ハンドリガード(Hand-regard)とは出典 : ハンドリガード(Hand-regard)とは、自分の手をじっと眺める赤ちゃんに特有のしぐさです。regardとは英語で「~をじっと見る」という意味であり、手を見つめる赤ちゃんは、どこか神妙で不思議そうな表情をします。握りこぶしをつくった片腕を見つめるだけではなく、腕をゆらゆらと動かすのを見たり、手先をグーパーと開閉したり、胸の前に両手をもってきて指先を合わせることもハンドリガードの一種です。ハンドリガードは、赤ちゃんが自らの手を認識したときに起こるしぐさです。私たち大人にとっては、「自分に体があること」と「その体を自らの意思で動かせること」は当たり前の事実であり、普段意識することはなかなかありません。ですが、生まれたての赤ちゃんにとっては、そのような事実は新しい発見であり、不思議なことなのです。赤ちゃんはある段階で「あれ、目の前のモノが動くと、自分の体がモゾモゾするなあ」というように、手の動きと身体感覚がリンクしていることに気が付きます。その手は「自分の体の一部」であり、動かしたいように動かせるものだと次第に認識していきます。赤ちゃんと自分自身の「手」との出会いは、幼児期にかけて思い通りに体を動かしていくためのはじめの一歩であると言えるでしょう。ハンドリガードは、赤ちゃんが発達していく中でのステップのひとつであり、だいたい生後3~4ヶ月頃に見られるといわれています。ハンドリガードが見られてから数ヶ月がたち、次の発達のステップに進むと自分の手を眺めるハンドリガードのしぐさは徐々に消失していきます。ハンドリガードのしぐさは発達のしるし出典 : ハンドリガードのしぐさが出るときには赤ちゃんには「ものを見る力」と「体を動かす力」というふたつの力が身についたと考えることができます。ハンドリガードをするためには、まずは見たい対象へ焦点を合わせる目の力が必要です。新生児期の段階にも、強い光が当たると目を閉じたり、光が当たると瞳孔が縮む、などといった目の動きは見られます。ですがこの段階では見たいものに対して自らピントを合わせることはできません。だいたい生後1ヶ月には、ものをじっと見つめることができる「注視」という力が、そして2~3ヶ月頃には、ものが動いたほうへ視線を動かす「追視」という力が身につきます。目の前にある手をじっと見るためには、このように手との距離感に合わせて焦点を合わせたり、手の位置のほうへ視線を移したりするなど、いくつかの力が求められます。奈良間美保ほか/著『小児看護学概論・小児臨床看護総論』2015年/医学書院/刊生後間もなくの赤ちゃんは、私たち大人のように思った通りに体を動かすことができません。成長につれて、次第に自らの体を動かすことができるようになってきます。自ら体を動かすことを、専門用語で「随意運動」といいます。この随意運動は、脳から発せられた「動け!」という指令が神経を通って筋肉に届き、その指令にそって筋肉が反応するというメカニズムによって達成されます。つまり自分の力で体を動かせるようになることは、脳が発達し、体を動かすメカニズムが整ってきた証拠だといえるでしょう。以上で紹介したように「見たいものを目で見る力」と「体を動かす力」という二つの力が合わさったときに、ハンドリガードのしぐさが出ます。体の動きの発達ステップ - ハンドリガードが出る時期は?出典 : 私たちが普段何気なく行っている「体を動かす」ことですが、赤ちゃんは生まれた瞬間には思い通りに体を動かすことができません。思い通りに体を動かすためには、体の成長と脳の発達が必要です。生まれた瞬間には、体を動かすことのできない赤ちゃんがどのようにして体を動すことができるようになるのか、ステップごとにお伝えします。生まれたばかりの赤ちゃんは、自分の意志で思い通りに体を動かすことはできません。しかし、姿勢を保ったり危険から身を守ったりするために、体を動かします。例えば、赤ちゃんの手の平に指を乗せてみるとギュッと握り返してくれたという経験をされた方は多いのではないでしょうか。