…。「ジャリジャリ」という挨拶、ページいっぱいのシュールな絵、そして突飛なストーリー。日本を代表する現代美術作家である大竹伸朗による絵と、リズミカルな語感。この斬新な絵本にぴったりハマれば、きっと何度も開くお気に入りの1冊に。『ジャリおじさん』大竹伸朗『ぽぱーぺぽぴぱっぷ』(絵:岡崎乾太郎 文:谷川俊太郎/発売:クレヨンハウス)「ぴぴぴー ぴぴーぷ ぷーぺー ぴぷぺぺぺ」思わず口に出して言いたくなってしまう、「ぱぴぷぺぽ」でできたふしぎな言葉たち。とっても単純だからこそ、どのように読むか、読む人の数だけ新しい音が生まれるはず。親子でも、おともだちとでも、声に出して読みたい1冊。そしてなんと言っても造形作家の岡崎乾次郎が描く、カラフルなツノの生えたふしぎな生き物がキュート。『ぽぱーぺぽぴぱっぷ』絵:岡崎乾太郎 文:谷川俊太郎『水の生きもの』(絵・文:ランバロス・ジャー 訳:市川恵里/発売:河出書房新社)なんと、インドの工房にて1冊1冊シルクスクリーンで刷られた手作りの絵本。手漉き紙から伝わる温かさには、1枚1枚ページをめくる幸せがつまっている。インド伝統の民俗絵画、ミティラー画の手法で描かれる細やかな線、次々に現れるサカナやカニたちの表情は異国情緒たっぷり。ぜひ親子で一緒にページをめくりながら読んで頂きたい作品集のような絵本である。『水の生きもの』ランバロス・ジャー(Rambharos Jha) 訳:市川恵里『ドミトリーともきんす』(高野文子/発売:中央公論社)絵本、というより漫画に近いのですが、ぜひ夏休みにおすすめしたい1冊。実在の科学者たちが、もし学生寮「ドミトリーともきんす」に住んでいたら?という架空の設定で描かれたもの。朝永振一郎、牧野富太郎、中谷宇吉郎、湯川秀樹が学生となって登場し、様々な場面で彼らの言葉や著書が紹介される。決して難解ではなく、シンプルな絵と相まって「読んでみたい」「もっと知りたい」と感じられる1冊。さらにその先に続いてゆく読書のためにも、時間に余裕のある夏休みに読んでみては。小学生以上のお子様にはもちろん、大人の方にもおすすめ。『ドミトリーともきんす』高野文子
2016年08月13日