連載小説「眠らない女神たち」 第一話『チョコレートの魔法』(後編)
照れ笑いを浮かべながら二人によく見えるようお弁当を傾ける。こんなことならゆで卵も飾り切りにすれば良かった。そんな時間も気力もないけど。
「水川さんって器用っすよねー」
しばらくビーグル犬を見ていた古賀さんが感心したように言った。私は首をかしげるしか出来ない。
「分かるー。まめっていうか、ね」
松岡さんと古賀さんがきゃっきゃと褒めてくるのを、曖昧に笑って受け流す。二人は構わず続けた。
「お弁当だけじゃなくって、普段もそうじゃないですかー」
「なんか、ちゃんと見ててくれてるっていうか…」
「私みたいな下っ端にもいつも「分からないことない?」て聞いてくれるしぃ」
「添付されてるグラフもいつも超キレイだし」
「魔法使いみたいなんすよ」
「そうそう、いつも先を先をって、ね」
「本当にまめっすよねぇ」
「まめって褒め言葉かな?」
「じゃ、なんて言うの?」
「気が利く、とか?」
「それ、ちょっと上から目線じゃね?」
二人の会話が私から移った後も、私はぼおっとビーグル犬を見つめていた。私は特に意識もせずやっていたことが魔法のように見えていたことが恥ずかしくもあったし、素直に嬉しくもあった。