誰のためでもない、“わたし”のために読む絵本【TheBookNook #39】
文:八木 奈々
写真:後藤 祐樹
絵本は子供のためのもの? いいえ、そんなことありません。
心細いとき、
もやもやが晴れないとき、
アイデアのヒントが欲しいとき、
誰かに叱ってほしいとき、
絵本はいつでも私たちの味方です。
ひらがなが多く、読みづらさもあるかもしれません。
でも、思い出してみてください。子供の頃の私たちの頭の中は大人になった今よりもずっとアイデアにあふれ、好奇心の赴くままにページをめくり、温かい物語に包まれて眠りについていたはず……。
もう一度、なんの疑いも持たずに絵本の世界に身を委ねて、大人になった私たちだからこそ感じることができるメッセージを受け取ってみませんか。
今回は、絵本作家さんの個展やトークショーに足を運ぶほど絵本好きな私が密かにお守りにしている3作品をご紹介させていただきます。
このタイトルとこの装丁。
賢くて、頼りになるアナグマが、ひとり長いトンネルの向こうに旅立つところから始まるこの物語。悲しみに暮れる森の動物たちはそれを紛らわすように、冬の間アナグマの思い出をそれぞれ語り合います。
居なくなってから気づく身近にあったものの大切さ、知らず知らずのうちに残してくれていた宝物。それらはその場に居るみんなの心を温め、そして春が来る頃には……。
いなくても、いる。心を灯す大切なあの人を思い出させてくれるとても温かい物語です。
子供にも分かるような簡単な言葉で語られていくからこそ胸に響くものがあります。
描かれる冬から春の一連の流れもとても美しく、私はこの物語を涙なしで読了できたことは一度もありません。
幼い頃にこの本を読んで、母に“いなくならないでね”“大好きだよ”とひどく泣きついた記憶があります。
きっと私だけじゃないはず……。いつか出会う大切な人に贈りたい一冊です。
装丁の可愛さが目を引くこの一冊。
決して出会えない“春”と“秋”の手紙のやりとりを描いた物語。
秋ってどんな子? と冬に聞けば“あたたかい”と言い、夏に聞けば“つめたい”と言う。
全然違うじゃない。自分でちゃんと確かめたい……でも、出会うことはできない。
「じゃあ手紙を書こう、桜の花びらを添えて。」
好きなものが一緒だったり、考えていることが似ていたり、生まれも育ちも違うはずなのになんだか似ている。
素敵な物を見つけたときにあの子が好きそうだなと思い出せる人がいるのってなんて幸せなことなんでしょうか。
たとえ会えなくても、心の中に存在しているだけで、自分を肯定してくれる人。その人をより大切にしたくなる物語です。
詩人でもある作者の言葉と柔らかく描かれる自然の絵が心に残る一冊でした。
余談ですが私自身、吉田さんの絵が好きで個展にお邪魔したことがあります。
あなたが住んでいるその世界は胸を張って正常だと言えますか?
人間と共にオフィスで働く“セミ”は17年間欠勤なし、ミスもなし。誰からも認められず、愛されず、立派な家もなく、ただただデータを入力をする日々。17年間、コツコツと……。
同僚たちは見下して叩いて蹴って馬鹿にしてきます。上司は見て見ぬふりどころか、こき使いっぱなし。
そんなセミが退職することになっても、もちろん誰も何も言いません。
最後の仕事を丁寧に終えたセミはその足でビルの屋上へ向かいます。
世間の歪んだ部分を見えないふりして、なんてことない顔で過ごしている人間の姿は、ときどき理解し難いものがあります。
だからといって“セミ”になりたいわけではない……、いや、この作品を読んだらなりたくなるかもしれません。
セミが可哀想な物語のように思えるけれど、置かれている状況に気づかない私たち人間のほうがずっと哀れだというメッセージを私はこの作品から受け取りました。
美しくて悲しい絵の説得力。無機質にも感じられる反面、ひどく愛嬌のある鳴き声……。絶望にも希望にも感じられました。
苦味の残る読後感でしたが、また読みたい、また読んであげたい、そう思ってしまいました。
子供のためではなく自分のために読む絵本。
優しく励ましてくれるのも、鼓舞し勇気をくれるのも、ときにあのときと同じように叱ってくれるのさえも、“絵本”なのかもしれません。
いつかの自分のために、お守りのような一冊をみつけて本棚に置いてみてはいかがでしょうか。
写真:後藤 祐樹
絵本は子供のためのもの? いいえ、そんなことありません。
心細いとき、
もやもやが晴れないとき、
アイデアのヒントが欲しいとき、
誰かに叱ってほしいとき、
絵本はいつでも私たちの味方です。
ひらがなが多く、読みづらさもあるかもしれません。
