その一方で、52年に秋田県で行われた写真展に審査員として参加すると、そこに暮らす人々や自然を気に入った木村は、撮影旅行としてたびたびこの地を訪れている。この時に撮られた写真の1枚が、後に木村の代表作となる「おばこ」だ。これは、写真集『秋田』の表紙に使用されたもので、農村で働く女性の端正な顔立ち、上品な表情が木村ならではの構図で巧みに切り取られている。その後、木村は昭和を代表する写真家として、日中文化交流協会の常任理事や、日本リアリズム写真集団の顧問などを歴任。74年に逝去すると、その功績を称えて「木村伊兵衛賞」が創設された。これは新人を対象とした作品賞であり、ここから数多くの著名な写真家が世に送り出されている。03年には、朝日新聞出版社より代表作59点を収録したエッセイ集『僕とライカ』が出版された。