連載小説「眠らない女神たち」 第一話『チョコレートの魔法』(後編)
いつか退職した女性社員がくれたハート型の大きめの付箋にメッセージを書く。
こんなことがなんになる?と思う。何も変わらないか悪化するかもしれない。こんなことをしても隙のないアイラインも腕まくりしたシャツもタイトスカートも苦手なままだろうし、リバティ柄のマグカップを買おうとも思わないだろう。それでもやってみたいのだ。
小さなチョコレート詰め合わせを、まだランチから戻っていない美月のデスクに置いた。
美月が戻ってくるまで何度も回収しようとした。その度に私は古賀さんと松岡さんの会話と、太田さんのにっこりを思い返した。
午後になっても美月からのリアクションはなかった。けれど彼女が誰かに八つ当たりすることもなかった。
午後3時をまわり、ウォーターサーバーからお湯を入れるためにマイボトルを持って席を立つ。朝よりも疲れていた。仕事だけに集中すればいいものを、私は余計なことをしでかしたのだ。お湯を注ぎながらため息をつく。
マイボトルをデスクに置くと、ハート型の付箋がパソコンのキーボードに貼り付けてあるのに気がついた。
美月に突き返された!心臓がひゅっと小さくなった。
ああ、それならチョコと紅茶も返してくれればいいのに。