2019年5月12日の母の日。ワーキングマザーを目指す人のためのトークイベント「ファッション業界の働き方~ママ編~」が開催されました。
場所は、ママの毎日をファッションで元気づけてくれる「株式会社ワールド」の、北青山ビル。主催は、装いに関するトピックスを語る「装談」を企画運営するファッションスタディーズです。
今回、ゲストとして登壇したのは、ファッションテックデザイナーのOlgaさん、株式会社Waris共同代表でキャリアコンサルタントの田中美和さん、明治大学商学部教授で「ワンオペ育児」という言葉を世に広めた藤田 結子さん、株式会社ワールド社員で1児のママの石川さん。
プレママ、ママ起業家、ママ研究者、ワンオペママと、それぞれがそれぞれの立場で「働きながらの子育て」について語りました。
ファッションテックデザイナーのOlgaさん
Olgaさん:これまでファッションとテクノロジーの架け橋として、さまざまなプロジェクトに関わってきましたが、実際に自分が妊婦になったときに「母親になった自分はどこまでできるんだろう?」と疑問がわいてきたんです。そこで仕事では「固定観念を壊すこと、イノベーションを起こすこと」をメインに取り組んできたので、プライベートでも「よし! 最強のマタニティライフを送ってみよう」と思ったんです。今回は、先輩ママたちにいろいろお聞きできればと。
田中さん:私は日経ウーマンなどで11年記者を経験し、フリーランスになり、その後、プロとして自由に働きたい個人と、多様な人材の力を活かしたい企業をサポートするサービスを展開する株式会社Warisを立ち上げました。女性が働き続けることが難しいという現実がある中で、メディアは伝えることができるけれど、解決がメインではないと感じて、課題解決を仕事にしたいと思ったんです。現在は、フリーランス女性と企業のマッチングサービスや再就職支援サービスをメインに12,000名ほどの登録があり、そのうちの70%が子どもがいる女性です。実生活では、1才2ヶ月の子どもがいます。
藤田さん:私は、海外でフィールドワークをするような研究、調査をずっとしていたんです。
出産後に海外に長期間調査に行くことが難しくなってしまいました。そんな中、働く女性たちを調査することがあったんですが、その調査を通して、日本の実際の状況が見えてきて。ここ5年ほどは、国内のワーキングマザーにフィールドを絞って研究調査をしています。リアルな生活では、我が家も一時期、夫が単身赴任でワンオペ育児でしたね。
石川さん:私は、株式会社ワールドで勤続20年以上になります。5年前に息子を出産し、復帰して4年。高齢出産、ワンオペ育児で、いまだに日々、必死です(笑)。
令和になっても働く女たちは自由になれない?
Olgaさん:私は、常々「女たちよ自由であれ」と思っているのですが、日本の企業で働くという形態を取っていると、妊娠、出産、子育ての流れで、なかなかそれが実現しないように見えます。
実際、会社員の女性は、どのような感じなのでしょう?
