2016年2月23日 20:00
治療はハイリスク? 突然に記憶を失う「解離性健忘」の症例2つ
ところが、いくら待っても彼女は来ません。男性は仕方なく「ふられたみたいだ」と諦めて店を出ます。
ただ、話だけはしたいと思い翌日の土曜日、翌々日の日曜日と彼女への連絡を試みますが連絡は取れず。
仕方なく彼女も出社する月曜日に会社で話をしようと思っていたところ、会社にも出勤しなかったのです。
一度会ったことのある彼女の母親にも連絡を取ると金曜以降は母親のところへも行っておらず、この時点でいよいよ心配になった先輩は警察に捜索願を出します。
すると数時間後、繁華街をフラフラと徘徊(はいかい)する彼女を保護したとの連絡が警察から入ったのです。
自分が誰で今いる場所がどこなのかもわからない『全生活史健忘』 の状態でしたが、携帯していた運転免許証で身元が確認できたため、唯一の身内である母親の元へ帰れたようです。
治療のために病院へやってきた女性は最初、何一つ覚えていない自分を不安がり、苛立ち、抑うつ状態となりました。
しかし、本人の「記憶を取り戻したい」という意思が強かったため、専門的な治療を受けることにしたのです。
治療は、混乱を抑えるための催眠薬を用いた面接(これについては後ほど詳述いたします)をするという専門的な方法で行われましたが、これによって少しずつ、女性が忘れてしまった“全生活史”が断片的にではあるにせよ、わかってきたといいます。
要点だけを言いますと、女性は少女時代に実の父親から虐待を受けて育ち、彼女を虐待していた当時の父親に顔や年齢や背格好が似通った先輩と、恋人同士の関係になっていたのです。
その先輩からプロポーズされそうな気配を察知した女性の心に、
「少女時代、自分を虐待しつづけた父親にこれ以上近寄って行ってはいけない」
という脳内からの命令が働き、錯乱した女性の精神はそれまでの人生の全ての記憶を消し去ることによって「どうしよう、イヤだ」という感情から自分自身を守ったらしかったのでした。
●解離性健忘の治療に有効な『アモバルビタール・インタビュー』という方法
症例1の男性も症例2の女性も、聞くところによればその後記憶を取り戻して現実の状況を受け入れ、完全にとまではいえないものの社会復帰を果たしていらっしゃるそうです。
お二方とも、『アモバルビタール・インタビュー』 という専門的な治療を受けて徐々に記憶を回復しまたした。
最後にこの『アモバルビタール・インタビュー』という解離性健忘の治療方法についてご説明します。