連載小説「眠らない女神たち」 第二話 『多面的トレード』(後編)
デスクに戻り、パソコンの電源を落とす。スリッパからパンプスに履き替えた。
「じゃあ、お先に失礼します」
丁寧にお辞儀をすると、市村さんもキレイに体身体を折りたたんでお辞儀をした。
「お疲れ様でぃす」
眠そうな顔でへらりと笑う。私もへらりと笑ってみせた。
あまりうまくは出来なかったけれど、それでも彼女は満足そうに笑っていた。
会社を出て駅に向かう。久しぶりにこんな時間に歩いた。
普段はもっと遅い。コツコツと響くパンプスの音も、今夜は他の雑踏に紛れていた。
「今日はコンビニに寄って帰るよぉ」
私は市村さんを真似た独り言を呟いた。
自宅の最寄り駅のそば、利用客の多いコンビニに寄るのだ。そしてスイーツを買って、家で食べる。2つくらい買ってしまおうか。翌朝の朝食にパンを買ってもいいな。いいんだ、誰も見ていないもの。
明日、市村さんにたくさんの点数シールをあげたら、また「うひょー」と言うに違いない。
それを聞いて明日の私はへらりと笑ってみせるのだ。
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指原莉乃「数年後の自分に、ちょっとでも感謝してもらえるような行動をしようと常に心がけています」