犬と一緒に「人生のワンステップ」踏み出す――茨城のNPO「キドックス」の取り組み
ただ、犬たちもここに来るまでに虐待や飼育崩壊などさまざまなつらい体験をしてます。それを思うと、共感というか、気持ちがわかるんです。そんな子たちが里親さんのもとへ行くことになったときは本当にうれしい。別れるのは、ちょっぴり寂しいけれど」
上山さんも日々、若者たちの変化に驚かされると話す。
「場面緘黙症という、学校など公の場所で会話ができなくなる症状の若者がいました。その彼女がプログラムのなかでは『おすわり!』などと大きな声を出している。ああ、動物には一生かなわないなと思いますし、そんな場面に出くわすと、思わず涙ぐんでしまいますね」
こうした若者たちのトレーニングをサポートしているドッグトレーナーの里見潤さん(47)は、人だけでなく犬の特性も見ながらプログラムを組むという。
「たとえば、ひきこもりだった人には、いつもケージのはじっこにいるようなシャイな犬を任せます。
すると犬がすぐにはなつかなくても、けっして怒ったりせず、待ってあげられるんですね。ゆったりとした彼ら特有のコミュニケーションのペースに、犬もやがて安心して心を開いていくわけです」
里見さん自身、20代のころに6年間のひきこもり生活を体験し、犬との出合いで転機を得ていた。