思いがけない人間関係やエピソードが交錯していくリーダビリティの高さが、村木美涼さんの小説の魅力だ。『商店街のジャンクション』もまた、着ぐるみが媒介となって物語は意外な方向へ転がっていく。商店街で、着ぐるみでチラシ配りのアルバイトをする、男女3人の物語。主な登場人物は、IT系会社員の滝田徹、インフォメーションセンターで働く水谷佳菜、追われる身の兵頭健太という3人の男女。「『着ぐるみの中にいる時間を何よりも大事にしている男』『すべての物事を右からしか始められなくなった女』『ただひたすら面倒から逃げている男』。この先もこのままでいいのかとうっすらとした不安を抱いている彼らがどう変わっていくかが読みどころかなと。着ぐるみの名前を〈チョッキー〉にしたのは、着ぐるみの中でVサインをしているからという単純な発想からです(笑)」村木さんの作品では、「この人物には何か人に言えない秘密や悩みがあるんだな」と思わせる場面が早い段階から明示されるのだが、その具体的な中身はなかなか明かされない。だが、作中に出てきた〈偶然こそが生きている証しだ〉という意味深な言葉が、テーマをよく表している。「10年くらい前から“偶然”というものについて考えるようになりました。よく“単なる偶然”などと言いますが、思いつきでしたこと、あるいはしなかったこと。それらが巡り巡って誰かのもとに偶然として届いたときに、もしかしたら、その人の人生を大きく変えるかもしれない。そんな考えはいまもずっと続いています。それを私なりにいろいろ考えた結果が、バラバラに見える4人の男女のエピソードがつながる『窓から見える最初のもの』で、あれは言ってみれば、偶然が主人公の作品だと思うんですね。本作ではラストに置いた『00』部分で、そんな思いをよりはっきりとした言葉にすることができたかなと思っています」過去作がいずれもミステリーの文学賞を受賞していることからもわかるように、作中に謎は入っているものの着地は奇妙。だがそこが痛快だ。「作品を出すたびに『これってミステリー?』と言われます。本人はあまり気にしていなくて、どうしてもこうなってしまうからしかたがないと、最近は開き直っている部分も。これからもそうした作品をマイペースで書いていきたいです」村木美涼『商店街のジャンクション』「登場人物を自分で理解するために表には出さない短編を書くということをよくします」。「00」という章も、そんな気持ちで加えたそう。早川書房1870円むらき・みすず作家。宮城県生まれ。2017年『窓から見える最初のもの』でアガサ・クリスティー賞大賞を受賞しデビュー。‘19年『箱とキツネと、パイナップル』で新潮ミステリー大賞優秀賞。※『anan』2021年4月7日号より。写真・中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年04月05日中年男性の孤独な食生活をリアルに描いた『孤独のグルメ』(テレビ東京)が人気です。主人公・井之頭五郎が仕事の合間に立ち寄ったお店での食事風景を描いたもので、実際にあるお店が登場しているところがポイント。視聴率5%を記録していますが、『孤独のグルメ』よりも視聴率が高かった食のドラマにはどんなものがあるのでしょうか?■7位:『マイリトルシェフ』9.7%(TBS)まず、2002年7月10日から9月11日の水曜22時から放送された『マイリトルシェフ』があります。矢田亜希子主演。いまは亡き天才シェフを父に持つ彼女は、父親の夢を実現するため上京したものの、働くはずだったフレンチ・レストランが人手に渡ってしまうことに……。実力を買われてシェフになっても、食べる相手のことがわからないと料理がつくれない極度の人見知りが災いして失敗ばかり。しかし、ふとしたきっかけで料理に開眼する、という物語です。■6位:『信長のシェフ』10.1%(テレビ朝日)これは、Kis-My-Ft2玉森裕太主演。料理人ケンは、1568年の戦国時代にタイム・トリップ。自分の名前すら思い出せない状態のなか、夏という名の刀鍛冶に助けられます。料理の方法だけをおぼえていたケンは、料理を売り出して人気者に。すると、織田信長が自分の料理頭にケンを選ぶという、時代劇要素もある料理ドラマです。■5位:『新・美味しんぼ』11.7%(フジテレビ)TOKIO松岡昌宏主演。『美味しんぼ』は、深い確執をもつ親子が料理をめぐって対決する話です。東西新聞文化部の山岡士郎と栗田ゆう子は究極のメニューを、山岡の父親である海原雄山は帝都新聞と至高のメニューを取り組んでいました。このドラマでは、郷土料理をテーマに対決。対決の判定、父親の至高のメニューが勝ちます。それぞれのメニューは審査員をうならせました。しかし、山岡のメニューは大阪の食文化を伝えようとするあまり、カタログ的な印象しか与えなかったので負けてしまうのです。原作の漫画が有名もそうですが、ドラマも見ているだけで食の知識が増えます。■4位:『高校生レストラン』13.1%(日本テレビ)TOKIOの松岡昌宏主演。実際に高校生が運営しているレストラン「まごの店」をモデルに、三重県立相河高校の教員と調理クラブの部員たちが織りなすリアルドラマ。松岡が演じる主人公の村木新吾は、銀座の料亭を辞めたあと、村おこしとして企画された「高校生レストラン」の顧問となることに。トラブルを乗り越えながら、レストランを運営する、というストーリーです。■3位:『味いちもんめ 2011』13.7%(テレビ朝日)SMAP中居正広主演。主人公の伊橋悟は、味覚の鋭さは天才的だけれど、地道な努力が大嫌い。料理学校をトップの成績で卒業してからは、料亭藤村に板前見習いとして就職します。そこは封建的な世界で、自信過剰の悟は下働きの扱いに反発して他の板前たちと喧嘩が耐えません。しかし花板である熊野の料理で自分の料理の未熟さを思い知り、心を入れ替えて一流の料理人を目指そうと決意する、という物語です。■2位:『天皇の料理番』17.7%(TBS)佐藤健主演。宮内省大膳職司厨長(料理長)を務めた秋山徳蔵の青年期から主厨長になるまでを描いています。秋山の実際の経歴をもとに、細部にはフィクションを盛り込んだ構成。その展開が評価され、高視聴率を獲得しました。やや社会派なストーリーです。■1位:『連続テレビ小説 ごちそうさん』22.4%(NHK)『孤独のグルメ』の4倍も視聴率が高かったのは、『続テレビ小説 ごちそうさん』です。杏主演。料理店に生まれ、明るく活発だけれども常に食べもののことばかり考えていた主人公の西門(卯野)め以子。終戦後の大阪で子どもたちに炊き出しを振る舞うなど、精力的に働いた彼女の姿を描き、日本中を感動の渦に包み込みました。このドラマを見て号泣した視聴者は数多く、NHKの有働由美子アナウンサーは番組中に涙を流しています。「家族・食べ物・命」を描いた、素晴らしいドラマです。*今までこんなに高視聴率な食のドラマがあったなんて、意外と知られていないですよね。こうやって振り返ると、懐かしいドラマがいっぱいでまた見たくなるはず。DVDが発売とれているものばかりなので、ぜひ確認してみてください。(文/渡邉ハム太郎)
2016年01月10日