2023年6月30日 09:00
宮沢りえ、オダギリジョー、磯村勇斗、二階堂ふみらが出演 辺見庸の問題作『月』映画化決定
だ。
「太陽の光」はまぶしく、すべてのものを照らし尽くす。そこではすべてが見えてしまうだろう。世界の隅々までまでくっきりと。けれども、「月の光」はちがう。ぼくたちひとりひとりを個別に照らすか細い光である。その淡い光の下でだけ、ぼくたちは「個」になるのだ。
登場人物の多くは、「ものをつくる人」である。
そして、同時に「うまく作ることができない人」でもある。彼らは淡い「月の光」の下でそのことを知る。そこで生まれてくるものがある。そこでしか生まれないものが。それがなになのかぼくにはよくわからない。『月』は、あまりに強烈なテーマを扱っているので、もしかしたら観客は、そちらに視線を奪われるかもしれない。そうではない。もっとずっと繊細で、実はおぼろげなものが、そこにある。
それは「生きる」ということなのかもしれない。もう一度書くが、ぼくにはその正体がはっきりとはわからない。わからないまま、ぼくはうちのめされていた。ぼくもまた、この映画が発する「月の光」の下にいたのだ。
■森直人(映画評論家) コメント全文
石井裕也が命がけでぶん投げてきた灼熱の問題提起の豪球。
我々にできるのは、火傷しながらも全身で受け止めること。