10作目:“性別”の枠を超えた愛とは。二度と訪れない、二人の青年の一夏を描く『君の名前で僕を呼んで』| GOOD CINEMA PICKS
ただ好きな人の寝息を聴きながら小さく揺れるまつげを眺める何の変哲もないどこにでもあるような朝、午後の気まぐれな日差しでいつもとは違う色を見せてくれる庭の木々、優しい月明かりの下を鼻歌を歌いながら歩く帰り道。自分の目に映る世界、耳から聴こえてくる音、肌に伝わる温度、今というその瞬間の全てを、自分だけのものにしてしまいたい、そう思ったことはないだろうか。そんなとき、心の後ろ側を引っ張られるような、どことなく切なくて、でもどうしようもなく愛おしい、よくわからない気持ちでいっぱいになる。きっとこの気持ちを一言で表すとしたら、「恋」と呼ぶのだろう。社会派の映画を紹介する『GOOD CINEMA PICKS』では今回、人間が愛するということ、何かを感じるということについて考えさせてくれる、北イタリアの小さな田舎町を舞台に描かれた、二人の青年のどこまでも切なく限りなく美しい恋の物語『君の名前で僕を呼んで』を ピックした。
どんな恋でもそれは素晴らしく、尊いもの。
1983年、北イタリアの小さな街。美しい街並みと豊かな自然のなかで、エリオは17歳の夏を家族とともに過ごしていた。
本を読んだり、ピアノを弾いたり、女の子と遊んだり、いつもと変わらない毎日に、大学教授をしている父の教え子である24歳の大学院生オリヴァーがやってくる。