桂文枝 「妻に迷惑はかけられない」母の介護で至った結論
「現代の母親は、どうも生きづらさを抱えているのではないかと映ったんです。共働きでも家計に余裕がない世帯は多いなか、虐待などの痛ましい事件も連日、報道されています。“完璧な親”を目指しすぎて、親子関係が崩壊してしまうケースもあるんやないかと。それに比べれば、母はけっこう自由に生きてきたと思うんです。母のように、『ちょっとええ加減』なくらいが『ちょうどええ加減』の子育てかもしれませんよ、と。それでも、ひとり息子はこんなに立派に育ちましたからね(笑)」
母親を介護施設に入居させたときの心境を記者が問うと、文枝さんはすこし黙って考え込む。そして、うつむきながら一言だけ絞り出した。
「しかし――これ以上、妻に負担をかけてはいけないという思いのほうが、私には強かったんです。
母の介護は、ほとんど妻がしてくれていましたから。今度は、介護する側がね、疲れすぎてしまってはいけない。根詰めすぎて、密室状態になるのも、よくないでしょう」
介護においても「ちょうどええ加減」に――。母を入居させたのには、文枝さんから妻へのそんな配慮があったのかもしれない。最後に、噺家としての次の目標は何ですか、と聞いてみると……。