尾木ママが語る「子どもを学校に行かせたらいけないとき」の続きです
「日本の教育レベルは、もはや世界レベルにはないんです」と語る尾木ママ
“尾木ママ”の愛称で知られる、
尾木直樹さんが、
『取り残される日本の教育 わが子のために親が知っておくべきこと』という本を出版しました。
尾木ママは、この本の中で、「親御さんご自身が、『いま、
世界の教育はどうなっているのだろうか?』という視点を持ってほしい」と力説します。
■高校入試をしているのは、日本だけ
―― 「世界の教育状況の把握」と言われても、日々の生活に追われて、ピンときませんが…。
毎日の生活をまわしていかなければいけないママたちの、そういう感覚も、もちろんわかります。
でも、だからこそ、今回出版させていただいた本を読んで、「そういうことを考えてみる時間」を、少しでも持ってほしいと思います。
先進国の中で、一斉指導(※1)をメインに実施しているのは、日本くらいです。いま、世界の多くの国が、一人ひとりの子どもに合った、
「個別教育」をする時代に入っています。
「日本の教育体制の遅れ」が如実に出ているのが、「アジア大学ランキング 2016」(※2)。
東京大学は首位陥落という事態に陥っています。
東京大学は、アジアでは調査開始以来3年連続首位をキープしていたけど、2016年度には7位。これは、ものすごい衝撃的な話。世界的にみて「日本の教育への評価」は、急降下しているんです。
※1 日本の小学校、中学校では最もポピュラーな授業の形態。 教師が一人で、大勢の児童・生徒に対して授業をするというもの。
※2 アジア大学ランキング(英タイムズ・ハイアー・エデュケーション(THE)発表)
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―― 御著書では、「親が意識を変えていかなければ!」と、強くおっしゃっています。
高校入試をやっているのは、世界的にみてもじつはめずらしいのです。
大学入試すらない国も多くあります 。
高校入試の何が問題かというと、高校入試をすると、
高校をランキングしてしまうことになります。ランキングが30段階あれば、1位の学校がある一方で、30位の学校もできてしまう。学校が序列化されることで格差が生まれてくるんです。
本にも書きましたが、オランダでは、高校卒業資格を取得していれば、どの大学にも入れる仕組みになっています。たとえば医学部の入学試験も抽選だそう。それでも医療の質は高いといわれています。
■日本の小中学校に「留年」がない理由
尾木ママは、「『日本の学力の定義は、間違っている』」と、世界から警告されているということを親御さんは知って欲しい」と語ります
―― どうしてほかの国では入試がなくても問題ないのでしょうか?
他国では、「高校の卒業証書がある」ということは、
「高校卒業程度の学力をしっかり保証しますよ」という意味なんです。
義務教育で留年をさせたら、国家としてお金がかかります。けれどもほかの国では、「留年させてでも、これだけの力はつけさせますよ」と、
国が責任を持って教育を保障しようというのが常識なんです。
―― 日本では“わが子が落ちこぼれないように”と親が必死になりますが、ほかの国では異なるんですね。
日本の小中学校は学年制で事実上留年がなく、学力や生活能力が基準に満たなかったとしても、とりあえず進級や卒業を許可してしまいます。
でも、理解できない子にはわかるまで教えるのが本来の教育であり、国の役割です。
さらに、今の日本の状況では、「留年すること」=「落ちこぼれ」のレッテルを貼ることにもつながりかねず、このことがいじめや不登校の原因になってしまうおそれもあります。
こういう、教育の責任は家庭や子どもにあるという考え方自体、本当は間違っているんです。親御さんには、このことをきちんと認識していただき、もっと
国が教育に力を入れていくべきということにも声を上げてほしいと思います。
■「教育」の定義がガラリと変わる!
―― そんな状況の中、子育て最前線にいる日本のママたちはどうしたら良いんでしょうか?
まずは、いま、世界的にみると
「教育」に対しての定義が変わってきているという状況を知ることですね。その国の教育水準を測る目安になる国際的な学力調査(※3)があるのですが、2018年から新たな内容が加わります。知識・情報を
活用する力や、広い視野で物事を
分析する力、多様性を認めて
他人と協力し合う力、
柔軟な対応能力などが重視されていく予定です。
日本の場合、「学力が高い」というと、「どれだけ知識をインプットして、それをどれだけ正しくアウトプットできるか?」というイメージが強い。もちろん、それも大事な力です。でも、国際的な視点で考えてみると、今後子どもたちが社会を生き抜く中で求められるのはまったく違う力になってきているんです。ママたちは、そういう状況を知ることから始めましょう。
日本の教育も変わろうとしています。
わかりやすい例でいえば、2020年の大学入試の
「センター試験廃止」。県立の高校入試問題でも、すでに問題の傾向が昨年から変わってきています。
※3 経済協力開発機構(OECD)が実施した学習到達度調査(PISA=ピザ)
―― 今後は、入試問題でどういったことを問われるようになっているのですか?
たとえば、ある課題を出されます。そして、「この課題を、友だち3人で解決するためにどうすればいいのでしょうか?」という問題が出るわけです。
■「キー・コンピテンシー」というキーワード
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―― 「私自身が受けてきた教育」とは違いすぎて、理解が難しいです…。
たしかに、
ママ世代が受けてきた教育とはまったく別物なので、伝わりづらい感覚だと思います。人は、どうしても「自分が経験したこと」をベースに物事を考えてしまいますからね。
ですから、今日は、これからの教育を理解するためのキーワードを、ひとつお伝えしましょう。
それは、
「キー・コンピテンシー」です。
―― 「キー・コンピテンシー」って、何ですか?
言葉にして説明するなら、「状況を分析し、他人に論理的に説明し、情報を批判的に捉える能力、さまざまな分野の知識をつなぎ合わせて、問題解決に導いていく能力」です。
いままでの、「テストで簡単に測れる能力」は、どんどん必要なくなっていくんです。もっと詳しい説明は、ぜひ、僕の本を読んでくださいね(笑)!
つまり、わが子を
「指示待ち人間でない大人」にするために、何が必要か? という話です。答えがひとつではないことにどう対応していけるか、どう状況を切り開いていくか、どう問題解決していけるか? そこが問われていくことになるんです。
わが子を「指示待ち人間でない大人」にするために、何が必要なのか? そのためには、これからの入試で問われることを知ることから始める必要があるようです。
次回は、尾木ママが語る
「親は『アクティブ・ラーニング』を勘違いしている」です。
この記事は2017年2月の取材に基づいて書いています。
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