連載記事:“折れない心”の育て方

「どうせムリ…」あきらめがちな子どもが陥っている悪循環とは【“折れない心”の育て方 第1回】

“折れない心”の育て方

“折れない心”の育て方

「一度落ち込むと立ち直れない」「失敗することを怖がる」、そんな子には「折れない心」(レジリエンス)を育んであげると大きな支えとなるかもしれません。家庭でできる「レジリエンスの育て方」をご紹介します。

「どうせムリ…」あきらめがちな子どもが陥っている悪循環とは

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「一度落ち込むと、なかなか立ち直れない」「失敗することを、極度に怖がる」…。そんな子には、「レジリエンスの力」をつけてあげると、大きな支えとなるかもしれません。

レジリエンスとは、英語で「回復力」や「弾力性」を意味する言葉です。専門に研究されている東京学芸大学教授の藤野博先生にお話しを伺ってきました。

藤野博(ふじの ひろし)先生
東京学芸大学教職大学院教授 博士(教育学) 子どものレジリエンスを育てる研究をしている。専門はコミュニケーション障害学、臨床発達心理学。とくに発達障害の子のコミュニケーションやソーシャルスキルにくわしい。言語聴覚士、臨床発達心理士スーパーバイザー。
特別支援教育士スーパーバイザー。


■心が「強い」のではなく「しなやか」

レジリエンスとは、心が「強い」のではなく「しなやか」

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レジリエンスという言葉は、聞いたことがありますか?

レジリエンスのイメージを一言で言い表すと、「風にそよぐ柳の木」。鉄塔のような、けっして折れない強い心ではなく、ときには折れたり曲がったりするけれど、また立ち直る心。レジリエンスとは、そんな心のありようのことをいいます。

ポイントは、心が折れてしまうことを否定していないこと。社会で生きていけば、困難なことは必ずあります。傷つき落ち込む出来事だって、あるでしょう。だったら傷つくことを避けるより、落ち込んでも立ち直る力がある方が現実的に考えて楽なんです。

「どうせムリ…」あきらめがちな子どもが陥っている悪循環とは【“折れない心”の育て方 第1回】

■「折れない心」を持っている人は、どんな人?

「レジリエンスの研究は、『レジリエンスがある人とは、どんな人なのか?』を探る形で進められてきました。その結果、次の3つの要素があることあきらかになってきました。これらを日常の生活の中で、少し意識してみると良いかもしれませんね」(藤野先生)。

●新奇性追求
●感情調整
●肯定的な未来志向

<レジリエンスの3大要素>
レジリエンスの3大要素

出典:『発達障害の子の立ち直り力「レジリエンス」を育てる本』(監修:藤野博,日戸由刈)より抜粋。上記の図は、小塩真司・中谷素之・金子一史・長峰伸治「ネガティブな出来事からの立ち直りを導く心理的特性―精神的回復力尺度の作成」『カウンセリング研究』35,P57~65を参考に作成



■レジリエンスと自尊心、どう違う?

レジリエンスと自尊心、どう違う?

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レジリエンスは、自尊心と似ている気もしますが、何が違うのでしょうか?

「自尊心は成功したり、ほめられたりすることで育っていくものです。一方で、レジリエンスは成功したときにも育ちますが、失敗して人に助けられたときにも育ちます

自尊心は『自分を信じる力』、レジリエンスは『自分とまわりの人を信じる力』ともいえます」(藤野先生)

レジリエンスとは、自尊心を裏打ちするような、そんな心のありようでもあるんですね。

さらに、「レジリエンスの特徴として体質や性格といった『持って生まれたもの』ばかりではないこともあげられます。日々の生活のなかで、少しずつ育っていくものなのです」(藤野先生)。


■「余白の時間」が減ることで起こる悪循環

子どもの「余白の時間」が減ることで起こる悪循環とは

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では、そんなレジリエンスを育てるためには、どうしたら良いのでしょうか? 

「子どものレジリエンスを育てるためのポイントは、『安定した生活を保障すること』です。基本の土台作りとして、子どもが、栄養と睡眠を十分にとれるようにしてあげることが大切です」(藤野先生)

「そんな簡単なことでいいんですか?」と、筆者はビックリしてしまいました。「いま、睡眠が十分とれていない子は、多いんですよ」と藤野先生からは、こんなお話しを伺いました。

「最近感じるのは、子どもの『余白の時間』が減っていることです。勉強やスポーツ、習い事をすることも大切です。ただ、人間には、ボーっとする、自分の好きなことだけをするといった時間も必要です。

ToDoを詰め込みすぎるあまり、そうした時間がとれなくなってしまうと余白の時間がズレこみ、結果的に睡眠時間が減ってしまうという悪循環になってしまうんですよ」

■子どもの「ToDoリストの整理」が必要なワケ


子どもの「ToDoリストの整理」が必要なワケ

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「あ、そうかもしれないな」と、感じる方も多いのでは? だからこそ、いま、ママが意識したいのは、「子どものToDoの取捨選択」なのかもしれませんね。

アレもコレもはできないから、その子にとって、いま、何が大切か? 優先順位を決めて、親が「ToDoの間引き」をしてあげる。そんな視点です。生活習慣を基軸に子どもの生活を見直すことで、ママの時間や心にも余裕が出るかもしれません。

生活習慣には、枠組みが必要なんです。子どもの心を卵にたとえてみると、生活の枠組みが、卵のカラにあたります。起床・睡眠リズム、毎日の食習慣といった生活習慣の枠組みのなかで、心が育ちます。それは、まるで卵が過熱されて徐々にかたくなっていくようなイメージです(藤野先生)」

■レジリエンスを育てる3つのステップ

生活習慣という土台が整ったら、いよいよレジリエンスを育てるための子どもへの関わりを考えてみます。
レジリエンスは、一朝一夕に手に入りません。少しずつ育てていくものなので、ステップを3つに分けてみました。このステップは同時進行する場合もあります

レジリエンスを育てる3つのステップ
●「立ち直る力」レジリエンスを育てるポイント
1)レジリエンスとは、心のしなやかさ。「心の強さ」より、現実的に役立つ力である
2)「感情調整」「新奇的追求」「肯定的な未来志向」が、レジリエンスの3要素
3)レジリエンスを育てる土台は、生活習慣を整えること


次回は、レジリエンスを育てるための各ステップを具体的に教えていただきます。


■今回、お話を伺った藤野博先生の著書
『発達障害の子の立ち直り力「レジリエンス」を育てる本』
『発達障害の子の立ち直り力「レジリエンス」を育てる本』
(藤野 博, 日戸 由刈 (監修)/講談社 本体1,300円(税抜き))
「レジリエンス」とは心の回復力であり、立ち直り力のこと。自分の思い通りにいかず、落ちこんだときに、気持ちを切り替え、またがんばろうと思える力をいいます。書籍では道具の管理や家事の手伝いといった、子どもにとって身近なことを例として挙げながら、レジリエンスの育て方やポイントをイラスト図解で徹底解説します。

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