これは「把握反射」という生まれたばかりの赤ちゃんに特有の反応の一種です。このような外からの刺激に対して体が自動的に反応する動きを「原始反射」と言います。他にも、足の裏をかかとからつま先にかけてなぞると足の指を広げる「バンビスキー反射」や、体が傾いたときにバンザイをするかのように両手をあげる「モロー反射」などがあります。原始反射はしばらくすると消失してくるものです。原始反射は「脳幹」という脳の下にある部位によりコントロールされている体の動きです。やがて、月日が経って発達が進むにつれ、原始反射は必要でなくなり体を動かす役割を担うのは、「脳幹」から脳みそにある「中枢神経系」という領域へと移っていきます。つまり原始反射の消失は、脳の働きをつかさどる中枢神経系の発達が順調であるかを判断するためのごく簡単な指標となります。原始反射が徐々に消えていくとともに、赤ちゃんは少しずつ体を動かせるようになってきます。まだ自由自在に体を動かすことはできないものの、音が聞こえるほうへ首を傾けるなど、体を動かそうとする赤ちゃんの意欲がさかんに見てとれるようになります。徐々に反射が消えていく時期にハンドリガードがあらわれます。「目でみること」と「手を動かすこと」という二つの動作が合わさることで、赤ちゃんは自分の体があることを認識します。加えて自分の体があることを知って、「目」以外でも自分の体を感じようとし、こぶしを口で舐めることもあります。最初は、こぶしで握った片腕をじっと見つめているだけだった赤ちゃんはやがて、手が動くことを確かめるように腕を動かしたり、両手を胸のあたりにもってきて、組んだりする動作もします。これもハンドリガードの一種です。ハンドリガードのしぐさをするようになると、次第に腕だけではなく、手指の動きが盛んになってきます。まだ遊ぶ力はないものの、おもちゃを握らせるとしばらくの間は自分で持って、ものをもっているという実感を楽しんだりします。赤ちゃんの体の動きの発達は「体の中心から、先っぽへ」という方向性があります。これは脳の部位が発達していく順番にしたがっています。発達するサインのうちのひとつが、手先の指が動くことであると知っておくと、赤ちゃんのささいな変化にも気づくことができるかもしれません。出典 : 自分の手があることを十分に確かめると、赤ちゃんから徐々にハンドリガードのしぐさは消失します。指しゃぶりなど、体の一部を口に入れるしぐさは残ってはいるものの、赤ちゃんの興味の対象は、自らの体から周囲の環境へと移っていきます。周囲の環境とは人やモノなどです。第二期までは周りからお世話してもらうような受け身なあり方だった赤ちゃんは、少しずつ環境に対して積極的に働きかけていくようになります。このときに、ハンドリガードのしぐさの段階で身につけた「目で見る力」と「体を動かす力」が発揮されます。例えば、目に見えたものを自分の手を使ってつかもうとしたり、抱かれている大人の顔にふれようとしたりと、この時期の赤ちゃんには好奇心旺盛な様子が見られるでしょう。外界に対して自ら行動を起こして、その結果や相手の反応を楽しんでいるところですので、赤ちゃんが何か行動を起こしたときには声をかけてあげるとよいでしょう。この時期には、赤ちゃんは周囲の環境に対し興味関心をもって自ら働きかけていきます。口に入れて飲み込む恐れのあるものや、のどや目をつく危険のあるものなどは、置かないようにしましょう。ハンドリガードに関するお悩みQ&A出典 : ハンドリガードのしぐさを頻繁にする赤ちゃんもいれば、なかなかしない赤ちゃんもいます。もしかすると保護者の方が見ていないときにしていることも考えられます。しかし、ハンドリガードのしぐさが実際に見られないことで不安になっている方もおられるかもしれません。先ほどお伝えしたように、ハンドリガードは、目で体の一部である自分自身の「手」を見て、獲得した体を動かす力を使うことにより、自らの体に気付いていくサインです。例えば、ハンドリガードをしていなくても、足を見るフットリガードであったり、目で確かめながら口に手をもってきて舐めるような様子が見られるとしたら、ハンドリガードと同じような発達的な意味をもっているので安心してよいと考えられます。