絶えず論争の的になるベビーカーや子連れでの乗車トラブル。
ネット上では、電車内での子どもの泣き声やベビーカーへのネガティブな意見を目にすることも多く、本来は誰でも利用してもいいはずの公共の交通機関でさえ周囲の視線や言葉にビクビクしながら、子連れでの電車移動を余儀なくされてしまうという現実があります。
そんななか、東京都交通局は小さなお子様連れのママ・パパが安心して電車を利用できるよう都営大江戸線において「子育て応援スペース」を試験的に設置。
都営大江戸線「子育て応援スペース」6号車。鮮やかなトーマスと仲間たちの装飾があしらわれている。
新型車両3編成の3号車及び6号車のフリースペースに人気キャラクター
「きかんしゃトーマスとなかまたち」の装飾を施し、子連れでも気兼ねなく電車内で過ごせる空間作りを行っています。
“泣いている赤ちゃんを温かく見守り、子育てしやすい環境を目指す”という
「WEラブ赤ちゃんプロジェクト」を展開しているウーマンエキサイトとしては、今回の取り組みに深く共感を覚え、施策の詳細を探るべくプロジェクトの現場で指揮をとった東京都交通局 電車部の大塚さんにインタビューを敢行。
「子育て応援スペース」設置に至った経緯や本来の目的、今後の見通しについてお話をお伺いしました。
東京都交通局 電車部 鉄軌道事業企画専門課長 大塚 淳さん
■子育てと社会の共存を考える第一歩として
ーー今回の「子育て応援スペース」の設置は、子育て中のママ・パパたちがまさに待ちわびていた子育て支援の一つかと思うのですが、どのような経緯で実現に至ったのでしょうか?
大塚さん(以下、大塚):そもそもは東京都の働き方改革の一環として、
女性たちが働きやすい環境を作るための施策の一つとして打ち出したものです。企業によっては、企業内保育所を設置して女性の働きやすさを支援するなかで、交通局として何かできないだろうかという話になりました。
そのなかで子連れでも安心して電車に乗れるスペースを設置するということが、交通局の取り組みの一つとしてできることではないかという意見があがり、やってみようとなったのがきっかけでした。
小池百合子知事も視察に訪れた。親子に感想を聞く場面も。
ーー実際にプロジェクトとして動き出してみて、苦労された点などはありましたか?
大塚:やはり、お子様連れの電車移動にまつわる
賛否のご意見をさまざまいただいたということですね。両方の声が寄せられるだろうことは我々も想定していましたが、賛成・反対それぞれ半々くらいだったと思います。
今回は、お子様連れに対して「優先」とか「専用」という言葉は使っていなくて、あくまで
子育てと社会が共存できるきっかけとして色々考えてもらおうという第一歩としての取り組みです。
そういったなかで、具体的にどういったもので「子育て応援スペース」という空間を表現するかという装飾を含め、両者の声をどのようにうまく交えてやっていくかを考える必要もありました。
さらに設置までの期間を夏休みまでを目安に考えていたこともあり、時間がなかったことは、最も苦労した点です。「子育て応援スペース」の話が出てから実際の設置までの期間は実質半年ほどでしたから、その間にトーマスのキャラクターを使用するにあたって、イギリスの版元に絵柄や色などの細かい確認をしてもらわなければならず、時間的な制約はすごくありましたね。
3号車。6号車とはデザインが異なり、おなじみのキャラクターが大きく描かれている。
■双方が気遣い・思いやりを持てる社会を目指して
ーー先ほどのお話のなかで賛否の意見がたくさん寄せられたという話題がありましたが、それでもこの施策に踏み切られた理由が何かおありだったのでしょうか?
大塚:もともと初めから全ての方に賛同してもらうこと自体、難しいと考えていました。ただ、そういったさまざまな声をいただくというのが今回の趣旨でもあり、「賛成の声も反対の声もいろいろ聞きましょう」といった想いも含まれています。
逆に反対の意見をもらって、盛り上がるのもいいのではないでしょうか? 社会全体で考えるきっかけにもなると思いますので…。
ーー今回の取り組みに関しては、お子様連れに対して「優先」「専用」という言葉は使っていないということですが、あくまでお年寄りや車椅子の方、一般のお客様とも共存するスペースということなのでしょうか?
大塚:はい、その通りです。一般のお客様が、たまたま小さいお子様連れの方と乗り合わせて、お子様が泣いてしまった時には、「子育て応援スペース」というものがあるんだということをまずは知っていただくことから始めようといったものです。
逆に小さなお子様連れの方にはそういうスペースがあることを知り、利用していただきたいのですが、だからといって騒いでいいということではなく、お互いがうまく共存できるよう考えるきっかけにしていただきたいですね。