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「社会がこれだけ多様性に富んだものになっている今、ひとつの型に子どもたちを押し込めるのは子どもの『生きる力』を削ぐだけでしょう」と教育評論家の尾木ママこと
尾木直樹さん。「一人ひとりが自分の個性に気づくようにと向けていくのが本来の教育です」と言うのは脳科学者の
茂木健一郎さん。
日本の教育が世界から大きく取り残されていく中、「教育とは何か?」というテーマでお二人が対談。2020年の
センター試験廃止までに「親たちが知っておくべきこと」に迫ります。
『教育とは何?-日本のエリートはニセモノか』
(尾木直樹(著)、茂木健一郎(著)/中央公論新社)
※本書に収録されている対談は、2017年に法政大学女子高等学校で行われた公開対談「これからの学び・これからの学校」と、単行本『おぎ・もぎ対談「個」育て論』(2013年9月青灯社刊)に掲載された対談です。
■偏差値が「学びのアレルギー」を引き起こす
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茂木:僕がTwitterでこんなふうに怒ったことがあったんです。「予備校の偏差値表、
『この偏差値だと、この大学』とか書いてある、あんな表を学校に貼るな! 子どもの心の傷害罪で訴えてやる!」と。そうしたら、みんなが喜んでいます。喜ぶということは、内心みんな思っているということでしょう?
尾木:ひどいです! 大学名と学部名を聞いて、「ああ、偏差値あのくらいだから、俺より低い、高い」なんて瞬時に判断を下すようになっているのですから。
茂木:子どもたちは、まずいご飯をたくさん食べさせられて、「もう食べたくない」という状況なんじゃないかと思います。おなかが空いたら食べますよね?
子どもたちの脳が、どうでもいい情報をたくさん入れられて、もういっぱい、いっぱいになっちゃっている。アレルギーを起こしているのかな?
「学びのアレルギー」。
尾木:ああっ。「学びのアレルギー」ね。それはすごく的確な表現だなぁ。
■この子にとって「何」が一番大事なのか?
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尾木:僕が現場の教師だった頃は、「今、この子にとって何が大事か? どうするのがいいのか?」と考えて、真正面からぶつかっていきました。それが僕の教育実践スタイルだったの。
茂木:尾木先生みたいな先生がもっとたくさんいたら、日本の子どもは救われるのにね。
尾木:おもしろいとは思いますよ~。
茂木:おもしろいし、子どもたちも、親御さんも、救われるんじゃないかなぁ。
尾木:僕は、今のこの日本の現状を、どう突破するかということが一番気になりますね。
茂木:教育について「
理想の教育システムとは何か?」といった「議論」はよく聞きます。でも、僕が思うのは、「じゃあ、その理想の教育システムって、いつできるんですか? 10年後、20年後ですか?」ということです。
いまの子どもたちは、「理想の教育システム」ではない教育を受けているという現実があります。この瞬間に、
目の前にいる子どもを救えなかったら、意味がないと思ってしまうんです。
教育って常に、「管理」とか「標準化」との闘いなのかもしれませんね。そういうシステムからはみ出したところを教員や親をはじめ、大人がもう少しフォローしてあげる。やろうと思えばできるはずですからね。
尾木:ええ、本当に。
茂木:たとえば、尾木先生がある生徒に岩波新書を毎週読めと指示した、というのは良い例だと思うんです。いまの管理主義的な教育が続いたとしても、その中でも工夫はできる。周囲の大人が、その子の個性をしっかり認めているよということを伝えればいいんです。
たとえば、先生が通知表を渡す際などに、「これは、本当は違うんだよ」と言えばよい。「いまの入試制度が変わらない限り、『あなたの偏差値はここかな』という話はしなければいけないけれども、
どこの学校に行ったって、一生懸命やれば大丈夫なんだよ、偏差値で人の価値が変わるわけじゃないんだよ」ということを、本人の長所とともに伝える。そういうことを言ってあげれば、それで救われることがきっとあるはずです
尾木:簡単にできますよ。そこは、個人の裁量、工夫の範囲ですから。
そういう大人の姿勢が大切だと思います。
●尾木先生の教員時代のエピソード
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教員時代に、一人やたら優れた子がいたのです。「この子はすごいわ、能力を伸ばさなきゃ」と思って、1週間に一冊、岩波新書を読みなさいって言ったのです。それで、何を読んだかを全部報告させたのです(中略)
やっぱり、高いレベルの学びや世界に挑戦していく、視野を広げていくというリードをこの子にはしてやらないと、変な天狗、井の中の蛙で終わっちゃうと思いました。彼にはもっと高い峰に立ってほしかった。
出典:『教育とは何?-日本のエリートはニセモノか』(尾木直樹 茂木健一郎/中公新書ラクレ)より抜粋