◇発達障害があるのかしら…という不安な気持ちをもつ方へハンドリガードを含め、一般的に対象の月齢でできるとされている何らかの動作を、自分の子どもができないときによく聞かれるのが「発達障害があるのではないか」という不安の声です。子どもがすくすくと育つことを願う保護者ならば、自然にもたれる感情かもしれません。確かに発達障害のある場合には、「●●ができるようになる」と一般的な育児書に載っている月齢や年齢になっても、その行為をすることができないことは多くあります。しかし、実際に発達障害があるかどうかは「他者とのコミュニケーションがとりにくい」「人と気持ちを交わすことが難しい」「活動の対象や興味の幅が限られるなどといった」などの発達障害の複数ある基準にどの程度該当するかにより、診断されるものです。特に、生後数ヶ月の段階では、自閉症スペクトラムなどの発達障害があるかどうかは医師でさえも、判断することが難しいとされています。生後数ヶ月の時期の赤ちゃんとかかわる周囲の大人にとって大切なことは、赤ちゃんが発達の中でどのステップにいるかを把握すること、そしてその赤ちゃんの発達を促すためにどのような支えが必要か知ることです。例えば、・上記の章で述べた「体の動きのステップ」の中で、赤ちゃんがステップにいるのかどうかを観察すること・「目でものを見ているか」「自ら体を動かすことはできているのか」とハンドリガードに必要な二つの動作をひとつひとつ観察することなど、まずは赤ちゃんの様子を観察をしてみてください。観察をして赤ちゃんができている点と発達の課題点を把握していくことが大切です。発達を促す工夫として、ひとつご紹介したい体操があります。それは赤ちゃんの感覚に刺激を与えることです。新生児期は、感覚の中でも特に触覚が研ぎ澄まされている時期です。ですので、手をさすりながら軽く引っ張ってあげて、手の感覚に外部からの刺激を与えてあげましょう。このように外から刺激を受けることにより、身体を動かしたいという気持ちが起こり、自分の体を使って主体的に試していこうとする「好奇心」や「意欲」をもつことができます。これによりハンドリガードが出るとは限りませんが、引き出された「好奇心」や「意欲」が発達を促していくことは確かであるといえます。赤ちゃんが手で顔をひっかいてしまうときには、手にミトンをはめることにより顔をひっかくのを防止することができます。しかし、「赤ちゃんにミトンをつけさせるとよくない」という噂を聞いたことがあるかもしれません。確かに赤ちゃんは周りの物や人に触れることによって行動の幅を広げていきますが、実際にはミトンをつけることが発達に悪影響を及ぼすことはほとんどありません。ミトンの着衣の良し悪しについて考えることよりも先に、なぜ赤ちゃんが顔をひっかいてしまうのか原因を把握し、顔を引っ掻かないよう対処を考えることが大切です。赤ちゃんが顔を引っ掻いてしまう原因とは何なのでしょうか。◇顔を引っかく原因って?赤ちゃんが顔をひっかいてしまう原因により、対処法は異なります。顔を引っ掻く原因として考えられるのは、ストレスや空調環境の悪さや、体の動きをコントロールできないことなどさまざまです。【ストレス】お腹がすいたことや体調の不快さなどの要求が通らないときには、赤ちゃんはストレスがたまります。そのようなときには、大人が近くにいることにより赤ちゃんの要求がなるべく通る環境を準備してあげるとよいでしょう。【体のコントロールの不十分さ】赤ちゃんのハンドリガードが出るころには、確かめるように自分の顔を触ることが増えてきます。しかし、赤ちゃんは思うように正確に体を動かすことができないので、顔に触れるときに伸びた爪で顔をひっかいてしまうことがあります。爪をこまめに切ってあげることはもちろんですが、とがった部分がないように爪を切った後にはやすりをかけてあげるとよいでしょう。【環境の温度や湿度・衣服の問題】体温があがり顔が熱くなったときには、かゆみがでることがあります。