ハルノブムラタ 2025年春夏コレクション - 研ぎ澄ます先に留めおく“動きと時間”
なぜならブランクーシの彫刻とは、それがどれほど単純な形態であっても、人間の頭部や鳥といった対象物の形から完全に離れることがなく、そこに物の本質を捉えるという抽象化が働いているからだ。
たとえば、ドレス。流れるような素材感のドレスは、ショルダーやボディなどにギャザーを寄せ、そのフォルムを固化することで、衣服自体の造形と身体のフォルムの緊張を際立てる。フロントからバックにかけて、丈感に差をつけたベアトップドレスでは、ヘムを激しく波打つ曲線で仕上げ、ダイナミックな躍動感を示す。あるいはシアーなロングドレスやナイロンのロングコートであれば、風になびいて身体にふわりとまとわり、そのシルエットを官能的に浮かびあがらせるのである。
彫刻のエッセンスが、空間に立体的な造形が位置することだとするならば、衣服とは、ファブシックという平面が立体と化し、身体との関係をとり持つことである。平面から立体へ。言葉にするとささやかなこのプロセスに立ち現れるのが、布を折り曲げ、あるいは襞を織りなすことでなくて何であろう。
平面を立体へと転換するこのささやかな操作が、優美な造形を織りなす──今季のハルノブムラタには、こうした例を幾つも見出すことができる。