イレニサ 2025年春夏コレクション -〈間〉を彫刻する
具体的に衣服を見る前に、ひとつ補助線を引いておきたい。松尾芭蕉の一句──「閑さや岩にしみ入る蝉の声」だ。辺りの静けさ。それは普段、静かである以上は意識されない。けれども蝉の声が耳にされるとき、その鳴き声がじりじりと響きわたるのを可能にする〈間〉として、初めて静けさが意識される。だから〈間〉とは、空白のままでは気付かなくて、何がしかの働きかけを通して──それがどれだけささやかであっても──浮かび上がるのである。ちょうどフォンタナが、カンヴァスに裂け目を入れるように。
したがって今季のイレニサは、衣服と身体のあいだに生まれる心地よい〈間〉を、明晰な構築性と繊細な素材感でもって顕在化する。
それが、〈間〉を彫刻することにほかならない。たとえばメンズ、ウィメンズともに展開されるテーラードジャケットは、幾分余裕を持たせたショルダーとボクシーなシルエット、軽快でありつつもハリのある素材によって、明晰なフォルムを持ちながらも抜け感のある佇まいを叶えている。また、そこにはノッチドラペルのシングルブレストやシャープなショールカラーなどを織り交ぜるなど、フォルムや素材感だけにとらわれない表情の豊かさがもたらされている。