「玉の子夜間保育園」(沖縄県那覇市)© 夜間もやってる製作委員会
保育園に入れるか否かは、共働き世帯にとっては、その後の人生プランが揺らぐぐらい切実な問題。働くママたちの声がようやく届き始めて、遅ればせながら待機児童対策に乗り出す自治体もここにきて増えてきました。
その待機児童問題と同等に語られてもいいのではないかと思う保育の現場を直視しているドキュメンタリー映画
『夜間もやってる保育園』。どこか置き去りにされた、というよりもほとんど語られてこなかった
認可夜間保育園に本作は目を向けています。なぜ夜間保育園を映画の題材に選んだのか、制作に至った経緯、そして取材して実感した現実を大宮浩一監督にお伺いました。
■夜間保育園はなぜ世間一般に知られていないのか?
大宮浩一監督
これまで介護福祉や東日本大震災の被災地といった現場に足を運び、記録してきた大宮監督。今回、
夜間保育園を取り上げたのは、一通の手紙がきっかけだったそうです。
「今回の作品に登場するエイビイシイ保育園の片野清美園長から手紙をいただいて。僕の過去の作品をみてくださっていて、『夜間保育園の映画を作ってほしい』と。それで直接お会いしたのですが、
夜間保育園の重要性や必要性が話からひしひしと伝わってきたんです。
私が不勉強なだけかもしれないけど、自分の感覚からすると、『夜間保育園の存在ってそこまで世間に浸透していないのでは?』と思って。そこで実際の現場を見てみようと心が動きました」
■夜間“に”やっているではなく、夜間“も”やっている保育園
「エイビイシイ保育園」(東京都新宿区)© 夜間もやってる製作委員会
当初、夜間保育園について監督自身は、こんなイメージを持っていたそうです。
「私は、子どものことをほぼ妻に任せっきりの昭和のオヤジでしたから、幼稚園と保育園の違いがかろうじてわかるぐらい。
だから、ほんとうに恥ずかしいんですけど、夜間保育園とはじめ聞いたとき、それこそ夜遅くまでお遊戯とかしているのかなとか思っていたんです(苦笑)。
通常の保育園が昼間にやっているようなことを夜も行われているのかな、と。でも、実際に訪れてみると、子どもたちは夕食を食べ、入浴し、あたり前ですけど夜には静かにぐっすりと寝ているわけです。
子どもが安心して安全に眠れる。それを夜勤の保育士がしっかりと見守っている。夜間保育園は生活の場なんだと、そこでようやく気づきました。
また私は、夕方から登園して朝まで子どもを預かるみたいな、夜間だけやっている保育園をイメージしていた部分もあります。でも、実際はタイトルにもなってますけど、
夜間“も”やっている保育園なんです。
昼間は昼間の保育園として機能しているんです。
いかに自分が何も知らなかったかを痛感しました。ただ、私のように勝手なイメージをもっている人も多いんじゃないかと思うんです。そこで、これはきちんとした現実を伝えなければいけないと思いましたね」
■夜間に子どもを預けて働く親への偏見や批判の目
学童保育「エイビイシイ風の子クラブ」(東京都新宿区)© 夜間もやってる製作委員会
大宮監督が訪れたのは先に触れた「エイビイシイ保育園」をはじめ、沖縄県那覇市にある「玉の子保育園」、北海道帯広市にある「すいせい保育所」、新潟県新潟市にある「エンジェル保育園」、東京の「たいよう保育園」など。
各園の日常を収めるとともに、そこで働く保育士や園長、実際に利用しているママたちにインタビュー取材を行い、現場と保護者の生の声に耳を傾けています。なかでも、夜間に子どもを預けざるをえない現状に対する
負い目や、“ここに預けられなかったら、生活がどうなっていたかわからない”といった
苦しい現実に直面する母親たちの言葉が深く印象に残ります。
「片野園長と最初にお話ししたときも、伝えられたんです。
『夜間に子どもを預けてまで働く親と、その子どもを預かる夜間保育園には偏見や批判がある』と。
でも、これだけ核家族化が進み、共働き世帯も増加している。家庭の事情もさまざまで夜に働くしかない人だっている。ひとりで家事と育児をこなすシングルペアレントだってもう珍しくない。
夜間に子どもを預けている親御さんたちは、育児を放棄しているわけではないんですよ。夜間保育園だって通常の保育園となんら変わらなくて、園内には笑顔と泣き顔があふれ、元気な声が響いている。なのに昼間に預けるのは問題なくて、
夜だと悪に決めつけられるのは、いまの時代や社会状況を考えてみても、ちょっと違うでしょう。見ていただければわかると思いますが、夜間保育園も通常の保育園も
子どもたちの大切な育ちの場であることに変わりはない。
エイビイシイ保育園は、完全オーガニックの給食や療育教室を実施したりと、むしろ時代の先をいく取り組みをしているところもある。
そしてなにより働く親と、その子どもにとっての重要な
セーフティ・ネットのひとつになっている。
全国で保育園は2万5千ヶ所ぐらいあり、そのうち認可夜間保育園は80ヶ所ほどしかない。それゆえ、知られていないからこういう批判や偏見も出てきてしまうのかもしれない。今回の作品を通して、夜間保育園やそこに預ける保護者に対する偏見が少しでも消せたらうれしいですね」
■「保育が変われば社会がかわる」日本の子どもをめぐる状況
「エイビイシイ保育園」(東京都新宿区)© 夜間もやってる製作委員会
そして大宮監督はこう訴えます。
「ニュースを見ても、むごたらしい幼児虐待の事件が次々と飛び込んでくる。少し前までは、これほど報じられることはなかったと思いますけど、いまは…。最近も給食をほとんど与えていなかったといった保育園の事件があったり。子ども食堂や給食で、命をつないでいる子どもがいたりする。
『こどもひとりの命を大切にできない、守ることもできない社会ってどうなの?』って思うんですよね。作品のコピーに
“保育が変われば社会がかわる”と記しているんですけど、これは偽らざる本心なんです。子どもにもっと寛容な社会であってほしい。今は、日本の子どもをめぐる状況が少しでもいい方向に改善されていくことを願っています」
監督の言うように夜間保育園の現場からは、たしかにいまの日本の子どもをめぐる社会の環境が見えてきます。そこには親として多くの気づきがあると思います。意外と知られていない夜間保育園の現状に少し関心を寄せてみてはいかがでしょうか?
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