2021年11月30日 12:00
“1000人に1人のリリシスト”と讃えられた男の真実がここに 『ラドゥ・ルプーは語らない』
ルーマニアが生んだ名ピアニスト、ラドゥ・ルプーに関する本人公認の書籍『ラドゥ・ルプーは語らない』が発売された(板垣千佳子編/アルテスパブリッシング刊)。
「ラドゥ・ルプーとは一体何者だったのだろう」。本書が解き明かすテーマはまさにこの1点に尽きる。1945年ルーマニア生まれのピアニスト、ルプーは、極めて優れたピアニストであることは周知の事実でありながら、レコーディングの少なさやインタビュー嫌いによって謎に包まれた存在だ。
個人的に最後にして唯一のルプー体験は、2012年の武蔵野市文化会館だったように記憶する。当日の演奏の素晴らしさよりも、会議室で使うパイプ椅子に深々と座ったルプーの姿ばかりが妙に記憶に残る不思議な時間だったことが思い出される。そんな状況だっただけに、残された数少ない録音も全て手元にありながら、未だにルプーの存在にピントが合わず、棚上げしておいた矢先の引退にいささか参っていたというのが正直な話だ。
そこに登場したのが本書だった。
ルプーに親しく接してきた20人の音楽家たちによる証言は、生身のルプーを形作るジグソーパズルのようで興味深いことこの上なし。できればルプー本人の言葉でさらに語ってもらいたいと願うのがファン心理なのだが、あいにく『ラドゥ・ルプーは語らない』というのが顛末だ。