赤ちゃんの体温は周囲の環境の影響を受けやすいために、部屋の中に赤ちゃんがいるときには空調の調節に気をつかってあげるとよいでしょう。適度な温度と湿度を調整してあげるとよいでしょう。また、空調のほか、寝ているときに、厚着をしていたり、布団をたくさんかけていると体温があがり、かゆみを感じやすくなる場合があるので、着衣やかけ布団の枚数にも気を付けたいものです。着衣の目安は、だいたい大人より1枚多めくらいがよいでしょう。ハンドリガードなど赤ちゃんの発達について相談したいときは?出典 : ハンドリガードをはじめ、子どもの発達の早さや道筋は一人ひとり違います。ハンドリガードが出る出ないだけで子どもの心身の成長をはかることはできませんし、心配し過ぎて目の前の赤ちゃんの今の姿を認めてあげられなくなったらもったいないですよね。もしも不安に感じることがあれば、以下にあげる子育ての専門家に相談するとよいでしょう。乳幼児健康診査は乳児健診とも呼ばれ、母子保健法の定めにより各自治体が実施するものです。各市町村の保健センターなどで行い、赤ちゃんが順調に発達しているかどうかを確認し、病気の予防や早期発見をするための検査です。3ヶ月、6ヶ月、1歳半といった乳幼児の発達の節目に受けることができます。普段の子育てで疑問に思っていることや、なかなか話す機会がない不安などを専門家に相談できる場でもあります。乳児健診は同じ月齢の赤ちゃんを育てるほかの保護者も来ており、育児の工夫や悩みを共有したり情報交換したりできる場としても利用できます。検査を受けるには、出生届を出した自治体から送られてくる受診票の案内に従います。指定された日時に集団で受けるケースがほとんですが、事情があれば日付の変更や受診場所の変更をしてもらえることもあります。以下のサイトでは、全国の発達相談にのってくれる施設を検索することができます。全国児童発達相談所一覧|厚生労働省行政や自治体が主体となって運営している施設です。子育ての不安・悩みに対し専門的なアドバイスをしてくれる保健師が在籍または巡回しています。日時によっては乳幼児の発達相談を無料で行っています。地域の母子向けに子育てサロンを開催や発達に合わせたセミナーを主催していることもあり、気軽に利用できます。育児の相談、健康の相談、発達の相談など、0~17歳の児童を対象としたさまざまな相談を受け付けています。必要に応じて発達検査を行う場合もあり、無料で医師や保健師、理学療法士などからの支援やアドバイスをもらうことができます。基本的に予約制なので、あらかじめお住まいの市町村のHPなどを見て、スケジュールを確認するようにしましょう。発達相談に関する検索サイト|国立障害者リハビリセンター小児科は病気の診断、治療だけではなく乳幼児の発達に関する悩みごとの相談にも乗ってくれます。予防接種などで主治医を訪れるついでなどがあれば、日ごろの発達の悩みを聞いてもらうのもよいでしょう。日常気がかりなことを事前にメモをしておくと、医師の前でスムーズに状況を説明することができます。小児科の中には、ゆっくりと保護者自身の子育ての悩みをカウンセリングしてくれる「相談外来」を設置している所もあります。時間が限定的で要予約の場合は事前に連絡をしましょう。まとめ出典 : この記事では、ハンドリガードと発達の関係からハンドリガードに関する悩みや、赤ちゃんの発達の相談先などについて解説しました。ハンドリガードを含め、自分の体に気付いていくという瞬間は、赤ちゃんが発達していくときにひとつのステップです。目で見ることと、体を動かすことができると知った赤ちゃんは、やがてその体をめいっぱい使って、周囲の環境に働きかけていきます。ハンドリガードをして、周囲の世界へと好奇心が広がってきたときには声かけをしてあげたり、ボールやおもちゃなどを赤ちゃんの近くに置いたりすることによって、より赤ちゃんの好奇心を広げるように環境をつくっていくとよいでしょう。参考:白石正久/著『発達の扉(上)』1994年/かもがわ出版/刊参考:重度精神遅滞児にみられるハンドリガードの発達的意味|神園幸郎
2017年02月22日