2023年12月12日 18:00
「悲愴」「月光」「第九」― 井上芳雄、花總まりがお馴染みのフレーズにのせて愛を紡ぐ大人のミュージカル『ベートーヴェン』
は、花總まり。恵まれた環境におかれながら自分の幸せに疑問を感じているような女性の揺れる心を、しかし感情的にではなく落ち着いたトーンで演じる。歌唱力はもとより、その演技力に定評のあるふたりが、非常に細やかにお互いを思いやる愛を紡ぎ、大人のミュージカルとして作品を届けている。
ミュージカル『ベートーヴェン』より写真提供/東宝演劇部
ミュージカル『ベートーヴェン』より写真提供/東宝演劇部
脇を固める俳優陣も贅沢で、ルートヴィヒの弟カスパール役の海宝直人は若々しい歌声で、時に対立しながらも兄に愛の形を示し、木下晴香は溌溂とトニの義妹ベッティーナを演じ、トニの夫フランツの佐藤隆紀は妻を押さえつける悪役ポジションながら、重厚な歌声で作品を締める。フェルディナント・キンスキー公役の吉野圭吾は安定の華やかさで、やはりクンツェ&リーヴァイ作品にこの人は欠かせない、と思う存在感を見せつけた。
ミュージカル『ベートーヴェン』より写真提供/東宝演劇部
ミュージカル『ベートーヴェン』より写真提供/東宝演劇部
苦悩を乗り越えた先にある、穏やかなものを描く物語
失われていく聴覚、弟との確執、孤独、禁断の恋……一般的に知られている“苦悩する音楽家”の一面はもちろんあるが、本作のルートヴィヒは、頭を掻きむしって苦悩するような人物ではなく、不器用に人と衝突し内に籠ってしまう孤独な天才、というタイプ。