2015年11月27日 12:00
不在を象り、知覚に訴えかける英国人アーティストオリバー・ビアの日本初個展【レポート】
その球体ガラスの中に閉じ込められた金色の小さなオブジェは、脊椎動物の中耳内にあり、鼓膜振動の増幅器の役割をする微小な骨、耳小骨(ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)を原寸大でそれぞれかたどったものだという。また会場の外からこの球体を眺めると、会場内の壁に描かれたそのままでは何かわからない絵が像をもって目の前に現れる。球体に映し出される現実に見入る体験が、《Silence is Golden》(=沈黙は金)という作品タイトルを体現させられているようで、かつその視界の中にひっそりと閉じ込められた耳小骨が存在するというユーモアが小気味好い。
そして、ウィンブルドン決勝戦のテレビ放送を編集した新作《Life, Death and Tennis》では、ビアはテニスのボールとボールの音を映像から無くした。英国人男性として77年ぶりにウィンブルドン決勝戦を制したアンディ・マレーの白熱した試合に観客たちは手に汗を握り様々な熱狂的な歓声を上げる。彼らが見つめるボールとボールの音が消失した作品は、不在となったものの存在の痕跡を見つめさせ、その作品タイトルを考えさせられる。
また、壁に展示されていた《This is a Churchwarden Pipe》は、立体的に裁断されたパイプが壁に埋め込まれたものだった。