“母は助けてくれてあたり前”と信じてた『さよならわたしのおかあさん』(前編)



■母との別れは、生のままの傷が残っていてほしい

――おかあさんが亡くなってから、どれくらいで気持ちに区切りがつきましたか。
娘が生まれたその年の秋、母は旅立った。『さよならわたしのおかあさん』より

『さよならわたしのおかあさん』より


まずお葬式が終わったときに、おかあさんとの間にある扉が閉まった感じはしました。

さらに、亡くなってから1年くらいしてから、母の地元の大分県に分骨に行ったのですが、その道中が家族旅行みたいで。母はいないけど、家族としての形をなんとか保っていけると感じられて、少し気持ちに区切りがついたように思います。

あと、私にとっては『さよならわたしのおかあさん』を描いたことがすごく大きかったですね。

――読者からの反応はどうでしたか。

同じ経験をした方から、「同じような気持ちだった」、「書いてもらえてよかった」と言ってもらえることがあって、描いてよかったなと思いましたね。


あとは、「この本を読んで、今日母親に電話しました」とか、「先延ばしにしていた帰省を来月に決めました」というような声もいただいて、描くのはやっぱりしんどかったけどやってよかったなと感じています。

――母親の死をどうやって乗り越えればいいか、少しでも気持ちが楽になる方法はないでしょうか。

漫画を描くまでは、おかあさんにまつわるさまざまな事柄がそれぞれバラバラに自分の中にありました。しかし思い返してみると、すべてにつながりがあるのだと見えてきたんです。

母が亡くなったあとは、悲しいシーンばかり思い出しがちでしたが、つなげて考えるとその間に笑えることや楽しいこともあったなと。起きた出来事を書き出して時系列順に並べてみると、気づくことがあるんじゃないかと思います。

――今でもつらいときもありますか。

すごくしんどい時は、今も「おかあさんがいない」って泣いてしまいますね。
けどそれって頻度が減っていくだけで、多分これからもずっとそうなるときはあるんだろうなって。

そこは別に整頓しないで、いつまでも泣ける自分でありたいし、忘れずにいたいですね。生活の中では落ち着いて整頓はされているけれど、おかあさんとは遠く離れたくないし、生のままの傷が残っていてほしいって思っています。



■母から見た子ども、子どもから見た母親像とは

インタビューでは、吉川さんのおかあさんへの深い愛情が伝わってきました。そして、自分自身のつらい経験を漫画という媒体をとおして伝えてくれた思いを、ママという立場だからより強く共感することも多々あるように思います。

本書での最期までほとんど弱音を吐かず、娘を支えた「おかあさん」の姿には、母親のあり方とは何か考えさせられるものがありました。その一方で子どもから見た母親像というものも強く印象付けられ、自分と母との関係、そして自分と子どもとの関係について深く思いを馳せる良い機会にもなりえると感じました。

「どんな最期だとしても、何も後悔が残らないことはない」という吉川さんのメッセージには、経験した人だからこそわかる言葉の重みがあります。


家族とのつらい別れは、避けたくてもきっといつか必ずだれにも訪れますが、そのとき少しでも自分の心を楽にできるようなエッセンスが、吉川さんの漫画にはところどころに散りばめられていました。

次回は、現在の娘さんとの生活、これからの親子関係について、引き続き吉川さんにお話をお伺いします。

■今回のお話を伺った吉川景都さんのご著書
『さよならわたしのおかあさん』
『さよならわたしのおかあさん』吉川景都
(吉川景都/新潮社 ¥1,080(税込))

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