加藤和樹が歌い、踊り、コミカルに奮闘! イマジネーション豊かな荻田浩一演出光るミュージカル『バーナム』が上演中
そうして映像が駆使される一方で、舞台上ではアンサンブルの面々が、ストーリーと直接の関係はなく随時ジャグリングを披露してもいる。この舞台そのものが、華麗な“イカサマ”の様相なのだ。
P.T.バーナムとその妻チャイリーの絆を描いてはいるが、ふたりのセリフや歌を通じてストーリーを理解させるというより、様々なイメージの連続によって彼らの日々を感じさせるような作り。それだけにキャスト一人ひとりに要求されるものは多いが、全員がしっかり作品世界の一部となっていた。特にタイトルロールの加藤は、歌って踊ってコミカルな芝居もこなす奮闘ぶり。包容力と茶目っ気を併せ持つチャイリーを造形した朝夏、いくつもの役を的確に演じ分けた矢田、一瞬も気を抜かない原の全力ぶりも印象に残った。
トニー賞で装置と衣裳部門を制した事実から想像するに、ブロードウェイ版はおそらく、サーカスをほとんど再現するような豪華でスペクタクルな舞台だったのではないだろうか。日本版が“イカサマ”になったことには、荻田がそもそも持つ特性もさることながら、スペクタクルな演出は物理的にできないというコロナ禍の影響もあったに違いない。
P.T.バーナムの興行とも重なるところだが、逆境の中だからこそ生まれる作品というものがある。