観劇後も想像が無限に広がる舞台 子どもも大人も楽しめる『メルセデス・アイス MERCEDES ICE』開幕
語り手が丁寧に状況を説明しながら進むこの作品は、子どもたちの初めての観劇にもぴったりだろう。登場人物たちが歳を重ね、変化していく様子を語りとともに観るのは、絵本を読んでいるような観劇体験。
タワーは親世代にとっては突然現れた希望でも災厄でもあり、子ども(ロージーとティモシー)にとっては輝く未来の象徴であるが、その子ども(メルセデスやヒッコリー)の世代にとっては日常だ。魚屋もケーキ屋も身近なものなのに、目の前に繰り広げられる世界はどこか常にファンタジック。魚や貝、大きなサメの歯、たくさんのケーキ、鳥、くも、ねずみ……。次々に出てくる人間以外のものたちにも時にわくわく、時にゾッとさせられる。
左から、今泉舞、篠原悠伸、細田佳央太、豊原江理佳、斉藤悠、大場みなみ撮影:二石友希
何もない舞台に役者たちが家を運び込むところからはじまり、物語が進むにつれ舞台の上に少しずつ実際にタワーが積み上がっていくのを見ていると、この場所が次にどう変わっていくのかが楽しみになる。街が生まれ、タワーが建つ様子は、何もないところに物語を立ち上げる「演劇」そのものの具現化のようにも見えてくる。
やがて、描かれる世界は舞台上だけでなく客席にも広がっていき、観ている自分たちも世界に入り込んだような感覚が強くなっていく。