「非認知能力」という名称の流行が生んでしまった“誤解”と“困った副作用”
成長、発達、認知――。教育関係の記事ではあたりまえのように使われる言葉ですが、その厳密な意味となると答えられない人も多いでしょう。お話を聞いたのは、『しまじろうのわお!』(テレビ東京)などの幼児教育番組や幼児向け教材の監修を行っている、静岡大学情報学部客員教授の沢井佳子先生。それらの言葉の意味に加えて、幼児教育の世界で流行語となっている「非認知能力(非認知的スキル)」という言葉がはらむ問題についても持論を語ってくれました。
構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
成長、発達、認知という言葉の意味とは?
成長、発達、認知という言葉のうち、その意味合いからも混同されるのが成長と発達ではないでしょうか。子どもの成長、発達といった場合、一般の会話においては大きなちがいはありません。でも、アカデミックな意味でいうと両者にはちがいがあります。
「成長」とは、「数値」でわかる身体の量的な変化です。
つまり、子どもでいえば身長が伸びたり体重が増えたりした場合に、「成長した」というのです。そして、「発達」とは「働き」や「質」に焦点をあてた心身の変化です。たとえば、「子どもが手指で柔らかいものを上手につまめるようになる」という動作の「器用さ」の変化や、そして「頭のなかで言葉や数や論理を理解する」というような、見た目だけではわからない心理的変化も「発達」に含まれます。
この発達の過程において、生涯にわたってドラマチックな変化を見せるのが「認知の発達」です。「認知」とはごく簡単にいえば「ものごとがわかる」ということです。一般に認知能力というと、文字を書く、計算する……といった「学力」と同じ意味だと、非常に狭い意味でとらえられがちです。しかし、認知は人間のあらゆる「知覚」「運動」「学習」「判断」「記憶」などに関わります。
たとえば、生活習慣の獲得。
子どもが服を上手に着られるようになったなら、そこには、方向や位置関係がわかる……という空間認知や、見て触った情報をもとに動作を実行するという認知の発達がみられるのです。友だちとの付き合いにおいても、表情を認知し、視点を動かして相手の気持ちを察し、出来事のつながりから因果関係を推理し、行動の社会的な結果を予測して意思決定をする……といった認知の過程がたくさん含まれているのです。生活習慣から社会生活、おしゃべりから数の理解、砂場の遊びからスポーツの試合まで、子どもの頭のなかでは認知的な営みが忙しく繰り広げられているのです。