石川さん:ファッション業界といっても領域が広いので一概には言えませんが、弊社に絞って言えば、本部で働く人と店舗で働く人でも、働き方が異なってきます。ただ、全社員、一日につきマックス2時間まで時短が取れる制度があります。小学校卒業するまで取得可能です。
明治大学商学部教授、藤田 結子さん
藤田さん:時短制度があることは、働く人々にとっていいことだと思うんですが…日本には、性別役割分業意識がまだまだ強く残っていて、調査によると
日本の男性の家事育児時間は1時間程度なんです。そして
家事育児時間0分というパパも7-8割なんです。長時間労働問題解決はもちろんしないとなのですが、
家事育児は自分の仕事ではないと思っている男性がいるということなんです。意識を変えていかないと難しい。
田中さん:今もそうですが、これからはもっともっと
働く時間と場所の自由度を高めることが大切になってくると思います。
フレックスでリモートワークならば、育児であれ、介護であれ、ケアしなければならないことと仕事との両立がしやすくなる。ただ、ここで注意しなければならないのは、組織でそのような制度を取り入れるときに、
育児中の女性だけに限定せず、誰でも使えるようにしておくことが重要ですね。私の会社では、時短勤務は男性が利用しています。その理由は出産、介護ではなく、副業をしたいと。
Olgaさん:「女性だけの問題のための制度」ではなく、「みんなのための制度」だよという視点が大事になってくるということですよね。
藤田さん:あとは、家事のマネージメントを女性が担っていることが多い現状も変えたほうがいいですね。家事をアウトソーシング化していくことも大事だけれど、まだまだ家事のマネージメントは、女性がやっていることが多い。
男性は仕事ではマネージメントスキルを発揮するにに、家ではしない。男性の意識が変わらないと、欧米並みに女性の管理職は増えないんじゃないかなと思います。
石川さん:あと…妊娠出産に関しては、実際に経験しないと肌感覚でわからないこともたくさんありますよね。私は、39才で出産したんですけれど、毎日、身体がしんどいです(笑)。出産前は、自分の身体をしっかり調べたことなかったし、ケアしていなかったんです。それを猛烈に反省しましたね。産んだ後。
Olgaさん:私も、独身時に婦人科検診に行けばOKと思っていた自分を殴りたい(笑)。これからワーママを目指すのであれば、キャリア形成を考える上でも、自分が妊娠できるか、出産できるか、子育て環境を作れるかということを無視してはならないと思ったんですよ。
女性が抱える困難さは出産時だけじゃない
株式会社ワールド社員で1児のママの石川さん
石川さん:私は、出産後の半年間記憶がほとんどないんですよ。診断されたわけではないけれど
産後うつ、そして産後クライシスを感じました。
Olgaさん:産後クライシスって何ですか?
藤田さん:出産前仲良かった
夫婦に産後、危機が訪れることを指します。女性ホルモンの問題や、育児に対する夫とのズレが影響していると言われています。
里帰り出産の仕組みも影響があると思ってまして…出産後の大変なときを夫と一緒に過ごさないので「どうしてわかってくれないの?」と意識のズレが生じるんですよ。フランスなどは、パパも育休を取って、
一緒に親になる期間を持つので、そのようなズレが生じにくいんですけれど、日本は、実家に帰ってしまうので、ホルモンだけでなく、文化的、社会的な状況が影響しているのでは?とみられています。
田中さん:私も石川さんと同じく39才で出産したんですけれど、産後はすごく気持ちが落ち込んだりしました。生後2ヶ月から子どもを預け始め、生後3ヶ月から働き始めたんですけれど、仕事ができることには喜びがあっても、出産後、
女性はさまざまな罪悪感を抱えがちだということを痛感しましたね。
「母乳で育てたほうがいいのかな?」、「保育園に早くから預けるなんていけないのかしら?」とか。頭ではわかっていても、いざ、自分のこととなると、母とはこうあるべきという思い込みが根強くあることを感じます。それをどう手放していくか。いろいろなロールモデルを知ることは重要かなという感じがしています。
これまでの固定観念を手放す!
田中さん:出産、子育てをしていると、自分が育ってきた環境からの影響もあるし、まだまだ固定観念が根強くあるんだなと思いますね。
Olgaさん:「母とは女とはこうあるべき」を自分もまわりも手放すことが求められているのかもしれないですね。私自身、固定観念を手放すことをしなければと思っているんですけれど。
石川さん:私は「子どもができて以降のこと」を出産前までは考えたことがなかったんです。今は、働き方も自分で選べるようになっているし、企業も働き方の改革を進めてはいます。でも、パートナーとどのように子育てをしながら仕事を続けていくかというところまでイメージする機会が、なかなかないんじゃないでしょうかね。経験者の話を聞いたり、会社の先輩から聞いたり、実際の話を聞くのがいいのかな、と思います。
藤田さん:地方自治体などでワンオペ育児に関する講演をすることが多いんですけれど、悩みを聞くと「なかなか夫が家事育児をやってくれない」とか「自分が希望するほどやってくれない」という悩みが多いんです。出産前…もしかしたら結婚をする前に、
家庭を共同経営できるかどうか、お互い希望するライフプランは合っているのか?を考えたほうがいいかもしれないですね。
Olgaさん:家庭を共同経営! その視点、いいですね!