でも、思い出してみてください。子供の頃の私たちの頭の中は大人になった今よりもずっとアイデアにあふれ、好奇心の赴くままにページをめくり、温かい物語に包まれて眠りについていたはず……。
もう一度、なんの疑いも持たずに絵本の世界に身を委ねて、大人になった私たちだからこそ感じることができるメッセージを受け取ってみませんか。
今回は、絵本作家さんの個展やトークショーに足を運ぶほど絵本好きな私が密かにお守りにしている3作品をご紹介させていただきます。
1. スーザン・バーレイ/作.絵 小川仁央/訳『わすれられないおくりもの』
このタイトルとこの装丁。
見覚えのある方も多いのではないでしょうか。
賢くて、頼りになるアナグマが、ひとり長いトンネルの向こうに旅立つところから始まるこの物語。悲しみに暮れる森の動物たちはそれを紛らわすように、冬の間アナグマの思い出をそれぞれ語り合います。
居なくなってから気づく身近にあったものの大切さ、知らず知らずのうちに残してくれていた宝物。それらはその場に居るみんなの心を温め、そして春が来る頃には……。
いなくても、いる。心を灯す大切なあの人を思い出させてくれるとても温かい物語です。
子供にも分かるような簡単な言葉で語られていくからこそ胸に響くものがあります。
可愛い絵の中にある目には見えないメロディー。
描かれる冬から春の一連の流れもとても美しく、私はこの物語を涙なしで読了できたことは一度もありません。
幼い頃にこの本を読んで、母に“いなくならないでね”“大好きだよ”とひどく泣きついた記憶があります。
きっと私だけじゃないはず……。いつか出会う大切な人に贈りたい一冊です。
2. 斎藤倫.うきまる/作 吉田尚令/絵『はるとあき』
決して出会えない“春”と“秋”の手紙のやりとりを描いた物語。
秋ってどんな子? と冬に聞けば“あたたかい”と言い、夏に聞けば“つめたい”と言う。
全然違うじゃない。自分でちゃんと確かめたい……でも、出会うことはできない。
「じゃあ手紙を書こう、桜の花びらを添えて。」
好きなものが一緒だったり、考えていることが似ていたり、生まれも育ちも違うはずなのになんだか似ている。
素敵な物を見つけたときにあの子が好きそうだなと思い出せる人がいるのってなんて幸せなことなんでしょうか。
たとえ会えなくても、心の中に存在しているだけで、自分を肯定してくれる人。その人をより大切にしたくなる物語です。
詩人でもある作者の言葉と柔らかく描かれる自然の絵が心に残る一冊でした。
余談ですが私自身、吉田さんの絵が好きで個展にお邪魔したことがあります。
とても丁寧な方なのはもちろん、目の前で描かれる生の絵が素晴らしすぎたので、もしタイミングありましたらみなさまも、ぜひ。
3. ショーン・タン/作.絵 岸本佐知子/訳『セミ』
あなたが住んでいるその世界は胸を張って正常だと言えますか?
人間と共にオフィスで働く“セミ”は17年間欠勤なし、ミスもなし。誰からも認められず、愛されず、立派な家もなく、ただただデータを入力をする日々。17年間、コツコツと……。
同僚たちは見下して叩いて蹴って馬鹿にしてきます。上司は見て見ぬふりどころか、こき使いっぱなし。
そんなセミが退職することになっても、もちろん誰も何も言いません。
最後の仕事を丁寧に終えたセミはその足でビルの屋上へ向かいます。
……誰の心にも残る、“静かで過激な”問題作。
世間の歪んだ部分を見えないふりして、なんてことない顔で過ごしている人間の姿は、ときどき理解し難いものがあります。
だからといって“セミ”になりたいわけではない……、いや、この作品を読んだらなりたくなるかもしれません。
セミが可哀想な物語のように思えるけれど、置かれている状況に気づかない私たち人間のほうがずっと哀れだというメッセージを私はこの作品から受け取りました。
美しくて悲しい絵の説得力。無機質にも感じられる反面、ひどく愛嬌のある鳴き声……。絶望にも希望にも感じられました。
苦味の残る読後感でしたが、また読みたい、また読んであげたい、そう思ってしまいました。
この物語に出会ってから、“セミ”は私の大切な心の友達です。
■励まし、鼓舞し、叱ってくれるあなたのための絵本を見つけて
子供のためではなく自分のために読む絵本。
優しく励ましてくれるのも、鼓舞し勇気をくれるのも、ときにあのときと同じように叱ってくれるのさえも、“絵本”なのかもしれません。
いつかの自分のために、お守りのような一冊をみつけて本棚に置いてみてはいかがでしょうか。
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