井上芳雄×新ジルーシャ・上白石萌音、10年目の『ダディ・ロング・レッグズ』装い新たに開幕
日本版『ダディ・ロング・レッグズ』は2012年の初演以来、井上芳雄と坂本真綾が脚本・演出のジョン・ケアードやスタッフ陣と共に、大切に大切に作り上げてきたガラス細工のような作品だ。何かが1ミリずれただけで別物になってしまうような、精巧で繊細で、それゆえに強度が高く美しいミュージカル。それだけにキャスト変更はないものと思われていたが、おめでたい理由で今回の出演を辞退した坂本に替わって登場した新ジルーシャ、上白石萌音がやってくれた。ガラス細工の形を変えることなく、新しい色で満たすような見事な演技だ。
物語はよく知られた「足ながおじさん」。匿名の慈善家から援助の申し出を受けて孤児院から大学に進学した少女ジルーシャと、彼女から手紙を受け取るうちに匿名ではいられなくなっていくジャーヴィスの心の交流が、二人芝居ならぬ二人ミュージカルの形で綴られていく。
ケアード版の根幹をなすのは、ピアノ、ギター、チェロのみで演奏されるポール・ゴードン(『ナイツ・テイル』『ジェーン・エア』)の音楽と、本で埋め尽くされたジャーヴィスの書斎とたくさんのトランクから成るデイヴィッド・ファーリーの舞台美術。どちらも重厚でありながら優しく、何より温かい。
そんな音楽・セットと、同質の温かみと品を持った俳優でなければこの舞台にはそぐわない。稀有なそれらを井上と坂本と同様に備えた上で、上白石は彼女らしい明るさで作品を塗り替えていく。
内に秘めた意志を抑えた演技から浮かび上がらせていた印象のある坂本ジルーシャとは対照的に、喜怒哀楽を素直に表現する上白石ジルーシャを観ていたら、“おきゃん”という少々古風でおどけた語感の言葉が頭に浮かんだ。それは彼女が物語の時代の中に生きていたためであり、また作品に若干のコミカル要素を加えていたためでもあるだろう。
温かみと品、喋るように歌える歌唱力、大人の余裕と少年のようなかわいらしさ、そして“ツンデレ感”の全てが味わえるジャーヴィスはやはり、間違いなく井上最大の当たり役のひとつだ。
ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』ゲネプロ時カーテンコールより
取材・文=町田麻子
撮影=川野結李歌
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