あちこちにちりばめられた宗教的なメタファーを読み解くのは容易ではないが、ただならぬ神秘性が宿った映像から目が離せない。そしてどこからともなく聞こえてくるヘリコプターの轟音、パトカーのサイレンに耳をも刺激され、不穏な胸騒ぎを覚えずにいられない。ひょっとすると教会の外では、すでに世界の破滅が始まっているのではないか。そんな不気味な想像力をかき立てられるうちに、このうえなくミニマルな映画が終末SFのようにも見えてくる。
近年のヨーロッパでは難民問題を扱った社会派ドラマが数多く作られているが、老匠オルミは難民や宗教をめぐる現代の危機的な状況を、神のしもべたる司祭の受難と苦悩の物語に重ね、多様な解釈が可能な寓話へと昇華させた。都合のいい奇跡も救済も起こらないラスト・シーンをどう受け止めるべきか。それもまた観る者の感性に委ねられている。
『楽園からの旅人』
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文:高橋諭治
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