2019年5月8日 11:00
98歳ピアニスト室井摩耶子 反対押し切り90歳超えて叶えた夢
昭和13年に東京藝術大学音楽学部の前身である東京音楽学校に入学。戦時下の昭和18年に、日本交響楽団(現・NHK交響楽団)のソリストとしてデビューした。デビュー後から“現代音楽の室井”と称されるほどその実力を評価された彼女だが、“何かが足りない”と感じていた。
「その“何か”を知るためには、音楽の本場であるヨーロッパに住まなければと、34歳のときにドイツへと渡ったんです。女の子一人で、はるばるよ(笑)」
いまと違い、気軽に海外に渡ることができない時代。戦後、分断を余儀なくされた西ベルリンに拠点をおいた。
「“ソ連の占領下になる”という噂が流れて、近所では大騒ぎになったことも。銃剣を持った人に、政治的思考を聞かれることもありましたが、私はピアノがうまくなりたい一心でしたから、怖さは感じませんでした」
そこで彼女が得たものは、日本人にはない価値観だったという。
「ヨーロッパでは“自分がどう思うのか”が最優先。日本人と違って、人の評価は後回しです。ヨーロッパでも活躍できましたが、61歳で帰国しました。還暦を過ぎての決断によく驚かれますが、どうしても日本でもう一度活動したかったから」