くらし情報『音楽を禁じられた、音楽の天才の、数奇なる一生を描いた感動作』

音楽を禁じられた、音楽の天才の、数奇なる一生を描いた感動作

「音合わせ」「第一章」「第二章」「第三章」「喝采」という5部構成となっており、前半では“メイカー”としての輝かしい一面が描き出される。しかし後半は音楽を奪われ、決してクリスチャンにとって幸福な時間とは言えない。それでもこの作品に光が失われないのは、どんなに音楽を禁じられても、本当の意味で彼から音楽を奪うことは出来ないということ。そして周囲の人々は、一時でも彼の音楽から幸せを得ることが出来るからだ。

クリスチャンを演じた多田直人は、本作で役者として大きなステップアップを果たしたと言える。これまではどこか飄々とした役柄が似合っていた多田だが、音楽に没頭する時の眼差し、そしてそこから溢れるさまざまな感情。激しくも繊細なその演技に、大きく心揺さぶられる。またクリスチャンを監視し続ける“ウォッチャー”を演じた、文学座の石橋徹郎の起用も絶妙。
不気味な存在感の中に、どこか切なさをも醸し出し、それがラストで確かな実を結ぶ結果となった。

天才と言われる人のことを、市井の人々が理解することはなかなか難しい。しかしそんな市井の人々の何気ない行動が、天才への拍手喝采となり得ることもある。クリスチャンの音楽とは、人生とは何だったのか?悲劇の中に光を見た、感動的なエンディングが忘れられない。

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