株式会社Warisの田中美和さん
田中さん:弊社では、フリーランスのマッチングサービスを行っていますが、よくあるのが
「女性が時短を選ぶと、育児も家事も女性によってきちゃう問題」です。女性の側が家事負担を夫に言わないからという原因もあるんですけれど、女性には女性の言わない理由もあるんですよね。夫のほうが稼いでいるとか、自分は時短を利用しているとか。それに罪悪感を抱えて言わなかったりする。それで結局、家事も育児も女性負担が多くなってしまうという…。
Olgaさん:田中さんはご家庭でどうしていますか?
田中さん:夫と話すときは、今から話す内容は、共感を求めているのか、解決を求めているのか。
対話の目的を言ってから伝えるようにしています。解決を求めているときは「家事代行、夫、私の三人でどのように家事をワークするか?」などを話しますね。
Olgaさん:同じ経営理念を夫婦で持てるかどうかも大切ってことですね。
トークセッションが盛り上がってきたところで残り時間もあと少しとなり、参加者たちから登壇者への質問タイムへと移行しました。
育児と仕事の両立について…の疑問
参加者:子どもが欲しいけれど、仕事もしたくて、折り合いがつかないでいます。折り合いはどうつけるといいのでしょう?
Olgaさん:シミュレーションするのがいいと思いますね。タイムラインを引いてみる。シミュレーションしてみて何が不安なのか見えてくることがあると思います。
藤田さん:妊娠って、個人差が大きいもの。不妊治療も5組に1組が取り組む時代といわれています。そして、不妊治療は、出産だけがゴールじゃないということも知っておくといいかもしれないですね。
石川さん 子どもを産める時期って、自分で決められない。だから、乱暴かもしれないけれど、できたときに考えるのがいいというのが経験者からのアドバイスでしょうか。
産後の社会復帰をするタイミングついて…の疑問
参加者:産後の社会復帰をするタイミングは、どのようにして決めたのでしょう?また復帰するためにしていた準備はありますか?
田中さん:フリーランス協会で調査したところ、生後一ヵ月以内に職場復帰した女性フリーランスは、4割いました。私自身は、自分がやってみて、早めに復帰してよかったと思っています。ただ、産後6-8週間は産褥期。体を休めた方がいいですね。早めに復帰する利点は、夫との「子育て体制」の構築が早い時期にできることでしょうか。
藤田さん 出産と同じで、復帰の時期を個人で決められない部分もあると思います。「保育園に入れない問題」です。預け先がなければ、働けないですから。
石川さん:そうですね。実際には、保育園のタイミングが一番の目安になると思います。私は、認可外に入れて復帰したけれど、産後の子育てサポートがどれぐらい受けられるか?を確認しておくのも、産後復帰の時期を決めるときのポイントになるかもしれません。
「待たない」を決める!
Olgaさん今日、みなさんとお話をしてみて、参加者の方からの質問も聞いて、ますます
自分で変えていかなければと思いましたね。待っていてはダメ。行政もパートナーも会社も自分の働き方も、全部、待っていては子どもが大きくなっちゃう(笑)。なので、今日のまとめは、「待たない」です!
プレママ、ママ起業家、ママ研究者、ワンオペママ、それぞれのワーママ観がユニークに語られた今回。
働き方を柔軟に変えながら、パートナーと対話をしながら、少しずつ進む。
固定観念を手放すことがまずははじめの一歩になりそうです。
ファッションスタディーズでは、今後もいろいろなテーマでイベントを開催予定です!
「泣きのアピール」あきばさやかの「笑うしかない育児」Vol.40 | HugMug