、「わざとだよ?」と言えば幸子、と言わんばかりに、幸子という女は、わざとだよ界を牛耳る存在となったのである。
おー、こわ。誰もが幸子に対して思ったはずである。幸子、なんて生易しいものではなく、主人公の奈々に感情移入して読んでいた読者としては、「このアマ」くらいに思って然るべきシーンだった。
○小悪魔、というわけではない
しかしだ。小悪魔の権化のようにされている幸子及び幸子の「わざとだよ?」だが、幸子に対する小悪魔評は、落ち着いて考えると少し違和感がある。まず、「小悪魔」の定義を「相手の感情を揺るがすことで、自分の思う通りに動かす」とするならば、"幸子の「わざとだよ?」発言"は小悪魔に該当するが、"幸子自身"は実は小悪魔ではない。
なぜなら、結果だけ見ると幸子は章司を奪えているものの、最初こそ「彼女がいる人には奢ってもらわない主義なの」と距離を取ろうとしている上に、奈々にバレて章司が振られるまでは、二股をかけられていた。
この時点では、「自分の思う通りに動かす」ことはできていない。章司を奪えたのはあくまで結果論であって、場合によっては二股のまま不毛な状態で苦しみ続けることもあり得たはずだ。