2022年8月17日 12:00
性の越境を可能とする「装いの力」について考察 『装いの力-異性装の日本史』9月3日より開催
男性か女性か——人間をふたつの性別によって区分する考え方が根付いている社会にあって、その性の境界を、身にまとう衣服によって越える「異性装」という営み。美術展としては、珍しくも画期的なテーマを掲げた企画展が、9月3日(土)から10月30日(日)まで、東京の渋谷区立松濤美術館で開催される。
同展が紹介するのは、日本における壮大な異性装の歴史だ。
『古事記』に登場するヤマトタケルが女装をして相手の隙をつき、九州討伐を果たしたのを皮切りに、平安時代の王朝物語から江戸時代の読み物まで、異性装の人物が登場する物語は数多い。日本ではまた、能や歌舞伎など、異性装の風俗や趣向を反映した芸能も発達してきた。
一方、現実の世界にも、男装で戦う女武者といった歴史上の人物や、男装の女官、あるいは僧侶と共にいる女装の稚児など、その役職や立場から異性装を実践した人たちが存在する。江戸時代には、成人前の中性的な美しさをもつ「若衆」や、祭礼で舞う男装の女芸者といった魅惑的な存在もあった。
西洋文化の影響を大きく受けた明治時代には、異性装者を罰則の対象とする条例ができたこともあったが、それでも異性装が消えることはなく、現代では、舞台芸術や漫画、映画など、幅広い分野で様々な表現に接することができる。