ノルウェー発、職場復帰した新聞記者が一歩を踏み出す『ヒューマン・ポジション』公開
監督は、本作が長編2作目となるノルウェーが生んだ才能アンダース・エンブレム。フィヨルドに囲まれ、絵画のような色彩豊かな風景で「ノルウェーで最も美しい街」と称される監督の故郷オーレスンを舞台に、写真集を捲るように優しく美しい筆致で、主人公の心の機微や日常を丁寧に描いた。
繰り返されるショット、音楽の不在、削ぎ落とされた行間、街の音はもちろん呼吸音まで聞こえてきそうな長い静寂…。アスタとライヴを取り巻く環境を、カメラは空気をも映し出すかのようにゆったりと物語る。自身のインスピレーションの源としてロベール・ブレッソンと小津安二郎を挙げるエンブレム監督は、劇中でも『お茶漬けの味』のセリフを登場させ、小津愛溢れる演出を見せる。
また、もう一つの主役とも呼べる椅子への想いが、2人をより結びつけている。ある喪失感を抱えた主人公の日常をそっと見守る子猫も、名脇役として登場する。
主人公アスタを演じるのは、監督デビュー作『HURRY SLOWLY』(原題)に続いて再びタッグを組んだアマリエ・イプセン・ジェンセン。
トラウマを抱える心の揺らぎや聡明さを、透明感を放ちながら抑制のきいた演技で表現。彼女に優しく寄り添うライヴ役にはマリア・アグマロ。