というのは、彼が、当時ドイツで習慣だったという大晦日のラジオ・ライヴの「第九」に言及した記録が残っているからだ。いずれにしても新響は、この1938年以降ほぼ1年おきに、1946年からは原則として毎年、12月に「第九」を演奏し、「年末の第九」恒例化の先鞭をつけた。
さらに同じ頃から、NHKのラジオ放送もこれに同調するように動き始めていた。1940年の大晦日に初めて新響による「年末の第九」を放送すると、太平洋戦争中も、正月に移りはしたが「第九」放送が続き、終戦の1945年からは再び年末に戻って放送している。テレビ放送初年の1953年末にはさっそくテレビ中継も行なわれた。
こうしたメディアの力も大きかったのだろう、1950年代半ば以降、各オーケストラも続々と「年末の第九」に加わった。「第九」研究家・鈴木淑弘氏の集計によれば、1955年に全国でたった3回だった12月の「第九」公演は、1960年代には2ケタに増え、70年代に50回を、80年代に100回を突破している。戦前から戦中に始まった「年末の第九」が、どんどん定着してきたのだ。
今年も全国各地でさまざまな「第九」が演奏される。注目の公演をピックアップしてみよう。